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1巻

1-2

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 今度は一転、眉尻を下げたその顔に、私はますます首を傾げる。
 えーっと、つまりシルヴェスタは、義理チョコをあげるのが気にくわないってこと? それとも私が誰かにチョコをあげるのが気にくわないとか?
 え、それってもしかして嫉妬しっと? ……やだ嬉しい!
 そこまで考えて、ふと冷静になった。
 いやだってさ、今までさんざん身体の上にのったり、背中をんでもらったりしてるのに、シルヴェスタって全然反応してくれないんだよね。
 初めて会った時なんて下着を見られて、しかも全身くまなく触られたんだよ?
 前回だってベッドに横になって、背中をマッサージしてもらったんだよ?
 それなのに股間がノーリアクションって、悲しすぎるんだけど! 私って、そこまで魅力ない?
 そこまで考えて――自分の中で、なにかのスイッチが入った。

「……ねえ」

 時刻はきっと深夜なんだろう。薄暗い部屋を照らすのは、ベッドサイドのランプの明かりだけ。無駄のない引き締まった筋肉に落ちる濃い陰影が、一層その魅力を引き立てる。
 盛り上がったっぱいの下にあるのは、見事に六つに割れた腹筋。腰から繋がる腹斜筋のラインが際立って見えるのは、余計な脂肪が付いていないからだろうか。
 ……正直言って、すっごく美味おいしそうだよね……
 バレないようにそっとつばを呑んで、たくましい胸筋に手を置く。

「シルヴェスタは私のこと、どう思ってるの……?」
「どう、とは?」

 紅い瞳を見つめながら手に力を入れて押すと、大きな身体は簡単にうしろに倒れる。
 その上に馬乗りになった私は、警戒してるのか力が入って張り詰めた谷間を、つっと指ででた。

「だから、義理チョコ貢ぎ物に怒ったり、もっと自分を大切にしろって言うのは……ちょっとは私のことを気にしてるから?」
「ッ……、アリサ」

 滑らかな肌の感触を楽しみながら、綺麗きれいに割れた腹筋を丁寧になぞる。

「シルヴェスタは義理チョコ貢ぎ物と私、どっちをもらえたら嬉しい……?」

 指で腹筋を辿たどり、おへそくぼみをたっぷり堪能する。そして更にその下に伸ばそうとしていた手が、大きな手に捕まった。
 下から伸びたもう片方の手が私の頬をで唇に触れる。
 じっと見つめる赤い瞳が一瞬、炎みたいに揺らめいたように見えた。

「アリサ、私はお前のことが……」


 その時、耳障みみざわりな電子音が鳴り響いた。
 メールの着信を告げる音に驚いて顔を上げると、目に映ったのはさっきのチョコレートの箱。
 身体を起こした私は、自分があのままテーブルで寝ていたことに気が付いた。

「せっかくいいところだったのに……私のっぱいを返せ!!」

 ――その夜、狭い1LDKに魂の雄叫おたけびが響いたのは、言うまでもない。



   第四話 パンプスの試練


「……あーったく、足パンパンだっつーの……」

 自宅に到着するなり玄関に座り込んだ私は、むくんだ足の甲にくっきり残るパンプスのあとをそっとさすった。
 今日は、年に数回あるITイベントの最終日。
 幸か不幸か、そこまで盛況ではない我が社のブース。それでも途切れることなく訪れるクライアントやユーザー、プレスの対応に追われ、社員は朝も早くから夕方まで広い会場の中を駆けずり回った。
 日頃オフィスでずっと座ってる私には、一日外にいるだけでもハードルが高いっていうのに! 連続三日、その上女性はスーツにパンプス着用が必須って、嫌がらせか!


