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番外編

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ガタ、…ガタ、
 
ゆゆらりゆらりとゆすぶられる感覚に、ふと目を覚ました。
 
「?」
 
寝起きでぼやける視界で、手探りで恋人の体温を探すが、毛布やらなにやら荷物などでどこにも見つけることはできなかった。
 
体を起こしてみると、どうやら馬車の中…というよりかは、荷台に屋根をとっつけたようなところに、俺は寝かされていたらしい。
ガタガタとゆれる荷台の上でも寝られるように、俺の体の下にはたくさんの毛布やジルの衣服が敷かれていた。
 
その衣服を手に取って、ボーっと眺めていると、、、
 
「起きたのか?」
「ひぇ!」
 
てっきり、だれもいないのかと思い込んでいた。
急にかけられた声に驚いて振り向くと、俺の背後のほうの隅にロイターさんが寄りかかって座っていた。
 
胡坐をかくその膝には、研磨石と短剣やそこそこの長さの剣がのっていたので、きっと愛剣の手入れをしていたのだろう。
 
「調子はどう?」
「もう大丈夫ですよ、ご心配おかけしました。あの、…ジルは?」
「あいつなら、先頭の方で先駆けしてるよ。俺は、ゆう君のおもり兼護衛」
 
おもりは余計では…?
 
飄々とした態度で、ロイターさんは青髪をかきあげながら、にこにこと笑った。
 
「それよりも、ゆう君。なんかあいつと喧嘩でもした?」
「え?」
 
喧嘩??
 
正直言って全くもって心当たりがないのだが…
 
「あれ、俺の勘違いかな。今朝からジル、すごい機嫌悪いんだよね。大抵のことは誰かに押し付けて、自分はさっさとどっか行っちゃうようなあいつが、あんなにおとなしく先駆けやるくせに、すっげぇ機嫌悪いの。こんなのはゆう君がらみしかないと思ったのになぁ」
「はぁ、あのジルが進んで先駆けを…」
 
珍しいこともあるものだ。
 
聞くところによると、いまは回収した物資やら魔物の死骸を運びながら帰路を急いでいるところだという。
今回は行きと違い、大きな荷物があるので、冒険者と騎士で隊列をなしており、ジルはその殿をアルバートさん等としているらしい。
 
比較的ゆっくりとだが流れていく景色は、谷間の街――ラヴィーヌはとっくに抜け、緑1色。
 
「あと三時間もすれば、森を抜けると思うよ。都に就くのは夜になるかも」
「えっ、…、?え?」
 
あれ?、行きは普通に野宿とかしたよね…
 
「…俺、どのくらい寝てました?」
「二日くらいだな」
「えぇ…」
 
マジで?
 
全然体が重いとかないし、いたって健康なのだが。
俺は二日も寝てたのか。
 
「飯、もらってくる」と飛び出していったロイターさんの背中を眺めて、一応走っている馬車から飛び降りるのはどうかと思うと遠い目をした。
 
この世界の人は、たまにとんでもない運動神経持つ人がいるのだな。
 
 
 
そのあと、ロイターさんが調達してきてくれたサンドイッチにかじりついたのだが、自分の腹がすいているというのがその時になって始めてわかった。
 
もぐもぐと無心で食べることを繰り返していたら、いつの間にか隊の休息時間になったらしく、隊の動きも止まった。
 
昼飯をとるからといって馬車を出たロイターさんを見送って、昼飯も食べ終えやることの無いおれも馬車を出た。
 
特に用があるわけではないがふらふらと歩いていると、すれ違う騎士さんや冒険者の方が俺のことを知っていたのか、「もう大丈夫なのか?」と声をかけてくれたりした。
もしかして、全員に俺が寝込んでたことが知れ渡っているのか?
 
それは、かなり、恥ずかしい、。
 
しばらくいろいろと歩いていたら、少し遠くのほうにジルを見つけた。
 
すこし離れてみるジルは、皆より背が高く、スタイルの良さが際立つなあ。
木にもたれかかって、パンを口に運ぶ姿すらかっこいいと思うのは、俺だけだろうか……。

ジル!、と声をかけようと思い、足をジルに向けたのだが。

ジルまで後少し、という所で視界の端に赤いものがみえて、それは迷うことなくジルの方へと向かった。

エミリーさんだ。

咄嗟に、俺はなんだか居場所が無くなった気がして、近くにあった樽に隠れた。

あれ、何してんだろ。

「ジル、向こうに来て私たちと一緒に食べない?スープもあるんだけど……」
「いや、別にいい」

ジルの腕のかなり近くに体を寄せるエミリーさんに、内心すこしもやっとした。
なぜにあそこまで近くに行かなければならないのだろうか、、?

「そう、……そういえば、ロイターからゆうさんが目を覚まし待って聞いたわよ。顔出さないの?」

だが、そのもやもやも俺の話が出たことで、なぜだか少し期待するような気持ちになった。
きっと、ジルは直ぐに俺のところに……

「あぁ、後でな」

なんて、言わなかった。

俺はいてもたってもいられなくて、足早にその場を離れた。




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