21 / 32
嫁ポジション存在のたどり着く場所3
しおりを挟む
翌日、朝早めに起こされた蒔はどこに行くのかも知らされず、藤咲 宝典に促されるように迎えに来た車に荷物を載せ、車中の人となる。
この時、起床して戸締りをして30分。
まだ、頭の中が現実と夢の中の区別がついていないような状態である。
非日常のスタートに蒔は隣でタブレットを開いている宝典の顔をちらっと見る。
辺りの景色は薄暗くてよくわからない。まだ周りの音も静かである。
「宝典、俺、お腹がすいた」
「目的地についたら少し時間が空くからその時に朝食を取ろう。
つくまで寝ていて」
宝典が蒔の手を握る。
車の中から見える窓の外は動き出していない街並み。
それをぼんやりと眺めながら心地よい揺れに誘われ眠りに落ちていくのだった。
「宝典!ここは空港?!」
「そうだな、駅ではない」
「それじゃ荷物を預けたら朝食を食べるか」
空港での朝食もとり、搭乗ゲートを入ってやっとどこに向かうのかわかる。
温泉って言っていたのでどこかと思ったらお寺や寺院のたくさんあるところだった。
宝典は蒔の興味のあるものを覚えてくれていたのである。
まだ、宝典と出会う前、蒔は一人でも楽しめる寺や寺院めぐりを始めた。
歴史の話も興味はあるのだが、蒔の楽しむポイントは違う。
その建物とその周りの景色をみて管理している人の景観を保つための心を見つける。
当たり前の管理のようではあるが、一つ一つ、意味のある心意気である。
社会人の一員になり、その趣味をほとんど後回しにしていて蒔も忘れていた。
飛行機の機内で蒔は、気になることを宝典に尋ねる。
「宝典って少しは興味あるの?」
「俺も騒がしいところに行くぐらいなら落ち着いたところに行くほうが好きさ。
それに一人じゃない」
蒔は少し照れて、持っていた機内にあるパンフレットを顔の近くに寄せて隠す。
「どうしよう、ちょっと嬉しいんだけど」
「だろうな。久しぶりにそんな蒔をみた。泊まるところも確保しているから安心しろ。
懐石料理をなんだか無性に食べたくなって必死に探したから、かなり期待大」
宝典の食いしん坊は相変わらずの健在である。蒔の手料理も宝典の好みである。いつも褒めてくれる。
自分の食べるものを作るために覚えた料理が喜んでくれる
…一人の時に寂しくて食事を作る気力がない時も、喜んでくれる宝典の顔を思い出して、結局レパートリーを増やしていくのであった。
到着地に入って、荷物をもって動くのは邪魔なので必要なものを買い足したバックパックに入れ他の荷物は宿泊先に運んでもらう。
なんだか、蒔の知らないところで宝典はいろいろと手配をしてくれているようで感心する。
「すごいな、なんだかお抱えの秘書みたい」
「それは、褒めているのか?それとも、誘ってるのか?」
タブレットで現地の情報を見ながら呟いて歩き始めたところで蒔のつぶやきに宝典は返す。
「誘う?」
立ち止まり、宝典の顔を見た蒔の顔は
・・・・・
・・
宝典はにやけている…
!!!!
「誘ってません!」
なんだかこんな会話は学生の時ぐらいだったので照れる。
早歩きで目的地の方向に向かおうとする。
「蒔。…違う、こっち」
蒔の変な困りごと。方向音痴である。
パシっと手をつながれ、宝典に引き寄せられる。
「えっ! ちょっ」
驚く蒔を少し呆れた顔をした宝典が見下ろす。
「蒔、治ってないな。方向音痴」
手をつないだまま、歩く。
「あ。忘れてた…うん。
通勤とか買い物とかは同じところだからね。普段は忘れてる」
「それじゃ、迷子予防のために手を繋ごう」
宝典の断れない誘い。周りからなんて思われているかわからないが、嬉しい申し出、感謝します。
紅葉シーズンが過ぎてきたあたりのせいか、また、平日のせいか観光地でも少しの観光客で混雑は見られず、立ち寄ったお土産などもゆっくりと選ぶことができた。
目的のお寺の中に入らず、周りをゆっくりとみて歩く蒔を宝典は根気よく付き添う。
やっとお寺に入ったと思っても、庭や木々を見るなどして興味深そうだ。
この日は2か所をじっくりと見物し、宿泊予定の宿へ向かっていった。
宿泊予定の宿までの道中は温泉地独特の商店が並んでいてとても風情のある雰囲気である。
宿は老舗として有名な宿でなかなか手を出せるような金額のものではない。
係りの案内の人から一通り説明を受け、部屋でゆっくりと過ごす。
部屋の外に露天風呂がついていて贅沢である。
部屋も和を基本としていて洋の要素も持ち合わせているモダンな空間である。
足を伸ばせるところでストレッチをしていると、
「初日から結構歩いた…」
「こんなに歩いたの久しぶり。宝典は出張の時、これぐらい動く?」
「さすがに、こんなには歩かないけど、まぁ、歩くほうかな。
外の露天風呂に入りたい」
「おぉ!