 痛む足を引きずってベッドに辿たどりついた私は、そのままシーツの上にダイブした。

「お腹空いた……化粧落としたい……熱いお風呂に入りたい……でも面倒くさい……」

 五分、いや十分。十分だけ休憩したら、ちゃんとしよう。
 今日は駅ビルのお惣菜屋さんで買ったちょっといいお弁当があるし、疲れが取れるってCMでやってる入浴剤もある。それに明日は土曜日。やるべきことをやれば、あとは好きなだけ寝てていいんだから……
 そんなことをぼんやり考えながら、まぶたが重力にあらがえずゆっくりと閉じていくのを感じていた。


「……っ! ……いっ! しっかりしろ!」
「んー……」
「アリサ! 大丈夫か!」
「うー……うるさい……」
「アリサ!」
「うるさいってば!」

 突然、心地よい眠りを邪魔された私は、思わず叫んだ自分の声で目を覚ました。
 自分の部屋の狭いパイプベッドとは違うやたら大きなベッドに、豪華な装飾の壁。そして真上から私をのぞき込んでいるのは……

「……シルヴェスタ?」
「アリサ! よかった気が付いたか!」

 ぼんやりと開いた目に映るシルヴェスタは、いつにも増して深い眉間のしわを刻む。その怖いくらい真剣な表情に、眠りを邪魔された怒りが一気に吹き飛んだ。

「……どしたの? なんかあった?」
「何回呼んでも目を覚まさなかったのだ。……心配したぞ」
「そっか……心配してくれたんだ」

 この夢を見てるってことは、きっとあのまま寝ちゃったんだな。
 前回の夢がバレンタインの前だったから、あれからもう三週間は経ってるのか……。それなのに今日は、目の前の剥き出しになったっぱいに、ちっとも食指が動かない。ってことは、よっぽど疲れてるんだな、私……

「大丈夫か? 随分顔色が悪い」
「うーん、今日はちょっと疲れてて……いや大丈夫。これはお腹が空いてるだけだから」
「腹が減ったのか?」
「うん。夕飯を食べそこなって、そのまま寝ちゃったみたい」

 表情を一層険しくしたシルヴェスタは、熱でも測るみたいに私のひたいに手を置いた。

「アリサ、食事はきちんと食べているのか?」
「食事? あー、今日の昼はすごく忙しくて……でも差し入れのパンを一個もらって食べた……かな? 朝は寝坊したから適当に済まして、えーっと昨日の夜は……」
「待ってろ。すぐになにか食べる物を用意させる」
「へ? なにかって……っ、痛っ!」

 ベッドから下りるシルヴェスタにつられて身体を起こそうとした瞬間、右足に激痛が走った。
 ふくらはぎを襲う刺すような痛みに、足が細かく痙攣けいれんする。
 咄嗟とっさに右足をかばおうとしたら、全身が強い痛みでぴきりと固まった。
 なにこれ……すごく……痛い……

「っ……!」
「どうしたアリサ! 足が痛いのか? おい、なんだこれは!」

 私の足を見て驚いたように息を呑んだシルヴェスタは、ぶちぶちと強引にストッキングを破き始めた。
 お前、よくも高級着圧機能付きストッキングを破いたな! 高かったんだぞ、これ! じゃなくて!

「いたいいたいいたいっ」

 シルヴェスタの手が触れた途端、余りの痛さに悲鳴が出た。
 容赦ようしゃなくストッキングを破く手に、声の限りに叫んで痛みを訴える。
 すると物凄い音と同時にドアが開いて、誰かが部屋に飛び込んできた。

「団長、どうしました! ご無事で……だ、団長?」

 視界の端に映るのは、驚いたように口を開けたまま、こちらを見ている若い男達の姿だった。


「だ、団長、あの、その方は……?」
「二人ともいい所に来た。マルチネスは食堂に行って食べる物をもらって来てくれ。消化のいい食べやすい物がいいだろう。ニールはお湯を頼む。彼女の足を清めてやりたい」
「「は、はい!」」

 二人が慌ただしく出て行ったあと、シルヴェスタは私の右足を下から上へとさすり始めた。
 いや、だから触るなって! むっちゃ痛いんだってば!
 痛みで声も出せない代わりに、思いきりにらんで抗議してやる。すると、シルヴェスタは困ったように眉尻を下げた。

「おい、頼むから泣くな。アリサのこれは、足がっているんだ。我々騎士も激しい鍛練たんれんのあとは、足がることがあるからわかる。痛いかもしれんが、こうやってほぐしたほうが早く楽になるんだ」
、る……?」
「ああそうだ。足を酷使こくしした時によく起こる現象だ。アリサは足がるのは初めてか?」

