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番外編
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「ぁー、俺って結構、自分のこと過大評価してたのかな」
馬車に戻って、毛布を被って寝転んだ。
ガヤガヤと昼時の喧騒から逃れて、少し息を吐き出した。
俺は無意識のうちに、ジルの第一優先は自分だと思っていたのだ。
周りには冷たく、自分には優しく笑うジルに、自分は特別だと。
……たぶん、ジルにとって自分は、守るべきものだったために、そばに付いていたんじゃないだろうか。
つまり……
「ジルが自分へ向ける気持ちは、恋慕ではなく庇護欲に似た、親が子へ向けるような愛情だったんじゃ……」
ゾッとした。
そう考えると、納得がいく。
「ぁあ、やだなぁ、……」
きっとジルは気づいていない。
それなら、俺が黙っていればいいだけだ。
ジルは、俺への気持ちを恋心だと勘違いしてる。
「いやだなぁ……」
俺、ほんと性格わるいなぁ。
「……ゆう、起きてるか?」
そうやってぐるぐると、永遠と抜け出せない思考にさまよっていた。
どのくらいたっただろうか、10分かもしれないし、1時間かもしれない。
足音とともにジルの声が聞こえて、心臓がぎゅっと固くなった。
「起きてるよ」ということを一瞬躊躇ってしまい、俺はそのまま寝たフリをすることしか出来なくなってしまった。
何してるんだ、俺。
じっとそのまま動きを止めていると、ジルは俺がまだ寝ていると思ったのか、座るような衣擦れの音がしたきり、何も言わなかった。
やがて馬車が動き始め、ガタガタと騒がしくなる。
ジルはいつまでたっても、俺の近くに来てはくれなかった。
ジルside
午前と午後でロイターと位置を交代する手筈になっていたので、俺はゆうがいるはずの馬主に向かった。
そこには、朝と変わらず毛布を被って眠っているであろう、ゆうがいた。
「……ゆう、起きてるか?」
聞いてみたが、返事は無いので寝ているのだろう。
俺はゆうの髪を撫でようと思い、近づきかけたが……それをやめ、馬車の縁に腰掛けた。
自分に対する行き場のない苛立ちが、ゆうに触れることを躊躇わせる。
もし、俺がいなかったら。
ゆうは美人で誰にでも優しい。
きっと、良いお嫁さんや男の人と結婚して幸せに暮らし、老衰で家族に見守られながら死ぬ……という当たり前の幸せを得られただろう。
その道を俺が断ち切ってしまった。
あの時は、この人間しかいないと思った。
人を避け、一人で生きてきた俺が一緒に生きたいと思った。
寂しさを埋めたかったから、誰でもよかった訳では無い。
ゆうを選んだことを後悔など微塵もしていないが、これからゆうは長い時を生きることになるのだ。
知人が死に、自分は老いず、またその知人の子孫が死に、それでも自分は老いず。
苦しいだろう。
死にたいと思うかもしれない。
そしたら、俺を恨むかもしれない。
寝ているゆうの背中を眺めて、腹の底から冷える感覚に襲われる。
そしてふと、気づく。
……ゆうは寝ていない。
息遣いが朝より浅く、不自然に体が縮こまっている。
俺だから気づけたことだが、気づかなければよかったと後悔した。
何故ゆうは寝たフリを?
俺と、口を聞きたくなかった?
俺は髪を結っていた紙紐を解いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
馬車に戻って、毛布を被って寝転んだ。
ガヤガヤと昼時の喧騒から逃れて、少し息を吐き出した。
俺は無意識のうちに、ジルの第一優先は自分だと思っていたのだ。
周りには冷たく、自分には優しく笑うジルに、自分は特別だと。
……たぶん、ジルにとって自分は、守るべきものだったために、そばに付いていたんじゃないだろうか。
つまり……
「ジルが自分へ向ける気持ちは、恋慕ではなく庇護欲に似た、親が子へ向けるような愛情だったんじゃ……」
ゾッとした。
そう考えると、納得がいく。
「ぁあ、やだなぁ、……」
きっとジルは気づいていない。
それなら、俺が黙っていればいいだけだ。
ジルは、俺への気持ちを恋心だと勘違いしてる。
「いやだなぁ……」
俺、ほんと性格わるいなぁ。
「……ゆう、起きてるか?」
そうやってぐるぐると、永遠と抜け出せない思考にさまよっていた。
どのくらいたっただろうか、10分かもしれないし、1時間かもしれない。
足音とともにジルの声が聞こえて、心臓がぎゅっと固くなった。
「起きてるよ」ということを一瞬躊躇ってしまい、俺はそのまま寝たフリをすることしか出来なくなってしまった。
何してるんだ、俺。
じっとそのまま動きを止めていると、ジルは俺がまだ寝ていると思ったのか、座るような衣擦れの音がしたきり、何も言わなかった。
やがて馬車が動き始め、ガタガタと騒がしくなる。
ジルはいつまでたっても、俺の近くに来てはくれなかった。
ジルside
午前と午後でロイターと位置を交代する手筈になっていたので、俺はゆうがいるはずの馬主に向かった。
そこには、朝と変わらず毛布を被って眠っているであろう、ゆうがいた。
「……ゆう、起きてるか?」
聞いてみたが、返事は無いので寝ているのだろう。
俺はゆうの髪を撫でようと思い、近づきかけたが……それをやめ、馬車の縁に腰掛けた。
自分に対する行き場のない苛立ちが、ゆうに触れることを躊躇わせる。
もし、俺がいなかったら。
ゆうは美人で誰にでも優しい。
きっと、良いお嫁さんや男の人と結婚して幸せに暮らし、老衰で家族に見守られながら死ぬ……という当たり前の幸せを得られただろう。
その道を俺が断ち切ってしまった。
あの時は、この人間しかいないと思った。
人を避け、一人で生きてきた俺が一緒に生きたいと思った。
寂しさを埋めたかったから、誰でもよかった訳では無い。
ゆうを選んだことを後悔など微塵もしていないが、これからゆうは長い時を生きることになるのだ。
知人が死に、自分は老いず、またその知人の子孫が死に、それでも自分は老いず。
苦しいだろう。
死にたいと思うかもしれない。
そしたら、俺を恨むかもしれない。
寝ているゆうの背中を眺めて、腹の底から冷える感覚に襲われる。
そしてふと、気づく。
……ゆうは寝ていない。
息遣いが朝より浅く、不自然に体が縮こまっている。
俺だから気づけたことだが、気づかなければよかったと後悔した。
何故ゆうは寝たフリを?
俺と、口を聞きたくなかった?
俺は髪を結っていた紙紐を解いた。
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