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序章

入学式

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「紫音!」

 優しく微笑む笙真くんに、遠巻きに見ていた女子たちが黄色い歓声をあげる。

 どうやらハンサムな笙真くんは学校でモテモテらしい。

 そのことに気が付かないのか、どうでもいいのか笙真くんはいつも通り私の腰に手を回し、少しふてくされたように唇をゆがめている。

 私が首をかしげると笙真くんは不貞腐れている説明する。

「同じクラスになれると思ってたのに、別のクラスだった」

「そうだね。でも、笙真くんは雅臣くんと同じでしょ?」

 雅臣くんは笙真くんたちのいとこで、父親は磐井グループの系列銀行である胡蝶銀行の総頭取を務めている。つまり、磐井雅臣は磐井御三家の跡取りでもあるのだ。

「雅臣じゃなくて、僕は紫音と同じクラスが良かったの」

 子供のように甘える笙真くんが少しおかしくて、クスクスと笑ってしまう。

 侑大くんは私に甘える兄を諦めた表情で見つめ、ため息をはいている。

 私が磐井家に引き取られたばかりのころ、嫉妬した侑大くんによく八つ当たりをされていた。

 笙真くんが誘拐される前、笙真くんと侑大くんはとても仲が良かったそうだ。

 なので、無事に戻ってきた兄に変な虫がついたとよく言われていた。

 今の二人の関係はよくわからない。

 というか三つ子の関係がよくわからない。仲が悪いとは言わないが、兄弟というには少し…そう、ほんの少しギクシャクしているように感じるのだ。

「紫音の教室に遊びに行くから、あまり公泰と仲良くしないでね」

 あまりの無邪気な微笑みに、私は困ったように笑うのが精いっぱいだった。

 私は笙真くんに手を引かれたまま歩き出し、私のクラスとなる牡丹に連れていかれる。

「ここが紫音の教室だよ。僕の教室は隣だから、なにか困ったことがあったらすぐに来てね」

 そう言い残し、名残惜しそうに振り返りながらも笙真くんは自分の教室へと戻っていった。

 座席表を確認するまでもなく、公泰くんが私を手招きする。

 座席は男女混合の名前の順になっているようで、私は公泰くんの後ろの席だった。

「おはようございます」

「おはよう」

 公泰くんは私が起きるよりも先に家に出たため、まずは挨拶を互いにかわす。

 公泰くんは入学式で新入生誓いの言葉を新入生代表として読むことになっている。

 ご立派の一言だ。

 公泰くんは笙真くんと違い、髪は短めバングのベリーショートだ。ワックスで嫌味にならない程度に整えられている。

 肩まで伸びたサラサラの笙真くんとはまるっきり違う。

 一卵性のため顔はそっくりなのに、印象がまるっきり違うため間違える人はかなり少ない。

「あいつはいつも派手だな」

「笙真くんですか?確かに目立ちますね」

「時々、あいつと兄弟なのかわからなくなる」

 公泰くんの言葉に私は軽く眉を上げる。

「そうですか?私には兄弟にしか見えませんが」

 私の言葉が意外だったのか、公泰くんも軽く眉をあげた。

「そうだよね!目立っているのはこいつも一緒だよね」

 一人の男子生徒が親しげに公泰くんと肩を組み、話に混ざる。

「おれ、田村伊織!よろしくね。こいつとは幼等部のころからの親友です!」

 田村伊織くんは校則違反にならない程度の茶髪に、くせ毛のツーブロック風の髪型をしており、おっとりとした目元が特徴の可愛らしい男の子だった。

「初めまして、磐井紫音といいます」

 いまだに、自己紹介するときに自分が磐井姓を名乗っていることに違和感しかない。

「あれ?磐井?もしかして…」

「遠い親戚だ」

 田村くんがすべて言い切る前に公泰くんが割り込む。

 田村くんが確認するように私に視線を向ける。

 私が磐井家の養女となったことはあまり公にされていない。事前に四人で打ち合わせをしておけばよかったと、軽く後悔する。

「はい、親戚です」

「親戚だ!」

 二回口にした公泰くんの声はクラス中に通り、ざわつきはほんの少し落ち着く。

 私を遠巻きに睨み付けていた女子グループの態度が見るからに軟化し、私はこのために公泰くんが声を張り上げてくれたのだと悟る。

 公泰の優しさもわかりづらかったことを思い出す。

「ありがとうございます」

「何がだ?」

 私は公泰くんに答えず、にこりと笑った。

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