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在処のはじまり
49 選択
しおりを挟む三つの宝箱にはそれぞれ鍵が付いていて、リース達が血を垂らしても何をしても宝箱を開くことができなかった。
「鍵はどこ?ロクストシティリ神」ルルリアナがリースを睨む。「…神様はどこに宝箱のカギを隠したの?」
「俺に聞かれてもねぇ…」
リースに鋭く睨まれたチャーリーは困ったように答える。
「そいつ嘘ついてるぞ」
マーカスがチャーリーに冷たい視線を向け、リースへ警告する。
「何を言うてるんかいな?宝箱を開ける鍵なんて、わしゃもってへん」
「へぇ、鍵を持ってるのね。フィーア!」
リースの言葉でフィーアがチャーリーの足首をがっしりと掴み引っ張る。チャーリーは足を引っ張られ、後頭部を地面にぶつけて転んでしまう。
「何をうるんや!」
チャーリーがもがくのもフィーアは気にせずそのまま魔法陣で宙に浮かび、まるでチャーリーがただの物であるかのように激しく上下へと振る。
「うわっ、わっ、わっ、わ~~~~!」
するとチャーリーの首からペンダントがポテリと地面に落ちる。
ペンダントのアクセサリーの部分が鍵の形をしており、その鍵はアンティークのとても美しい鍵だった。鍵は青い金属でできており、頭の部分が雪の結晶の形となっていた。
「この鍵…宝箱の鍵かしら?」
アインスが地面からその鍵を拾い、光に翳す。光に反射し、雪の華はキラキラと輝いている。
「そらちゃう!その鍵はロクストシティリ神のかぎちゃう!俺の恥ずかしい宝箱の鍵や!」
「嘘ついても俺にはわかるぞ」
「正直に話すならフィーアにやめるように言ってあげる」
マーカスとリースがそういうと、チャーリーは一瞬考えるようなに顎に手をやる。激しく振られているというのに余裕な態度だ。
「こないに激しゅう振られとったら舌を噛んでまう。話せへんで」
「話せてる」
フィーアがぽつりとつぶやき、今度はチャーリーをジャイアントスイングでぐるぐると廻し始める。
「ちょい、こら反則や!目が回ってまうわ」
「早く話した方がいいと思わない?」
「話す必要はなくてよ。これは街がいなくロクストシティリのクソ野郎のカギだわ」
アインスは熱魔法で鍵を溶かそうとしたのだ。しかし、鍵は熱くなるばかりで、全く溶ける様子はなかった。
赤く光り輝く鍵を見て、リースは慌ててアインスから鍵を奪い取る。
「あつっ!ちょっと!もしかしてこの鍵、壊そうとしたの?」
「ロクストシティの鍵なら私の魔法では壊せないわ。それにどうせ偽物だったらこの宝箱は開かないでしょ?」
確かにアインスの言うとおりなので、リースはそれ以上文句が言えなくなってしまった。
「それじゃあ、宝箱を片っ端から開けてお目当ての巻物を探すとしますか!」
リースが一番近くにあった黄色い宝箱を開けようとした時だった。チャーリーはフィーアに掴まれているブーツを脱ぎ捨てることで脱出に成功し、リースから鍵を奪い取る。
「待てや、自分!この鍵はたった一度しか使えへんねんぞ。そないな風に貯金箱開けるみたいにこの鍵を使われたらたまったさかいちゃう!もっとよう考えてどの宝箱を開けるか考えろ!」
「やっぱり、この鍵が何の鍵か知ってたのね!何が恥ずかしい宝箱の鍵よ。良く言うわね」
リースがチャーリーの手から素早く鍵を奪う。
「もしかしてどの宝箱に何が入っているか知ってるの?」
「し…し、知らへんよ!俺はなんも知らへん!」
「マーカス?」
「あぁ、そいつは嘘ついてる」
「チャーリー?また、フィーアに協力させてもいいかしら?」
「そら堪忍して!俺はほんまに知らへん!」
