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始まり

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この話は僕、藤野 央の周りで起こっていることである。

僕の家族は、5人家族。田舎でもなく、大都会とまではいかないところに住んでいる。

父は小説家、寡黙。
本人は自分が家族から怖い存在だと思っている。
怖くない。母が大好き。
母は専業主婦だが、趣味が行き過ぎていろいろと抱えている多才な人、陽気である。
父が大好き。実は、厳格な家庭で育った元お嬢さま。
僕の上に5歳離れた兄がいる。
大学進学と同時に実家を出てそのまま社会人になっている。
この兄も、大学在学中から社会に出て経験を積んでいて結構すごいらしい。
らしい・・・というのが、兄は実家を出てから一度も家に帰ってきていないのだ。
街で会っても気が付かないような気がして、悪いことができない。するつもりもないけど。
僕は今、高校2年で男子高に通っている。
過去に大好きだった兄が突然いなくなり、その寂しさで体調を崩しやすくなる。
今思えば、ブラコンってやつかもしれない。
ただ、悩みなどを打ち明けれる身近の存在だったことには変わりなく、せめて離れることを前もって言って欲しかったと思っている。
高校に入り電車で通学を始めてから登下校の時に車内で不快な体験をするようになっていた。
そして立派な人間不信になってしまった。
我慢しすぎることがあるので限界がくると眩暈と吐き気を伴う症状に一時期悩んでいた。

成績はいいほうで、一応生徒会役員を受けている。
慎重に作業を進めるため人より遅いが何事も投げ出さない志を大切にしている。

容姿は人と比べていないからわからないけど、人に嫌悪感をあたえるようなことはないように思う。
身長が思うように伸びず悩んでいる。
色白で黒髪なのでうなじが見える夏服は周囲の人間にどきっとさせている。
図書館の本をとるとき、台をつかってとらないといけないときがあるのが密かな屈辱である。
登下校の時に他校の生徒から声をかけられたり、見ず知らずの人から誘われたりすることがある。
ただしこれも人間不信のため、見ず知らずの人からの好意は今の僕には悪意にしか感じることができない。
ひどい断り方をすればいいものの、強く出れないので困っている。
高校の友人からは癒し系と言われているが癒した覚えは一度もない。

趣味は読書と自然観察。
趣味でイラストに色を付けて作品を仕上げることをしていたら好評だったため依頼があれば受ける仕事をしている。
最後に、一つ下の妹は高校一年。
バイトで服飾関係をしているらしい。
母と共通の趣味として、BLファンである。
家にはコミック、小説、CD、ゲームなどあらゆるものがそろっている。

一般的の一般とはよくわからないが、派手でもなく、裕福すぎるでもなく過ごしてはいるが、みんな自分の興味のあることにはとことん、貪欲なくらいに究める性格のようである。
そして、この個性的な家族がそれぞれにこれからを考える時期に迫っている今。
ひとつひとつ、乗り越えていかないといけない課題がわいてくるのである。



休日のある日、家族そろっての遅めの朝食をとっていると父の電話が鳴った。
電話を受けている様子を見ているとどうも、仕事関係ではないようである。

ほかの家族も気づいたようで、電話の相手が誰なのか気になるようである。

電話を済ませた父がフラフラと自分の席につき、食事を再開した。
ただ、どういうわけか、すごく動揺している様子である。
しびれをきらした母が詳しく内容を聞いてみると実家を出てから一度も帰ってきたことのない兄からの電話
だという。
しかも、動揺の一番の原因はお嫁さんを紹介に帰ってくるという。

当然ながらみんな驚いている様子である。
当然である、実家を出てから数年。
今まで一度も実家に帰ってこなかった兄から突然の帰省宣言である。
しかも、お嫁さんをつれてかえってくるなんて驚きも驚きである。

年齢的にもありえることなので納得するところもあるのだが、とうとう来たかという覚悟をしているものもいる。
実家を出てから両親とは電話で話をしたりして近況を知らせていたようではあるが、二人とも付き合っている
人がいるとは知らず、いろいろと話をしている。
僕は、兄との久しぶりに会えるとあって、楽しみであるとともに、すごい変容をしていたらと思うと、気になって仕方がなかった。

食事を終えてそのまま来週向けるまでの準備などをみんなで確認して各々の休日を過ごすのであった。

兄が帰ってくる休日になり、朝から各自用意していたお菓子などを用意し迎える準備をしていた。
リビングではいつもはソファーで珈琲を片手に新聞を読んでいる父がそわそわと置いているものの位置などを意味もなく動かしては戻している。
そばで見ていて落ち着かないが、親の心境とは複雑なものかもしれないと見守ることにする。

玄関のインターホンがなり、母が迎えに出る。
しばらく話し声が聞こえてきて母がリビングにやってきた。
あれだけ、にこやかに向かったのに、顔が少し強張っている。どうしたものか?

