72 / 81
IEWⅢ DISC‐1
65 盲信
しおりを挟むリース達が三つの像が置かれている広場に辿り着いた時、三つの像が持つトーチには火がともされ、クリスタルの光は雪の結晶を描いていた。
「兄さん…」
それを見て自分の兄が放火魔であると悟り肩を大きく落とすロークに、ルルリアナが慰めるように寄り添う。ロークは自分の肩に置かれたルルリアナの手をそっと握りしめるのだった。
「ローク!ワインズに洞窟内で火は使用禁止だということも教えたの?」
「あぁ…。君が俺に教えてくれたことはすべて兄に教えてしまった。こんあ、こんなことになるとは思っていなかったんだ…」
「過ぎてしまったことは仕方ない。あなたは本気でお兄さんを信じていたんだから。急ぎましょう。今ならまだ、ワインズを止められるかもしれない」
リースは洞窟にを走りながら後悔していた。アインスのゲートで雪木の場所まで飛んで行ってもらえばよかったんだ。そうすれば、先回りすることができたかもしれないのに。
「そらでけへんで」
リースの考えをまるで読んだかのようにチャーリーが話しかける。
「ちょっと、何を言ってるのよ」
「今、ここにアインがおったらええ思たやろう?やけど、アインスのゲートで雪木があるとこまでは飛べへん。なんでなら、雪木はロクシティリア神の聖域やさかいね。魔法での侵入は許されてへん。聖域に入るには、正規のルートを通らな」
「チャーリー、貴方もしかして人の考えがわかるの?」
「…あんたの顔を見れば大抵わかる。あんたはわかりやすい。気ぃ付けてや」
にやりと笑うチャーリーを後ろからフィーアが蹴りつける。チャーリーは鼻から地面に転んでしまったのだった。
「この変態野郎!」
リースはそういい捨てて、痛みでもがき苦しむチャーリーを残して雪木目指して走り続けたのだった。
―❅・――❅―・――❅―・―
リースが雪木のある洞窟内の広場に辿り着いた時、辺りは炎に包まれていた。
雪木の前には黒いローブで全身を隠した人物が立っていた。その人物は雪木に向かって強力な四重の魔法陣を展開させている。
その魔法陣からは怒れる火竜が次々と雪木に襲い掛かっている。しかし、十数匹近い火竜はルルリアナが施した結界にはじかれ、雪木を攻撃することができない。
黒いローブの人物が指を鳴らすと飛竜は大きな一匹の大きな龍になった。小さな火竜が一匹になっただけで、洞窟内の温度が急激に上がる。
空気が通る食道から火傷しそうな熱気に、リース達は無駄だと知りつつも無意識に命を守るために手で口を覆わざるを得なかった。
大きな火竜は、ルルリアナの結界にとぐろを巻くようにぐるぐるとゆっくりと動く。竜が声なき声で天に鳴いたかと思うと、ルルリアナの結界を物凄い力で締め付けに入ったのだった。
「ワインズ!」
リースが叫ぶと、ローブを被った人物はにやりと微笑む。
「やはり、君には私の正体がバレていると思ったよ」
勿体ぶってローブを降ろした男は、やはりワインズだった。ロークに似た美しい顔は狂気に満ちていて、とても魔女のいとこで会ったワインズと同一人物だと思えなかった。
緋の髪に、本来なら金色のワインズの瞳は炎を映し出し赤く揺らめいている。炎の中に立つワインズは、彼こそが火の大精霊のようだった。
「…お前、誰だ?」
信じられない言葉に、リースは声の主であるロークを見つめる。
「ローク?どういうこと?彼はワインズでしょ?」
「違う!お前は俺の兄貴じゃない!」
ロークは残酷な現実を目の前にして、頭がおかしくなってしまったのだろうか?「アイス・エンド・ワールド」のシリーズスリーのラスボスは間違いなくワインズで、火の大精霊の封印を解くのも間違いなくロークの兄であるワインズなんだから。
ロークの言葉を信じない周囲の人間にロークは焦った視線を向ける。
「お願いだ、俺を信じてくれ!こいつは俺の兄なんかじゃない!」
「ローク、あなたの気持ちはわかるけど目の前の事実に向き合わないと!」
ワインズは余裕な態度で小さく笑うと、ロークに顔を向け微笑む。しかし、ワインズの目は笑っておらず、ロークに対する嘲りだけが映しだされていた。
「ローク。お前は本当に優しい弟だよ。こんな状況でも俺を信じてうんだからな?お前は私をお前の兄じゃないとまだ戯言を言っている。そこまで私を信じたいのか?お前の目標であり、憧れの兄だと」
ゆっくり近づくワインズに、ロークは言い知れない恐怖を感じ思わず後ずさってしまう。
ワインズはそれ以上ロークが下がれないように、直線の魔法陣で炎の壁を作り出す。日の壁はまるで花火のように激しい火花を放ち、ロークの退路を断ったのだった。
まるで味わうようにワインズはロークの名を口にする。
