白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

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IEWⅢ DISC‐1

61 山道

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 リースは一人でワインズが狙っている火の大精霊が封印された「雪木」と呼ばれる、葉も幹も白い木をワインズよりも先に見つけ出すつもりだった。

 しかし、雪木がある可能性があるデビルマ山脈は広範囲に渡るため、デビルマ山脈についての知識が壊滅的に欠けているリース一人ではとても難しいことだった。

 そのため、リースはロークの協力を得るつもりだった。

 あの日以降、ロークはちょくちょく顔を出す。

 朝に珈琲を買いに来なかったということは、ロークは今日は非番で時々ランチを食べに顔を出す。その度に、どうしてこの店に来たしまうのかと納得いかないという表情を浮かべてはいるが、デザートをきっちり食べて帰るためまんざらでもないらしい。

 ロークが入り口の鈴を鳴らし、魔女のいとこに入って来るのをリースよりも先にルルリアナが出迎える。

 ルルリアナはロークのことが気に入っているらしく、ローク以外の客には人見知りを発揮するくせにロークに頬を染め対応してする。その姿はまるで、初めて好きな人に積極的に自分を知ってもらおうとする少女の様にリースの目には映り、リースは不安を隠せないでいた。

 ロークは「アイス・エンド・ワールド」のシリーズスリーの主役だ。つまり、ロークの相手役となるヒロインが存在する。

 ルルリアナが再び傷つかなければいいがと思いつつも、ルルリアナがウキウキとロークに接客することを咎めることができなかった。

「ローク。今日、非番でしょ?」

 珈琲をすでに三杯飲み干し、四回目のお代わりをルルリアナに注いでもらいながらロークがリースに警戒する視線を向ける。

「そうだけど?なんで?」

「あなたに頼みたいことがあるの」

「頼み事?」

「えぇ、雪木の話を聞いたことない?」

「雪木といえば、ここらへんで有名なおとぎ話じゃないか。もしかして、店長さんはその木が実在するとでも思ってるのか?」

「えぇ、思ってるわ」

 プッっと鼻でロークは笑う。

「俺も散々、子供の頃ミリスタと探したけど見つからなかったんだぞ。あれは、ただのおとぎ話だ」

「三つの石像が並ぶ場所を知ってる?そこに連れて行ってくれたら私が、雪木が実在していると証明してあげるわ」

「…三つの像?それなら知ってるが」

 リースは満足そうに笑うと、ロークはまるで鳥肌が立ったかのように体を震わせたのだった。



―❅―❅・❅――❅――・―❅・―



 ロークに案内され、リースとルルリアナはデビルマ山脈にある草木が生茂る山道を歩いていた。

「ねぇ。三つの石像まですぐだって言わなかった?」

 ロークは歩いて三十分と言ったのだが、かれこれリース達は一時間以上も山道を歩いている。

「仕方ないだろう。いつもは相棒のアストリアでデビルマ山脈を移動するから、徒歩でこんなにかかるだなんて思わなかったんだ」

「アストリアというのは、今、空を飛んでいる飛龍のことですか?」

 ルルリアナに答えるように、青い空を飛んでいる青い竜が可愛らしく「キュイー」と鳴く。愛らしい仕草で空中を一回転までしている。

「あぁ、そうだ。アストリアは俺の大切な相棒だ。アスタリアで移動できれば良かったんだが、アスタリアに乗れるのは大人二人が限界でね」

 付いていくと言い張ったルルリアナを困ったようにロークが見つめて、リースに目で示す。リースとしては最初からルルリアナを連れていくつもりだったので、何も問題はない。

 獣道すらできていない山の中を草木をかき分けて三人は突き進む。

「昔は儀式で使われていた広場にその三つの像はあるんだ。でも、偉大なるロクストシティリ神が火の精霊たちを崇めることを禁止したために、その広場に人々は近寄らないようになったんだ」

「どうしてロクストシティリ神は火の精霊を人々が崇拝することを嫌がったの?」

「ロクストシティリ神様は氷の神様だという神官様もいます。そのため、氷を解かす火の精霊たちを嫌ったいう説を説く神官もいるんです。だから、この世界に火の属性を持つ人間は他の属性に比べて少ないとも。火の属性を持つ人間は短命で、不吉な運命を辿ると言われているんです」

「へぇ、ロクストシティリ神は氷の神様と言われてるんだ。だから、ルルリアナのことを「雪の華」っていうのかな?」

 ロークに聞こえないようにリースはルルリアナに確認する。

「多分、そうだと思います」

「でも、ロクストシティリ神はこの世界でたった一人の神様なんでしょ?そのロクストシティリ神が氷の神様なら、火の神様とか水の神様とかいてもいいと思うけどいないんだね」

「リース!それは私以外の人には言わないでください。不敬罪にされてしまいます!おれに、ロクストシティリ神がリースの話を聞いていたとしたら、リースに天罰が下ってしまう」

「私みたいな人間を神様がいちいち見張っているわけがないでしょ?」

 ルルリアナは天を仰ぎ、キョロキョロとあたりを見渡す。

「リースはわかっていないんです。私はロクストシティリ神に愛されている「雪の華」ですよ。リースを見ていなくても、私を見ている可能性は大いにあります。つまり、私と一緒にいるリースの発言をロクストシティリ神様は聞いている可能性があるということです」

「神様が聞いていたとしても、貴方をないがしろにしていたエギザベリア神国とあの皇太子が滅びていないところを見ると、私はまだまだ大丈夫だと思うけど?」

「おい!ここら辺で少し休憩しよう!女は疲れると口数が多くなるって言うからな。さっきから二人だけで内緒話しているところを見ると、疲れたんだろう?」

 まだまだ歩くことはできた二人だったが、ロークが休憩場所に選んだ場所はオレンジの花が咲き誇る野原で、そのオレンジの花に見覚えがあったリースはその花を観察するためにロークの言葉に従うことにしたのだった。

 オレンジの花は四つの花弁が三段に重なっていて、下にいくにつれオレンジの色が濃くなっている。

 とても美しい花だったため、リースは思わず一本手折ってしまったのだ。それを見たロークが烈火のごとくリースを怒る。

「おい!その花はとても大切な花なんだぞ!綺麗だからって気安く折るな!とっても大切な薬の材料になるんだからな!」

 リースは手折ってしまった花をまじまじと見つめる。

「そうか…これがあの子の命を繋いでいる花なんだ」

「何か言ったか?」

「ごめんなさい。そんな大切な花だなんて思ってもいなくて。とても綺麗だったからつい…」

「このデビルマ山脈に生息している植物はとても貴重なものが多いんだ。綺麗だからとかつまらない理由で、勝手に採取するな!わかったな!」

 こくこくとロークに頷き、リースはどうにかこの花を生存させなければと思うのだった。

 それから二時間歩いた三人はボロボロに崩れた神殿にポツンと残されように存在しいている三つの石像に辿りついたのだった。

 三つの石像はどれも綺麗な少女の石像で、妖精をモデルにしたのかそれとも妖精がそのまま石像になったのかわからないが、少女たちの背中には蝶々のような美しい模様が刻まれた羽が生えていた。

「ここにチャーリーがいたらきっと、この子たちもロクストシティリ神によって石像にされた火の精霊とでも教えてくれるんでしょうね。ロクストシティリ神は氷の神様じゃなくて、石像の神様じゃないかって勘違いしそう」

 その言葉にルルリアナは再びリースをムッとした顔を向け、神様に謝るように天を仰ぐのだった。



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