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番外編

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遠くで誰かが自分の名前を呼ぶ声がして、無意識下で夢だと思って無視したのだが……。
ふと、これは夢ではないと気づいて意識が浮上した。

目を開けると、清々しい朝とは言い難く。

目はしょぼしょぼするし喉は痛いしで、目の前の男をぶすっと睨んだ。

くそぉ、相変わらずイケメンだな。
窓から差し込む光が後光のように男を縁どって、まるで人智を超えた神のように見える。

寝ていた俺を起こしに来たのだろう。
ジルが俺の顔を覗き込んで、たっていた。

「すまん、、」
「……水」

困ったように、しゅんとこう垂れるような雰囲気を出して、すぐに水差しからコップに水を注ぐ姿に、少しスッキリする。
水を受け取って、時計を見れば集合時間の1時間前だった。

コップの水をごくごくと勢いよく飲んで、いざ!と床に足を下ろして力を入れると、思ったよりも痛みはなく立ち上がれた。

「……?」
「ユウ」

ジルが手渡してくれた濡れた布で顔を拭いたり、甲斐甲斐しく世話をされてすぐに支度を終わらせる。
俺の様子を伺いながら、じっとそばにたっているジルが、少し可愛くて段々とおかしくなってきた。

「もう怒ってないよ」

あからさまにほっとした顔をしたジルに、「でも」と付け加える。

「次はもっと……優しく、して欲しい」

少し恥ずかしかったが、要は抱き潰されなければいいわけで。
そしたら、お互い円満に生活していくことが出来るというものだ。

「はぁ~~~」
「んむっ、!?」

何故かジルが、大きくため息をはいたかと思えば、ガバっと抱きしめられて間抜けな声が出た。

「ちょっ、ジル」
「お前のそういうとこ、ほんと、……直した方がいいぞ」
「は?」
「まぁ、そのままが可愛いんだけどな」
「意味わかんないんだけど……」

「分からなくていい」と俺の髪をわしゃわしゃと撫でてくる手から逃れて、ジルの腕に昨日俺があげた髪紐がまきつけてあるのに気がついた。

寝る時に外して、ずっと身につけていてくれたのだろう。
その事に、たまらなく嬉しくなった。

ジルの前に、ぱっと手を広げて差し出す。

きょとんと不思議そうに俺の手を眺めるジルに「髪紐、結うから」と声をかけると、少し嬉しそうにいそいそと腕にまきつけてあった髪紐を解いて差し出してきた。

まぁ、他の人から見たらジル表情の変化はあまり分からないだろうが。

それを受け取って、バッグから串を取り出して昨日と同じようにポニーテールに結った。
サラサラと流れる黒髪を、満足して眺める。

「ユウ、ありがとな」
「どういたしまして」

確認するように後頭部を撫でるジルを急かして、朝食を食べに食堂へと降りるため部屋を出ると、ちょうどロイターさんとアデルさんも部屋から出てきたのか、ばったりと出くわした。

「お!おはようお二人さん!」
「おはようございます。今から朝食ですか?」
「そうなんだよね、お二人も朝食でしょ?良かったら一緒に食べない?」

俺は別に構わないけど……とジルをみると、嫌そうではなかったので了承して食堂へ向かう。

食堂へ着くと、昨日よりは少ないがそれなりの人がいたので、カウンターから朝食を受け取って、端の席に座った。

「それにしても、今回はやばそうだよね」

朝食に手をつけ始めるなり、ロイターさんは少し嫌そうな顔で呟いた。

「やばそう、とは?」
「ジルさんとユウさんは初めてだからあまり分からなかったと思いますが、今回の件には騎士団に、S、Aランク冒険者をかなりの数。相当な金額が動いているはずですし、それだけ希少種は強いと思われます」

俺の問いに、ロイターさんが丁寧に答えてくれた。

そこら辺のことはよく分からないが、S、Aランクの冒険者が少なく、報酬も高くなるということくらいは容易に想像がつく。
つまり、それだけの人数を導入するだけの何かが今日の調査にはあるのだろう。

「オマケに、氷鬼ひょうきだぜ?」
「氷鬼?」
「あれ?ユウくん知らないの?……あの、騎士団長のことだよ。氷魔法を使った剣術で有名で、アホみたいに強いし訓練は鬼みたいにしんどいらしい、そらで氷鬼ってあだ名がついたんだって」

鬼、、とは無縁そうな見た目だが、氷は何となくわかる気がする。
ジルやロイターさんのような、炎って感じはしないしな。

「まぁ、俺自体はその戦いぶりを見たことは無いんだが、Sランク冒険者より強いって噂だ。もしかしたらジルよりも強いかもな~」

アルバートさんは人間だろうし、それは無いと思うけれど……ジルは興味が無いかのようにもぐもぐと朝食のパンを食べてるし。

「多分だがジル、この依頼終わったらSランクになると思うぜ」
「そうか」
「そうかって、嬉しくないのかよ?」
「あまり興味無いな」
「つまらないやつだなぁ~、もうちょっと喜べよ」

「当然のこと」とばかりに、依然として表情を変えないジルに、ロイターさんはからかうようにして言葉をかぶせる。

ジルにとっては別に、肩書きなどどうでもいいのだろう。

それはそれで、俺はいいと思うけれど。

 



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