「ローク。私は前々からお前に言いたいことがあった。火の名家であるエスタニーナ家の産まれでありながら水の力を授かった出来損ないのお前に」
ワインズはロークの肩に手をやり、ロークの瞳に恐怖が浮かぶと今度こそ心から楽しんでいるような微笑みを瞳に宿す。そして、ロークの肩を握りつぶさんばかりに手に力を込める。苦痛で跪くロークを見下ろしながら、ワインズは言葉を続ける。
「私は…昔からお前が大嫌いだったんだ。憎くて憎くて仕方がなかった。憧れの眼差しで私を見るお前が滑稽で、哀れで、嫌いだったんだよ」
ロークを助けようにもワインズの炎の壁が邪魔をして近づくことができない。ルルリアナは慌てて土の魔法陣で、地面に書かれたワインズの魔法陣を消す。
しかし、ワインズが魔法陣を展開し二匹目の火竜を繰り出したため、イースたちはなかなかローク達に近づくことができない。
火竜はリースに真っ二つにされても、すぐにくっつき何事もなかったようにリースに襲いかかる。フィーアも細かく輪切りにしているが、瞬く間に復活する火竜に不機嫌に顔を顰めている。
ルルリアナも魔法を使用しようとするが、魔法陣が完成する前に火竜が放つ火を交わすので精一杯で魔法陣を完成させることができなかった。
「チャーリー!あなたも魔法を使えるんでしょ?勿体ぶらずに魔法を使いなさいよ!」
器用に火竜を避けているチャーリーに、リースは短く指示を出す。
「俺が使える魔法は営繭だけや。他の魔法は残念なことに使えへん。ほんまに残念や」
「だったらなんで、一人でロクシティリア神の宝箱を取りに行こうと思ったのよ!」
「あないな化け物がおるとは思わへんかってん」
リースとフィーアに役立たずという眼差しで見つめられ、チャーリーの顔が恥ずかしさで赤く染まる。
「あなたが使えると思ったから連れてきたのに!今度からあなたは留守番よ!」
「そんなん言わんといや!俺を連れていけば、なんかの役に立つかもわからへんやろう?俺にチャンスをくれ!チャンスをくれたら俺の実力を君に…ぐええ!」
「うるさいっ!」
リースに剣で着られ、チャーリーはピタッと黙る。チャーリーの右腕には紙で切ったような細い切り傷ができていた。
洞窟内のロークの絶叫が響きたる。
ワインズはロークの肩を握りしめるだけではなく、手のひらに炎を纏わせている。ロークを更なる激痛が襲う。
「くうぅ、お前は…俺の、兄さんなわけがない!」
「君は本当にムカつく野郎だな」
ワインズの口調が変わる。
ロークが苦し紛れに放った水球がワインズの顔に当たり、ワインズの顔を包ん営たッ空気がグニャグニャと歪み始める。
ワインズが顔にかかった水を手で拭うと、そこに現れたのは女の子の様に可愛らしいゼオルグの顔だった。
「そんな…!」
リースは自分の見たものが信じられなかった。
リースの知る「アイス・エンド・ワールド」のシリーズスリーのラスボスは確かにワインズだったのだから。
目の前で可愛らしく笑うゼオルグは里紗の知識のよると間違いなく、悪者であるワインズに立ち向かうロークの仲間だったのだから。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
紡ぎ奏でるのは
藤瀬すすぐ
恋愛
目立たず地味にひっそりと。
そうやって日々を過ごしていたのに、酒の勢いでアイドル社員と関わるようになってしまう。
恋愛とは無縁でいたいのに、強引に迫ってくる後輩についつい意地悪な気持ちと勢いから交際をOKするが、隠しておきたい秘密があった。
「さっき初めてって言った? よっしゃ! 初めて一個ゲット!!」
恥ずかしいセリフを、恥ずかし気もなく口にできるそんな存在。
ひっくり返された人生を理解されなくても、そこにただ居ればいいと言ってくれるなら──
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ステラの代わりに温もりを
いつもあなたのそばに文学を
ファンタジー
_ いつか夜明けを手にする者に祝福を _
クリスマスアドベント小説企画 野いちごの花笑む頃を夢見て
小説① 深川文 ステラの代わりに温もりを
ある事件から父テセウスと絶交した、従者見習いの魔法使いアーサー。彼は聖なる夜の前日に、街で自慢の兄アスランに関するある噂を耳にします。
自分の力試しと愛しい主君エリーへのプレゼント獲得のための冒険に出たアーサー。しかし、冒険には危険が待っていて……
pixivに掲載しているものをアルファポリス用にまとめたものです!
感想は、コメント欄の他に、Twitterやブルースカイでも受け付けております!(#野いちごの花笑む頃を夢見てで呟いてください!)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる