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弟ポジション6

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冬休み前、会長と副会長に会う予定を教えてもらった。
央の妹に蒔の話をしたら納得してくれたようだ。

そして、学校では緊急にアンケートを仕掛け、痴漢被害の実態を知るため周辺の学校全てにも協力してもらってデータをみる。
結果、教職員も経験がある事を知り、根深いことを知る。
すると匿名でSNSでターゲットの情報を共有している実態が見えてきた。

こちらもSNSなどつかって注目してもらうようにしていく。
話題にのるとマスコミも取りあげるご時世だ。

短期間で結構な周知に驚く。

動画などを目につきやすいよう作成してくる学校も出てきた。
自然と登下校時、学生同士注意しながら乗るようになっていった。

動くようになった勢いがどこまで続くかわからないが、県外にも情報を流していくようすすめていく。

央が退院した日から数日、とうとう央の妹と打ち合わせをした計画を実行する。
病院での様子で接触に怯えを感じているとのことだった。
情緒が不安定になっているようで時々、泣いているらしい。

そばに行き安心させたい。
頑張ったねと認めるのもいいだろう。

電話越しに央たちの会話を聞く。
やはり怯えの原因は電車のことだった。

少しでもそばにいたい。
もっと奥の方を聞いてこようとする央の妹の追求は、落ち着いていて央も抵抗を諦めたようで次々に知らないことがあることにショックだった。

彼女の予想通り、央は以前から痴漢被害にあっていて一緒に登下校しなかった日からまた再開していたのだった。

自分の行いが思った以上に央の助けになっていたようである。

そのあと、何を思ったか、央の妹は『桐嶋 朔』と誘導のように話を進めていく。
自分の気持ちを他人に代弁させるほど最低ではない。

ただ、会話を聞いていて央の気持ちも少しずつ見えてきた。
嫌われるのが嫌で知られたくなくて我慢していた。
央の良さを分かっているのは自分だけでいいと思う。

真実を知って央の妹と話をしている間に央は疲れて休んでしまったようである。
部屋を移動したようで央の妹は
『桐嶋くん、予想以上に痴漢被害の意識改革?すすんでるじゃない。
 アンケートはうちの学校もあったし、結構積極的よ。

 先生も被害があったって言ってたし、司書の人もあったって。
 時代が変わってきているって言ってたよ。
 ありがとう』


「大切な人を守るためには躊躇なんてできません。
 後悔したくありません。

 央さんの倒れた姿は…
 もう見たくありません」

『…そう』
それにしても、央の妹といい、兄といい敵にまわすのはできるだけ避けたいものだ。



その日、央は妹と、会長と副会長に会うため外出する。
生徒会役員の仕事はたぶん、ギリギリまで保留となるだろう。
もしかしたら、年を越しても、央の視力は変化がないかもしれない。

ただ、無理やりだが隠されていた限界を共有することができ、彼の様子は確実に改善されているようだと聞いた。

藤咲家の近くの公園で待つよう指定される。

マフラーをしっかり巻き、制服の上着のポケットに手を入れる。
公園の外は犬の散歩をしている人。
公園を見渡すとベンチ、砂場、滑り台と遊具がある。
ただ、今日は曇りで風もあり、遊んでいる子どもの様子は見られない。

幼児と親が手をつないで散歩をしているが、もう帰るのだろう。
夕暮れから日暮れへと変わっていくあいまいな時間。

男女が公園に歩いてくるのが見えた。
妹に腕を持たれガイドをされながら公園のベンチへと歩いていく。
すこし話をして央の妹がこちらにやってくる。

「ちょっと話したぐらいで家まで送ってくださいね。
 あと、親が保留していた件、本人に任せますだって。

 …本当は陰で見たいんだけどやめておくわ」
そういって、彼女は自宅の方に歩いて行った。

蒔の言っている言葉を思い出す。
本当に藤咲家はみんないいひとだ。
お父さんやお母さんの懐の広さを子どもたちは知っているのだろう。
信頼しているからできることで、簡単なことではないと、自分自身よく知っている。

「ふーっ」
息を細く吐き、緊張をほぐすが、無理だな。
拒絶されぎこちなくなり、あれから顔をみて話せていない。
この前、電話越しでは話をしたけど、こちらの一方的な話だった。
央は受け入れてくれるだろうか。
話をさせてもらえるだろうか。
静かに央の座っているベンチへと近づく。
央は耳を澄ましているのか?
目を誤魔化すためか眼鏡をかけている。

表情は最後に見た顔よりは穏やかである。

ただ、不安そうな表情も一瞬する。
私服姿は珍しい。
コートにちらりとシャツとセーター、デニムと紐のないスニーカーを履いている。
足音に気づいたのだろう、警戒をして見極めようとしている。
妹ではないと分かったのだろう。
ベンチに座る央の正面に少し離れて立ち止まる。
風の吹く音がとても大きく聞こえる。

「朔?」

・・・!!!
胸がいっぱいになった。
気づいてくれた。
「…っはい」

声が震える。
きちんと聞こえているだろうか?
余裕がない。
深く息を吸って落ち着こうとする。

「朔?」
「はい」
こんどはしっかり応えれた。

央は・・・ふわっと笑ったかとおもったらポロポロと涙を落としていた。
涙が光を集めて白く線を引きように見えた。

とても美しく罪な存在のように思えた。

名前と返事のやり取りを数回し、お互い落ち着きを取り戻して央が隣に座るように言ってくれた。
そばにいさせてもらえるのだろうか?
手を出して誘ってくれている。

かすかだが、震えている。
それなのに。
なんて、強い人なんだろう。

でも、無理をしてほしくない。

「触れてもいいのですか?
 怖がらせたくないです。
 …無理をしないでください」

これでも、抱きしめたいのに我慢をしているのに。
央は言い方を少し変えてきた。

「朔。
 …手を握って?

 こんな情けない僕は触れない?」
「ひどいですね。
 央さんを情けないとは思っていませんよ。
 では、右の手を出してください。
 そちらは治りかけですよね」

顔を見ると涙は出ていないが、複雑な表情だ。
そう言って、央が差し出す手を見る。
「嫌ならすぐに言ってください。

 わかりましたか?」
かすかな表情の変化も見逃せない。

央も、心が決まったみたいだ。
静かにうなずいてくれた。

震える手を落ち着かせ、央の指先にそっと触れる。

温かい。

まだ、足りない。

恐る恐る指を他の指に触れて自然と組むようになっていく。
胸が熱くなった。

少し間をあけるようにベンチに座って央の顔を近くで見る。
顔には傷はあまりないようである。
耳元は見えないが治っているだろう。
話では体にはたくさんの痣ができていたようだが、今は捻挫と左肘あたりまでの擦り傷と視力。
こちらがジロジロとみているのに気づいたんだろう。

「もしかして、これも妹と?」
「とても理解のある妹さんですね。

 無理を言ってお願いしました。
 …寒くはありませんか?
 曇りで所々、日差しがでてるのですが、もう日暮れ近いです。
 空気が冷たくなってきているのわかりますか?」
央は空気を吸って
「ほんとだね、冷たくなってる」
そういいながらも嬉しそう。

この柔らかく笑う瞬間が好き。
目と目があった瞬間の安心した表情が愛しい。

「…はぁ。
 目が見えるようになりたい。
 朔を見たい…」
・・・
どうしてあなたは私の欲しい言葉をいつも与えてくれるのでしょう。

怖がるだろうか?

「央、頬を撫でます。

 …いいですか?」

手が震える。
…怖い、また拒絶されたら・・・でも。

そっと、指先を頬に軽くあてる。
自分の指が気づかないほど冷たくなっている。
緊張のせいで血液がゆっくりと流れているようである。

「怖くないですか?
 この前は、事情を知らないとはいえ、怖がらせてすみませんでした。

 それからあの後の態度も、振り返ってみて最低でした。
 どうも、央のことを考えると私は余裕がなくなるのです。
 …大人げない。
 妹さんを困らせてしまったのを知っていますよね。
 …恥ずかしいです」

