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第1話 薬草採取
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「あーあ、見つかんないな-」
その日私は、モルデンの街から数キロ先にある森に薬草採取に訪れていた。
今回の依頼はツリガネ草。1本30ギルという比較的いい値段で買い取ってもらえるこの草は、特徴さえ覚えてしまえば子供でも簡単に見つけられる薬草だ。
下を向いてしゃがみこんでいた私は立ち上ると思いっきり腰を伸ばし、ポーチの中のツリガネ草を数えた。
「これでようやく18本か。ってことは540ギルだから、ええと1ギルが2円で換算すると……1080円ってところか」
今日のノルマはツリガネ草50本。一日分の生活費を賄える1500ギル分は最低でも採集したいところだ。
「残りは32本か。先は長いなあ。たくさん採ってたまには甘いものでも食べたいんだけど……って、あれ? もしかしてあそこに生えてるのって!」
何気なく生い茂った下草を眺めていた私は、少し離れた所にある大きな木の下に慌てて駆け寄った。
そこにあったのはこんもりと茂るツリガネ草の一群。そして少し離れた場所にもっとすごい群生を見つけた私は、この時有頂天になっていた。
そして夢中になるあまり、自分が鬱蒼と茂る森に深く足を踏み入れていたことに全く気が付いていなかった。
「うわ、ツリガネ草がこんなに! あっ、あそこにも、あっちにも! うそ、すごい!」
夢中で草を摘んでいた私がふと妙な気配を感じて顔を上げると、そのタイミングでポタリと何かが上から落ちてきた。
葉っぱでも落ちてきたのかと見上げた瞬間、ぞわっと全身の毛が逆立つのがわかった。
頭上の木の葉裏に蠢うごめいていたのは、夥おびただしい数の黒い蟲。
逃げようと慌てて立ち上った時には、既に大量の蟲に囲まれた後だった。
外見はそのまんま掌サイズのダンゴ虫なこいつは、マンマダンゴ蟲というれっきとした魔物の一種。要注意だって冒険者マニュアルに書いてあったのを覚えてる。
コロンとした外見は可愛いと言えなくもないけど、大量にいるところは完全にアウト。
「うわあああああああっ! きもい! やだっ!」
飛びかかってくる蟲達を、持っていた小さいナイフでがむしゃらに切りつける。
無我夢中で手を振り回していると、その内辺りが静かになったことに私は気がついた。
「もしかしてやつけた? よかった……」
動かなくなった蟲を前に一息ついた私は、その時初めて背中がチクチク痛むことに気がついた。
「痛っ! やだなにこれっ!」
背中に回した手に鋭い痛みを感じた私は、思わず悲鳴をあげた。
どうやら気が付かない内にマントを潜ったやつが、背中に張り付いているみたいだ。
キシキシという気味の悪い音にパニックになった私は、背中から無理矢理蟲を引きはがした。そして足下に転がった蟲達に何度もナイフを振り下ろしてとどめを刺すと、その場にヘナヘナと座り込んだ。
「もう嫌だ……痛いよ……」
蟲がはりついていた背中が焼けるように痛い。よく見ると掌だって血だらけだ。
なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないんだろう。
なんで私はこんなところにいるの?
いっそこのまま全部投げ出して、子供みたいに大声で泣いてしまいたい。
でも私がここで倒れたとしても、探しに来てくれる人なんて誰もいやしない。それに下手したら魔物か盗賊に襲われて、もっとやばいことになるに決まってる。
だから私一人でなんとかしないと……。
ひとしきり泣いた私は、疲れきって重い身体を引きずるようにモルデンへ戻った。
そして採集した薬草を買い取ってもらうために、夕闇の中を通い慣れた冒険者ギルドへと向かった。
その日私は、モルデンの街から数キロ先にある森に薬草採取に訪れていた。
今回の依頼はツリガネ草。1本30ギルという比較的いい値段で買い取ってもらえるこの草は、特徴さえ覚えてしまえば子供でも簡単に見つけられる薬草だ。
下を向いてしゃがみこんでいた私は立ち上ると思いっきり腰を伸ばし、ポーチの中のツリガネ草を数えた。
「これでようやく18本か。ってことは540ギルだから、ええと1ギルが2円で換算すると……1080円ってところか」
今日のノルマはツリガネ草50本。一日分の生活費を賄える1500ギル分は最低でも採集したいところだ。
「残りは32本か。先は長いなあ。たくさん採ってたまには甘いものでも食べたいんだけど……って、あれ? もしかしてあそこに生えてるのって!」
何気なく生い茂った下草を眺めていた私は、少し離れた所にある大きな木の下に慌てて駆け寄った。
そこにあったのはこんもりと茂るツリガネ草の一群。そして少し離れた場所にもっとすごい群生を見つけた私は、この時有頂天になっていた。
そして夢中になるあまり、自分が鬱蒼と茂る森に深く足を踏み入れていたことに全く気が付いていなかった。
「うわ、ツリガネ草がこんなに! あっ、あそこにも、あっちにも! うそ、すごい!」
夢中で草を摘んでいた私がふと妙な気配を感じて顔を上げると、そのタイミングでポタリと何かが上から落ちてきた。
葉っぱでも落ちてきたのかと見上げた瞬間、ぞわっと全身の毛が逆立つのがわかった。
頭上の木の葉裏に蠢うごめいていたのは、夥おびただしい数の黒い蟲。
逃げようと慌てて立ち上った時には、既に大量の蟲に囲まれた後だった。
外見はそのまんま掌サイズのダンゴ虫なこいつは、マンマダンゴ蟲というれっきとした魔物の一種。要注意だって冒険者マニュアルに書いてあったのを覚えてる。
コロンとした外見は可愛いと言えなくもないけど、大量にいるところは完全にアウト。
「うわあああああああっ! きもい! やだっ!」
飛びかかってくる蟲達を、持っていた小さいナイフでがむしゃらに切りつける。
無我夢中で手を振り回していると、その内辺りが静かになったことに私は気がついた。
「もしかしてやつけた? よかった……」
動かなくなった蟲を前に一息ついた私は、その時初めて背中がチクチク痛むことに気がついた。
「痛っ! やだなにこれっ!」
背中に回した手に鋭い痛みを感じた私は、思わず悲鳴をあげた。
どうやら気が付かない内にマントを潜ったやつが、背中に張り付いているみたいだ。
キシキシという気味の悪い音にパニックになった私は、背中から無理矢理蟲を引きはがした。そして足下に転がった蟲達に何度もナイフを振り下ろしてとどめを刺すと、その場にヘナヘナと座り込んだ。
「もう嫌だ……痛いよ……」
蟲がはりついていた背中が焼けるように痛い。よく見ると掌だって血だらけだ。
なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないんだろう。
なんで私はこんなところにいるの?
いっそこのまま全部投げ出して、子供みたいに大声で泣いてしまいたい。
でも私がここで倒れたとしても、探しに来てくれる人なんて誰もいやしない。それに下手したら魔物か盗賊に襲われて、もっとやばいことになるに決まってる。
だから私一人でなんとかしないと……。
ひとしきり泣いた私は、疲れきって重い身体を引きずるようにモルデンへ戻った。
そして採集した薬草を買い取ってもらうために、夕闇の中を通い慣れた冒険者ギルドへと向かった。
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