「でもマーカスはあなたが嘘をついてると言っているけど?」
「そいつが嘘をついてるかもわからへんやろう?簡単に人を信用せえへん方がええぞ!」
「マーカスは少なくともあなたよりは信用できるわ。…フィーア」
まるで大きな壁が迫るようにフィーアがチャーリーに迫る。
「わかった!話すさかいそいつを俺に近寄らせんといて!」
目に涙を浮かべて後ずさりするチャーリーの様は見ている者の哀れを誘った。
「わかった、だから正直に教えるのよ」
チャーリーは頭がバネになっている人形の様に激しく頭を振って頷く。
「フィーア」
フィーアは舌打ちをしてチャーリーに近づくのを止めたが、視線はまるでカエルを見るヘビの様に鋭い。
「どうして、フィーアはチャーリーにだけあんな態度をとるのでしょうか?」
ルルリアナの問いに、リースは一緒になって首を傾げる。
「良くわからないけど、フィーアが生き生きとしているからいいんじゃないかな?」
チャーリーは三つの宝箱の前に立ち、芝居がかった仕草で宝箱の中身を説明する。
「こちらの赤い箱には世にも珍しい、いの…「他の宝箱の中身の説明はしなくていいわ。だって、箱の中身を聞いたら巻物以外の宝が欲しくなっちゃう。でも、私が欲しいのは巻物なの。だから巻物が入っている宝物だけ教えて」
リースの言葉を聞いたチャーリーは眉を顰める。
「おもんないお客さんやな。巻物が入ってるのはその赤い箱や。その箱の中身が一番おもんない宝物やのに。ほんまにええんか?」
「ええ。すごい宝物を持っていても私に上手く扱えるとは思えないもの」
そのセリフを聞いて、初めてチャーリーの瞳にリースに対する興味が浮かぶ。
「あんたはロクストシティ神が一番嫌う人間のタイプやな。気ぃ付けてな、いつ、この世界から追い出されるかわからへんぞ」
「私もロクストシティ神のことが嫌いなの。ありがとう」
リースはさっそく青い鍵を使い、赤い宝箱を開ける。
青い鍵は赤い宝箱を開けた瞬間、まるで雪が溶けるように水たまりとなってしまったのだった。
チャーリーの言うとおり、赤い宝箱の中には宝石で彩られた金の表紙に赤い紐で結ばれた巻物が一つ納まっていた。
その巻物の姿かたちはゲームのイラストと同じで、金ということは本当に制限なくインテリアを変えられるということだ。
「やった!これで、カフェが開ける」
「ちょい待て!カフェのインテリアを飾るためにその巻物を使いたいんか!その巻物さえあれば金の椅子や宝石でできたテーブルなんかもできるんやぞ?黄金の城も作られる。それがたったのカフェのために使うちゅうんか?」
リースはチャーリーにニコリと微笑む。
「あら?ただのカフェとは違うのよ。私たちの住処、在り処となるカフェなんだから」
リースの言葉を聞き、チャーリーはバカにするように笑う。
「好きにしたらええ。その巻物は間違いのうあんたのもんや」
チャーリーに再びクシャっと笑いリースは背を向け、コロッセオの出口へと向かう。その様子をチャーリーは眺め、皆が自分に背を向けたのを確認すると、魔法を使い鍵が溶けてできた水をポケットから出した小瓶に集め、しっかりと封をする。小瓶には鍵と同じ、雪の結晶が描かれていた。
「たった一度しか使えへん言うたけど、鍵がいずれ元に戻らへんとは言うてへん。俺は嘘は付いてへんぞ。ただ黙っとっただけや。ほな、また会いまひょか」
チャーリーは三体の銅像にピエロがするようにBow and scrapeを披露する。
チャーリーは指を鳴らし、残りの青と黄色の宝箱を回収すると、皆が気が付く前に、リース達の後を追うのだった。
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