出会って90秒で即××!

このはなさくや

文字の大きさ
上 下
9 / 20
求愛編

9

しおりを挟む
 ミミナは自分の身体に巻き付く腕に気がついて、ゆっくり目を開けた。
 目の前にあるのは縦横無尽に傷痕の残る逞しい胸筋、そして……


「……ミミナ、起きたか?」
「ロルフ、様……」
「すまない、お前があまりにも可愛いものだから、初めてだったのにずいぶん無茶をしてしまった」
「ううん、大丈夫です」


 心配そうに覗き込む金色の瞳に気がついたミミナは、ふるふると頭を振る。そして労るように頭を撫でるロルフの手の感触に、再びうっとり目を閉じた。


(ええと……私はどうしたんだっけ。たしかロルフ様のハーレムの審査があるからって、オオカミ族のお屋敷に来たのよね。それで身体の相性を確かめるってあんなことを……やだ恥ずかしい……。でもネネの話だと90秒で終わるって聞いてたのに……ロルフ様は私のこと気に入らなかったのかしら……)


「……あの、ロルフ様?」
「うん? なんだ?」
「身体の相性って……どうでしたか? 私はロルフ様のハーレムに入れるんですか?」
「それなんだがミミナ、俺はハーレムなんて持たないぞ」
「え?」
「どこでどう手違いがあったのか知らないが、今日は秘書の面……いや、見合いだったんだ」
「お見合い? でも私、確かにハーレムの審査だってネネットから聞いて……、あ! やだ、もしかして……!」


 そのときミミナの脳裏に浮かんだのは、あの時のネネットの意味深な言葉だ。

『だから私達一生懸命考えたのよ?』
『大丈夫、何も心配いらないわ。だって私達はなんだから』

 その言葉の裏に隠された企みに気がついたミミナは、はっと顔を上げた。


「ごめんなさい、きっとネネットだわ」
「ネネット? 誰だそれは」
「幼馴染みなんですけど、私が誰とも付き合わないのをいつも心配してて……だからハーレムだなんて嘘をついたんだわ」

(もう! だいたい狼族なのにハーレムだなんて、おかしいと思ったのよ! ネネットのことだから、きっと私がロルフ様と会えばどうとでもなるって思ったんだわ。たしかに一目惚れしちゃったのは認めるけど、……だけどなんだか悔しい!)

 赤くなったり青くなったりと忙しいミミナを、ロルフは面白そうに眺める。


「どうしよう、私ったらなんてことを……もう、穴があったら入りたいです」
「クククッ、だがおかげでこうしてミミナと出会えたんだ。それに出会ってすぐに俺はお前に求愛したんだから、あながち間違いでもないだろう? 俺はそのネネットとやらに感謝しないといけないな」
「求愛? でも……そんな……ロルフ様は本当に私でいいんですか? 私は弱いウサギ族だし、それに、それに……」
「ミミナ、落ち着け。俺はお前がいいんだ。いや、お前でなくては駄目なんだ」
「あんっ」


 目の前で忙しなく動くミミナの耳を無意識でパクリと咥えたロルフは、優しく耳を食みながら話を続ける。


「ミミナ知っているか? 古のオオカミ族は生涯たった一人の相手と番ったんだ。長い時を経て血も本能も薄れたが、時折一族には獣の血が色濃く出る者が生まれる。……俺のように」
「あ、あ、みみ、だめ、」
「俺は今までどんな雌を見ても惹かれたことはなかった。だが今日お前を見た途端わかったんだ。ミミナが俺の『番』だと。それなのにクリスと楽しげに話しているのを見て、ついあんなことを……本当に済まなかった」


 細かく震える背中を優しく宥めるように摩っていたロルフは、今度はプルプルと震える蜂蜜色の尻尾を優しく撫で始めた。


「正直言ってこんな気持ちは生まれて初めてだ。ミミナ頼む。どうか俺の番になってくれないか……?」
「あっ、あっ、やん、耳としっぽ、いっしょはだめえ」


 自分の胸に顔を埋めビクンビクンと震えるミミナを撫でながら、ロルフは今日一日の出来事を振り返る。
 実のところ、今日は見合いどころか本当はロルフの秘書の面接をする日だったのだ。
 けれど、わざわざ他種族からも優秀な人材を募集したにもかかわらず、何を勘違いしたのか集まったのは場違いな服で着飾った雌ばかり。
 だがそれ以上にロルフを苛立たせていたのは、朝から感じていた抗い難い甘い香りだった。
 だからそれがミミナの匂いで、しかも彼女がウサギ族だったことに激しく嫉妬したロルフは、ついあんな暴挙に出てしまったのだ。


「……それにしてもミミナのような可愛いウサギの雌が、今まで誰とも付き合ったことがないなんてな。俺は最高に幸運な雄だ」
「あ、あ、ろるふさま、もうじらしちゃいや……」


 ロルフはミミナよりウサギ族の習性をよく理解していた。
 ウサギ族には明確な発情期が存在しない。なぜなら雌が雄を受け入れた刺激で排卵が起こり、発情するからだ。
 つまり、ウサギ族の雌は身体を繋げさえすればいつでも発情してしまう性質を持ち、獣人の雄の間では大人気なのだ。
 だからこそミミナのような、交尾はおろか今まで誰とも交際したことのないウサギ族の若い雌という存在は、極めて稀有な存在と言えるだろう。

 自分の胸に縋り付いて潤んだ瞳で見上げるミミナに、ロルフは牙を見せニヤリと笑う。そしてぎゅっと掌の中のまるい尻尾を握りしめた。


「……ミミナ、奇跡のような俺の番。────愛してる。これから一生離さないからな」
「あああああああんっ、もうだめえっ」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...