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番外編

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朝起きて、自分の体を確認するのが日課になっているのはどうかと思うが、今日は首への噛み跡が凄かった。

最悪だ……と思ったが、ベットの横には「必要なものを買ってくる」という内容の書置きと、丁寧に服まで用意してあった。
首元が隠れるような服は、ちゃんと理解してからおいてくれたのだろうが、次からはもう少し手加減して欲しいものだ。

今は昼前だろう。
服を着替えて、仕事場である酒場へ向かって、1ヶ月ほど仕事を抜けられるか頼んだら、何故かいい笑顔でOKを貰った。

怒られるかと思って拍子抜けした俺に、店主とジェイドは「大丈夫だから」とにやっと笑った。

とりあえず、了承を貰えたことに安堵してうちに帰ると、ちょうどジルも戻ってきたところだった。

露店で買ってきてくれたのだろう、ジルはタコスのようなものを俺に渡して、自分の分にかじりついた。 

「そういえば、魔法ってどうやって使うの?」
「イメージして、精霊にお願いすればいい。変な技名叫ぶヤツもいるが、あれはイメージを具現化させるための、精霊へのコマンドとして便利だからだ」
「ふーん、そういうものなんだ」
「あまり変な使い方すると、精霊に嫌われるやつも稀にいる」

結構精霊は気分屋なんだなぁと、最後の一口を放り込んだ。

腰のベルトに、マジックバッグをくくって、ジルから護身用に短剣を貰った。

銀のレリーフが施されたそれを、「なんか高そうだけど……」といったら、「変えはある」と否定はされなかったが壊してもいいみたいな言い方されたので、絶対に壊さないと心に誓って一緒に腰に括った。

使うのはまじでやばくなった時にしよう。

俺もタコスもどきにかじりつくと、タレと肉の旨みが口いっぱいに拡がって、すぐに平らげてしまった。

ギルドへ行くと、すでに金獅子のみんなは集まっていたらしく、こっちに手を振ってきた。

「早かったな、みんないるし、もう行くか」

ロイターさんの合図で、連れ立ってギルド横の馬小屋へ行く。

隣町までは、貸馬で行くらしい。
初耳である。

「ジルって馬乗れるの?」
「お前、俺を誰だと思ってんだ?」
「ジル」

即答すると、呆れられた。
なんだよ。

ジルは馬小屋の中に並んだ馬を見て、黒毛の馬を選択して手続きを済ませると、その馬に飛び乗って俺に手を差し出してきた。

「っわ、意外と高いんだね」

引っ張りあげてもらった馬の背中から周りを見渡して、ほうっと息を着く。
高速バスから隣の普通車を見下ろす感覚と似ている。

金獅子のメンバーで馬に乗れないのはフィオナさんだけだったらしく、アデルさんの前に乗せてもらっていた。
多分、エミリーさんの前だと、身長差がそこまでないので難しいのだろう。

悲しいかな。
エミリーさんも、俺と同じくらいはあるんだがな……。

馬の毛並みをポンポンと撫でて、よろしくな~と声をかけたら、ヒヒンッと鳴いてくれた。
馬語は分からないけれど、任せとけっということだろうか。
頼もしい馬さんである。

ふと、視線を感じて横をむくと、一瞬エミリーさんと目が合ったが、すぐにそらされた。

男の癖に馬に乗れないの?ってこと?

男が馬に乗れないのって、恥ずかしいことなのだろうか……。

「ここの人って、みんな馬に乗れるもんなの?」
「いや、だいたいの貴族と冒険者、それと商人などの必要な人だけだろう」

なるほど、貴族は馬に乗ってるイメージあるからな。

なるほどー、と納得していたら、急に動いた馬に体が傾いたが、すぐにジルに引き戻された。

「気をつけろ、ここ握っとけ」
「すみません」

ジルに指さされた馬の首後ろのベルトをしっかり握ると、ロイターさんを先頭に、金獅子の皆さんが引き続いたので、俺らはいちばん後ろについた。

途中で何回か休息を挟んで、隣町へ向かう山道を進んでいく。

城下町を見下ろせる場所まで来ると、思わずため息が出るくらい綺麗だった。

隣接する山の緩やかな傾斜にできた街並みは、城を中心として扇状に下に下がるような作りで、とても自然も豊かで雨にも恵まれた良い土地だ。
近くに迷宮もあり物資豊富となれば、大国になるにはそう時間はかからなかったのだろう。

またしばらく、日が落ちるまで進んでから野営となった。
隣町までは、朝に進行を開始して夕方には着く予定だそうだ。

この世界に車とかあったら便利なんだろうけど、こうやって旅みたいなことをするのも楽しい。

「いてて……」
「まぁ、さすがになれない馬の背中じゃきついか」

地面に降りたってそうそう、ぐいっと腰を伸ばす。

うぁー、腰の下あたりがとても痛い……。
明日には少し慣れているといいが。

テントをそれぞれのマジックバッグから取り出して設営し、夜は交代で見張りをすることになった。

テントは3つで、俺とジル、ロイターさんとアデルさん、エミリーさんとフィオナさんって感じだろう。

夕飯には持ってきた食材を鍋にいれ、簡単な味をつけたものとパン。
鍋には干し肉も入っており、なかなかにお腹に溜まるし美味しい。

もぐもぐと口を動かしていると、珍しく無口なフィオナさんが口を開いた。

「あなた達は、付き合っているの?」

「結婚するつもりだ」
「んぐっ」

干し肉と野菜を喉につまらせそうになって、慌てて飲み込んだ。

即答するな。聞いてない。

まともに噛まれてない食べ物が喉を通る嫌な感じとともに、まじかと隣のジルを仰ぎみた。

「なるほど、理解」
「へ~、やっぱり付き合ってたんだ!ジルって特定の相手を作らなそうなタイプだと思ってたから、半信半疑だったんだよな~」

「どこで出会ったの~?」
「どっちから?」
「やっぱ一目惚れ?」

と言葉立て続けにグイグイ迫ってきたので、直ぐに残りの飯をかき込んで逃げるようにしてテントへ入った。

陽キャは怖いな。


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