部屋に入ってきたのは数年ぶりに会う兄だった。
実家にいるときもかっこよく優しかった兄ではあるが、今の兄は大人の色気も出て、背も少し伸びているようである。
ほどよく筋肉もつき、カジュアルな服装で来ているからか清潔感のある青年になっていた。
一段とかっこいい。

そのあとからは、兄から少し背の低い、落ち着きのある雰囲気の青年が入ってきた。
どこか色っぽさのある目元は泣き黒子のせいなのか視線がそちらに行ってしまうのは仕方がない。
少し長めの黒髪を耳にかけているところもなんだか艶のある印象を持つ。
あくまでも、同性として少し色気を感じる雰囲気があるのを気づくことができるのも、男子高に通っていていろんな同性を見る機会に恵まれているからかもしれない。

今回の兄の帰省はお嫁さんの紹介のはずである、どうしたものか?
遅れてくるのか、家族も一緒に紹介するほど、打ち解けているのか。
父や妹も入ってきた二人を不思議そうに見ている。

「みんな久しぶり。今日はみんな集まってくれていたんだな。
 ありがとう。
 久しぶりだからみんなの好みがわからなかったからいろいろとお土産を買ってきたからあとで空けてみて」

リビングのソファには兄と一緒に来た男性。
そしてその横と向かいに両親と僕、妹の人間がいた。
相変わらず母は強張っている様子をみて父も妹も、なんだか話はいい話ではないようだと察してきているようである。


久しぶりの兄からは最近、仕事の関係で海外に行く機会が多いのでなかなか、休みの日に日本にいることがないという。
貴重な休日を使って家族に紹介するのは、相手を思いやる気持ちだという。
どう意味か今の僕にはわからないが、大切に思っているということはわかる。

「今日、みんなに紹介をしたいのが、この桐嶋 蒔。
 俺の2つ下で図書館に勤務している。
 研究が本業だが図書館の業務にかかわる中で自分の資料なども知ることができるのでまぁ、いろいろだな」

有名大学の研究室にいて職員の理解のもと併設している図書館にも勤務をしているという、なんだかすごい。
紹介されている本人は兄のそばで静かに聞いているが、
「よろしくおねがいします。桐嶋です」
ぺこりと頭を下げながら挨拶をしていた。


「それから、俺の嫁ね。みんなもよろしくね」



部屋の空気が凍る瞬間を見た。
だが、BLセンサーを常時発動している妹がいろいろと質問をする。

・冗談なのか・ゲイなのか・家族はどう対応したらいいのか・・・微妙に鼻息が荒い。

妹よ、母といつもBL談義をしているのは知ってはいるが、なぜそんなに冷静に熱く対応をしているのか。

ほかの家族の顔を見ていると、父はまだ、固まっている。
母は、現実を受け入れるためにいろいろと己と戦っているようである。
僕は正直驚いている。
ただ、昔から男女関係なく持てていた兄は自分たちの知らない経験をして彼を選んだのかもしれない。
兄は妹からの質問を静かに聞いていて彼の顔を見てこう答えた。

「俺は今まで人の付き合い方というものを男女関係なく平等にしてきたつもりだ。
 
 だから、ゲイとかではない。
 ... だが、俺はそうでも、周りの人間は同じ考えだといいながらも、結局は違ってた。
 一人の人間としてこの人と一緒にいることで自分の成長を感じ、また、刺激を与えてくれる存在だったのが、蒔だった。
 いい友達として付き合っていけばいいのはわかる。
 でも、それでは満たされない感情があるとも気づいたとき、正直に言うと迷った。

 父さん、母さん、俺はあなた方のいつもお互いを支えあい、共有していく感情など見て育ちました。
 幸せと感じられる瞬間を蒔となら得られる。

 これから先、俺の子どもを見せてあげることはできそうにありません。
 でも、俺の人生に蒔がいないと、幸せになれないとわかったので、今回思い切って話しました。

 理解してもらえるとは思わないが、押し付けらえて違う人と無理やり人生を歩むことになっても俺は幸せではないということを知ってもらえたらと思う。

 聞いてくれてありがとう」

兄の話を静かに聞いていた桐嶋さんはなんだかだんだんと震えて顔色が悪い。
気づいた兄が手をそっと自分の手で包みこみ、そのあと、背中をゆっくりさすって感情を落ち着かせようとしている。
もちろん、しばらく部屋の空気は重く、部屋に置いている時計の針の音がやけに大きく聞こえた。


