出会って90秒で即××!

このはなさくや

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求愛編

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(どうしよう……今すぐ帰りたい……)


 迎えたハーレムメンバー審査の当日。オオカミ族の屋敷へとやってきたミミナは、自分の迂闊さを激しく後悔していた。
 案内された豪華な間には軽食や飲み物が用意され、二、三十人程の美女が思い思いの場所に座り和やかに歓談している。
 見たところオオカミ族やイヌ族が多いが、中にはライオン族やヒョウ族、クマ族といった大型の獣人族も混じっているようだ。
 どの女性も自慢のプロポーションに肌も露わな華やかなドレスを纏う中、淡いグリーンに小花が散ったワンピース姿のミミナは、明らかにその場から浮いていた。


(……確かあの金髪の美女は、今年度のミスライオンよね? それにその隣の黒髪の女性はヒョウ族一の才媛と呼ばれてる人じゃないかしら。ああもう、どうして昨日の私は直接会って断ればいいだなんて考えてたんだろう。しかも何も考えずこんなワンピースで来ちゃって、場違いもいいところだわ。いっそ穴を掘って隠れてしまいたい……)


 ひたすら下を向いて身体を縮こまらせていたミミナは、自分の名前が呼ばれたことに気がついてはっと顔を上げた。


「──ミミナさん、ウサギ族のミミナさんですよね?」
「あ、はい」
「こちらへどうぞ」


 見渡せばあれだけいた美女たちの姿は消え、いつの間にか広い部屋はミミナだけになっている。慌てて立ち上がったミミナは、案内のオオカミ族の若い雄に続いて廊下に出た。


「随分とお待たせてして申し訳ありません。これからロルフの部屋に案内します」
「あ、あの、さっきまでここにいた人たちは……?」
「皆さんもう顔合わせを終えて、とっくに帰られましたよ」
「え? もう?」
「ええ。今日はなんていうか、その、お互いの相性を確かめる意味合いの顔合わせなので」
「相性を確かめる……」
「ええ。ロルフ好みがうるさくて」


 驚くミミナに、案内の若い雄は苦笑いする。


(……そうか、ネネが言っていた「身体の相性を確かめるだけなら90秒で終わる」って、本当のことだったのね。でもどうしよう、私は断るつもりでここに来たのに。それってこの場でこの人に言ったほうがいいのかしら。いまさら断るなんて、失礼だって怒られるかしら。 ううん、きっと大丈夫よ。そもそもあんな綺麗な人たちを見た後では、私なんてみすぼらしく映るに違いないわ。心配しなくてもロルフ様から断ってくるはず。……それはそれで悲しい気もするけど……)


 並んで歩きながら顔を赤くしたり青くしたり、忙しなくピクピクと耳を動かすミミナに、若い雄は緊張をほぐすように話しかけた。


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。あいつは気難しいところはあるけど、悪い奴じゃないので。なにも初対面で頭から取って食おうなんて真似しませんから」
「初対面でなければ、頭から取って食べられちゃうの……!?」


 それを聞いた途端警戒するかのように長い耳をぴんと立て固まってしまったミミナに、若い雄は堪えきれないといった様子で吹き出した。


「クククッ、ミミナちゃんだっけ? 君、本当に可愛いね。ねえ、ロルフの奴が断るようだったら、よかったら俺と……」
「……おいクルス、お前一体なにをしているんだ」


 唸るような低い声にミミナがはっと顔を上げると、大きな扉の前で腕を組む黒髪の若い雄の姿が目に入った。
 見上げるような巨躯は逞しい筋肉が覆い、開いた濃紺のシャツから見える胸元には縦横無尽に傷が走る。それは色恋沙汰に疎いミミナですら目が奪われるような、獣人フェロモンたっぷりのイケメンだった。


(この人がロルフ様……すごい……かっこいい……)


「なんだロルフ、わざわざ部屋の前で待ってるなんてそんなに待ちきれなかったのか? この子が最後のミミナちゃんだよ」
「うるさい、黙れ」


 眉間に深い皺を寄せたロルフは、艶やかな黒い尾を優雅に揺らしながらやって来ると、ピキリと固まったままのミミナの前で立ち止まった。


「フン、お前がウサギ族のミミナか」
「……は、はい」
「こっちに来るんだ」
「え? で、でも」


 助けを求めるように視線を寄越したミミナに、クルスと呼ばれた若者は安心させるように頷いてみせる。


「大丈夫だよ。ミミナちゃん。こいつ、顔は怖いけど悪い奴じゃないから」
「いいから早くしろ」
「は、はい」


 からからに渇いた喉から絞り出した声が酷く擦れていたことに気がついたミミナは、誤魔化すようにこくりと唾を呑みこむ。
 そんなミミナの長い耳が震える様子を鋭い眼差しで観察していたロルフは、いきなり彼女の手首を掴むと部屋に入り、後ろ手に扉を閉めた。




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