白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

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IEWⅢ DISC‐1

71 救護

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 ルルリアナはロークの背中にしがみつきながら、逃げ遅れた四人の子供がいるという場所へと急ぐ。二人を乗せたアスタリアが山火事を追い越す。

「連絡だとここら辺なんだ」

ロークの言葉に熱風と煙に目をやられながら、子供たちの姿を探すために下界に目を凝らす。切り株がそのまま放置された切り開かれた場所に、多量の馬車の荷台が捨てられている。

「あれはなんですか?」

「あの馬車の荷台は砂漠で住処を追われた難民が使用して、用済みになって捨てられたものだ。孤児となった子供たちはいまだにあの馬車に住み着いているんだ」

「子供たちだけでですか?」

「難民は、自分たちのことで精一杯だからね。他人を助ける余裕がないんだよ」

 ルルリアナは魔女のいとこに時々顔を出す、四人兄弟のことを思い浮かべる。彼らの家ももしかしたらここなのかもしれないと。

「フォレスト・チャイルドが原因となった山火事は、ここ近年ですごく増えているんだ。山火事で死亡しているのも森に取り残された孤児たちなんだよ」

「どうにかできないんですか?」

「この国は難民や干ばつの問題に追われていて、弱者に手を差し伸べている余裕はないんだよ。エギザベリア神国に媚びへつらうことにも一生懸命だしね。エギザベリア神国にお前らがマザーアイスをうまく扱えないから難民や孤児が増えています、なんて言える奴はいない。いたとしても、捕まるのがおちだ」

 ロークの言葉に、ルルリアナは何も言うことができなかった。エギザベリア神国が他国に与えている被害は甚大なのだ。

「ルルリアナたちはエギザベリア神国出身だろう?エギザベリア神国の国民はもっと周囲の国に目を向けるべきなんだ。自分たちがいかに恵まれた生活をしているかも自覚すべきだ。今の王に力がないというなら、次代のレオザルト皇太子にさっさと王位を譲るべきだ。でも、エギザベリア神国は自分たちに被害がないからと、目を反らして悠長に今の王が死ぬことを待っている。時代のレオザルト殿下の力が遥かに上と知りながらね」

「…すみません」

「まぁ、君に文句を言っても仕方ないけど。今は、子供たちを探すことに集中しよう」

 木々や放置された馬車が燃える音が大きく、叫んでも子供たちには聞こえるとは思えなかった。ルルリアナとロークの目だけが、子供たちを探す手がかりだ。

「このままじゃ見つからない。高度を下げるけど、いいか?」

 ルルリアナが頷くと、ロークは着ていた消防服のジャケットをルルリアナに着るように渡す。

「あまり、役には立たないかもしれないけど、半そでの君には役に立つと思う」

 ルルリアナは半そでのTシャツで、火事現場に駆けつけてしまった自分が恥ずかしかった。ロークがジャケットの下にも長袖の服を着ていることを確認し、ルルリアナはお礼を言い受け取る。

 ロークは、ルルリアナがジャケットを着れるようにアスタリアを止まらせる。しっかりルルリアナが首元までチャックとボタンを閉めたのを確認してから、ロークは子供たちを探しやすいようにアスタリアに高度を下げる。

 飛び火や燃え盛る炎を避けるようにアルタリアは火の海を突き進む。

 乗り捨てられた馬車の材料は木材が多く、しかも乾燥しているため火の燃え広がりがとても速い。やはり孤児たちの住処を奪うことになろうと、乗り捨てられた馬車の解体をすべきだったのだとロークは後悔する。孤児たちにはもっと別な住処を提供するべきだったのだ。

「後悔するよりも目の前の事実と向き合え!」ロークが厳しい訓練を終え森林消防隊になった日に、目標である兄ワインズに掛けられた言葉を思い出す。後悔できる時間はたっぷりあるが、要救護者を救える時間は限られて言うのだとワインズがよく口にしていたのだ。

 ワインズのことが気になりつつも、目が覚めた兄に堂々と目を合わせられるようにロークは必ず四人の子供たちを救って見せると決心する。

 一切の邪念を振り払い、五感を研ぎ澄ます。ルルリアナの手が自分の心臓に近いこともロークの頭からは消えていた。

 集中したロークの目は、煙に包まれた小さな小さな折り鶴を発見する。

「あれは、君たちが飛ばした折り鶴だろう?」

 ロークが指さす方向に目を向けると、確かにルルリアナ達が作った折り紙の折り鶴だった。

「えぇ、あれは確かに私たちの折り鶴です」

「あの折り鶴を使って子供たちの居場所がわからないかな?」

「フィーアはあの折り鶴はリースが望む人を連れて来てくれると言っていました。まだ空を飛べるということは、フィーアの魔力が残っています。もしかしたら、お願いすれば子供たちのところに連れていってくれるかもしれません」

