白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

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女達のはじまり

24 買物

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 リースはルルリアナたちを引き連れ、王都でも有名な「鋼の翼」という武器防具店を訪れていた。

 アレックスがくれたお金で武器と防具を揃えるのだ。

 「鋼の翼」で売られている武器や防具は王立学院の中でも値段以上に出来がいいと評判だった。値段も手ごろだが、壊れにくく扱いやすいとの噂だ。

 そのためリースは王都にある数多の武器防具店から「鋼の翼」を選んだのだった。

 王都の外壁近くにあるそのお店は倉庫が隣接した小さなお店だった。

 どうやらその倉庫は鍛冶場でもあるらしく、煙突から白い煙が昇っており、リズムにのった鉄を打つ音が聞こえる。

 鋼の翼は二十畳くらいの大きさの店で、壁には様々な種類の剣を始めとした武器が並べられている。フルアーマーの甲冑も三体飾られていて、そのうちの一つは女性用のものだった。魔物の皮でできた冒険者用の防具服から魔術師用のローブまで扱っている幅広い店だった。

 こだわりや金がない駆け出しの冒険者や王立学院の生徒たちにとっては、様々な種類の武器を見ることができるので丁度良いのだろう。

 しかし、地球にいたころオリンピックのフェンシング強化選手であったリースにとっては少し物足りないお店だった。

 異世界であるこの世界にフェンシングで使用する「フルーレ」「エペ」「サーブル」に似た剣は存在しなかった。あるとしたらレイピアだ。レイピアはたった七本しかない。

 リースは七本のレイピアをそれぞれ試していく。その中で一番手に馴染んだレイピアを選ぶ。飾り気のないその剣は一番安かったが、七本の中で一番使えるとそう直感でわかったのだ。

 リースが剣を選び終えると、フィーアが壁に飾られている剣ではなく樽に無造作に入れられているその中の一本の剣をじっと見つめている。

 心なしかフィーアの赤い瞳は怪しい光を放っており、フィーアはその中の剣にまるで魅入られているようだった。そんなフィーアは美しく、そして妖しかった。

「フィーア?」

 リースが声を掛けるとフィーアの瞳の光は徐々に落ち着き、いつもの可愛らしいフィーアへ戻る。

「欲しい剣があったの?」

 フィーアは少し戸惑うように悩み、リースの顔をじっと見つめる。リースがどうしたのかと顔を険しくした時、フィーアはこくんと頷いたのだった。

 樽には一万エピル以下という値札が下げられている。

「そんな安物でいいの?」

 再びフィーアは頷く。

「それでどれがいいの?」

 フィーアは迷うことなく取っ手が錆びた剣を選ぶ。剣はフィーアの身長と同じくらい長い。鞘は薄汚れているが、元は赤い糸で飾れられていたことがわかる。フィーアがゆっくり剣を引くと、剣も取っ手と同じように錆びて刃がボロボロに崩れていた。

「フィーア…。その剣は辞めた方がいいんじゃないかな?もっと新しくて綺麗な刀がここにはいっぱ…いったぁ!」

 話している途中でフィーアがリースの右手の人差し指に噛みつき、噛み傷から出た血をぺろりと舐める。

 血を舐めたフィーアが剣に魔力を込める。

 すると今まで錆びつきボロボロだった剣は錆びが綺麗さっぱり消え、欠けていた刃も新品のように鋭く輝いている。

「どういうこと?」

 リースはフィーアに尋ねるがフィーアは可愛らしく笑って、剣を持ったまま物珍しく武器を眺めているルルリアナのもとへ駆け寄っていく。

「……あれは絶対、自分が可愛いって知ってやってるな」

 リースは深いため息を吐くと、興味なさげに自分の蒼い髪をくるくると巻き付けているアインスに声をかける。

「アインスは選ばなくていいの?」

「私が欲しいのはもっとお洒落な服なの」

「防具服に何を求めてるの?」

「流行、センス、ブランド」

「…あ、そう」

「それに私は魔法で防御できるから必要なくてよ?」

「…わかった。だったらこの魔術師用のローブとかどう?」

 せっかくゲームの世界に転移してきたんだから、魔女には魔女らしい服装をしてほしいじゃない?リースはハンガーに掛けられている魔術師用のローブから、アインスに似合いそうな華やかなブルーのローブを手に取る。

 アインスはチラッっとローブを見ると、うんざりとした表情を浮かべる。

「どうして魔術師はそんなダサいローブを着ないといけないわけ?」

「……」

 アインスに問われ、リースは考える。しばらく考えてもこれと言った理由が浮かばない。

「そうなるでしょ?だから、私にローブは必要なくてよ」

「じゃあ、冒険者として働くときその格好で行くわけ?」

 アインスが今着ている服はあのお洒落なブルーのワンピースだ。というか、今、アインスが持っている服はそれだけなのだ。宿屋の女将さんに没収されたからだ。もちろん、リースたちは魔法で洋服の清潔を保ってはいるが。

「そうよ、私はお洒落な服しか着たくないのよ」

 着すぎて服に毛玉ができればいいんだ!

「はいはい、そうですか。ツヴァイは何か欲しいのあった?」

「あたし?あたしもないかなぁ。防具服は肩がこるし、武器は失くしちゃうんだよね」

 確かにツヴァイは後片付けが苦手なため、ちょっとしたものをよく探している。武器を失くされてはシャレにならないため、ツヴァイに武器を与えるのはやめようとリースは決めたのだった。

 ルルリアナには護身用の短剣を選ぶ。女性用に作られた軽くて持ちやすい短剣だ。

 そして、ルルリアナとフィーアを守るための防具を選ぶ。

リースは二人にフルアーマーを着せたかった。しかし、重すぎて二人が動けなかったため装備させることができなかった。しぶしぶリースはフルアーマーを諦める。仕方がないので胸当、肩当など急所を守るための防具を次々と選んでいく。フルアーマーから若干、割り引いたようなルルリアナとフィーアの防具が完成したのだった。

ルルリアナとフィーアの防具たちは茶色の皮ででできており、中に着ている冒険者らしいワンピースはルルリアナが紺で、フィーアが少し暗めの黄緑色だった。その色は二人の髪によく映え、似合っていた。

 リースは王立学院の騎士科の制服を改造したものを着る予定だ。王立学院の騎士科の制服は防御魔法が施されていて、安物の防具に比べるとはるかに性能がよい。しかし、王立学院を退学となったであろう身としては、そのまま王立学院の制服を身に着けることに抵抗があった。そのため、袖にフリルを付けり王立学院の紋章を何かで隠すつもりだった。

 鋼の翼での買い物を終えたリースたちは屋台でお昼を済ませることにした。

 アレックスの屋台の揚げピザパンだ。

 初めて口にした三人の魔女たちはとろけるチーズに夢中になり、二度目のルルリアナも嬉しそうに揚げピザパンを食べている。

 アレックスの隣には「アイスクリーム」の屋台があった。

 アイスクリーム…。この世界にもあったのだとリースは可愛らしいピンクの屋台を見つめる。コーンにのった二段のアイスクリームが看板に描かれていた。

 やはりアイスクリームはこの世界でも人気なようで、若い女性を中心に列を作っていた。

 月菜はアイスが大好きだった。そのため、リースは自然にルルリアナたちにご飯のデザートはアイスクリームを食べようと声を掛け、列へと並ぶ。

「アイスクリーム?」と訝しがる四人にリースはニコリと微笑む屋台の店員に、バニラアイスをお願いする。

 アイスクリームはその場で店員が氷魔法で作るらしく、青く光り輝く魔法陣の上に薄色の髪をした店員がアイスクリームの材料を乗せ、ヘラで混ぜ合わせる。すると液体だったものがゆっくりと固まって、リースもよく知ったアイスクリームとなったのだった。

「すごい!」

「ありがとうございます。とても冷たいので一気に食べるのはお勧めしません。ゆっくり味わって食べてくださいね」

「うん、そうする。ありがとう。でも、本当に地球のアイスとそっくり!」

「えっ?地球?」

    薄い紫色の髪をした売り子が、リースの言葉に驚いた表情を浮かべる。

     またやってしまったと、リースは心の中で反省する。

「アイス、ありがとう。もう二度と食べられないと思っていたから嬉しい」

     次の客の対応をしながらもリースを呼び止める売り子を振り返らず、リースはルルリアナたちの所へと戻る。

 コーンにのったバニラアイスクリームのバニラの甘い匂いに、リース以外の四人がクンクンと匂いを嗅ぐ。

 ぺろりとアイスを舐め、リースは濃厚な牛乳の味にうっとりと目を閉じる。

「うん、おいしい!」

「一口頂戴!」

 ツヴァイがリースからアイスを奪い、がぶりと噛みつく。

「つめたっ!」

 ツヴァイは頭がキーンと痛むのか、こめかみを揉み顔を顰めている。

「でも、おいしい!」

 ツヴァイはリースからお金を受け取ると、屋台へアイスを買いに行ってしまった。

「うわぁ!チョコレートあるよアインス!」

 ツヴァイの叫び声に無類のチョコ好きであるアインスも屋台へと向かう。

 屋台のアイスは種類が豊富で定番のバニラやチョコレート、様々なフルーツも揃えていた。

 アインスは思った通りチョコレート、ツヴァイはレモンのシャーベットを頼んだらしい。

 ルルリアナとフィーアも屋台のメニュー表をじっと見つめているが、なかなか決まらないようだった。

「フィーアは決まった?」

 リースの問いにフィーアは困ったように首を傾げる。

「好きなの頼んでいいんだよ?」

 しかしルルリアナとフィーアは自分が何を好きなのかわからないようだった。

「じゃあ、片っ端から頼んでみる?」

 店員に交渉すると三千エピスでそれぞれ一口ずつ味見させてくれるとのことだった。

 ルルリアナがストロベリーアイスを食べそうになったので、リースは思わず止める。

月菜は苺が大嫌いで、絶対に食べなかったからだ。苺の種が気持ち悪いと言って食べなかったのだ。

「ルルリアナ…ストロベリーは」

 ルルリアナはストロベリーを躊躇なく口にし「おいしいっ」とほっぺに手を当てる。

 その様子にリースは寂しそうにルルリアナを見つめる。ルルリアナには月菜で合ってほしいとリースは思っていたから。

 フィーアは抹茶味を、ルルリアナは絶対に月菜が選ばないストロベリー味を選んだのだった。

     そしてなぜかは知らないが、ルルリアナのストロベリーアイスだけ沢山のイチゴが載っていた。



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