初めてできた恋人は、最高で最悪、そして魔女と呼ばれていました。

香野ジャスミン

文字の大きさ
上 下
13 / 81

13目撃者の言い分

しおりを挟む
篠田 要と白鳥 三春が嵐のように居酒屋から出ていき、後輩、安芸、高木の残された3人は、しばらく言葉を発することができなかった。
その空気を割いたのが、後輩だった。

「どうしよう…
 白鳥さんって、どうでしたっけ?」(白鳥さんって、男もOKでしたっけ?)
尋ねられた安芸は、メニューを広げてみている。
「あぁ‥‥
 そうねぇ…。
 どうだろうね」(どうでもいいんだけど、あれはもう食うだろうね)

高木が、ぼそりと
「せっかく適任の人材を見つけれたと思ったのに、なんで?」
もはや、その問いは、誰に尋ねているのかわからない。

ただ、後輩は、先輩である要を気遣う。
「先輩…お持ち帰りされたと知って、ショックのあまり…」

だんだんと、思考が悪い方へと進んでいく後輩をしり目に、
店員さんを呼んでオーダーを頼む安芸。

「ま、正直、強引な白鳥さんを初めて見たのも、貴重だったな」
いや、その感想だれも、求めていません…

高木は、慌ててどこかにメッセージを送っている。
その様子を見た安芸が尋ねる。
「誰に送ってんの?」
店員が品物を運んで机の上には、数品並ぶようになった。
高木は、その中のシシャモを口に咥えながら話をし始める。
「あ?
 白鳥が、こっちの人材に手を出そうとしてんだぞ?
 ゲンタに報告しておかなくちゃ、仕事に支障がでるだろうが」
素に戻った高木が、野太い声で反論する。

篠田 要が働く部署、BLCD部部長である高木 椎名。
いつもは、大人な女性をテーマとして過ごしている。
その持ち前のスタイルの良さ、そして恵まれた美しさだけを武器に生きてきたわけではない。
ただ、仕事をする上で、都合がいい。それだけで女装を完璧にこなしている立派な男だ。

「…高木さん、素が出てますよ」
後輩の忠告で、我に返り、姿勢を改める。

「…白鳥さん、自分のことをバラしますかね…」
安芸の小さな呟きに高木が反応する。
「え?あ。…ぁぁぁあ、それはしないわねぇ」

バンと小さく机を叩いて自分の存在を主張する後輩が助けを求める。
「…俺、先輩に嫌われたら…この会社に出てこれないっス。
 どうしましょう、安芸さんっ!」
安芸は、真顔で
「え?白鳥さんと俺をこのタイミングで誘ったのお前だろ?
 自分のことは、自分で処理しろよな」
優しさの欠片もない言葉に、後輩は悲壮感を漂わせている。

「ま、白鳥さんが、あの子を逃がすとは思えないけどな」
その言葉は、後輩に少しでも届いているのだろうか…
―バラシてやるもんか。
 白鳥さんが、先に手を出したとしても、俺も気に入ってたんだ。
 気にいったものを簡単に諦めれるほど、人間はできてませんからね

しばらくは、後輩経由で、あの子に近づけるよう様子を見るしかないだろう。
白鳥が、あの子を手に入れたとしても、オープンな関係を取るとは思えない。

どちらかというと、控えめな印象の白鳥のことを、安芸は見抜けていなかった。
本当は、気に入った物に対しては、執着が人一倍強く、激しさはない分、気付かれないうちに、手中に全てを引き入れだけの執念深さを持っていたのだ。

安芸は知らない。
もう、白鳥が要の心の壁を取り、白鳥だけを胸の中にいることを。
要は知らない。
高木や安芸、後輩の目の前で、持ち帰られたということを…

目の前にいる白鳥が、自分の聞いているCDで声優をしていることを。
気付かないままに、白鳥の技のすごさに感銘を受けて聞くときに好感触を持って聞いていることを。
そして、高木の本性、後輩、安芸の狙いなどが、周りにあるということをまだ、知らない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...