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中等部一年
BBQ
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授業参観を無事に終えた私たちは、克之くんの家でBBQの準備をしている。
克之くんの家は庭にBBQ用の東屋があって、レンガで作られた本格的なBBQコンロが兼ね備えられている。
克之くんの父親である克忠さんがBBQが好きで、よく庭でのBBQパーティも開催しているのだ。
四ママはというと授業参観のあとの保護者会などに出席していて、あとで合流する予定になっている。真澄様以外の父親もまだ仕事が終わっていないらしく、姿が見えなかった。
三つ子と真澄様がBBQコンロに炭で火を起こしている。
私は雅臣くんたちとBBQの食材を串刺しにしている。
包丁を使えない私は、デザートのマシュマロやバナナを串刺しにしているという一番簡単な役割を与えられた。赤と白のマシュマロを交互に串刺しにしている作業はとても楽しかった。
「包丁が使えないこと、真澄伯父さんたちは知っているのか?笙真が暗くて狭いところで眠れないことも…」
雅臣くんの一言で、楽しかった気分が台無しになる。
「…心配させたくないから、キャンプでのことは話していません」
「なぜ?話した方がいい」
「話したところでまたカウンセリング受けさせられるだけです。カウンセリングなら私と笙真くんは嫌と言うほど受けました」
「……カウンセリング云々というよりも、きちんと自分のことを真澄伯父さん達には言うべきだ。紫音さんの保護者は真澄伯父さんたちなんだから」
雅臣くんの言いたいこともわかっている。
きっと、子供だけで解決しようとするのではなく大人にきちんと相談しろということなのだろう。
でもできるなら最初からしているのだ。私も、笙真くんも…。
ただ事件を大人たちに思い出させたくないのだ。大人は私たちが驚くくらい心配して、私たちは窮屈な思いをするから。だから、平気なふりをしていた方が楽なのだ。
何も言わない私に雅臣くんの目が少し優しくなる。
あぁ…。若葉の時もそうだったな。雅臣くんは真面目で自分が正しいって思ったことをはっきり言って、他人の間違いもはっきりと指摘する。でも、優しいところもあるから、無理強いできないのだ。
公泰に私と別れるように言っても、なんだかんだ公泰の意見を尊重していたっけ。
「別に包丁が使えなくても、狭いところで寝られなくても別にいいじゃんね。紫音ちゃんは今日もとってもかわいいね」
私を助けるためなのか、本当にどうでもいいと思っているのか聡介くんが話に混ざる。
聡介くんも私の中の聡介さんと変わりがなかった。
いつもふざけたように私をからかって、耳当たりのいい言葉を口にする。きっと、可愛いねって褒められたことを本気にしたら、心の中でバカにする聡介くんは少し意地悪だ。
「笙真に紫音がいてくれて良かった。少し依存しすぎてるとは思うけど。二人でいればそのうちきっと乗り越えられるよ」
公泰と私の関係を唯一応援していた克之さん同様に克之くんは事あるごとに、笙真くんに私がいて良かったと口にする。前回も同じようなことを口にしていて、「公泰にあなたがいてくれて良かった」と会うたびに言われたものだった。克之くんにその言葉を言われるたび、私が公泰の側にいてもいいのだと、自分を納得させていた。克之くんは誰にでも優しいのに私はその優しさに縋ったのだ。
やり直す前の人生と今回の人生、雅臣くんたちと私の関係はあまり変わっていなかった。
変わりすぎている生活環境や公泰くんと私の関係を思うと、変わりない三人の関係に安心している自分もいてなんだかおかしい。
変わらないものもあるんだなぁ……。
四ママたちが保護者会と懇談会を終えて、克之くんの家に到着した。
四ママたちに混ざってなんと、壮権さまの姿もあった。
壮権様は孫たちの授業参観も拝観していて、祥子奥様に車いすを引かれて公泰くんがディベートで述べる意見を真剣に聞いていた。
ディベートの内容は喫煙についてで、喫煙している壮権様は賛成意見に回されてしまった公泰くんの意見を嬉しそうに聞いていた。だので、公泰くんが実は反対派だということは内緒にしておく。
壮権様の姿に公泰くんは私を安心させるように笑った。だから、私は少し安心したんだ。壮権様に最初に挨拶もできていたし。少しずつ、公泰くんが壮権様と打ち解けられたらいいのにな…。
先日、感情のままに水をかけてしまったので、そのことについて謝罪をした私に壮権様は頭をあげるように言った。怒鳴られると思っていたから少し意外だった。
謝罪するために壮権様に近づいていく私をここにいるみんなが心配そうに見ている。私は大丈夫だということを伝えたくて、背筋をいつも以上にピンと伸ばして歩みを進める。
壮権様はBBQコンロからの煙を避けるように、一人離れて東屋のテーブルの椅子に座っていた。その椅子がキノコの形をした可愛らしい椅子で、和服姿の強面の壮権様にはこれぽっちも似合っていなかった。
「女性に水を掛けられたのは何も初めてじゃないのだ。だから、あまり気にするな。そんなことよりも、公泰は本当に立派な少年になったのだな…」
「そうですね。公泰くんなら立派な後継者になると思います」
私は胸を張って断言する。壮権様に褒められたことがなかったと言っていた公泰の分も含めて。
「そうだな、公泰なら立派な後継者になるであろうな…。私はもうすぐお迎えが来ると思うが、これで安心して天国に行くことができる」
怪訝な顔で私は壮権様を見つめる。
何を言ってるんだか、この人は…。
壮権様は私次の言葉に大笑いした。みんなが驚いたように私たちを見つめる。こんな風に爽快に壮権様も笑うことができるのかと。
