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番外編

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「ちょっとユウ!あの人と知り合いなの!?」
「え?、まぁ」

「はぁー!すげぇな」と、裏方でお仕着せを畳んでいる俺に、ジェイドが目をキラキラさせながら迫ってきた。

「なんで?」
「だって、最近急に現れて直ぐにAランクに上り詰めた期待の新人だよ!Sランクもすぐだろうって話だし!誰ともパーティーも組まずに迷宮へ潜っては、貴重種とか狩って戻ってくるって有名な人!」

「すげーよなぁ、一匹狼って感じでかっけぇし!!!!!」と、隠れ戦闘マニアでもあるジェイドは頬を染めながら興奮気味に語る。

俺は、「へー、そうだったんだ……」くらいしか言えないのだが。
だってほんとに、知らなかったし。

「どこで知り合ったんだよ?すごいイケメンだし、Sランクパーティーの誘いを蹴るわ、美人で有名な受付嬢のミシェルちゃんを振るわで大変だって友達も言ってたし。そんな人とユウが知り合いなんて知らなかったぞ!」
「え、あー、……前住んでたとこが近くてさ。お兄ちゃんみたいな?」
「へぇ~!」

「それで!?どんなふうに戦うか知ってたりする!?」とうるさ……しつこいジェイドをから逃げるように、自分で頼んだ料理を持って、ジルの向かいの席に滑り込んだ。

「案外遅かったな」
「ちょっとね……どう?ここの料理美味いでしょ?」
「ん、美味い」

ジルは綺麗な仕草でローストビーフを口に放り込んで、「でもま、お前の料理のが好きだけどな」と、殺し文句のような事を呟いた。

周りの客には聞こえないくらいの小さな声だったけれど、俺にはバッチリ聞こえて少し頬があかくなった。

男一人暮らしの自炊程度の家事能力の俺の飯より、絶対に店の方が美味いだろうとは思ったが、何も言わずにミネストローネを口に入れた。

と、そこへ……

「あれ!ジルじゃん。誰かと一緒なんて珍しいね」

「こんばんはー!」と陽気な声で、赤髪の青年が話しかけてきた。
大きな大剣を背負っている姿から、冒険者仲間だろうとは安易に想像がつく。

その後ろからも、それぞれ武器をしっかりと持った同じく冒険者であろう仲間たちがぞろぞろと覗き込んでくる。

「あ!ほんとだ、ジルだ」
「こんばんは」
「珍しいですね」

ジルは「おー、奇遇だな」と適当に生返事を返している。

ジルを楽しそうに見ていた赤髪の目がぱっと俺に向けられて、ちょっと驚いたように見開かれた。

「あれ、君見たことないな……冒険者じゃないよね?」
「そいつはユウ。この店で働いてる」

俺が自己紹介をする前に、ジルがぱっぱと説明をしてしまったため、「こんばんは」と返すと、「俺はロイター、こっちは仲間のエミリーとフィオナ、そしてアデル」と返ってきた。

「金獅子ってパーティーを組んでるんだ」

ウェーブのかかったブロンドの女性がエミリーさんで、白髪の女の子がフィオナさんだろう。
そして、魔術師っぽい水色の髪の軽装の男の人が、アデルさん。

なるほど、寝たら忘れそうだ。

「ジルにちょっと話があったから、ちょうど良かったよ」
「……なんだ?めんどくさい事はしないぞ」

少し嫌そうな顔をしたジル。

「うーん、めんどくさいかもしれないけど、多分断れないと思うよ、ギルドからの推薦依頼だから。隣町の迷宮に変な個体が出たから調査に同行しろって。すでに王都のSランクに匹敵する騎士たちが行ったらしいんだが、手に終えそうもなかったらしくて、それでギルドへの増援要請だ」
「嫌だね」

即答したジルに、「バックれてもいいけど、冒険者続けられなくなるかもしれないよ~」とにやにやしながらロイターさんが煽った。

「それって、断れないんですか?」
「あ、ユウくんは知らないか」

疑問符をうかべる俺に、「無理はないよ」と笑う。

「ギルドの冒険者は、基本的にどこに移動するにもギルドカードを使って身分を証明したり、そのカードを使って銀行に財産を預けたりできるんだよね。一応強制にはなってない体の指名依頼だけど、それを断ることはギルドに背くことと同義。そんなことしちゃうと、ギルド側としては『なんだこいつ!やな奴!こっちはめちゃくちゃ融通してやってんのに!プンプン!』ってなっちゃうわけ」

なんかすごい、裏声まで使って説明してくれる愉快な人だなーと俺は苦笑いしてしまった。

「ギルドが拗ねちゃうと、ギルドを介しての国からの補助を打ち切られたり、ギルドカードが差し押さえになったりと、ハチャメチャにめんどくさいことになっちゃうんだよね。まぁ、指名依頼なんて高位冒険者くらいにしか来ないんだけどさ」
「なるほど、ありがとうございます」

ギルドは各国にあるだけあり、国々を行き来することの多い冒険者にとって、通過の両替をしてくれたり、身分証代わりになって国境を越えやすくなったりと、何かと便利ではあるがめんどくさいんだな。

「ジル、今回は調査が終わるまでだから最短でも1週間はかかると思うし、下手したら1ヶ月以上かかるかも。俺らなら隣町には数回行ったことがあるし、たまには一緒に行かないか?」
「だから、私たちと一緒に行くでしょ?ジル」

後ろからエミリーさんが上体を乗り出して、ジルに迫るようにして声を被せてきた。

ちょっとなんだかその態度に、モヤッとしたものが内側に広がる気がした。

それにしても、最短でも1週間、悪くて1ヶ月以上もかかるとは……。

ジルを見ると、食べ終わった皿を見つめてじっと何かを考えているようで、しばらくして顔を上げた。

「こいつも連れてっていいか?」
「「は?」」

もちろんこの「は?」は、金獅子の皆さんと俺のものだ。

「え、ジル何言っ」
「こいつ、こう見えても魔法に関してはなかなか強いんだぜ」
「て……」

ちょっと待て。

俺の心とは裏腹に、金獅子の皆さん興味深くこっちを見つめてくる。

「へぇ~意外!お前がそういうくらいだし、相当なんだな!」
「そうなんですか!それは是非とも私も見てみたいですね!」
「ふーん、別にいいんじゃない?」
「戦力になるなら、いいと思う」
「いや、……あの……」

何故か行くことが決定したかのような雰囲気に慌てるが、「明日の3時にギルドで」というロイターさんに、ジルは素知らぬ顔で「わかった。俺らはもう行くから」と、俺の腕を引いて店を出てしまった。

「ジル!!!!!ばか!!!!!どうするんだよ!?俺魔法なんて……」
「ちょっとは落ち着けって。考えはある」
「そうはいっても……」

一体どんな方法があるというのか。

「お前、ちょっとぐらい強くなった方がいいと俺も思ってな。変な野郎がまた来たらどうするんだ?すぐに俺が助けてやれるかも分からないんだぞ?」
「……それは、……一理ある」
「ははっ、否定しないのかよ」

しょうがないだろ、岩山余裕で持ち上げるお前からしたら赤子同然だろうがな!
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