「?
 詳しくは聞いてないんだけどそんなことになっての?」

ある意味、必死な様子は滑稽だっただろうに、彼女はそれを尊重してくれている。

本当に男前だ。
将来、どんな女性になるのか楽しみである。

それから央には伝えておかなくてはならないことがある。

「央、私が来たのは顔を見にきただけではないのです。

 実は、休んでいた間の授業とか気になりますよね。
 学校の先生とご両親から了承を得ているのですが、冬休みに入り、私の家でその埋め合わせを一緒にすることとなりました。
 不自由なことがないようにある程度環境も整えました。
 いかがです?」
・・・
もう何も考えれない。
できることはやった。
「朔の家まで通うのは一人だとまだ心細いんだけど
 ・・・誰かについてきてもらうにも・・・」
!!!
もう少し、押すべきか。
「それは、心配いりませんよ。
 通うのはまだ、難易度が高いですからね。
 私の住んでいるところに一緒に住む形になります。
 お泊り的な感じですね。
 合宿?でも構わないですよ」
驚く表情、口が開いてますよ。

あと、なんだかポンって赤くなったような…

そのあとは、スマホだと不便と思い、ガラケーを用意した。
今の時代、探さないとないものかと思ったが、やはり必要なものである。
完全になくならない理由があるとすれば、こういうときのものだろう。
ただ、央はこれを知っているでしょうか?


央の手をゆっくりと広げポケットの中からガラケーを取り出す。
念のためネックストラップも付けておいた。
「ガラケー!って、使い方がいまいち…」

「よく確かめてください。
 ボタンがある面を手にもってください。
 そして、左の縦に線が出ているところが通話ボタンです。
 受ける練習をしてみましょう。
 反対が通話を終了するときに使います」

指先でゆっくり触って確かめる央の顔は頭の中で想像しているのだろう。
悩んでいる姿も愛しい。
そう思ってみていたら、なんだか赤面してる。
そわそわして誤魔化しているようだが、しっかり見てますよ。

それから電話を受ける、電話をするの練習をした。
ただ、練習中、央は指先を自分の口のそばに近づけて、息で温める行為を何度もする。

このしぐさ、自分も時々するがこんなに唇や口元から出る息を艶めかしく見えるとは思わなかった。
少し、無自覚なので意地悪をしたくなるでしょう。
無理をわざというなんて、これも央だけなのです。

言われて央も少し拗ねた様子でいる。頑張って央より大きい手を持ち、一生懸命息を吹きかけるが、照れの方が勝っているのが、見ていてわかる。
少しして続けれなくなったのだろう、そっと、手を離しホッとした様子。

あからさますぎて笑ってしまう。

首元にあるマフラーをとり、パサリと広げ、
「央、温かいところを見つけました。

 …少し、触れますよ」
と言いながら、央の頭と、自分の頭にパサリと広げたマフラーをかぶせる。

あとは、無防備な央の唇を自分の唇に当てる。
「また荒れてますね」
なんで今?って顔をした央が唇を開きかけた瞬間、また近づき今度は央の唇の間を確かめるように唇だけをすすめていく。
クチュっと湿らせた音も体温を上げるスイッチだ。

央も徐々に体の力が抜けて息をすることも忘れている。
慌てるように顔を手で挟んで離そうとする。

いつもなら察しているのだが、今は、余裕がない。
央には悪いが聞けません。

頭の後ろに手を添えて後ろに逃げ道を与えないようしているのでそんな力の抜けた状態じゃ、役に立ちません。

周りから遮るようにマフラーを頭にかぶせ、無防備な央を誰にも見せないようにすることは当たり前です。

だが、央は私の気持ちや考えなども気にせず、今度は手を口元に当てて押される。
まだ、足りないのに。
央の手を優しくとり、指先や指の腹など、気持ちを置いていくように唇を落としていく。
こうなれば感覚で…
「さ、朔!!」

「すみません、ちょっと奥の方が熱いようだったので…」
「あ…朔、その先、言わないで。
 もう、無理。
 …なんなの。
 …からかうのはやめて」
プシューって音が聞こえるようである。

「央、私をそばにおいてくださいね。

 私は央のものですからね。
 では、帰りましょう」
ある意味、放心状態。

腰砕けはしてないけどそれに近いかもしれない。
支えて自宅まで送り届けた帰り、央の妹からは「何かを思い出しては赤面してます。腐女子は気になります」など、メールが来ていた。

「今日はありがとうございました。ご想像にお任せします」
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