 話している間もシルヴェスタの大きなてのひらは、休むことなく私の右ふくらはぎをさすり続ける。
 ……そっか、これがかの有名な『足がる』ってやつか。
 高校の時に陸上部のクラスメイトが、あれはヤバイと力説してたのを思い出す。
 うん、確かにこれは痛い。マジで涙が出る。あの時、適当に聞き流して本当にごめん、名前も思い出せない友人よ。

「痛いのは最初だけだ。こうしていれば段々痛みがやわらいでくる。アリサ、身体から力を抜いてみろ」
「うう……でも……」

 握りしめていたシーツを放して恐る恐る足を伸ばすと、シルヴェスタは左のふくらはぎもさすり始めた。
 すごく慎重に、丁寧に、大きな手が私のふくらはぎの上を滑るように動く。

「……なんとやわらかなふくらはぎだ……。ほら、もっと力を抜け。私にすべてを任せるんだ」

 優しくいたわるような手の動きと、落ち着いた低い声。
 少しずつ痛みが薄れてきたのがわかって詰めていた息を吐くと、全身から力が抜けていくのがわかった。

「シルヴェスタ、少し……楽になってきた……」
「いいぞ、そのままじっとしてろ」
「うん……んっ、……ね、もうちょっと優しく、ゆっくり動いて……」

 「あ、あの、団長、お湯の支度ができましたが」
 戸惑ったような声に目を開ける。すると部屋の入り口に、顔を真っ赤にした男がおけを持って立ちすくんでいるのが見えた。

「ニール、そこにおけを置いたらもう下がっていい」
「は、はい! 失礼します!」
「アリサ、身体を起こせるか? 爪先つまさきが大分冷えている。湯で温めてやろう」
「うん……つっ」

 ぶっとい腕で抱き起こされて、背中に枕が当てられる。
 シルヴェスタは後ろに寄りかかった私の両足を、湯で濡らした手拭いでおおった。
 少し熱いくらいの手拭いは、疲れた足に染み渡るみたいで気持ちがいい。

「気持ちいい……」

 思えばこの三日、慣れない接客に心も身体も疲れ果てていた。
 直行直帰で普段より早く家に帰れるとはいえ、元々私はデスクワーク中心だ。体力もないし愛想笑いも苦手なのに、よく頑張ったと自分を褒めてやりたい。
 ふふ……っていうか、こんないい男にかしずかれて、甲斐甲斐しく足まで拭いてもらって、夢とはいえすごいご褒美ほうびだよね。
 ふかふかの枕に埋もれてそんなことを考えていた私は、ふと手拭いとは違う生温かい物が爪先つまさきっているのに気が付いた。
 くすぐったいような奇妙な感覚を不思議に思って目を開けると――そこには真剣な顔で私の足をめるシルヴェスタがいた。


「ちょ、ちょっとなにしてんのよ!」
「じっとしてろ。アリサ、お前自分の足が血だらけなのに気付いていなかったのか?」

 血だらけ? もしかしてパンプスで爪が割れてた……?
 いや、だからってめるってどうなのさ! いくら夢とはいえ、そんなオプション必要ないから!
 なんとかのがれようとしても、足首をつかむシルヴェスタの手はぴくりとも動かない。
 分厚い舌がぬるりと指の間をい回る感覚に、背筋がぞくぞくする。
 くすぐったいような、ぞわぞわするような、妙に落ち着かない気分でいたたまれない。私は激しく頭を横に振った。

「やっ、そんな、たいした怪我じゃないし! それに汚いから! は、放してっ!」
「この足は一体どうしたのだ。なぜこんなひどい怪我をした?」

 低く、まるで尋問するような声。鋭い視線で観察されてる間も、熱い舌はぬるぬると爪先つまさきい回る。
 親指をめていた舌が次は人差し指に、そして中指が終わると薬指へ……


「あっ、きょ、今日は特別なイベントの日で」
「イベント? なんだそれは?」
「イベントって、お、お祭りみたいなやつ? それで、普段私は外に出ないんだけど、そのイベント、えっとお祭りの日だけは外に出て」
「普段は外に出られないとは? 監禁でもされてるのか?」
「監禁じゃなくて、拘束っていうか、就業規則があるから……あっ、やん」
「拘束だと!? ……祭りで一体なにをさせられたのだ?」
「わ、私の役目は……お客様の、おもてなしで」
「客をもてなすだけで、なぜこのような怪我をしたのだ」
「それは一日中パンプス履いてたから、それで……。ね、シルヴェスタ、もういいからやめて!」

 仕上げとばかりに、右足の指全体が口の中に入れられる。熱く濡れた舌が満遍まんべんなく、すべての指に絡まって、最後に小指がくちゅくちゅとしゃぶられる。
 足首をつかんでいた手が離れて、ようやく解放されたと思った次の瞬間、今度は左の足首がつかまれた。

「やっ、シルヴェスタもうやだ! お願い許して!」

 気が遠くなるような絶望を覚えて、懸命に足を動かす。でも私の必死の抵抗も虚しく、左足の指が口に入れられた。

「だめだ、消毒が終わるまで我慢しろ。それでパンプスとはなんなのだ」
「あっ、や、パンプスって女性用の靴だけど、イベントの時は着用するように上に言われてて」
「命令されたのか?」
「そ、そうだけど、私、あれ苦手だから、一種の拷問ごうもんみたいなもので……っ、あっ、もうやだあっ」

 ぴちゃぴちゃと唾液の絡まる淫靡いんびな音が、部屋に響く。
 くすぐったいのとは別の奇妙な感覚が、じりじりと爪先つまさきから溜まっていく。
 今まで誰からも与えられたことのない、初めての感覚。私は身の置き所のないほどの熱から逃げ出したくてたまらない。

拷問ごうもんだと……!」

 一際ひときわ低くなった声と同時に左足の親指が根元から強く吸われて、その瞬間、私の中でなにかがはじけた気がした。

「シルヴェスタ、だめぇっっっ!」


 自分の大きな声で目が覚めた私は、勢いよくベッドから起き上がった。
 朝の光に包まれた部屋は、昨日置いたままのお弁当が放置されているし、椅子の背には脱ぎっぱなしのコートがかかっている。

「あれって夢、だよね。よかった……」

 たとえ夢の中だとしても、足をめられてイきそうだったとか、ほんと勘弁してほしい。
 見慣れた風景にほっとした私は、いまだにバクバクと音を立てる心臓の辺りを手で押さえる。そして息を整えようとして、目に入った自分の爪先つまさきに思わず息を止めた。

「嘘……どういうこと?」

 視線の先にあるのは、破れたストッキング。
 そういえば、あれだけパンパンだった足のむくみがなくなっているのは気のせい……?

「……あれって本当に夢、だよね……?」



   第五話 年度末行進曲


 普段なら空席がぽつぽつと見つかる、夜十時を過ぎた電車内。
 それがここ数日はなかなか賑わっているのは、やはり年度末が近いからだろうか。
 ガタンガタンと規則正しい揺れに身を任せながら、ふとそんなことを考える。
 一様いちように疲れた顔をした乗客達に妙な親近感を持ってしまうのが、我ながら不思議だ。
 それでなくても忙しい年度末進行。加えてここ数日の間に立て続けに飛び込んできた、『予算が余ったから、ようやくバージョンアップの許可が出たんです!』という案件達。
 このご時世に本当に有難い話だけど、涙が出るほど嬉しいけど、心の底から嬉しいけど、言えるものなら今こそ言ってみたい。「ご利用は計画的に」ってさ!
 ぼんやりとそんなことを考えていた私は、ふと電車の窓に映る自分の姿に気が付いた。
 こんな映りの悪い車窓でもわかってしまう、隠しきれていない濃いくま。化粧の浮いた青白い顔に、死んだ魚のような目……
 夜十時までみっちり仕事をして、家に帰ってからもひたすらデータをチェックする。明け方の五時までPCをにらんで、七時に起きて会社に行く毎日。
 ベッドで寝ている時間より、机にして寝てる時間のほうが長いのは、間違いない。
 あと少しの辛抱だってわかってるけどさ、たとえ終わりがわかっていても、疲れるものは疲れるんだよね……
 最寄り駅まであと二駅だと告げる車内アナウンスを聞きながら、ほんの少しだけ、そう思って私は目を瞑った。
 ……ああ、今こそあの滑らかな肌に、至高のっぱいに埋もれたい。
 ぶっとい腕でぎゅっと強く抱かれて、あの腰にくる低音ボイスで「大丈夫か?」って言ってほしい。
 大きくて熱いてのひらで優しくでて、身体中をとろとろに溶かしてほしい。
 シルヴェスタ、もう二週間以上会えてない。今こそあなたの筋肉の癒しが必要だよ……


 大きな手が頭をでる。
 優しく、まるで大切な宝物をでるみたいに、何度も、何度も。
 なんだか嬉しくなった私は、その手をつかまえて猫のように頬をすり寄せた。

「……アリサ? 起きたのか?」

 低くて甘い大好きな声と、心地よい温かさ。至福のひと時を堪能して、深く息を吸う。
 ほのかに漂う薄荷はっかみたいな香り。ああ、これ知ってる。これはきっと……

「……シルヴェスタ……?」
「ああ。無理に起きなくていい。そのまま寝ていろ」
「うん」
「可哀想に、こんなに疲れて。……頑張っているのだな」
「うん……」

 私をいたわる優しい言葉に、じんわり頬が緩む。
 ふふ、シルヴェスタって本当に優しいよね。
 会うたびに不機嫌そうな仏頂面ぶっちょうづらで、力加減も時々間違えるけど。
 でも私をでる手は丁寧だし、いつも身体を気遣ってくれる。
 シルヴェスタと一緒にいるとわかるんだ。
 私、本当は誰かにこういう風にねぎらってほしかったんだって。
 無理するなよって、無理しなくていいよって、そう言ってほしかったんだって……

「ん……へへ……シルヴェスタ……ぉっぱい、すき……」
「……っ! アリサ、私は! …………いや、今はまだいい。ゆっくり休め」
「……ん……」

 そのまま少しざらついたてのひらの感触を楽しんでいると、ガクンと一際ひときわ大きく身体が揺れた。
 はっと開けた目に見慣れた駅のホームが飛び込んで、慌てて電車を降りる。直後に背中でドアが閉まった音がした。

「あー危なかった、あのまま寝過ごすところだった」

 ホームを吹き抜ける身を切るような冷たい風に、慌ててコートの襟を立てた。
 あーあ、さっきまでシルヴェスタの腕の中でぬくぬくしてたのに、これじゃあせっかくの余韻が吹き飛ばされちゃうよね。
 大きく深呼吸した私は、パソコンの入った重い鞄を抱え直した。

「よし、あとちょっとだ。……頑張ろう」


     ◆ ◇ ◆


 そしてその週末、つつがなく迎えた年度末最終営業日。帰宅した私は、玄関で景気よく靴を脱ぎ捨てた。

「ぐっふふー、飲んだ飲んだー、そして終わったー!」

 今年もどうにか乗り越えたデスマーチ!
 部署の打ち上げでさんざん飲んだくれてご機嫌な私は、荷物を置いてそのままバスルームへ向かった。
 明日からは無理やりもぎ取った有給、しかも奇跡の三連休!
 あー、連休なんて久しぶり。なにをして過ごそうかな?
 好きなだけ寝坊して、ベッドの上でだらだら過ごすのもいいな。
 せっかくだから春物の服を見に行きたいし、気になってたあの映画に行くのもいいかもしれない。
 そんな楽しい計画に一人にやにやしながら、湯船の蛇口をひねってお湯を止めた。
 ここ数日は忙しくてシャワーで済ませていたけれど、今日は入浴剤をたっぷり入れた熱いお湯に、身体を浸すことにしたのだ。
 優しい桃の香りが評判のこの入浴剤は、デパートにしか入ってない某有名コスメブランドの品。
 容器もってて可愛いんだけど、その分お値段が可愛くない。だからこれは特別な時にだけ使う、とっておきだったりする。

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