「壮権様はあと二十年は生きますよ。公泰くんの結婚式だって参加できますよ」
だって、あなたは私よりも長生きしましたからね。
克之くんの家は庭にBBQ用の東屋があって、レンガで作られた本格的なBBQコンロが兼ね備えられている。
克之くんの父親である克忠さんがBBQが好きで、よく庭でのBBQパーティも開催しているのだ。
四ママはというと授業参観のあとの保護者会などに出席していて、あとで合流する予定になっている。真澄様以外の父親もまだ仕事が終わっていないらしく、姿が見えなかった。
三つ子と真澄様がBBQコンロに炭で火を起こしている。
私は雅臣くんたちとBBQの食材を串刺しにしている。
包丁を使えない私は、デザートのマシュマロやバナナを串刺しにしているという一番簡単な役割を与えられた。赤と白のマシュマロを交互に串刺しにしている作業はとても楽しかった。
「包丁が使えないこと、真澄伯父さんたちは知っているのか?笙真が暗くて狭いところで眠れないことも…」
雅臣くんの一言で、楽しかった気分が台無しになる。
「…心配させたくないから、キャンプでのことは話していません」
「なぜ?話した方がいい」
「話したところでまたカウンセリング受けさせられるだけです。カウンセリングなら私と笙真くんは嫌と言うほど受けました」
「……カウンセリング云々というよりも、きちんと自分のことを真澄伯父さん達には言うべきだ。紫音さんの保護者は真澄伯父さんたちなんだから」
雅臣くんの言いたいこともわかっている。
きっと、子供だけで解決しようとするのではなく大人にきちんと相談しろということなのだろう。
でもできるなら最初からしているのだ。私も、笙真くんも…。
ただ事件を大人たちに思い出させたくないのだ。大人は私たちが驚くくらい心配して、私たちは窮屈な思いをするから。だから、平気なふりをしていた方が楽なのだ。
何も言わない私に雅臣くんの目が少し優しくなる。
あぁ…。若葉の時もそうだったな。雅臣くんは真面目で自分が正しいって思ったことをはっきり言って、他人の間違いもはっきりと指摘する。でも、優しいところもあるから、無理強いできないのだ。
公泰に私と別れるように言っても、なんだかんだ公泰の意見を尊重していたっけ。
「別に包丁が使えなくても、狭いところで寝られなくても別にいいじゃんね。紫音ちゃんは今日もとってもかわいいね」
私を助けるためなのか、本当にどうでもいいと思っているのか聡介くんが話に混ざる。
聡介くんも私の中の聡介さんと変わりがなかった。
いつもふざけたように私をからかって、耳当たりのいい言葉を口にする。きっと、可愛いねって褒められたことを本気にしたら、心の中でバカにする聡介くんは少し意地悪だ。
「笙真に紫音がいてくれて良かった。少し依存しすぎてるとは思うけど。二人でいればそのうちきっと乗り越えられるよ」
公泰と私の関係を唯一応援していた克之さん同様に克之くんは事あるごとに、笙真くんに私がいて良かったと口にする。前回も同じようなことを口にしていて、「公泰にあなたがいてくれて良かった」と会うたびに言われたものだった。克之くんにその言葉を言われるたび、私が公泰の側にいてもいいのだと、自分を納得させていた。克之くんは誰にでも優しいのに私はその優しさに縋ったのだ。
やり直す前の人生と今回の人生、雅臣くんたちと私の関係はあまり変わっていなかった。
変わりすぎている生活環境や公泰くんと私の関係を思うと、変わりない三人の関係に安心している自分もいてなんだかおかしい。
変わらないものもあるんだなぁ……。
四ママたちが保護者会と懇談会を終えて、克之くんの家に到着した。
四ママたちに混ざってなんと、壮権さまの姿もあった。
壮権様は孫たちの授業参観も拝観していて、祥子奥様に車いすを引かれて公泰くんがディベートで述べる意見を真剣に聞いていた。
ディベートの内容は喫煙についてで、喫煙している壮権様は賛成意見に回されてしまった公泰くんの意見を嬉しそうに聞いていた。だので、公泰くんが実は反対派だということは内緒にしておく。
壮権様の姿に公泰くんは私を安心させるように笑った。だから、私は少し安心したんだ。壮権様に最初に挨拶もできていたし。少しずつ、公泰くんが壮権様と打ち解けられたらいいのにな…。
先日、感情のままに水をかけてしまったので、そのことについて謝罪をした私に壮権様は頭をあげるように言った。怒鳴られると思っていたから少し意外だった。
謝罪するために壮権様に近づいていく私をここにいるみんなが心配そうに見ている。私は大丈夫だということを伝えたくて、背筋をいつも以上にピンと伸ばして歩みを進める。
壮権様はBBQコンロからの煙を避けるように、一人離れて東屋のテーブルの椅子に座っていた。その椅子がキノコの形をした可愛らしい椅子で、和服姿の強面の壮権様にはこれぽっちも似合っていなかった。
「女性に水を掛けられたのは何も初めてじゃないのだ。だから、あまり気にするな。そんなことよりも、公泰は本当に立派な少年になったのだな…」
「そうですね。公泰くんなら立派な後継者になると思います」
私は胸を張って断言する。壮権様に褒められたことがなかったと言っていた公泰の分も含めて。
「そうだな、公泰なら立派な後継者になるであろうな…。私はもうすぐお迎えが来ると思うが、これで安心して天国に行くことができる」
怪訝な顔で私は壮権様を見つめる。
何を言ってるんだか、この人は…。
壮権様は私次の言葉に大笑いした。みんなが驚いたように私たちを見つめる。こんな風に爽快に壮権様も笑うことができるのかと。
「壮権様はあと二十年は生きますよ。公泰くんの結婚式だって参加できますよ」
だって、あなたは私よりも長生きしましたからね。
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