これっていつでも入れるやつじゃん。
天気が良かったら夜にも入りたい」
露天風呂に入りながら今日一日を振り返る。
朝、早くに起こされ、どこに連れて行かれるのかと思ったが今、こうして宝典と二人並んでお風呂に入っている。
それにしてもたくさん、道中お土産を買ったものだ。
「蒔、顔が変」
「ん。
なんか今日を振り返っていた。すごい一日だった。
時間があっという間に過ぎてびっくり。
でも、すごく楽しかった。連れてきてくれてありがとう」
少し勇気をだして宝典にキスをする。
ゆっくり唇を近づけ少し口を開け様子を伺うように宝典の唇を見る。
唇の合う少し手前で目が合う。
こっちが照れているのを見透かされているがかまうものか。
瞼を閉じ宝典を待つ。
唇にチュッとリップ音。
・・・
・・
・
「はぁ?」
「今、したら止まらなくなるからお・あ・ず・け」
頭をガシガシとかき混ぜられそのまま放置された。
まぁ、確かに今、キスをしたらそれ以上になりそうだった予感はしたけど、あんまりだ。
さっさと、着替えに行ってしまった宝典を追いかけるように蒔も出ていくのであった。
食事の時間まで少し商店街に行ってみようと温泉地恒例の浴衣と羽織もの、そして草履。
最近は、いろいろと選択させてもらえるので面白い。周りの人の中には浴衣にスニーカーだったり。
日暮れで街の灯りが灯り、日常の雰囲気からかけ離れた浮世の世界にいるようである。
空気の冷える匂いと微かに香る温泉の匂い。
非日常の道を宝典と肩を並べて歩く。
「少し時間が変わるだけで雰囲気がこんなにも変わるもんなんだなぁ」
蒔の問いかけに宝典は
「すごいよな。いろんなところを見てきているけど、日本の美の見せ方はいつも圧倒される」
草履の擦れる音を心地よくとり、この時間の流れる異空間に二人、寄り添う。
食事の時間が来たので戻ると部屋には豪華な食事の数々が並べられている。
「「おぉ!!」」
現金なもので、目の前の御馳走を見ると大きなお腹の虫が鳴く。
「「いただきます」」
二人とも基本的には行儀はいい。
おいしいものを食べるときには食べ方も作った人への敬意の一つだと。
「どれから手をつけていいのか、わかんなくなるけど、食べる」
「あぁ、やっぱり日本の料理は落ち着く。
出張中に、あまりにも日本の味を口にしたくて。
出汁の粉末だけをお湯で溶かして飲んだことがあるわ・・・
禁断症状ってやつだな」
――え・・・
「ちなみに、それは満足できたのか?」
「もちろん。でも、帰国したら蒔のご飯を食べるだろ。
そしたら、あぁ、やっぱりこれだ。って思う」
いきなり褒められるので照れる・・・
「あ、ありがとう?かな」
それからは見た目も味も絶品の数々を楽しんで出張中、離れていたときの話をして盛り上がった。
でもあの事件の話はしない・・・考えただけで胸が苦しくなる。
蒔は寝る前にもう一度温泉に入ろうと自分の荷物などをゴソゴソと片付けながら思いふける。
「蒔、こっちにおいで」
外のお風呂には宝典がお酒の用意をして待っていた。
「それ、どうしたのよ」
驚く蒔に
「今日は月がキレイに見えるので月見酒なんかオススメですよって。
それに今日、宿泊客少ないから深夜でもお風呂使っていいって。
蒔、酒が飲める年になったらやってみたいっていってたよな」
この設定も蒔のやってみたいことの一つだ。
外は空気が冷たく温泉の湯気が落ちした照明の光線で揺らいでる。
蒔はゆっくりと足先から身体をお湯に浸かり極上の雰囲気を味わう。
「これも俺の好みのやつじゃん」
少し大きめの風呂は大の大人が二人入ってもまだ余裕のスペースがある。
蒔と向き合った場所にいる宝典がこちらにお酒のセットを持ってくる。
お猪口を渡された酒を受けとる。
「蒔はゆっくりと味わえよ。風呂で酒なんて飲んだことないだろ」
うんと返事をして一口、口につける。
アルコールの舌に絡みつくような痺れる感覚は慣れない。
甘みの後に飲み込んだ喉の奥がカァ!っと熱を感じたようになる。
もう一つのお猪口を宝典に渡しお酒をすすめる。
指先でお猪口を持ち、グイッと飲み干す。
男女関係なくもてる宝典の整った顔を横目で見る。
揺らぐ湯気で幻想的な雰囲気。
見上げる空には月明かりで夜の深さが和らいでいる。
「キレイだ・・・この月ではかぐや姫は泣くのかな・・・」
キレイな月は時に見ると切なくなる。
「もう、酒がまわってるのか?」
宝典の苦笑が聞こえるが構わない。
「酔ってない。もう少し飲める」
蒔は背中を向けるようにして自分で酒をつぐ。
お猪口の中に月が入るように両手で零れないようゆっくりと、探す。
背後から宝典の身体が近づいてきた。
「あ、見つけた!」
お猪口と月に夢中の蒔はそばに宝典がきているのに気がつかない。
ゆっくりとお猪口にうつる月を見ることができて蒔の気分は最高潮!