妹の意外とあっさりな了解したとの返答で場の雰囲気は少し和らいだものの、眉間のしわを保持したまま父は腕を組んで考えている。
母はそんな父の様子と桐嶋さんの様子を交互に見ている。


しばらく静かに考えていた父から

「よく話してくれた。

 正直なところ、まだ戸惑っているが、打ち明けることはとても勇気が必要なのはわかる。
 一緒に連れてきてくれたということはそれなりに覚悟をしているつもりだろう。
 幸せになるのは大切なことだね。

 お前の子どもを見ることができないのは残念ではあるが、仕方がない。
 子どもを生むだけが幸せの形ではないのは知っているよな。

 父さんは二人を応援するつもりだ。
 だが、ひとつ。

 いい加減なことをせず、お互い、足りないところは足して補うものは夫婦というものだ。
 それだけは心にとどめておくように。

 これは男女の間だけではない。
 別の人間同士が理解するのだからね。

 …この場合は、結婚の挨拶でいいのかな。

 籍などはどうするのか考えているのか。
 また、いつでも家に帰ってきて顔をみせなさい。
 もしかしてなかなか家をでて帰ってこなかったのもこのことがあったからかな」

そう言った父の表情は穏やかである。

二人とも緊張していたのだろう、兄は深くため息をつき、桐嶋さんは言葉が出ず、手を口元に置き、父の顔を見ている。
「…ありがとう。
 こんなに穏やかに話をしてもらえるとは思っていなかったのでホッとした。

 学生の時に、いろいろとあってなかなか顔を出せなかったけど、これが原因ではない。
 ただ、将来を見つめる時期になったかなと思ったから。

 籍については、時期をみてからにしようと思う。
 央、母さん、驚かせてごめんね」
兄はそう言い、隣の桐嶋さんと見つめあってほほ笑んだ。
その顔はとても幸せそうで涙が目元にはたまっているようであった。

母は父の隣で涙ぐんでいる。
それに気づいた父はおろおろとティッシュを用意したりと世話をし始めた。
「話を宝典さんから聞いていましたが、本当に仲がよろしんですね。
 うちの両親とは違います。

 認めてくださってありがとうございます。
 …本当にありがとうございます」

先ほどのまでの緊張した固い声とはずいぶん違うはっきりとした声で桐嶋の気持ちを受け取ると室内の空気は和んでいった。

その後、母を落ち着かせるため父はキッチンへと一緒にいき食事の用意などをそのまま始めていた。
リビングには兄と桐嶋、僕と妹の4人となった。



まだ一度も兄と会話をしていない僕の様子が二人とも気になるようで、先ほどからチラチラとみられている。
「央はどう思った。
 …気持ちが悪いか。

 もう、タカ兄とは呼んでもらえないかな?」

たぶん、ほかの人よりかは理解がある。
BL小説や漫画、CDだっていろんなものを聞いてきた。
情報としてはほかの男子よりは知っているほうだ。
そして、その中でよく出てくる設定が家族に反対されるというものだった。
自分とはかけ離れた世界だから反対された主人公の気持ちなども共感していた部分もある。
縁を切られたり、世間的に批判されたりとするのも過剰ではあるがあることも知っている。
この人たちはその空想の世界だった世界を実際に経験してきているのだろう。

今、通っている高校でも学生の時だけは身近な関係でお互いに割り切っている人も少ないがいる。
正直に気持ちを言ってみよう。

「驚きはしたよ。
 だって嫁って言ったじゃん。
 女の家って書くんだよ。

 普通、女だと思うよ。
 せめて、パートナーとかもっと違う言い方って最近はあるんだと思うんだけど。
 それと、気持ちが悪いか聞かれているから答えるけど、気持ち悪くないよ。
 
 ただ、目の前でイチャイチャはしないで。
 キモイんじゃなくて、一人がさみしくなるから」

僕は答えたが、兄からは笑われてしまった。
よかった、昔みたいにはいかないが、今の自分として会話がてきているようである。
「央は相変わらず、どこかずれているよな。
 でも、理解はしてくれているのならうれしい。
 蒔を兄だと思えばいいだろう」
それを聞いていた妹は、
「宝典兄、それ言っていいの?
 央兄は宝典兄にもっと甘えたかったし、いろいろと相談したかったことがあったのに、実家を出て寂しすぎてしばらく魂抜けてたんだからね。
 蒔さんをお兄ちゃんより頼ってしまうと、大変じゃない?」
なんてことを言いだす妹なんだ。

