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物語のはじまり
14 解呪
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リースはまず蒼し魔女の封印から解くことにした。
ゲームの知識で赫き魔女は感情の起伏が激しく、御せなかった時のために蒼し魔女に戦ってもらうためでもあった。
蒼し魔女は知的で計算高く、自由をぶら下げれば契約を守ることも知ってたからだ。
課金して手に入ることができる二人の魔女との契約は、二人の指に嵌められている指輪を所持することで結ばれる。
リースは器用に壁の飾りを登って、蒼し魔女の左親指に光り輝く蒼い魔石でできた指輪へと手を伸ばす。
指輪は地球でいうところのカイヤナイトに似た白いラインが何本も入っている。
試すようにちょんとリースが指輪に触ると、指輪が触れていた間だけ薄く光り輝く。
触っても何も起きないと確認したリースは、ゆっくりとその指輪を蒼し魔女の手から引き抜いていく。
その瞬間、蒼し魔女の周りを囲っている古の聖剣の刃がボロボロと砂塵になり、蒼し魔女は宙を浮く力を失い地面へと叩き落とされる。蒼し魔女を封印する聖剣は、彼女の心臓を貫いている一本だけになってしまった。
地面へと無事着陸したリースは熱を持ち始めている指輪を見るためにそっと拳を開く。すると指輪が宙に浮かび、慌ててリースは指輪が飛んでいかないように、消えないように慌てて両手で指輪を抑える。
ゲームだとコマンドが開いて、「魔女と契約しますか?」との質問に「はい」と答えるだけだったのだが、現実である今はもちろん、そのようなコマンドは出現しない。
「こういう時、物語とかゲームだと指輪をはめるんだよね」
そう言ってリースは宙に浮かぶ指輪を素早く掴み、魔女が嵌めていたのと同じ左親指に指輪をはめる。
指輪はまるでリースのために作られたかのようにリースの左親指に馴染んだ。
しかし、何も起こらない。
「嘘!なんで?もしかして、この人心臓を貫かれて本当に死んでるとか?」
リースは動かない蒼し魔女に近づき、つんつんと朽ちた聖剣のグリップ部分で蒼し魔女を突っつく。
「あの…リース?もしかしたらその胸に刺さった聖剣を抜かないと封印が溶けないのでは?」
ルルリアナの言葉にリースは光り輝く残った聖剣に目を向ける。聖剣のグリップはごく普通の黒だったが、刃の血槽の部分が雪の結晶でひと繋ぎとなるように複雑な模様が刻まれていた。高級な宝石も魔石もない。飾り気のない聖剣はただの剣に見えるが、暗闇の中でもまるで陽の光に照らされているかのように光り輝いていた。
「きっと、そうだね」
リースは引き抜くためにしっかりと聖剣を握り引っ張る。
聖剣はびくりとも動かない。
リースは今度こそと全身の力を入れて聖剣を抜きにかかる。
あまりにも力を入れすぎたのか、手にできていた肉刺がつぶれてリースの血が聖剣を伝い落ちる。
それに慌てたのがルルリアナだった。
「リース、血が出てる」
「大丈夫、肉刺がつぶれただけだから!それに、もうすぐ引っこ抜けそう…!」
リースの言葉どおり、先ほどまで全く抜ける様子がなかった聖剣がぐらついているのだ。
「私も手伝う」
「あ!ちょっと、待ってルルリアナ!そこは!!」
ルルリアナがリースを手伝おうと聖剣を握る。リースの出血と慌てたせいでルルリアナは間違って刃の部分を握ってしまったのだ。
ルルリアナの手に一筋の切り傷ができ、血が流れ落ちる。ルルリアナの血は聖剣の血槽でリースの血と混ざりあう。
二人の血がゆっくりと蒼し魔女の体に吸収される。
すると先ほどまで重く深く蒼し魔女に突き刺さっていた聖剣が、勢いよく蒼し魔女の体から引き抜かれる。
リースとルルリアナはその勢いで地面に尻もちをついてしまった。
剣が抜かれた蒼し魔女が喘ぐように呼吸を開始する。
二人が蒼し魔女の体を見ていると、穴があった場所に蒼い心臓が築き上げられる。そして、見る見るうちに傷がふさがっていく。
荒く呼吸を繰り返す蒼き魔女の皮膚は死んだようにまだ蒼白い。
「彼女、大丈夫でしょうか?」
「ルルリアナ、まだ近寄らないでね」
慌てて蒼し魔女に近寄ろうとしたルルリアナをリースが制する。
ゆっくりと蒼し魔女が体を起こす。蒼いレースのせいで彼女の顔を拝見することはできない。
「あなたたち?私の呪いを解いてくれたのは?」
蒼し魔女はゆっくりと自分の顔を覆っているレースを払う。
蒼し魔女は美しい女性だった。リースたちよりも少し年上の彼女は銀に青が混ざったアイシングブルーの髪に血のような赤い瞳を持つ絶世の美女だった。そばかすがほんのり散った顔は神が愛した芸術品のように整っており、人々の魂から魅了する。
「えぇ、そうよ」
リースが返事をし、蒼し魔女の赤い目がリースを見つめる。
底知れぬ恐怖に体が震えるが、自分が持っている指輪を持っているのだから大丈夫だと言い聞かせる。
「それで、契約者であるあなたは私に何を望むのかしら?」
「私にあなたの力を貸してほしい」
「私の力は世界を滅ぼせるほど強いとわかっているのかしら?」
「えぇ…」
「それでも、力を欲するのね…。なぜ、力を、私を欲するというの?」
「私は、私はルルリアナを助けたいの。絶対にこの子を死なせたりしない。この子には絶対幸せになってもらいたいの」
ルルリアナはリースの口から発せられた誓いのような力強い言葉に驚く。
リースはそれほどまで、心臓をくれた人が大切だったんだ。だって、似ているというだけの私にこんなに良くしてくれるのだから。
「ルルリアナとはあなたね…。そう…あなたが今世の雪の華なのね…。雪の華の幸せは運命の相手の側にあるのよ。それでもこの子を運命から救いたいというの?」
「えぇ、私はこの子の運命にあらがいたい」
蒼し魔女は美しい双眸を細くし、リースの顔を試すように見つめる。
「いいわ、あなたたちに私の力を貸してさしあげますわ」
「ありがとう」
「でも、力を貸したくても私の力は憎しロクストシティリによってほとんどが封印されているけれどね」
「大丈夫、あなたの力は契約者の血によって解放されるから…。でも、変なことは考えないで。契約者の血によって戻る力は一時的なもので、私を殺したら二度と血は手に入らない。あなたも少し魔法が使える人間でしかなくなるのよ。それに、この指輪がある限り私を害することはできない」
蒼し魔女の眼が怪しく光る。
次の瞬間、蒼し魔女の鋭い爪がルルリアナの首を掻っ切ろうと動く。
しかし、その爪はリースの聖剣によってはじかれる。
「私を害せないからと言って、ルルリアナに手を出さないで」
リースがそう言葉にすると言葉が目に見える文字となり、やがて一本の線となり蒼し魔女の体をぐるぐると回る。回ったかと思うと、蒼し魔女の左上腕に吸い込まれる。
蒼し魔女の左上腕に小さな雪の結晶が刻印されていた。
「ちょっとヤダ!私の体に制約の刻印が刻まれちゃったじゃない!」
「それって誓約の刻印ってこと?」
蒼し魔女が頷く。
その後、蒼し魔女の左腕には五つの雪の結晶が刻まれた。
ゲームの知識で赫き魔女は感情の起伏が激しく、御せなかった時のために蒼し魔女に戦ってもらうためでもあった。
蒼し魔女は知的で計算高く、自由をぶら下げれば契約を守ることも知ってたからだ。
課金して手に入ることができる二人の魔女との契約は、二人の指に嵌められている指輪を所持することで結ばれる。
リースは器用に壁の飾りを登って、蒼し魔女の左親指に光り輝く蒼い魔石でできた指輪へと手を伸ばす。
指輪は地球でいうところのカイヤナイトに似た白いラインが何本も入っている。
試すようにちょんとリースが指輪に触ると、指輪が触れていた間だけ薄く光り輝く。
触っても何も起きないと確認したリースは、ゆっくりとその指輪を蒼し魔女の手から引き抜いていく。
その瞬間、蒼し魔女の周りを囲っている古の聖剣の刃がボロボロと砂塵になり、蒼し魔女は宙を浮く力を失い地面へと叩き落とされる。蒼し魔女を封印する聖剣は、彼女の心臓を貫いている一本だけになってしまった。
地面へと無事着陸したリースは熱を持ち始めている指輪を見るためにそっと拳を開く。すると指輪が宙に浮かび、慌ててリースは指輪が飛んでいかないように、消えないように慌てて両手で指輪を抑える。
ゲームだとコマンドが開いて、「魔女と契約しますか?」との質問に「はい」と答えるだけだったのだが、現実である今はもちろん、そのようなコマンドは出現しない。
「こういう時、物語とかゲームだと指輪をはめるんだよね」
そう言ってリースは宙に浮かぶ指輪を素早く掴み、魔女が嵌めていたのと同じ左親指に指輪をはめる。
指輪はまるでリースのために作られたかのようにリースの左親指に馴染んだ。
しかし、何も起こらない。
「嘘!なんで?もしかして、この人心臓を貫かれて本当に死んでるとか?」
リースは動かない蒼し魔女に近づき、つんつんと朽ちた聖剣のグリップ部分で蒼し魔女を突っつく。
「あの…リース?もしかしたらその胸に刺さった聖剣を抜かないと封印が溶けないのでは?」
ルルリアナの言葉にリースは光り輝く残った聖剣に目を向ける。聖剣のグリップはごく普通の黒だったが、刃の血槽の部分が雪の結晶でひと繋ぎとなるように複雑な模様が刻まれていた。高級な宝石も魔石もない。飾り気のない聖剣はただの剣に見えるが、暗闇の中でもまるで陽の光に照らされているかのように光り輝いていた。
「きっと、そうだね」
リースは引き抜くためにしっかりと聖剣を握り引っ張る。
聖剣はびくりとも動かない。
リースは今度こそと全身の力を入れて聖剣を抜きにかかる。
あまりにも力を入れすぎたのか、手にできていた肉刺がつぶれてリースの血が聖剣を伝い落ちる。
それに慌てたのがルルリアナだった。
「リース、血が出てる」
「大丈夫、肉刺がつぶれただけだから!それに、もうすぐ引っこ抜けそう…!」
リースの言葉どおり、先ほどまで全く抜ける様子がなかった聖剣がぐらついているのだ。
「私も手伝う」
「あ!ちょっと、待ってルルリアナ!そこは!!」
ルルリアナがリースを手伝おうと聖剣を握る。リースの出血と慌てたせいでルルリアナは間違って刃の部分を握ってしまったのだ。
ルルリアナの手に一筋の切り傷ができ、血が流れ落ちる。ルルリアナの血は聖剣の血槽でリースの血と混ざりあう。
二人の血がゆっくりと蒼し魔女の体に吸収される。
すると先ほどまで重く深く蒼し魔女に突き刺さっていた聖剣が、勢いよく蒼し魔女の体から引き抜かれる。
リースとルルリアナはその勢いで地面に尻もちをついてしまった。
剣が抜かれた蒼し魔女が喘ぐように呼吸を開始する。
二人が蒼し魔女の体を見ていると、穴があった場所に蒼い心臓が築き上げられる。そして、見る見るうちに傷がふさがっていく。
荒く呼吸を繰り返す蒼き魔女の皮膚は死んだようにまだ蒼白い。
「彼女、大丈夫でしょうか?」
「ルルリアナ、まだ近寄らないでね」
慌てて蒼し魔女に近寄ろうとしたルルリアナをリースが制する。
ゆっくりと蒼し魔女が体を起こす。蒼いレースのせいで彼女の顔を拝見することはできない。
「あなたたち?私の呪いを解いてくれたのは?」
蒼し魔女はゆっくりと自分の顔を覆っているレースを払う。
蒼し魔女は美しい女性だった。リースたちよりも少し年上の彼女は銀に青が混ざったアイシングブルーの髪に血のような赤い瞳を持つ絶世の美女だった。そばかすがほんのり散った顔は神が愛した芸術品のように整っており、人々の魂から魅了する。
「えぇ、そうよ」
リースが返事をし、蒼し魔女の赤い目がリースを見つめる。
底知れぬ恐怖に体が震えるが、自分が持っている指輪を持っているのだから大丈夫だと言い聞かせる。
「それで、契約者であるあなたは私に何を望むのかしら?」
「私にあなたの力を貸してほしい」
「私の力は世界を滅ぼせるほど強いとわかっているのかしら?」
「えぇ…」
「それでも、力を欲するのね…。なぜ、力を、私を欲するというの?」
「私は、私はルルリアナを助けたいの。絶対にこの子を死なせたりしない。この子には絶対幸せになってもらいたいの」
ルルリアナはリースの口から発せられた誓いのような力強い言葉に驚く。
リースはそれほどまで、心臓をくれた人が大切だったんだ。だって、似ているというだけの私にこんなに良くしてくれるのだから。
「ルルリアナとはあなたね…。そう…あなたが今世の雪の華なのね…。雪の華の幸せは運命の相手の側にあるのよ。それでもこの子を運命から救いたいというの?」
「えぇ、私はこの子の運命にあらがいたい」
蒼し魔女は美しい双眸を細くし、リースの顔を試すように見つめる。
「いいわ、あなたたちに私の力を貸してさしあげますわ」
「ありがとう」
「でも、力を貸したくても私の力は憎しロクストシティリによってほとんどが封印されているけれどね」
「大丈夫、あなたの力は契約者の血によって解放されるから…。でも、変なことは考えないで。契約者の血によって戻る力は一時的なもので、私を殺したら二度と血は手に入らない。あなたも少し魔法が使える人間でしかなくなるのよ。それに、この指輪がある限り私を害することはできない」
蒼し魔女の眼が怪しく光る。
次の瞬間、蒼し魔女の鋭い爪がルルリアナの首を掻っ切ろうと動く。
しかし、その爪はリースの聖剣によってはじかれる。
「私を害せないからと言って、ルルリアナに手を出さないで」
リースがそう言葉にすると言葉が目に見える文字となり、やがて一本の線となり蒼し魔女の体をぐるぐると回る。回ったかと思うと、蒼し魔女の左上腕に吸い込まれる。
蒼し魔女の左上腕に小さな雪の結晶が刻印されていた。
「ちょっとヤダ!私の体に制約の刻印が刻まれちゃったじゃない!」
「それって誓約の刻印ってこと?」
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