上 下
31 / 81

31貪欲な野心

しおりを挟む
声優って、地声は普通の人っているんだなぁ…
目の前で自分の事をアピールしている彼を見て思った。

パーティーが始まってすぐに、ミハルさんが俺を声優の仲間に紹介してくれた。
同居していると言うと、みんな驚いていたけど、俺は別の事に驚いていた。
どの人も、地声がいいのだ。
特徴のある低い声の人もいれば、何とも、変わった声の人もいる。
ひとりは、地声にコンプレックスを持っていたと言うのだから、声優という職業はコンプレックスを経験している人も多いのだと知った。この職業を作った人も凄いし、コンプレックスを転換の見方で活かしていく人の強さを知った。


ミハルさんは何も言わない。
最近は、地声で話をしてくれる事が少なくなってきたようになってきた。
俺自身、彼の声を聞くだけで腰が砕けるので演じていても変わりがないのだが、何か、引っかかっていた。


「あんたさ!」
―目の前でご立腹スタイルヤッホーなえっと...天井さん!
「スタッフなのに、白鳥さんに気に入られて、ベテランの人とかに紹介されてたよね?
 自分の立場って解る?目立ってんじゃ、ねぇよっ!」
―あれれ、俺って目立ってたの?
 でも、今日って、そんな仕事とか抜きの時間を過ごすための機会だと聞いてたんだけど...
ぼんやりと考えていたのがいけなかったのか...
彼は、俺の髪を掴んできた。
「痛い...!!」
手で振りほどこうとしても、たくさんの料理を集中して作っていた腕は、限界だった。
プルプルと力が入らず、持ち上げることもやっとであった。
「...白鳥さんを返して!!」
―!?
「...あの、意味が...」
俺は、言われた言葉の意味が全く理解できずに、いた。
彼は、何を言っているのか...
「僕は、白鳥さんに気に入ってもらうためにここまで来た!
 どんな汚い仕事だってやってきた。
 それも、白鳥さんと一緒に仕事をするためにね!
 ところが、ここ3ヶ月ほど前から、白鳥さんの様子が変だから、ちょっと調べたんだよね。
 ...そしたら、あんたさ!
 一緒に住んでんだって?
 良いよなぁ!?彼って、お金持ちなんでしょ?
 それに、かっこいい。
 噂では、先輩の声優から夜の誘いが来るっていうじゃん?
 なら、抱きたいよね?

 ねぇ…あんた、まさか何も知らないの?」
この目の前の彼をかわいそうだと思ってしまうのは、自分だけだろうか。

折角、それだけの野心があるのに、もったいない。
必ず、努力をしていたら見てくれている人はいるのに...
「知らないのって?
 白鳥さんが声優さんだってことは知ってますよ。
 噂はあくまでも噂ですよね?
 俺は...あなたの考え方では、白鳥さんがかわいそうだと思います。

 それに、そんなにまで会いたいんだったら、自力で会わなければ…」
掴まれている髪を思いっきり引っ張られる。
―抜けるっ!これが、原因で砂漠みたいになったらどうすんだよっ!

「自力でじゃ、力が足りないから色んなオッさっんとも寝てんだろ?!」
―!?!?
―オッサンと寝る…?
自分の暴露を全然きにする気配なく、俺の様子を観察している天井。
「…えっと。添い寝的な…」
グイっ!
髪をまた引っ張られました。
―ほんと、やめて欲しい。幼稚すぎるよ…
「バカなの?そんなはずないだろっ!
 どうせ。
 抱かれるなら綺麗な方がいいし、抱くのだって綺麗な方がいい。
 それが、実力のある奴だっともっと、いいじゃんっ!」
―!!!!!

俺とミハルさんが恋人同士だってことも知られたらいけないと思った。
誤解させないように、慎重に言葉を選ばないとだめだ。
「…どうして、白鳥さんが誘いにのると思うんですか?」
あんなにしっかりしている人だ。
人を観察する能力も高くなければ芸能界にも生きてはいけないだろう。

天井はドヤ顔?を浮かべ
「そんなの、決まってるじゃん。
 薬をちょっと使うだけだよ。
 少しだもん、絶対にバレない」
―??!
絶句するとは、こういう時なのだと知った。
薬?
酷すぎる…
俺みたいに、酒に弱いとかそんな特徴があるなら、まだ隙があるからわかる。
薬を使ってでもして、その人の様子が変わっていくのを見ているってことだよな…
「それって、間違ってますよね?」
思わず、じっと、彼を見てしまった。
とても抑えられることのできない怒りが含まれるのは仕方がない。
「そうでもしないと、隙を作ってもらえるような人ばかりじゃないんだ!
 …はは。
 お前が飲んだやつにも、入ってるって言ったら、どうする?」
―!?!
体調が悪くてなったのでは、無かった…
酒が入っているのではなかった…

天井が入れた薬入りの飲み物が‥‥
―まだ、他にもあるかもしれないっ!!

俺は、まだふらつく足に力を入れ、ソファから立ち上がろうとした。
「ふふふ。すげー効いてんじゃんっ!
 ま、白鳥さんに近づけないなら、お前でもいいかっ!」
彼はそう言って、俺をキッチンに連れこんでいく。
可愛らしい様子とは違い、力が強い…

俺は、早くみんなの所に行って、飲み物を処分しなければと、抵抗をした。
力が入らない腕を、彼に振り回して暴れる。
「やめ‥‥やめてください…」
少しでも、早く行かなければっ!
キッチンの道具に身体が当たるのも、構わずに出口に向かう。
「おいっ!」
洗っておいたトレイがあったので、彼の身体に投げた。
一瞬、彼も芸能人だと気遣った俺、優しすぎるっ!
ガシャンガシャン
と大きく響く音がする。
「待てっ!」
ふらつく俺、障害物の天井。
勝者は天井だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

今日も武器屋は閑古鳥

桜羽根ねね
BL
凡庸な町人、アルジュは武器屋の店主である。 代わり映えのない毎日を送っていた、そんなある日、艶やかな紅い髪に金色の瞳を持つ貴族が現れて──。 謎の美形貴族×平凡町人がメインで、脇カプも多数あります。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...