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求愛編
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「……ごめんなさい。でも私にはずっと好きな人がいるの」
「そんな……」
このセリフでプロポーズを断るのはもう何回目だろう。
目の前で悄然と項垂れるウサギ族の若者ヨルを見ながら、ミミナはふとそんなことを考えた。
ミミナはもう18歳。10代の早いうちに結婚するのが当たり前のウサギ族の中では、かなりの行き遅れに分類される。
(こんな私にわざわざ声をかけてくれるなんて、ヨルは昔から変わらず親切よね。でも私、あなたがエリサともネネットとも付き合ってることを知ってるの。いくら私が彼女たちと仲が良いからって、竿姉妹になるのはごめんだわ……)
遠い目でそんなことを考えるミミナに、ヨルは突然がばりと顔を上げた。
「なあ、本当に僕じゃ駄目なのか? そもそも君の好きな相手って一体誰なんだ!? 僕の知ってる奴なのか!?」
「え? ええっと、それは……」
「正直に教えてくれミミナ。僕はそいつに決闘を申し込む」
「け、決闘!?」
「ああ。正々堂々戦ってミミナの愛を勝ち取るよ!」
雌を巡って雄同士が決闘することは、この獣人の国では決して珍しいことではない。
だがミミナは焦った。好きな人がいるというのはていのいい断り文句に過ぎず、実際には恋に憧れるミミナにはその相手すらまだいなかったからだ。
(え? ど、どうしよう。こんなこと言われるなんて、想定外だわ)
「ええっと……そう、その人はすごく強くて有名な人だから、だからその」
「強い? ロップか? それともガスか?」
「ううん、ウサギ族じゃないわ! あの、えーっと……」
「ウサギ族じゃない? じゃあイタチ族か? それともネコ族? いや待てよミミナ、君は昔から一人の相手と結ばれたいって言ってたよね? もしかして、君の好きな奴ってオオカ……」
「お願い! ヨル、黙って!」
ミミナは慌てて話を遮ると、大きな栗色の瞳を潤ませてヨルを見上げた。
「お願い。それ以上はなにも言わないで。その人は私なんかとは釣り合わない、とても有名で素敵な人なの。迂闊に名前を口にしたら、きっと迷惑がかかるわ。だから、だから……ヨル、本当にごめんなさいっ」
「ミミナ、待ってくれ!」
わざと曖昧に語尾をぼかし、ミミナはまさに脱兎のごとくその場を走り去る。
だから彼女は知らなかった。
彼女の残した意味深なセリフが、このあとどんな騒動を巻き起こすかを────。
「ミミナ……そうか、そうだったんだね。わかったよ。せめて僕は僕のできることで君の恋を応援するよ……!」
「そんな……」
このセリフでプロポーズを断るのはもう何回目だろう。
目の前で悄然と項垂れるウサギ族の若者ヨルを見ながら、ミミナはふとそんなことを考えた。
ミミナはもう18歳。10代の早いうちに結婚するのが当たり前のウサギ族の中では、かなりの行き遅れに分類される。
(こんな私にわざわざ声をかけてくれるなんて、ヨルは昔から変わらず親切よね。でも私、あなたがエリサともネネットとも付き合ってることを知ってるの。いくら私が彼女たちと仲が良いからって、竿姉妹になるのはごめんだわ……)
遠い目でそんなことを考えるミミナに、ヨルは突然がばりと顔を上げた。
「なあ、本当に僕じゃ駄目なのか? そもそも君の好きな相手って一体誰なんだ!? 僕の知ってる奴なのか!?」
「え? ええっと、それは……」
「正直に教えてくれミミナ。僕はそいつに決闘を申し込む」
「け、決闘!?」
「ああ。正々堂々戦ってミミナの愛を勝ち取るよ!」
雌を巡って雄同士が決闘することは、この獣人の国では決して珍しいことではない。
だがミミナは焦った。好きな人がいるというのはていのいい断り文句に過ぎず、実際には恋に憧れるミミナにはその相手すらまだいなかったからだ。
(え? ど、どうしよう。こんなこと言われるなんて、想定外だわ)
「ええっと……そう、その人はすごく強くて有名な人だから、だからその」
「強い? ロップか? それともガスか?」
「ううん、ウサギ族じゃないわ! あの、えーっと……」
「ウサギ族じゃない? じゃあイタチ族か? それともネコ族? いや待てよミミナ、君は昔から一人の相手と結ばれたいって言ってたよね? もしかして、君の好きな奴ってオオカ……」
「お願い! ヨル、黙って!」
ミミナは慌てて話を遮ると、大きな栗色の瞳を潤ませてヨルを見上げた。
「お願い。それ以上はなにも言わないで。その人は私なんかとは釣り合わない、とても有名で素敵な人なの。迂闊に名前を口にしたら、きっと迷惑がかかるわ。だから、だから……ヨル、本当にごめんなさいっ」
「ミミナ、待ってくれ!」
わざと曖昧に語尾をぼかし、ミミナはまさに脱兎のごとくその場を走り去る。
だから彼女は知らなかった。
彼女の残した意味深なセリフが、このあとどんな騒動を巻き起こすかを────。
「ミミナ……そうか、そうだったんだね。わかったよ。せめて僕は僕のできることで君の恋を応援するよ……!」
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