「宝典、こっちに来て・・!!」
「おぉ!これはまた贅沢だなぁ。昔、何かで読んだことがあるな」
すぐそばにいる宝典に、蒔は驚く。
少し酒が零れ、蒔の指先を伝って流れ落ちている。
「ほら。やっぱり酔ってるだろう。持ててないぞ。もったいない」
そう言って蒔の手元の物を取り自分の口にクイっと流し込む。
「!!!ぁあ。それ俺の!!!ん。んんん。ん。・・・ん、ぁあ」
蒔の反論などお見通し。
後ろに少し引っ張って唇を割開き酒をゆっくりと流し込みながら蒔の舌を味わう。
始め蒔は逃げるように動かしていたが、捕らえられてからは応えるように動く。
身体も徐々に向きを変え、気付けば風呂の隅に来ている状態になっていた。
風呂の縁に座るように宝典に促される。
宝典の長身な細身の身体が蒔の前に来る。
宝典は下から見上げるように蒔を見つめ両手を縁に置く。
蒔を腕の中におさめて口づけの場所を徐々に変えていく。
耳の横、首の筋、鎖骨、肩・・・
唇でなぞりながら時に赤く印を付けるように吸いつく。
宝典の片手がその唇の後を追いかけるように指先で触れていく。
蒔の胸にある小さく赤い粒を音をたてるように転がして遊ぶ。
ビクッと身体を震わすが声を我慢するように蒔は自分の指を口に当てて抑える。
「へぇ。それでまだ余裕ぶってんのな」
蒔を見て挑発的な言葉をかけて煽る。
「うるさいなぁ!もっと、酒をよこせ」
仕方がないなと、また、口移しで宝典は蒔に酒を飲ます。
「普通で、飲みたいのに・・あ、あれぇ?!」
蒔の体が少しずつ、クニャリとして呂律もなんとか頑張って維持しているような話し方である。
こうなることを予想していた宝典は蒔の体を横抱きにする。
「あれ?なんでぇ。もう、お風呂からでる?」
さっきまでの強気の蒔とは違い、酔いのまわり易い環境で彼は一気に脱力した甘えたがりの蒔になっていた。
「月を見ながらのお酒はおいしかったか?」
宝典の問いかけに、
「そりゃ、やってみたいけどなかなかできるものじゃないからな。
嬉しいに決まってる」
その言葉を聞いただけで計画した旅行のプランも無駄ではない。
「だけど、やっぱり宝典が無事だったのが一番だ。
俺を置いて逝くのは許さないからなぁ」
・・・これが蒔の本音だろう。まだ、一人グダグダと蒔は言っている。
「俺の言ったことを覚えていることがすごい!
もう、何年も前のことだろう。
・・・親なんて俺が今、何しているのかも知らないぜ。
あの人たちは、自分のことでいっぱいなんだろうな」
あまり蒔の口から自分の身内の話をしてこない。
少し聞いただけで宝典は胸が締め付けられる思いをしたのを覚えている。
「俺のような人間じゃないような者にならないように、これでも弟を大切にしたんだぜ。
相変わらず、あの人たちは弟にも同じことをしてたから。
あの家にいるぐらいならどこかで一人で暮らすほうがよっぽど子供にはいいからな。
なんの反論もなく、「あら、それもいいわね。」だって。
今じゃ、弟にとって俺は少し干渉するおにいちゃまよ。
あいつも大変だよ。生まれた時から波乱だ…」
蒔に弟がいる。
生まれた時から大変だった。
「あいつ、生まれた時、病院のお産に関わった人を驚かせたんだぜ。
そりゃ、そうさ。
両親、黒髪、黒目の日本人の容姿なのに、生まれてきた子どもは白い髪。
目を開くと黒い瞳。
アルビノかって検査もしたが、白い髪は銀色になっていく。
だけど、二人の親は特に、問題視していないから、疑問に思ったんだろうな。
聞いた話だと、終始、病院にいる間の空気はおかしかったらしい」
宝典は静かに話を聞く。
「うちのじいさんがフィンランドの人でさ、その血が弟にだけ出てきたってオチよ。
でも、知らないやつは色々と詮索してくるんだよな。
一時、両親の仕事の弱みを掴もうとしたものがいる。
ライバルが仕向けた使用人が、弟の組織で調べれそうなものを家から持ち出そうとした。
結局、未遂に終わったものの、そんな環境じゃ無理だよな。
あの家にいるだけで人間は育たない。
もう、俺みたいな欠陥品はいらない・・・」
話し疲れたのか、湯上りの浴衣を着せようと用意をしている間に蒔はふらふらと自分のベッドに行く。
蒔、寝るのは良いが、全裸だ。
それにしても、蒔の育った環境は特殊である。
自分を人間ではないとか欠陥品だとか言っていることは蒔の心の奥に闇があるということである。
今まで話してこなかったのも、話をして受け入れてくれるかわからなかったからだろう。
まだ、話を出していないものもあるのだろう。
蒔の寝ているベッドに座り、寝顔を見る。
このままじゃ風邪をひく。
浴衣を着させ、寝ている蒔を横抱きで運び、濡れている髪を乾かす。
水分を含んだ蒔の髪は艶が増して見える。
目元の黒子も湯上りでほんのり赤くなる肌も、首元が少しはだけて艶めかしさを含んでいる。
乾かしながら指を髪に絡めていく。
ただの自己満足である、そっと髪にキスを落とす。
宝典は再び、横抱きにしてベッドまで運ぶ。
下ろして蒔の細い指を見る。
じっと見つめ、何かを思いついたように荷物から物を出し、そして記録していく。
そして、蒔の指にキスを落とし、寝顔を眺めた。
蒔は今、自分がどういう状況かわからなかった。
ズキズキと痛む頭の鈍痛の原因は昨晩、飲んだお酒なのは覚えている。
宝典と一緒に月を見ながら、変なテンションになって、それから・・・・
顔が急に熱を持つのを感じた。・・・あぁ、だめ。頭が痛くなる・・・
しばらく部屋の様子を確認するのに、視界に入ったの誰かの腕だった。
・・・・
一気に後ろに下がろうとするが、その腕が蒔の動きに気づいた。
「こら、落ちるだろう・・・こっちにおいで。
頭いなくないか?」
「痛い」
「枕の上に薬と水」
眠気の中で微睡み中の宝典の声がする。
用意をしてくれていたらしい。
薬を飲み、効いてきた。
さっきの宝典の声、いつもの声より、柔らかい、甘い声・・・
なんで一緒に?
同じベッドで?
和洋室の寝室は大きめのベッドが二つ入っている。
大きいから一緒に?
それとも、こんな時だから一緒に?
動き出した頭で考えるが混乱しつつ、蒔の体は宝典の腕の中に入るように抱き寄せられる。
先ほどの場所より、より宝典の体に近く寄っていき、蒔の顔は宝典の胸のあたりにあった。
ゆっくりと宝典の顔を見る。
まだ、寝ているようで寝息も聞こえる。
昨日のお風呂での行為の仕返しに少しぐらい、いたずらをしてもいいだろう・・・
そんなことを考えていた蒔は宝典の開けている浴衣から覗いている胸元にキスマークを付ける。
チュッ、チュッ。よしよし!!
