初めてできた恋人は、最高で最悪、そして魔女と呼ばれていました。

香野ジャスミン

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23まじで?ウソ・・

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「さて」
ミハルのその一言、要は過剰に反応した。
食事を済ませ、何気なく帰ろうとしていた要は、ミハルの言葉に、動きが止まった。
「ミハルさん、今日は、体調が...」
用意された食事をペロリンと食べて苦しい言い訳をしたものだと、思う。
「帰しません」
耳元でミハルに言われ、思わず腰が砕ける。
耳の縁がビリビリと敏感になってしまったように感じる。

足に力が入らなくなった要を、待っていたと言うように、ミハルに抱き上げられる。
そして、気がつけば、洗面台、脱衣所でポンポンっと服を脱がされていた。
あっという間に、浴室に入れられ簡単に体を洗われる。

ピチョン

湯船に髪から流れ落ちた水の塊が、輪を作って広がっていく。
ミハルの勢いで気がつけば、ゆったりと二人で湯船に浸かっている。

初めてではないけど、照れるものは、照れる。

それ以上に、ミハルが要を構いたくてウズウズしているのが、不思議だった。
目を合わせようと顔を動かしたりしている。
その様子が、可愛らしくて、要は思わず吹きだしていた。
―この人は、雑念を取り去ってくれる…

まだ、心の奥底にこびり付いている意地は残っている。
そう簡単には取り除けないのは、仕方がない。

要は、顔を上げて、ミハルを見る。
「ミハルさん…
 俺、自分がまだよくわからない…
 自分でも、ミハルさんの声がすごく好きなのは、自覚している。
 それは、間違いない。
 …
 だからと言って、ミハルさんを好きなのか…と、聞かれると…わからない。

 こんな俺を、ミハルさんはいいの?」
真っ直ぐに向けた要の実直な思いを告げられ、ミハルも真面目に答える。
「そうだなぁ‥‥
 僕の声が好きなのは、本当だよね?」
要は、大きく頷く。
ミハルはその素直な反応を見て笑い、
「僕としては、声を好きって言ってもらえるのは嬉しいよ。
 これで、生きてきたからね。
 でも、それだけの好きは、嫌だな…」
目を閉じているその表情を、要はズキリと胸が痛んだ。
―…声だけが好きって…ひどいな…俺…

沈黙を続けるミハルを見ていた要は、慌てて言葉を足す。
「…俺、ミハルさんのことは、嫌いじゃないよ。
 優しいけど、俺を…その…見てくれる…
 それでは‥‥」
―好き…って、言っていいの…かな…
流されてない…かな…
全てを言葉にすることが出来なかった要は、湯船に口元まで沈む。

要の複雑な心の中で、少しだけ、一歩を見つけることができた。
ミハルは、柔らかい笑顔を浮かべ、要を見つめる。
その視線を感じて、要はミハルを見上げる。
「…何?」
要の不愛想な様子に苦笑する。
―この子の、この表情もいい。
「可愛いなって…」
そう言いながら、ミハルは要を抱き上げて、湯船から出る。
「いや、どうして?
 自分で歩ける…!!」
慌てて、ジタバタと暴れる要の耳元に
「本当に?」
ミハルのぞくりとさせる低めの声が要を困らす。
―っ!
要は、そのミハルの一言で、腰に力が入らなくなる。
「…ミハルさん…遊ばないで…?」
ミハルの声は、回数を増やすごとに、要を弱くしていく。
要は、目を潤ませ、力の入らない身体をミハルにいい様にされている。
「…ふふふ。
 こんなにも、感じてるって、嬉しいよ」
そうミハルは言いながら、手早く身体の水分をとる。
要は抵抗できない、そのもどかしい気持ちに、自分が嫌になる。

あの時を再現するように、見覚えのあるパジャマを出される。
「要君の服だよ」
その言葉は、まるで要がこの家に再び来るのを知っていたかのように取れる。
じっとパジャマを見る。
一つ一つ、実感を噛みしめるたび、要の心は、丸くなる。
―こんなに思われている…

要は、ミハルが要自身と向き合えるように、強制してこない。
そのことが、要の心を緩めるきっかけであることを知らない。

あの時、この人の手を取ったら…
自分の未来は、違うものに変わるかもしれない。
そう、思った。
今、自分は確実に手を取るだろう‥

ゆるゆると要は涙をこぼし始める。
正直、よくわからない。

でも、この瞬間、この人といたかった。
居たいと思えたのは、この人が初めてだった。

要は、すうっと、息を吸う。
「ミハルさん、俺を…抱いてください」
―!!!!
先ほどまでの戸惑いを見せる要から、一切の迷いがない言葉。

臆病な自分から脱する決意。
今までとは、違う変化に立ち向かう決意。

ミハルは、要の言葉から多くの決心を感じた。
「僕は、君を好きになる。
 そして、君は、僕を好きになる」

―ミハルの言葉の意味、これは、OKって意味かな?
要は、ミハルの胸にゆっくりと自分から寄り添っていく。
緊張はしている。
なんて大胆な行動をしているのだと、自分でも思っている。
それでも…

主人公にはなれない自分には、この奇跡を離したくないと思った。

ミハルさんの腕が要の身体を包み込む。
ピーン
と、緊張をしている要。
「ふふふ!!」
―?!
いきなりのミハルの笑い声に、要は唖然とする。
当然だ。
今、しんみりとしている雰囲気だ。

ミハルの表情を要は見る。
「…後輩には、感謝だね!」
!?
―そう言えば、ミハルさんは、後輩と知っているようなことを言っていた。
「僕、後輩と、ゲンタと高木。あと、もう一人いるんだけど、飲み友なの」
―え?
――――!!
ちょっと、待て‥‥

―確か、あの日は、この人に持ち帰られ…会社に行ったら、高木さんに大丈夫かって…
―!!???!
―まさか…・
「ひょっとして、後輩とか高木さんとか…知っています?」
全てを語らなくてもいいだろう。

俺が、ミハルさんに持ち帰られたか?

ミハルは、最高の笑顔で答える。
「もちろん…公認です」
―うわわわわわ‥‥

篠田 要 26歳。
目の前のミハルは、問題ナシって顔をしている。
でも、問題あるんじゃないの?
―芸能人が…
 いやいや、今は、そんなことは、後にまわす。
 ?
 まわしてもいいのか?
混乱…混乱…
大混乱だ‥‥!!
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