今はもう、自分で考えて相談や話を聞いてくれる友達もいるから大丈夫になっていきたのだが、恥ずかしい。

だんだんと緊張した後の和やかな時間を過ごせているようで用意ができた食事などをして、有意義な過ごし方をした。
次の日も休みということで遅くまで起きていたため、そのまま客間に泊まってもらい、朝、のんびりと起きていったら、キッチンに桐嶋さんと兄がいた。

二人でみんなの朝食を作ったようである。
和定食が並べられていて、次々と起きてきた人は感激しているようである。
今朝の朝食当番は僕だったのでありがたかったが、二人の料理スキルは上の方らしい。
また、見習うところができてしまった。

送るために最寄りの駅まで一緒に行こうと道を歩いていたら、桐嶋さんから
「どうも弟の通っている高校って央君と同じ学校みたいだね。
 しかも、同じ生徒会役員やってるようだよ。
 よろしくね、仲良くね」
!!!!!
あまりにも驚きすぎて言葉が出ずにいるが、そのまま桐嶋さんは会話を続けていく。
よく足を止めずに歩み進めていけたなと思う。

一瞬だが息を止めてしまった。

確かに同じ生徒会役員に桐嶋はいる。
よく仕事を助けてくれたり、知らないことを知っていて考え方も面白い。
いつもそばに気が付いたらいてくれる。
学校でも数少ない親友だ。
だが、顔が似てない…

「似てないでしょう。
 うちの兄弟、俺を含めて3人いるんだけど、みんな顔が似てないんだよ。
 俺は上から2番目。
 3番目が高校生の朔だよ。
 おじいさんがフィンランドの人だったからかな、朔は見た目をおじいさんからもらっているようだ」

そうだったんだ。
まさか、身近にいた人が兄の大事な人の家族だったなんて人の縁って不思議なことが起こるものだとのんきに考えていたのであった。


兄と桐嶋さんを送った僕は教えてもらった桐嶋 朔について考えてみた。
容姿は銀髪に黒目、外国の血が入っているのは何となくわかる整っている。
冷たい印象を与えるがまじめな人間である。背は180ぐらいはあるのではないか。
家族のことはあまりお互いに聞いていない。
どちらかというと、気が付くといつもそばにいてくれる存在である。

他人の目の届かないところで仮眠をとるため背中を貸してもらったり帰り時に途中まで一緒に帰るぐらいである。

一人暮らしをしていてしっかり者である。
利用する駅も同じなのだがそれを知ったときはとても驚いた。

仲のいい友達ならこれぐらいは当たり前である。
あれは一年の時にたったひとりだけ学年から生徒会役員に選ばれ、重圧を感じながら業務をこなしていた僕がストレスが原因で眩暈を感じ始め吐き気も伴う症状が出始め、限界に近付いていたころ。
いつも息抜きのために利用していた図書館で出会ったように思う。

眩暈がして日当たりのよい窓辺で目を閉じてやり過ごそうとしていた時、誰かが近づく気配を感じ慌ててしまい、バランスを崩し、助けてくれた。

生徒会に関わっているからか名前と顔を覚えていたようで、初対面にも関わらず、そのまま自宅付近まで送ってくれたのだ。
その後、当時異例の追加役員が選ばれ、任期途中から桐嶋が同じ1年で役員の仕事を行うようになっていった。

悩んでいた登下校時の出来事も朔が気づき、対応してくれた。
ずっと他校の人から声をかけられたり、見ず知らずの人から誘われたりと悩まされていた僕を気遣って関わってくれている。

その当時、声掛けや勧誘?のほかに痴漢被害にもあっていた。
このことが人間不信になる原因だと思っている。
ただ、朔といるようになってから特に被害を受けていない。

このことは、まだ誰に知られていない。
朔にはもちろんである。

男なのに痴漢被害にあっているなんて知られるのは恥ずかしいものである。
お互いに自然と心を許せる存在になってきて、人間不信が改善されてきていたように思う。
ただ、時々、ドキッとしてしまうことがある。

この前はつい、一緒に図書館で本を読んでいるときに眠ってしまい、気が付いたら朔の膝をつかって膝枕をしていたことである。
朔は整っている顔を近づけてじっと僕をみていたのた。
寝ぼけていたので反応が滑稽だったのだろう、なんとなくだが、笑われているようであった。

その時の朔の眼はとてもやさしくてつい見つめてしまった。

ドキッとした瞬間、これは「トキメキ」だと悟った。

ダメだ、BL脳が・・・
家族以外に無防備に近い自分を見せているのは桐嶋 朔だけだった。


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