少しは鏡を見た時に困るといい・・・
グイっと体を動かされ、蒔はバランスを崩す。
同時に身体を思いっきり引っ張られる。
・・・・!!!!・・・
なんで?どうしてこんな体勢?!
宝典の腰のあたりに跨り、お腹の上に両手をついている。
しかも、自分の恰好はなんだ!!
肩に引っかかるような浴衣が片側は袖のところでまとまっている。
前は腰ひもでなんとか閉じてはいる。
乳首が見えてしまっている。
月明りの中で、宝典に転がされたところは、もう、赤みは落ち着いている。
それよりも・・・何も履いていない自分に驚く!!!!
「x!?!?x」
言葉が出ずに驚く蒔の様子を宝典が寝転んだまま眺め見ている。
「朝から積極的だなぁ。蒔ってエロイよなぁ・・・」
そう言って、宝典は蒔の片足を持ち上げるように横に取っていく。
「や!やめ」
蒔は慌てて自分の浴衣の着崩れを直そうとする・・・が、足を取られるとバランスをとりずらい。
そんな様子をかまわず、膝裏から足の付け根にかけて、手でスーッと撫でる。
「あっ。はぁ。たか・・・」
ゾクゾクする快感を拒否することもできず、与えられた刺激で体は動かない。
跨っているため、己の中心が朝から元気になっていることに蒔は気づいても、隠そうにも、動けない。
「さ、触るな・・・・ぁあ 」
自分の尻のあたりにかたくなっているものに気づいた蒔は、
「おま、朝から何盛ってるんだ!!」
宝典は朝から蒔を翻弄する。
「いきなり突っ込んだりしない。
ただ、好きなやつがそばにいるんだ。
しかも、朝からかわいく誘ってくる。
これは、据え膳食わぬは男の恥という、昔からの金言だ」
いや、いやいや。何をするつもり・・・
蒔は宝典と見つめること数秒。
「何するの・・・」
朝から心臓に悪いことをするのでは・・・
「何もしないよ」
宝典が太ももを相変わらず、擦る・・・
「…っ…いい加減、その厭らしい動きの手をやめないか!」
笑いながら宝典の一言!
「だめ。昨日、少し蒔とイチャイチャしようとしたこの可哀想な男に少しはご褒美を」
う・・・
蒔は宝典の顔を手で挟み、
「・・・ごめん」
相変わらず、宝典の物はかたいままだ。
性の知識は知っている。
一人で処理はするが、自分以外のものをしたことはない…
どうしよう・・・
ふっ
宝典の笑いをこぼす声がする。
「・・・笑った。なんで今、人が真剣に何をしようか考えてたのに!!」
蒔の拗ねた顔に
「急ぐことはないからな。まだ、ここには2日泊まる。時間はあるさ」
彼の大人な態度に半分安堵し、そして自分の臆病な部分にがっかりする。
沈んでいく蒔に
「とりあえず、今、一番考えないといけないことは?」
?
「まだまだ若いって象徴をどうおさめるかだ。ってことで、トイレに行ってくるわ」
宝典・・・ときに残念なイケメンに見える・・・
起き上がって歩く姿を見ながら、でも・・・
そんな姿をみせてくれる彼を好きだと思う。
それからは、日中、蒔の趣味に付き合い、夜に一緒にお風呂に入るなどし、体を合わせるわけでもなく
ただ、お互い、離れていた時間を埋めるかのように過ごしていった。
朝、どちらかが先に起きても、一人にせず、寝顔を見る。
それは幸せなことであり、日常の忙しさではつい忘れてしまうことである。
障子の効果で朝日の柔らかい光の中、ベッドの中でキスをしたり見つめあったり。
確実に2人の距離は縮まっていく。
一緒に住んでいる期間は長くとも、実際に過ごしているのは少ない。
蒔が帰りの荷物をまとめているとき、
「ここにこれてよかった。連れてきてくれてありがとう」
照れ隠しで表情を隠し耳だけを赤く染める。
宝典の愛しい存在はかなり照れ屋で素直になれない、でも、寂しがりの甘えん坊である。
たくさんのお土産を買い、荷物をどうすか悩んでいたら藤咲家用に買ったものと1泊の着替えだけを手元に残すようにと言われる。
「え、このままいくの?」
約束の日だが、まだ遠い。
「大丈夫。予定通り。今度は新幹線だ」
早朝という時間に動いている時点でそうなのかなと思った。
だが、乗り物に乗って驚いたのは、宿泊していた旅館に車内で食べれるようにお弁当を作ってもらっていたことには驚いた。
おかげで、朝から食欲のわくものを食べて残りの時間は眠気に勝てなかった。
藤咲家のある地域は田舎でもなくだからと言って大都市っていうほどでもない。
ただ、新幹線の通る駅で交通の便はいい。
そして、偶然にも蒔の弟が通っている学校があるそうだ。
到着するまでに少し話をした。
偶然とはすごいものだと話をすすめていくと、同年齢の弟だということも発覚した。
学校まではと、まさか、偶然の偶然が重なるものだと話していた。
実家に近付くにつれ、蒔の様子が明らかにおかしい。
「緊張しているのか?」
宝典の問いに、
「今まで、誰かの家に尋ねること自体初めて。どうすれば・・・」
「ネコかぶりの社会人で研究者の桐嶋 蒔先生でいいんじゃないか?」
