白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

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IEWⅢ DISC‐1

63 兄弟

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 ロークと別れてリース達がデビルマ山脈から魔女のいとこに戻ると、予期せぬ客が二人メインフロアのカウンターに座り苺をふんだんに使ったケーキを美味しそうに食べていた。

 予期せぬ客とは桜色のロミリアと、もう二度と会いたくないと思っていたディランだった。ディランはルルリアナ同様に目立つソルティキア公爵家特有の銀髪の髪を灰色に染めて、変装までしていた。

 満足そうに目を瞑り紅茶の味を楽しんでいるディランを、リースは苦々しく睨みつける。

 二人の姿を見て、リースは何もかも知ってしまったのだ。ロミリアを迎えに来たスワンがほのめかしていたではないか。ロミリアの出生は口に出せないほど高貴なのだと。確かに、スノクリスタ大陸を支配するエギザベリア神国の公爵家、それもソルティキア公爵家のご子息という身分は平民であるリースは一生出会うことのない存在だっただろう。まぁ、リースの側にはいつもソルティキア公爵家ご令嬢であるルルリアナがいるが。

「ルルリアナ!おかえりなさい!ボク、遊びに来ちゃった!」

 ロミリアはルルリアナの姿を見つけるなり、ルルリアナに飛びつくように抱き着く。抱き着いたロミリアは憎たらしい舌をリースに見せつけ、アッカンベーをする。

 リースもロミリアに負けじと舌を出す。

「おい、お前はこんな小さい子とも張り合ってるのか?」

「あの生意気な態度を見て気が付くべきだったわ。ロミリアはあなたにそっくりだもの」

「あぁ、弟は俺に似て女性の趣味もいいらしい」

 バチバチと火花散る二人に、困惑したルルリアナが声を掛ける。

「リースはロミリアのお兄様とお知り合いなのですか?」

「「まさか!」」

 二人の声がぴったり重なる。二人は迷惑だと言わんばかりに再び二人の視線は激しくぶつかり合う。

「この人と私は絶対に仲良くないし、今後も絶対に仲良くなることなんてないから」

「それはこっちのセリフだ」

 ルルリアナは二人の顔を交互に伺うと、ロミリアにせがまれテーブルゲームをするために家に道具を取りに行く。ロミリアはルンルンでルルリアナの手を握りしめている。

 ルルリアナとロミリアが離れたのを確認したリースは、腕を組み傲慢な態度でディランを問い詰める。

「それで?ここには何の用で来たわけ?ルルリアナを取り戻しに来たの?」

 客に呼び止められ笑顔で接客するルルリアナをディランはとても眩しいものを見るかのように、目を細めて見つめる。その瞳に安堵が浮かんでいて、リースは組んでいた腕をそっとほどく。

「あんなに明るく笑う雪の…妹を見たのは初めてだ。ルルリアナはここで幸せにやってるみたいだな」

 ロミリアが座っていたカウンターの席に座り、椅子を動かして正面からディランに向き合う。リースの顔は不安から眉がハの字に下がっていた。

「私が知りたいのは、あなたがルルリアナをどうするつもりなのかってことだけ」

 ディランもゆっくりと体の向きを変え、リースと向き合う。ディランの顔はよく見ると誰かに殴られたのか左の唇の端が切れて少し腫れあがっていた。それは、ディランの両手の拳も一緒だった。

 ディランは誰かと喧嘩でもしたのだろうか?

「悔しいけど認めるよ。ルルリアナはあんなところにいるよりも、ここにいた方が何百倍も幸せだ」

「どうして気が変わったの?」

 ディランはゆっくりと考慮した後、躊躇うように言葉を口にした。

「レオザルト皇太子殿下は次の日曜日にルルリアナと正式に婚約の議を交わすんだ」

 ディランの言葉にリースは言っている意味が分からず首を傾げる。それを見て、ディランはリースにわかりやすく説明する。

「レオザルト殿下とルルリアナの結婚は神によって決められたものだが、雪の華様が十六歳になった時に、神の前で雪の華様とその相手は正式に婚約を誓うんだ。それまでは形式的な婚約者にすぎない」

「つまり、ルルリアナの誕生日にするはずだった儀式をどうして今更やろうと思ったわけ?あの浮気野郎は」

「あの浮気も…ゴホン、レオザルト殿下は…エギザベリア神国は、雪の華様が誘拐されたという噂を払拭するために儀式をするつもりなんだ」

「…でも、ルルリアナはここにいるわ。それに、私は絶対にルルリアナをあそこに戻すつもりはないから!」

 リースが声を荒げると、魔女のいとこにいた客の視線がリースに集まる。詫びるように頭を下げ、リースはディランとの会話に戻る。そして、声の大きさを意識してディランと内緒話を続ける。

「ルルリアナがいないのに、あの浮気野郎はどうするつもりなわけ?」

 ディランは怒ったように鼻息を荒くしする。

「…レオザルト殿下はベルリアナをルルリアナの代役にするつもりなんだ」

「浮気野郎じゃなくてクズ野郎だな」

 リースはてっきりディランに「不敬だ!」と怒られると思ったが、ディランは「本当にクズ野郎だっ」と鼻で笑うだけだった。

「もしかしてあなたが喧嘩した相手って…レオザルトなの?」

 ディランはじっとリースを見つめるだけで何も答えなかった。直接的な返事は決してしなかったが。ディランはロイヤルブルーの騎士服の胸元に飾られた勲章を持ち上げる。

「確かに私が喧嘩した相手は悪かったよ。そのせいで、近衛兵からプンクトウム陸地との国境の隊に左遷されたとだけ言っておくよ」

「…プンクトウム」

 確かプンクトウム陸地は「アイス・エンド・ワールド」のストーリーの中でも、エギザベリア神国に最も敵意を抱いていたルドワイド帝国がある陸地だ。

「とっても危険なところね」

「それでも周囲の人間は私の首が体に付いているだけありがたく思えと言ったけれどね」

 心なしかしょぼんとしてしまったディランの背中をバチンと叩く。

「何するんだよ!」

「別に。少し元気がなくなったようだから、シャキッとするように殴ってあげたの」

 ディランは叩かれた背中をさすりながら、警戒するようにリースを見つめる。

「別に後悔なんてこれっぽっちもしてない。君みたいにルルリアナを思って動いた結果だ。君と出会って私は考えを変えたんだ。ルルリアナは雪の華である前に私の妹だってね」

 リースの目から見てもディランはルルリアナの兄に見てた。長年、言い出せなかった、大切にできなかった妹に精一杯償っている兄に。

「あんたって意外といい奴なんだね。紅茶のお代わりする?」

 リースが紅茶のポットを持ち上げると、ディランは片手をあげて断る。

「紅茶のお代わりはいらない」

「そう」とディランに返事をして、話は終わったと判断したリースは他の客にも紅茶を進めるためにディランに背を向ける。

「…リース!」

「何?」

 振り返ったリースに、ディランは恥ずかしそうにうっすら頬を赤く染めもじもじと答える。

「紅茶のお代わりはいらないけど、この苺のケーキをもう一つくれないか?」

 ソルティキア兄弟はどうやら揃って苺が好きらしい。苺のケーキが残っているといいなと思いながら、リースはディランにささやかな微笑みを浮かべて、ショーケースに向かったのだった。



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