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このはなさくや

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巣作り編

1 巣作り編プロローグ

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「形……いやそれよりも素材を重視して……うむ……やはり俺には知識が足りないな……」


 机の上に積まれた山のような書類を前に、オオカミ族のロルフはもう半刻ばかり唸り声を上げていた。
 磨きこまれた重厚なマホガニーの机に映るロルフの眉間には深い皺が刻み込まれ、鋭い爪が光る手は忙しなく椅子の肘掛けを叩く。
 そんなロルフの様子を呆れたように眺めていた同僚のクルスは、大きく溜息を吐いて首を振った。


「なあロルフ、どの案件がお前を悩ませてるのかは知らないけどさ、見てるだけじゃいつまで経っても書類は片付かないぞ」
「ああ、わかってる」
「それに今日は早く仕事を終わらせて、ミミナちゃんとデートするって言ってなかったか?」
「ああ。その通りだ」
「だったら……」
「駄目なんだクルス」
「は? なにが?」
「……わからないんだ」
「わからないって……なにが?」


 ここファルルッカでは、結婚を決めた獣人たちは雄が用意した新居で長い蜜月休暇ハネムーンに入るのが一般的だ。
 ゆえにミミナとの結婚を決めたロルフも、張り切って巣作りに取りかかろうとしたのだが──それに待ったをかけたのが、彼の受け持つ膨大な量の仕事だった。
 縄張りに関する調停、新たな備品の稟議書、族長決裁が必要な案件……。既に一部の職務を次代のオオカミ族長として遂行するロルフには、長期休暇の前にやらねばならない仕事が山積していたのだ。

 けれど実の所、今ロルフの頭を悩ましているのはそれとは全く別の、しかも彼にとっては極めて重大な問題だった──。



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