「先生って。仕事場でも言われないのに・・・まぁ、お行儀よくするよ」
「そうだな。静かにしていたら目元の黒子のある色っぽい男らしいからな」
「・・・それ、誰談?」
「「上司のおっさん」」
緊張をほぐしてくれたようでその気遣いに感謝する。あとは、任せよう。
大きく深呼吸して宝典の目を見るのだった。
この時、起床して戸締りをして30分。
まだ、頭の中が現実と夢の中の区別がついていないような状態である。
非日常のスタートに蒔は隣でタブレットを開いている宝典の顔をちらっと見る。
辺りの景色は薄暗くてよくわからない。まだ周りの音も静かである。
「宝典、俺、お腹がすいた」
「目的地についたら少し時間が空くからその時に朝食を取ろう。
つくまで寝ていて」
宝典が蒔の手を握る。
車の中から見える窓の外は動き出していない街並み。
それをぼんやりと眺めながら心地よい揺れに誘われ眠りに落ちていくのだった。
「宝典!ここは空港?!」
「そうだな、駅ではない」
「それじゃ荷物を預けたら朝食を食べるか」
空港での朝食もとり、搭乗ゲートを入ってやっとどこに向かうのかわかる。
温泉って言っていたのでどこかと思ったらお寺や寺院のたくさんあるところだった。
宝典は蒔の興味のあるものを覚えてくれていたのである。
まだ、宝典と出会う前、蒔は一人でも楽しめる寺や寺院めぐりを始めた。
歴史の話も興味はあるのだが、蒔の楽しむポイントは違う。
その建物とその周りの景色をみて管理している人の景観を保つための心を見つける。
当たり前の管理のようではあるが、一つ一つ、意味のある心意気である。
社会人の一員になり、その趣味をほとんど後回しにしていて蒔も忘れていた。
飛行機の機内で蒔は、気になることを宝典に尋ねる。
「宝典って少しは興味あるの?」
「俺も騒がしいところに行くぐらいなら落ち着いたところに行くほうが好きさ。
それに一人じゃない」
蒔は少し照れて、持っていた機内にあるパンフレットを顔の近くに寄せて隠す。
「どうしよう、ちょっと嬉しいんだけど」
「だろうな。久しぶりにそんな蒔をみた。泊まるところも確保しているから安心しろ。
懐石料理をなんだか無性に食べたくなって必死に探したから、かなり期待大」
宝典の食いしん坊は相変わらずの健在である。蒔の手料理も宝典の好みである。いつも褒めてくれる。
自分の食べるものを作るために覚えた料理が喜んでくれる
…一人の時に寂しくて食事を作る気力がない時も、喜んでくれる宝典の顔を思い出して、結局レパートリーを増やしていくのであった。
到着地に入って、荷物をもって動くのは邪魔なので必要なものを買い足したバックパックに入れ他の荷物は宿泊先に運んでもらう。
なんだか、蒔の知らないところで宝典はいろいろと手配をしてくれているようで感心する。
「すごいな、なんだかお抱えの秘書みたい」
「それは、褒めているのか?それとも、誘ってるのか?」
タブレットで現地の情報を見ながら呟いて歩き始めたところで蒔のつぶやきに宝典は返す。
「誘う?」
立ち止まり、宝典の顔を見た蒔の顔は
・・・・・
・・
宝典はにやけている…
!!!!
「誘ってません!」
なんだかこんな会話は学生の時ぐらいだったので照れる。
早歩きで目的地の方向に向かおうとする。
「蒔。…違う、こっち」
蒔の変な困りごと。方向音痴である。
パシっと手をつながれ、宝典に引き寄せられる。
「えっ! ちょっ」
驚く蒔を少し呆れた顔をした宝典が見下ろす。
「蒔、治ってないな。方向音痴」
手をつないだまま、歩く。
「あ。忘れてた…うん。
通勤とか買い物とかは同じところだからね。普段は忘れてる」
「それじゃ、迷子予防のために手を繋ごう」
宝典の断れない誘い。周りからなんて思われているかわからないが、嬉しい申し出、感謝します。
紅葉シーズンが過ぎてきたあたりのせいか、また、平日のせいか観光地でも少しの観光客で混雑は見られず、立ち寄ったお土産などもゆっくりと選ぶことができた。
目的のお寺の中に入らず、周りをゆっくりとみて歩く蒔を宝典は根気よく付き添う。
やっとお寺に入ったと思っても、庭や木々を見るなどして興味深そうだ。
この日は2か所をじっくりと見物し、宿泊予定の宿へ向かっていった。
宿泊予定の宿までの道中は温泉地独特の商店が並んでいてとても風情のある雰囲気である。
宿は老舗として有名な宿でなかなか手を出せるような金額のものではない。
係りの案内の人から一通り説明を受け、部屋でゆっくりと過ごす。
部屋の外に露天風呂がついていて贅沢である。
部屋も和を基本としていて洋の要素も持ち合わせているモダンな空間である。
足を伸ばせるところでストレッチをしていると、
「初日から結構歩いた…」
「こんなに歩いたの久しぶり。宝典は出張の時、これぐらい動く?」
「さすがに、こんなには歩かないけど、まぁ、歩くほうかな。
外の露天風呂に入りたい」
「おぉ!
これっていつでも入れるやつじゃん。
天気が良かったら夜にも入りたい」
露天風呂に入りながら今日一日を振り返る。
朝、早くに起こされ、どこに連れて行かれるのかと思ったが今、こうして宝典と二人並んでお風呂に入っている。
それにしてもたくさん、道中お土産を買ったものだ。
「蒔、顔が変」
「ん。
なんか今日を振り返っていた。すごい一日だった。
時間があっという間に過ぎてびっくり。
でも、すごく楽しかった。連れてきてくれてありがとう」
少し勇気をだして宝典にキスをする。
ゆっくり唇を近づけ少し口を開け様子を伺うように宝典の唇を見る。
唇の合う少し手前で目が合う。
こっちが照れているのを見透かされているがかまうものか。
瞼を閉じ宝典を待つ。
唇にチュッとリップ音。
・・・
・・
・
「はぁ?」
「今、したら止まらなくなるからお・あ・ず・け」
頭をガシガシとかき混ぜられそのまま放置された。
まぁ、確かに今、キスをしたらそれ以上になりそうだった予感はしたけど、あんまりだ。
さっさと、着替えに行ってしまった宝典を追いかけるように蒔も出ていくのであった。
食事の時間まで少し商店街に行ってみようと温泉地恒例の浴衣と羽織もの、そして草履。
最近は、いろいろと選択させてもらえるので面白い。周りの人の中には浴衣にスニーカーだったり。
日暮れで街の灯りが灯り、日常の雰囲気からかけ離れた浮世の世界にいるようである。
空気の冷える匂いと微かに香る温泉の匂い。
非日常の道を宝典と肩を並べて歩く。
「少し時間が変わるだけで雰囲気がこんなにも変わるもんなんだなぁ」
蒔の問いかけに宝典は
「すごいよな。いろんなところを見てきているけど、日本の美の見せ方はいつも圧倒される」
草履の擦れる音を心地よくとり、この時間の流れる異空間に二人、寄り添う。
食事の時間が来たので戻ると部屋には豪華な食事の数々が並べられている。
「「おぉ!!」」
現金なもので、目の前の御馳走を見ると大きなお腹の虫が鳴く。
「「いただきます」」
二人とも基本的には行儀はいい。
おいしいものを食べるときには食べ方も作った人への敬意の一つだと。
「どれから手をつけていいのか、わかんなくなるけど、食べる」
「あぁ、やっぱり日本の料理は落ち着く。
出張中に、あまりにも日本の味を口にしたくて。
出汁の粉末だけをお湯で溶かして飲んだことがあるわ・・・
禁断症状ってやつだな」
――え・・・
「ちなみに、それは満足できたのか?」
「もちろん。でも、帰国したら蒔のご飯を食べるだろ。
そしたら、あぁ、やっぱりこれだ。って思う」
いきなり褒められるので照れる・・・
「あ、ありがとう?かな」
それからは見た目も味も絶品の数々を楽しんで出張中、離れていたときの話をして盛り上がった。
でもあの事件の話はしない・・・考えただけで胸が苦しくなる。
蒔は寝る前にもう一度温泉に入ろうと自分の荷物などをゴソゴソと片付けながら思いふける。
「蒔、こっちにおいで」
外のお風呂には宝典がお酒の用意をして待っていた。
「それ、どうしたのよ」
驚く蒔に
「今日は月がキレイに見えるので月見酒なんかオススメですよって。
それに今日、宿泊客少ないから深夜でもお風呂使っていいって。
蒔、酒が飲める年になったらやってみたいっていってたよな」
この設定も蒔のやってみたいことの一つだ。
外は空気が冷たく温泉の湯気が落ちした照明の光線で揺らいでる。
蒔はゆっくりと足先から身体をお湯に浸かり極上の雰囲気を味わう。
「これも俺の好みのやつじゃん」
少し大きめの風呂は大の大人が二人入ってもまだ余裕のスペースがある。
蒔と向き合った場所にいる宝典がこちらにお酒のセットを持ってくる。
お猪口を渡された酒を受けとる。
「蒔はゆっくりと味わえよ。風呂で酒なんて飲んだことないだろ」
うんと返事をして一口、口につける。
アルコールの舌に絡みつくような痺れる感覚は慣れない。
甘みの後に飲み込んだ喉の奥がカァ!っと熱を感じたようになる。
もう一つのお猪口を宝典に渡しお酒をすすめる。
指先でお猪口を持ち、グイッと飲み干す。
男女関係なくもてる宝典の整った顔を横目で見る。
揺らぐ湯気で幻想的な雰囲気。
見上げる空には月明かりで夜の深さが和らいでいる。
「キレイだ・・・この月ではかぐや姫は泣くのかな・・・」
キレイな月は時に見ると切なくなる。
「もう、酒がまわってるのか?」
宝典の苦笑が聞こえるが構わない。
「酔ってない。もう少し飲める」
蒔は背中を向けるようにして自分で酒をつぐ。
お猪口の中に月が入るように両手で零れないようゆっくりと、探す。
背後から宝典の身体が近づいてきた。
「あ、見つけた!」
お猪口と月に夢中の蒔はそばに宝典がきているのに気がつかない。
ゆっくりとお猪口にうつる月を見ることができて蒔の気分は最高潮!
「宝典、こっちに来て・・!!」
「おぉ!これはまた贅沢だなぁ。昔、何かで読んだことがあるな」
すぐそばにいる宝典に、蒔は驚く。
少し酒が零れ、蒔の指先を伝って流れ落ちている。
「ほら。やっぱり酔ってるだろう。持ててないぞ。もったいない」
そう言って蒔の手元の物を取り自分の口にクイっと流し込む。
「!!!ぁあ。それ俺の!!!ん。んんん。ん。・・・ん、ぁあ」
蒔の反論などお見通し。
後ろに少し引っ張って唇を割開き酒をゆっくりと流し込みながら蒔の舌を味わう。
始め蒔は逃げるように動かしていたが、捕らえられてからは応えるように動く。
身体も徐々に向きを変え、気付けば風呂の隅に来ている状態になっていた。
風呂の縁に座るように宝典に促される。
宝典の長身な細身の身体が蒔の前に来る。
宝典は下から見上げるように蒔を見つめ両手を縁に置く。
蒔を腕の中におさめて口づけの場所を徐々に変えていく。
耳の横、首の筋、鎖骨、肩・・・
唇でなぞりながら時に赤く印を付けるように吸いつく。
宝典の片手がその唇の後を追いかけるように指先で触れていく。
蒔の胸にある小さく赤い粒を音をたてるように転がして遊ぶ。
ビクッと身体を震わすが声を我慢するように蒔は自分の指を口に当てて抑える。
「へぇ。それでまだ余裕ぶってんのな」
蒔を見て挑発的な言葉をかけて煽る。
「うるさいなぁ!もっと、酒をよこせ」
仕方がないなと、また、口移しで宝典は蒔に酒を飲ます。
「普通で、飲みたいのに・・あ、あれぇ?!」
蒔の体が少しずつ、クニャリとして呂律もなんとか頑張って維持しているような話し方である。
こうなることを予想していた宝典は蒔の体を横抱きにする。
「あれ?なんでぇ。もう、お風呂からでる?」
さっきまでの強気の蒔とは違い、酔いのまわり易い環境で彼は一気に脱力した甘えたがりの蒔になっていた。
「月を見ながらのお酒はおいしかったか?」
宝典の問いかけに、
「そりゃ、やってみたいけどなかなかできるものじゃないからな。
嬉しいに決まってる」
その言葉を聞いただけで計画した旅行のプランも無駄ではない。
「だけど、やっぱり宝典が無事だったのが一番だ。
俺を置いて逝くのは許さないからなぁ」
・・・これが蒔の本音だろう。まだ、一人グダグダと蒔は言っている。
「俺の言ったことを覚えていることがすごい!
もう、何年も前のことだろう。
・・・親なんて俺が今、何しているのかも知らないぜ。
あの人たちは、自分のことでいっぱいなんだろうな」
あまり蒔の口から自分の身内の話をしてこない。
少し聞いただけで宝典は胸が締め付けられる思いをしたのを覚えている。
「俺のような人間じゃないような者にならないように、これでも弟を大切にしたんだぜ。
相変わらず、あの人たちは弟にも同じことをしてたから。
あの家にいるぐらいならどこかで一人で暮らすほうがよっぽど子供にはいいからな。
なんの反論もなく、「あら、それもいいわね。」だって。
今じゃ、弟にとって俺は少し干渉するおにいちゃまよ。
あいつも大変だよ。生まれた時から波乱だ…」
蒔に弟がいる。
生まれた時から大変だった。
「あいつ、生まれた時、病院のお産に関わった人を驚かせたんだぜ。
そりゃ、そうさ。
両親、黒髪、黒目の日本人の容姿なのに、生まれてきた子どもは白い髪。
目を開くと黒い瞳。
アルビノかって検査もしたが、白い髪は銀色になっていく。
だけど、二人の親は特に、問題視していないから、疑問に思ったんだろうな。
聞いた話だと、終始、病院にいる間の空気はおかしかったらしい」
宝典は静かに話を聞く。
「うちのじいさんがフィンランドの人でさ、その血が弟にだけ出てきたってオチよ。
でも、知らないやつは色々と詮索してくるんだよな。
一時、両親の仕事の弱みを掴もうとしたものがいる。
ライバルが仕向けた使用人が、弟の組織で調べれそうなものを家から持ち出そうとした。
結局、未遂に終わったものの、そんな環境じゃ無理だよな。
あの家にいるだけで人間は育たない。
もう、俺みたいな欠陥品はいらない・・・」
話し疲れたのか、湯上りの浴衣を着せようと用意をしている間に蒔はふらふらと自分のベッドに行く。
蒔、寝るのは良いが、全裸だ。
それにしても、蒔の育った環境は特殊である。
自分を人間ではないとか欠陥品だとか言っていることは蒔の心の奥に闇があるということである。
今まで話してこなかったのも、話をして受け入れてくれるかわからなかったからだろう。
まだ、話を出していないものもあるのだろう。
蒔の寝ているベッドに座り、寝顔を見る。
このままじゃ風邪をひく。
浴衣を着させ、寝ている蒔を横抱きで運び、濡れている髪を乾かす。
水分を含んだ蒔の髪は艶が増して見える。
目元の黒子も湯上りでほんのり赤くなる肌も、首元が少しはだけて艶めかしさを含んでいる。
乾かしながら指を髪に絡めていく。
ただの自己満足である、そっと髪にキスを落とす。
宝典は再び、横抱きにしてベッドまで運ぶ。
下ろして蒔の細い指を見る。
じっと見つめ、何かを思いついたように荷物から物を出し、そして記録していく。
そして、蒔の指にキスを落とし、寝顔を眺めた。
蒔は今、自分がどういう状況かわからなかった。
ズキズキと痛む頭の鈍痛の原因は昨晩、飲んだお酒なのは覚えている。
宝典と一緒に月を見ながら、変なテンションになって、それから・・・・
顔が急に熱を持つのを感じた。・・・あぁ、だめ。頭が痛くなる・・・
しばらく部屋の様子を確認するのに、視界に入ったの誰かの腕だった。
・・・・
一気に後ろに下がろうとするが、その腕が蒔の動きに気づいた。
「こら、落ちるだろう・・・こっちにおいで。
頭いなくないか?」
「痛い」
「枕の上に薬と水」
眠気の中で微睡み中の宝典の声がする。
用意をしてくれていたらしい。
薬を飲み、効いてきた。
さっきの宝典の声、いつもの声より、柔らかい、甘い声・・・
なんで一緒に?
同じベッドで?
和洋室の寝室は大きめのベッドが二つ入っている。
大きいから一緒に?
それとも、こんな時だから一緒に?
動き出した頭で考えるが混乱しつつ、蒔の体は宝典の腕の中に入るように抱き寄せられる。
先ほどの場所より、より宝典の体に近く寄っていき、蒔の顔は宝典の胸のあたりにあった。
ゆっくりと宝典の顔を見る。
まだ、寝ているようで寝息も聞こえる。
昨日のお風呂での行為の仕返しに少しぐらい、いたずらをしてもいいだろう・・・
そんなことを考えていた蒔は宝典の開けている浴衣から覗いている胸元にキスマークを付ける。
チュッ、チュッ。よしよし!!
