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第17話 何かしたいことはありますか?

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「我儘って言われても……うーん……」


 今のところ私の希望は日本に帰りたい。ただそれだけ。
 だけど今回はそんなに急いで帰らなくてもいいかなって、ちょっと思ってたりする。
 だって前来た時は4ヶ月ここで過ごしたけど、日本に帰ったら全く同じ場所同じ時間に戻ってた。それってどれだけここにいても問題ないってことだよね?


「うーん、じゃあせっかくだからこの世界の観光とかしてみたいな。それでその土地の美味しいものを食べて、お土産を見たりとかするの。あ、あとはゴーンじいちゃんに会いたい!」


 白い髭の大賢者ゴーンは、間違いなくこの世界で一番私がお世話になって、そして私のことを可愛がってくれた人だ。
「私があかり様をこの世界に呼んだのじゃから、私はあかり様の保護者みたいなもんじゃ」
「じじいは子供を可愛がるもんじゃ」
 なんて言って珍しいお菓子や果物を持って来てくれたり、面白いお話を沢山してくれた。
 私の祖父は父方も母方も早くに亡くなってるから、まるで本当のお爺ちゃんができたみたいで嬉しかったんだよね。
 今回もすぐにゴーンじいちゃんに会えると思ってたのに、なんでもじいちゃんは今放浪の旅というやつに出ているらしい。
 私が目が覚めてすぐにマッティが魔法で手紙を送ってくれたんだけど、なにせ放浪中、鳥もじいちゃんを探すのに時間がかかっているそうだ。


「ねえマッティ、ゴーンじいちゃんとはいつ会えそう?」

「それがまだゴーンとの連絡が取れないのです。もしかしたら地下の洞窟に潜っているのかもしれません。ですがいつも大体2、3ヶ月に一度は連絡がありますから、その内ゴーンの方から連絡があるでしょう」

「洞窟かあ……。じゃあ会えるのは当分先なんだね」

「あかり様、お城では舞踏会やお茶会などもありますよ。そういった催しはご興味ありませんか? せっかくですからこの機会に新しくドレスもお作りましょう。あかり様のお好きな淡いブルーのドレスも素敵ですし、きっとピンクもお似合いになりますよ」


 お城で舞踏会! それを聞いて私の頭の中で一気に妄想が膨らんだ。
 豪華な部屋と美味しい料理、そして素敵なドレスを着て優雅に踊る人達……。やがてその中から素敵な王子様が現われると、私の前に来て、そっと手にキスを……
 そこまで妄想した私は慌てて頭を振った。いや待て。そもそも私はダンスなんて踊れないし、王子様はあのアルだ。落ち着け、落ち着くんだ私。


「……ないな。うん、それはない。私マナーも知らないしダンスも踊れないし、それにナリッサと違ってドレスが似合わないと思う」


 私の身長は155cm。日本ではそんなに背は高くはないけど、むちゃくちゃ低いって訳でもない。
 でもお城ですれ違う女の人はみんなどう見ても私より10cm以上は高いのだ。しかも男女ともに美形率が異様に高いし……!
 想像してみて欲しい。海外のモデルやハリウッドスター並みの顔とプロポーションのきらびやかな人達に混じって踊る、一人だけ背が低くてのっぺりした顔の私。それどんな罰ゲームだよってなるよね。


「それにさ、お城にいるのってなんだか居心地が悪いんだよね。私、早く神殿に戻りたいな」

「おや、あかり様はお城はお嫌いですか?」

「うん、豪華すぎるし人が多くて空気が悪いっていうか……。ほら、私はごく普通の庶民だから、何か傷つけたり壊したらどうしようってドキドキしちゃうんだよ、きっと。だから早くマッティと一緒に神殿に帰りたい。……あ、でも私、神殿に帰ってもいいのかな」


 そうだ、うっかりしてたけど、よく考えると今回は私が神殿にいる必要ってまったくないよね?
 前回は聖堂にある水晶の呪いを解いてたからあそこにいる必要があったけど、今回は違う。私は誰かに呼ばれた訳じゃないし、そもそも何の役にも立ってない。
 何も考えずに当たり前みたいにマッティに頼ってたけど、……それって実は迷惑じゃないのかな。


「……マッティ、私って前みたいに神殿でお世話になってもいいの?」


 不安になって首を傾げてマッティを見ると、何故かマッティの尖った耳の先が少し赤くなっているのに気がついた。


「もちろんですよ、あかり様。貴女はただここにいてくれればいいのです。私と一緒に神殿に帰りましょうね」

「あかり様、私も是非ご一緒させてください。神殿には女手も必要です。また以前のようにあかり様のお世話をさせてください」

「私カルロスも、あかり様の行く場所でしたら地の果てまでお供いたします」


 ーーーー私は知らなかったんだ。うかつに口にした「早く神殿に帰りたい」の一言で本気になったマッティが、アルととんでもない事を約束してしまうなんて。
 そのせいで密室で手を縛られた王子様と二人っきりにさせらるなんて、そんな恐ろしいことが私の身に起きるなんてーーーー



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