「よし、あの折り鶴を捕まえよう」

ロークがアスタリアを誘導し、折り紙をキャッチする。

折り紙は飛び火による焦げ目があったが、確かにフィーアの魔力が残っていた。ルルリアナが折り鶴に願うと、折り鶴は進むべき方向を示すと、フッと力を失いただの折り鶴となり飛ぶ力を失って、火に飲み込まれてしまったのだった。

 ロークは急いで鶴が指さした方向へと向かう。

 すると、馬車の荷台に上り洋服を棒に付けた急ごしらえの旗を大きく振る、少年の姿が目に入ったのだった。馬車には四人の子供が身を寄せ合うように教護が来るのを待っていた。一番小さな子供を中心に身を寄せ合う子供たちの絆の強さがうかがえる。四人の子供たちは魔女のいとこによく顔を出すあの四人兄弟だった。

「チェス、ゾロ、ジーフ、グロルド!」

 ルルリアナが一人一人の名前を呼ぶと、子供たちは目に涙を浮かべてルルリアナにしがみつく。年長のチェスの目にも安堵で滲んだ涙が浮かんでいた。

「急いで、この龍に乗るんだ」

 ロークが地面に飛び降り、小さな子供からアスタリアの背中に乗せていく。ルルリアナがキャッチし、子供たちが安心するように一人一人声を掛ける。

 子供たちは小さな火傷を負っていて、恐怖で身を震わせているが命にかかわるような大やけどはしていなかった。

 四人の子供たちを乗せ終わり、ロークがアスタリアの背中に飛び乗る。

 アスタリアは体の二倍もある翼を精一杯動かすが、四人の子供と二人の大人ではアスタリアの従量の限界を超えているようで、風が起こるだけで空へ飛び立つことができない。

「俺は水で助かるから君たちだけで飛び立つんだ」

 そう言い残しロークがアスタリアから降りる。

「でも…」

「こうしている間にも火に包まれてしまう。早くしないと火の先頭に追い付かれるぞ」

「いいからイケ!」

 ロークが急かすようにアスタリアのお尻を叩く。

 アスタリアが抗議するように不満げに泣き、再び翼を動かす。しかし、十数センチ浮いただけでアスタリアは大空へと舞うことができない。

「アスタリア!しっかりしろ!飛べ!飛ぶんだよ!」

 再びアスタリアが短く泣き、翼を精一杯羽ばたかせるが少ししか浮き上がることができなかった。

 ロークはアスタリアを叱咤激励しているが、アスタリアはそれが不満なようで鳴き声が徐々に不満げなものへと変わる。

 ロークとアスタリアが言い争うのを無視して、ルルリアナはチェスへに声を掛ける。

「チェス、あなたに任かせます。あなたが弟たちの命を救ってください」

「でも…、ルルリアナさんはどうするんですか?」

「私がいては、アスタリアは飛ぶことができません。それはわかりますね?」

 チェスが躊躇うようにしかししっかりと頷いたことを確認したルルリアナは、チェスにアスタリアの手綱を渡して、アスタリアの背中から飛び降りる。

 ルルリアナという重さがなくなったアスタリアはロークが止めるのも聞かずに、四人の子供を乗せ大空へと飛び立つ。

「おい!アスタリア!戻ってこい!」

 ロークの言葉を無視してアスタリアは満足げに泣き、上空を一周すると避難所がある方角へと飛び去って行ったのだった。

「あの野郎、俺の言葉に機嫌を悪くしたみたいだ。俺に腹を立ててやがる」

「あなたの言葉は本当に酷かったですからね」

「君がここに残る必要はなかったんだ!どうして、アスタリアから飛び降りた?」

「ロークさん、あなたもわかっているでしょう?アスタリアはまだ子供で私と子供たちを乗せて飛ぶことはできなかったと。それに、あなた一人を残しても行けませんでした」

「だからと言って…。君まで死ぬ必要はなかったんだ!」

「私はまだ死ぬつもりはありません。私とロークさんの二人ならきっと生き残れます。それに私たちにはこの火の大精霊がいますから。もしかしたら、消火できるかもしれません」


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