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プロローグ

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 熱い……身体が熱いよ……。

 ねっとりと手足に絡みつくような熱から逃げたくて、温くなったシーツの上で何度も身体を捩る。
 からからに喉が渇いて水を飲もうと伸ばした手を、ひんやりとした何かが覆った。

「おい、大丈夫か?」
「だ……れ……?」
「ん? 俺か? 俺はアイザックだ。……セリ、お前俺のこと覚えてねえのか?」
「あいざっく……さん?」
「随分声が擦れてんな。ちょっと待て」

 背中に回された大きな手で身体が起こされて、薄っすら開けた目に見覚えのない男の人の顔が映る。
 伸びっぱなしのぼさぼさの長い髪にぼうぼうのヒゲの……ずいぶんワイルドな人だ。
 でもアイザックさんって誰だっけ……? 
 そんなことを考えてると何か唇に柔らかい物が押し付けられて、次の瞬間冷たい水が口の中を潤したのがわかった。
 ぼんやりとした頭では、その行為の意味がわからない。
 でもびっくりするくらいお水が美味しくて、私は夢中になって舌を伸ばした。

「ん……ん……」
「もっと欲しいのか?」

 こくりと頷くと、一旦離れた唇がまた水を運んでくれる。
 口の中にほんの少しだけ入れてもらえる水が、火照った身体を冷やしていくみたいで気持ち良い。
 もっといっぱい欲しくて服を掴んで唇を強く吸うと、驚いた様に呻いた男の口から水が溢れて、私の唇の端を伝って落ちた。

「……濡れちまったな」
「つめた……あ、やんっ」

 ヒゲを纏った男の唇が、落ちた水滴を追うように首筋を這う。
 するとちくちくするヒゲの刺激に、自分の身体が大袈裟なくらいびくんと跳ねてしまった。

「いや、だ、どうして」

 男の唇が触れたところから身体が熱くなって、おへその下がきゅんきゅんする。
 まるでもっと触ってって言ってるみたいな反応が恥ずかしくて首を振ると、優しく宥めるように男は私の頭を撫でた。

「怖いか? 大丈夫だ。これは蟲の毒のせいだ」
「むしの……どく?」
「ああそうだ。……今楽にしてやるからな」

 くすんだ藁色の髪から伺うのは、すごく透き通った蒼い瞳。
 私を心配してるみたいに眇められた鋭い瞳の奥が、怪し気に揺らめいているのは気のせい……?

「ククッ、そんな顔すんじゃねえ。セリは何もしなくていい。ただそこに転がってりゃあいいからよ」

 次の瞬間────乱暴な言葉遣いには似合わない、すごく優しいキスが降ってきた。




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