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IEWⅡ DISC‐1
38 暗殺
しおりを挟む五人が湿った布団を避け、床に座り眠りにつくという最悪な夜が明けた。
牢番が差し出した朝ご飯は昨日の夕飯と似たようなメニューだった。
ポケットにしまっていたチラシによると、ルードヴィク皇太子の戴冠式は日の出とともに行われる。
新しい王の誕生を日の出に例えているということだ。
新しい王に王冠を授けるのはエギザベリア神国の皇帝で、王笏を授けるのはロクストシティリ教の法王だ。その二人に認められて初めて、アイスクリスタ大陸に新しい王が誕生するのだ。
大聖堂の金が鳴り響き、ルードヴィク皇太子の暗殺の瞬間が近づいていることをリース達に告げる。
「アインス!ゲートを開いて」
「もう!もっと早く命令してくれれば良かったのに!この服はお気に入りなのよ?黴臭い匂いが服に付いたらどうするの?」
「いいから早く開いて!」
「私がこの町で座標にできるのはあのカフェだよ?」
「それでもいいから、早く!」
大聖堂の金がなり終わり、地下牢を再び沈黙が満たす。
「もう人使いが荒いんだから!」
空気が歪む感覚がし、アインスがゲートを開く。
ゲートは地下牢いっぱいに広がり、次々とリース達を飲み込んでいく。
ゲートの出口は、なんとルードヴィク新国王の乗った馬車の真上だったのだ。
ルードヴィクは白いファーに宝石がちりばめられた赤いローブに、黄金の王冠、卵大の赤い魔石が飾られた王笏を手に持ち、即位を祝うために集まった民衆に手を振っている。
その隣には金糸で刺繍された豪華絢爛な淡い青色のドレスに身を包んだ。美しいクレアの姿があった。
地面に真っ逆さまに落ちてゆくリースとルルリアナはアインスの魔法によって防がれ、空へと不格好な形で浮いている。
「ちょっと、なんで馬車の真上なわけ?」
「だってあなた、ルードヴィク皇太子の真上を飛べって言ってたじゃない?だから、真上に飛ばしてあげたのに」
「だからって、文字通りに空に吐き出されるとは思わなかった!」
リースたちが急に現れたことで、パレードに集まった民衆が大騒ぎとなり、衛兵たちが新国王を守るべくルードヴィクの周囲を固め、リース達へと刃を向ける。
暗殺者たちはその混乱に紛れてルードヴィクを暗殺するために行動を開始する。
空に浮かぶリースには全身黒の装束に身を包んだ暗殺者が五人、すごいスピードでルードヴィクに近づいていくのがはっきりと見える。
「やばい、やばい、やばい、やばい!」
「じゃあ、サクッとやっつけますか」
ツヴァイが右手に丸が三重に重なった魔法陣を展開する。
リースは二人の魔女と付き合っていく中で、魔法陣に付いてわかったことがあった。それは魔法陣が繊細な模様であればあるほど、丸がいくつも重なれば重なるほど強力な魔法だということだ。
ツヴァイが今まさに使用しようとしている魔法は、グニスタの街を簡単に弾き飛ばしてしまえるほど強力なものだった。
「ちょっと!街中でそんなものぶっぱなさないで!」
「なんで?」
「だって、街が一つ消えちゃうでしょ?」
ツヴァイはリースが何をいっているかわからないと顔を顰める。
「なんで?」
「いいから!」
ツヴァイは舌打ちすると展開途中の魔法を空に向かって解き放つ。無数の雷がグニスタの街周囲に襲い掛かり、グニスタの街の周囲の土は抉られまるで島の様に海に浮かんでいる。
その景色にリースとルルリアナは顔を蒼白にする。
民衆たちも「悪魔の到来だ!」と大騒ぎになっている。その騒ぎは暗殺者にとって都合がいいに違いない。
「ちょっとは手加減というものを覚えないさいよ」
「今ので、あなたの血を使いきっちゃったみたい」
そう言い残すとツヴァイは急速に落下し、ルードヴィクが乗った黒い馬車に向かっていく。
ツヴァイが地面に落下する前に、ルードヴィクがツヴァイを受け止めたのだった。
護衛の注意が空から降ってきたツヴァイに向かったため、暗殺者の一人がルードヴィクへ襲いかかる。
ルードヴィクはツヴァイを抱きかかえているため暗殺者に応戦することができない。
一人の護衛がルードヴィクを庇い、胸から血を流し崩れ落ちてしまう。
「アインス何とかして!」
「わかったわ」
アインスの手にも魔法陣が紡がれていくが、線の長さからしてツヴァイの魔法よりも強そうだ。
「アインス!やっぱりやめて!もういいから私を地面に降ろして!」
アインスがパチンと指を鳴らすと、リースの体は急速に重力に引っ張られる。
「もっと優しく私を降ろしなさあああああああい!」
お尻から地面に叩きつけられたリースは、痛みで肺にあった空気が一瞬にして吐き出される。意識も吹っ飛びかけるが、ルードヴィクの周囲を囲う護衛が次々と敗れとうとうルードヴィク一人になってしまったのだ。
クリアが隠し持っていた短剣でルードヴィクは暗殺者に応戦しているが、あれでは時間の問題だ。
リースは暗殺者にやられた護衛の手から剣を奪うと、ルードヴィクのもとへ駆け寄り、ルードヴィクの右腕を切ろうと振り下ろされた刃を受け止めたのだった。
「ツヴァイ!大きな魔法を使えなくてもこいつらを撃退するくらいの魔法は使えるでしょ?」
ぽーっとした眼差しでルードヴィクを見つめているツヴァイに声をかける。
「それがだめみたいなんだ。こいつら、魔法を封印する魔法陣をここら辺領域に展開しているみたいで」
確かに地面が薄く紫色に輝いている。誰かが妨害魔法を展開しているに違いない。アインスが空を飛び続けられていることから推測するに、この魔法陣に触らなければ魔法が使えるようだ。
「アインス!空から魔法を妨害している魔術師を見つけて、街に被害がないようにそいつだけをぶっ飛ばして!私とフィーアでこいつらはやっつけるから!」
アインスが「全くもう!この魔法陣は街中を覆っているのよ?魔法が妨害されているし、魔法で居場も探ることができないのに」とブツブツ文句を言いながら、どこかへと飛び去る。
ルルリアナは傷ついた兵へと駆け寄り、傷ついた兵士たちの避難と治療を手伝っている。
フィーアはというと四人の暗殺者を相手に戦っており、暗殺者の連携された動きにフィーアは苦戦している。
そういうリースもよそ見をしていると目の前の暗殺者三人にやられてしまうため、目の前の敵に集中するしかなかった。
アモミカ王国の新国王を祝うパレードの割に警備が手薄なのは、影の支配者たるルッペンツェルト公爵が手を引いているからだろう。新国王の危機だというのに集まって来る兵たちが少ないのだ。
「君たちは誰だ?」
ルードヴィクも転がっていた剣を掴み、暗殺者と戦う。リースとルードヴィクは背中合わせに暗殺者へと向き合う。
「そんなこと今、知る必要がある?きっともうすぐ応援が来てくれる!それまで持ちこたえて!」
ルードヴィクの剣が暗殺者の一人を打ち取る。
四人の暗殺者を始末したフィーアが後ろから暗殺者の胸を剣で貫き、残った一人の暗殺者もリースによって剣を弾き飛ばされ地面に膝をつく。その暗殺者の喉元にはルードヴィクの剣が当てられていた。
「さぁ、誰が黒幕なのか教えてもらおうか」
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