少しは鏡を見た時に困るといい・・・
グイっと体を動かされ、蒔はバランスを崩す。
同時に身体を思いっきり引っ張られる。
・・・・!!!!・・・
なんで?どうしてこんな体勢?!
宝典の腰のあたりに跨り、お腹の上に両手をついている。
しかも、自分の恰好はなんだ!!
肩に引っかかるような浴衣が片側は袖のところでまとまっている。
前は腰ひもでなんとか閉じてはいる。
乳首が見えてしまっている。
月明りの中で、宝典に転がされたところは、もう、赤みは落ち着いている。
それよりも・・・何も履いていない自分に驚く!!!!
「x!?!?x」
言葉が出ずに驚く蒔の様子を宝典が寝転んだまま眺め見ている。
「朝から積極的だなぁ。蒔ってエロイよなぁ・・・」
そう言って、宝典は蒔の片足を持ち上げるように横に取っていく。
「や!やめ」
蒔は慌てて自分の浴衣の着崩れを直そうとする・・・が、足を取られるとバランスをとりずらい。
そんな様子をかまわず、膝裏から足の付け根にかけて、手でスーッと撫でる。
「あっ。はぁ。たか・・・」
ゾクゾクする快感を拒否することもできず、与えられた刺激で体は動かない。
跨っているため、己の中心が朝から元気になっていることに蒔は気づいても、隠そうにも、動けない。
「さ、触るな・・・・ぁあ 」
自分の尻のあたりにかたくなっているものに気づいた蒔は、
「おま、朝から何盛ってるんだ!!」
宝典は朝から蒔を翻弄する。
「いきなり突っ込んだりしない。
ただ、好きなやつがそばにいるんだ。
しかも、朝からかわいく誘ってくる。
これは、据え膳食わぬは男の恥という、昔からの金言だ」
いや、いやいや。何をするつもり・・・
蒔は宝典と見つめること数秒。
「何するの・・・」
朝から心臓に悪いことをするのでは・・・
「何もしないよ」
宝典が太ももを相変わらず、擦る・・・
「…っ…いい加減、その厭らしい動きの手をやめないか!」
笑いながら宝典の一言!
「だめ。昨日、少し蒔とイチャイチャしようとしたこの可哀想な男に少しはご褒美を」
う・・・
蒔は宝典の顔を手で挟み、
「・・・ごめん」
相変わらず、宝典の物はかたいままだ。
性の知識は知っている。
一人で処理はするが、自分以外のものをしたことはない…
どうしよう・・・
ふっ
宝典の笑いをこぼす声がする。
「・・・笑った。なんで今、人が真剣に何をしようか考えてたのに!!」
蒔の拗ねた顔に
「急ぐことはないからな。まだ、ここには2日泊まる。時間はあるさ」
彼の大人な態度に半分安堵し、そして自分の臆病な部分にがっかりする。
沈んでいく蒔に
「とりあえず、今、一番考えないといけないことは?」
?
「まだまだ若いって象徴をどうおさめるかだ。ってことで、トイレに行ってくるわ」
宝典・・・ときに残念なイケメンに見える・・・
起き上がって歩く姿を見ながら、でも・・・
そんな姿をみせてくれる彼を好きだと思う。
それからは、日中、蒔の趣味に付き合い、夜に一緒にお風呂に入るなどし、体を合わせるわけでもなく
ただ、お互い、離れていた時間を埋めるかのように過ごしていった。
朝、どちらかが先に起きても、一人にせず、寝顔を見る。
それは幸せなことであり、日常の忙しさではつい忘れてしまうことである。
障子の効果で朝日の柔らかい光の中、ベッドの中でキスをしたり見つめあったり。
確実に2人の距離は縮まっていく。
一緒に住んでいる期間は長くとも、実際に過ごしているのは少ない。
蒔が帰りの荷物をまとめているとき、
「ここにこれてよかった。連れてきてくれてありがとう」
照れ隠しで表情を隠し耳だけを赤く染める。
宝典の愛しい存在はかなり照れ屋で素直になれない、でも、寂しがりの甘えん坊である。
たくさんのお土産を買い、荷物をどうすか悩んでいたら藤咲家用に買ったものと1泊の着替えだけを手元に残すようにと言われる。
「え、このままいくの?」
約束の日だが、まだ遠い。
「大丈夫。予定通り。今度は新幹線だ」
早朝という時間に動いている時点でそうなのかなと思った。
だが、乗り物に乗って驚いたのは、宿泊していた旅館に車内で食べれるようにお弁当を作ってもらっていたことには驚いた。
おかげで、朝から食欲のわくものを食べて残りの時間は眠気に勝てなかった。
藤咲家のある地域は田舎でもなくだからと言って大都市っていうほどでもない。
ただ、新幹線の通る駅で交通の便はいい。
そして、偶然にも蒔の弟が通っている学校があるそうだ。
到着するまでに少し話をした。
偶然とはすごいものだと話をすすめていくと、同年齢の弟だということも発覚した。
学校まではと、まさか、偶然の偶然が重なるものだと話していた。
実家に近付くにつれ、蒔の様子が明らかにおかしい。
「緊張しているのか?」
宝典の問いに、
「今まで、誰かの家に尋ねること自体初めて。どうすれば・・・」
「ネコかぶりの社会人で研究者の桐嶋 蒔先生でいいんじゃないか?」
「先生って。仕事場でも言われないのに・・・まぁ、お行儀よくするよ」
「そうだな。静かにしていたら目元の黒子のある色っぽい男らしいからな」
「・・・それ、誰談?」
「「上司のおっさん」」
緊張をほぐしてくれたようでその気遣いに感謝する。あとは、任せよう。
大きく深呼吸して宝典の目を見るのだった。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

【完結】人形と皇子
かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。
戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。
性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。
第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる