8 / 81
物語のはじまり
7 同胞
しおりを挟む
「ルルリアナ!」
部屋に戻る途中だったリースとルルリアナは、運の悪いことにレオザルトとその取り巻きに捕まってしまう。
その取り巻きの中にはレオザルトと中庭にいたホワイトローズ色の髪の少女が含まれていた。
「こんなところで一体、何をしている?侍女や護衛はどこにいるんだ!」
レオザルトはルルリアナが見たこともないほど怒っている。
その事実に、ルルリアナは体を硬くする。
レオザルトの顔にはルルリアナの側にいるリースに対する怒りとルルリアナの身を案じた心配が浮かんでいいたが、心配などされたことのないルルリアナはレオザルトの心配に気が付かない。ルルリアナは慣れたレオザルトの怒りの感情しか気が付くことができなかった。
リースがルルリアナをかばうように前に出る。
ルルリアナはそのことが少し嬉しかったが、エギザベリア神国の皇太子であるレオザルトに騎士科で平民のリースが太刀打ちできるわけがない。
ルルリアナはリースのジャケットの裾を引っ張り、かばってもらわなくても大丈夫だと伝える。
裾を引っ張られたリースは、目の前のレオザルトを無視してルルリアナに振り返り、大丈夫と口パクで伝える。
その親し気な様子にレオザルトの機嫌はますます悪くなり、乱暴にリースの肩を掴む。
「ルルリアナから離れろ!」
「なぜ?」
「なぜだと?」
レオザルトの目が鋭く吊り上がりリースを睨みつけるが、リースはその目を真正面から受け取る。
「なぜ、ルルリアナ様から離れなければいけないのですか?婚約者はそこまでルルリアナ様に口出す権利があるというのですか?自分はたくさんのご友人たちに囲まれているというのに、ルルリアナ様は友達を作ってはいけないということですか?」
「リース!」
ルルリアナはリースにお願い黙ってと目で伝えるが、リースはルルリアナを都合よく無視している。
そのことにルルリアナは初めて不機嫌に可愛らしく口を曲げる。
「こいつは誰だ?」
レオザルトはリースを指さし、ルルリアナに問う。
「リースは…」
「私はルルリアナ様の友達です!」
驚くルルリアナにリースはいたずらっぽく微笑む。驚いたままのルルリアナに、リースの笑みは徐々に自信ないものに変わる。いつまでも答えないルルリアナに、リースは最後に泣き出しそうな表情に変わっていた。
リースのわざとらしい表情に、ルルリアナはそっと微笑む。
その表情に周囲の人間は目を奪われる。
初めて見た人間らしいルルリアナの微笑みに、誰もが見惚れていたのである。
美しいがいつも彫像のように無表情なルルリアナが、まるで野に咲くロキシスのように優しい微笑みを浮かべたのだ。
それなのに、その中でただ一人、リースだけがその表情を当たり前のように受け取め「友達でしょ?」と再度、ルルリアナに返事を強請っている。
「はい、友達です」
今度は満面の笑みをルルリアナが浮かべる。
「ほらね」
呆然とするレオザルトに、リースは挑発するように言う。
「レオザルト様にそんな口をきいてはいけません!」
「だって、こいつすごくムカつく!」
不敬を通りこして反逆罪で捕らえられても文句が言えない発言をリースは口にする。
もちろん、レオザルトの護衛騎士や取り巻きたちがリースを捕えようとするが、レオザルトが手でそれを制する。
「勘違いするなよ。反逆罪で捕らえないのは、君がルルリアナの友達だからだ」
「友達なら一緒にいても問題ないですよね?」
悔しそうにするレオザルトと勝ち誇るリースに、可愛らしい鈴のような声が割り込む。
「お友達はきちんとお選びにならないといけませんわ、雪の華様。このような慮外なものとお友達なんて、雪の華様の矜持を損ないますわよ」
そう発言したのは、あのホワイトローズ髪の美少女だった。
美少女の瞳はルルリアナのパールグレイの瞳によく似ており、ルルリアナは嫌な予感がした。
「…あなたは?」
自分の口から出た声は震えており、ルルリアナには自分の声に聞こえなかった。
まるでつぶれた鈴虫のようだ。
ルルリアナの問いに美少女はわざとらしく目を見開く。
「レオザルト殿下、私とても悲しいですわ。自分の姉が妹である私を知らないなんて…」
大粒の涙で瞳をウルウルさせた彼女は、馴れ馴れしい仕草でレオザルト殿下に縋りつく。
ルルリアナはその仕草を見逃さなかった。
「妹?」
「えぇ。初めまして、雪の華様。私の名はベルリアナ・マル・フィア・ソルティキアと申します。あなたの一つ下の妹でございましてよ?」
「…私に妹?」
「あら?雪の華様?本当にご存じなかったのですか?ここには妹の私だけでなく、お兄様もいらっしゃるのに…」
ベルリアナの言葉にルルリアナはレオザルト殿下の取り巻きを焦ったように見渡す。ルルリアナには誰が自分の兄なのかわからなかった。
「私、私…。」
ルルリアナの世界がぐるぐると回り始め、自分が何者でどこにいるかさえも定かではなくなる。縋るようにルルリアナが手を伸ばしたのは、リースではなくレオザルトだった。
「ルルリアナ?」
「ルルリアナ様?」
パニックを起こしかけているルルリアナは、レオザルトとリースの呼びかけも聞こえない。ただバクバクとうるさい鼓動に、強烈に襲ってくる吐き気を堪える。
「私は…知ら、ない…」
崩れ落ちるルルリアナの体を支えたのは、レオザルトの力強い腕だった。
部屋に戻る途中だったリースとルルリアナは、運の悪いことにレオザルトとその取り巻きに捕まってしまう。
その取り巻きの中にはレオザルトと中庭にいたホワイトローズ色の髪の少女が含まれていた。
「こんなところで一体、何をしている?侍女や護衛はどこにいるんだ!」
レオザルトはルルリアナが見たこともないほど怒っている。
その事実に、ルルリアナは体を硬くする。
レオザルトの顔にはルルリアナの側にいるリースに対する怒りとルルリアナの身を案じた心配が浮かんでいいたが、心配などされたことのないルルリアナはレオザルトの心配に気が付かない。ルルリアナは慣れたレオザルトの怒りの感情しか気が付くことができなかった。
リースがルルリアナをかばうように前に出る。
ルルリアナはそのことが少し嬉しかったが、エギザベリア神国の皇太子であるレオザルトに騎士科で平民のリースが太刀打ちできるわけがない。
ルルリアナはリースのジャケットの裾を引っ張り、かばってもらわなくても大丈夫だと伝える。
裾を引っ張られたリースは、目の前のレオザルトを無視してルルリアナに振り返り、大丈夫と口パクで伝える。
その親し気な様子にレオザルトの機嫌はますます悪くなり、乱暴にリースの肩を掴む。
「ルルリアナから離れろ!」
「なぜ?」
「なぜだと?」
レオザルトの目が鋭く吊り上がりリースを睨みつけるが、リースはその目を真正面から受け取る。
「なぜ、ルルリアナ様から離れなければいけないのですか?婚約者はそこまでルルリアナ様に口出す権利があるというのですか?自分はたくさんのご友人たちに囲まれているというのに、ルルリアナ様は友達を作ってはいけないということですか?」
「リース!」
ルルリアナはリースにお願い黙ってと目で伝えるが、リースはルルリアナを都合よく無視している。
そのことにルルリアナは初めて不機嫌に可愛らしく口を曲げる。
「こいつは誰だ?」
レオザルトはリースを指さし、ルルリアナに問う。
「リースは…」
「私はルルリアナ様の友達です!」
驚くルルリアナにリースはいたずらっぽく微笑む。驚いたままのルルリアナに、リースの笑みは徐々に自信ないものに変わる。いつまでも答えないルルリアナに、リースは最後に泣き出しそうな表情に変わっていた。
リースのわざとらしい表情に、ルルリアナはそっと微笑む。
その表情に周囲の人間は目を奪われる。
初めて見た人間らしいルルリアナの微笑みに、誰もが見惚れていたのである。
美しいがいつも彫像のように無表情なルルリアナが、まるで野に咲くロキシスのように優しい微笑みを浮かべたのだ。
それなのに、その中でただ一人、リースだけがその表情を当たり前のように受け取め「友達でしょ?」と再度、ルルリアナに返事を強請っている。
「はい、友達です」
今度は満面の笑みをルルリアナが浮かべる。
「ほらね」
呆然とするレオザルトに、リースは挑発するように言う。
「レオザルト様にそんな口をきいてはいけません!」
「だって、こいつすごくムカつく!」
不敬を通りこして反逆罪で捕らえられても文句が言えない発言をリースは口にする。
もちろん、レオザルトの護衛騎士や取り巻きたちがリースを捕えようとするが、レオザルトが手でそれを制する。
「勘違いするなよ。反逆罪で捕らえないのは、君がルルリアナの友達だからだ」
「友達なら一緒にいても問題ないですよね?」
悔しそうにするレオザルトと勝ち誇るリースに、可愛らしい鈴のような声が割り込む。
「お友達はきちんとお選びにならないといけませんわ、雪の華様。このような慮外なものとお友達なんて、雪の華様の矜持を損ないますわよ」
そう発言したのは、あのホワイトローズ髪の美少女だった。
美少女の瞳はルルリアナのパールグレイの瞳によく似ており、ルルリアナは嫌な予感がした。
「…あなたは?」
自分の口から出た声は震えており、ルルリアナには自分の声に聞こえなかった。
まるでつぶれた鈴虫のようだ。
ルルリアナの問いに美少女はわざとらしく目を見開く。
「レオザルト殿下、私とても悲しいですわ。自分の姉が妹である私を知らないなんて…」
大粒の涙で瞳をウルウルさせた彼女は、馴れ馴れしい仕草でレオザルト殿下に縋りつく。
ルルリアナはその仕草を見逃さなかった。
「妹?」
「えぇ。初めまして、雪の華様。私の名はベルリアナ・マル・フィア・ソルティキアと申します。あなたの一つ下の妹でございましてよ?」
「…私に妹?」
「あら?雪の華様?本当にご存じなかったのですか?ここには妹の私だけでなく、お兄様もいらっしゃるのに…」
ベルリアナの言葉にルルリアナはレオザルト殿下の取り巻きを焦ったように見渡す。ルルリアナには誰が自分の兄なのかわからなかった。
「私、私…。」
ルルリアナの世界がぐるぐると回り始め、自分が何者でどこにいるかさえも定かではなくなる。縋るようにルルリアナが手を伸ばしたのは、リースではなくレオザルトだった。
「ルルリアナ?」
「ルルリアナ様?」
パニックを起こしかけているルルリアナは、レオザルトとリースの呼びかけも聞こえない。ただバクバクとうるさい鼓動に、強烈に襲ってくる吐き気を堪える。
「私は…知ら、ない…」
崩れ落ちるルルリアナの体を支えたのは、レオザルトの力強い腕だった。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる