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前編
しおりを挟む最近、ボクは新しく入って侍女のララリアがお気に入りだ。
薄く輝く銀髪に薄い消えそうな灰色の瞳は、「雪の華様」であるルルリアナ姉さまに髪と瞳の組み合わせが同じだと、喜んだ母親が雇い入れた。
ララリアは愛らしい笑顔を持て、笑うととっても可愛い。
ボクはララリアに優しく起こされ、パジャマから服への着替えを手伝ってもらうんだ。最近は、用意してもらった服を一人で全部着れるようになったけどね。でも、時々、掛け違えたボタンをララリアに直してもらうこともあるけど。
お洒落な二番目のカイル兄さまみたいに、いつか自分で着替える服を選びたいな。
でも、黒いスーツは一着でいいや!だって、黒いスーツなんてとってもつまらないもん。カイル兄さまはクローゼットいっぱいに黒い服を持っているけど、素材やデザインが違うって言うんだ。でも、ボクにはどれも同じに見えるから一着でいいや。
ララリアと手をつないで、朝食の間へと向かう。
朝食の間はボクが好きなロイヤルブルーの壁紙に、白い家具のとっても綺麗な部屋だ。
朝食の間へと向かう途中、激しく剣を打ち合っているカイル兄さまとディラン兄さまがいた。
三人いるお兄さまのうち、ボクはディラン兄さまみたいになりたいな。
ディラン兄さまはとても優しいくて、学校でルルリアナ姉さまを見かけることもあるって教えてくれた。
ディラン兄さまはララリアを見て、眉間にとっても深い皺を寄せて「雪の華様に似てない」と言ったけど、ボクはララリアが別にルルリアナ姉さまに似てなくても関係ないもんね!ララリアはとてもボクに優しいから好きなんだ!
朝食の間には一番上の兄であるノアル兄さまがいて、難しい顔で新聞を読んでいる。ノアル兄さまは兄弟の中で一番優秀で、ボクはよく家庭教師に「なぜノアル様みたいにできないのですか?」って言われるんだけど、ボクは将来ソルティキア公爵になんてならないから関係ないもんね。
「髪色も他の兄弟と違って銀髪ではないから出来が悪いのかしら?」って言った家庭教師もいた。
確かにボクの髪は男の子なのにすっごく淡いピンク色だ。でも、ベルリアナ姉さまだって髪はピンクだからね!
髪はカワイイピンク色でも、ボクはディラン兄さまみたいなかっこいい騎士になるんだ!
でも、最近はドラゴンになりたい!ドラゴンになって、ベルリアナ姉さまをペシャンコに踏みつぶしちゃうぞ!って脅したら、ベルリアナ姉さまはどんな反応をするかな?
ベルリアナ姉さまは「悪い子をするとドラゴンになって、ノアル兄さまたちに退治されてしまうからね」ってボクを脅す。
家庭教師はボクを「頭の悪い子ね」なんて言うから、ボクは本当に悪い子なんだと思う。いつドラゴンになれるかな?
ノアル兄さまの夢は小さいころからソルティキア公爵になることだったんだと思う。だって、ノアル兄さまが遊んでるところを見たことがないし、いつも勉強か仕事をしてる。つまらなくないのかな?もしかしたら、勉強と仕事がノアル兄さまにとっての遊びなのかもしれないな。
ボクがじっと朝食を食べ終えてノアル兄さまを見ていると、ノアル兄さまはボクにデザートのオレンジをくれた。
ノアル兄さまも苺は大好きだから、こうして苺以外のフルーツは時々譲ってくれる。
「ありがとう、ノエル兄さま」
ノアル兄さまは新聞から顔をあげることはなかったけど、ボクの顔を見ると恥ずかしそうに新聞に顔を隠してしまった。ノアル兄さまに限って、恥ずかしくて顔を隠すことなんてないと思うけど。
ノアル兄さまがくれたオレンジを食べていると、ソルティキア公爵であるお父さまが来て、ボクを自分の膝にのせようとするんだ。もうボクは五歳で、子供じゃないのに。
でも、ボクは優しいからお父さまが傷つかないように我慢する。
だって、早く大人にならないでねってお母さまにもお願いされたことだし。
お父さまとノアル兄さまが二人でとても難しい話をしている。
最近、「藤の怪盗」がエギザベリア神国に来たらしいと話している。そして、エギザベリア神国の根源や秘密に関する宝を狙っているみたいだ。
エギザベリア神国の秘密ってなんだろう?
ボクをドラゴンに変えちゃう宝物かな?
それ以外の話はとても難しくて、ちっとも面白くないから、お父さまが読んでる新聞をバサァっとテーブルに押し付けて、朝食の間を後にする。
そのボクの後ろをララリアが付いてくる。ボクが手を差し出すと、ララリアが優しくボクの手を握ってくれるんだ。
今日の午前中は勉強する時間で、大っ嫌いな家庭教師がボクの部屋へとやって来る。
この家庭教師はボクと上の兄弟をよく比べるんだ。
ノアル様は、この頃にはもっと難しい数式を学んでいました。
カイル様は、この頃にはもっと読み書きができました。
チルリアナ様は、この頃にはもっとヴァイオリンが上手く弾けました。
ディラン様は、この頃にはエギザベリア神国の歴史をきちんと頭にいれておいででした。
ベルリアナ様は、この頃はもっと愛らしく素直でした。
もう、そんなセリフは聞き飽きてるんだ!上に五人もいれば、ボクが一番になれるものがなくても不思議じゃないのに。
そういえば、ルルリアナ姉さまと比べられたことは一度もないな…。
ルルリアナ姉さまはどんな子供だったんだろう?ノアル兄さまよりも頭が良くて、カイル兄さまはよりもお洒落で、チルリアナ姉さまはよりも礼儀作法ができて、ディラン兄さまよりも強くて、ベルリアナ姉さまよりも可愛いに違いない!
ボクの頭の中が、目の前の難しい数式からずれていると察した家庭教師がまたプリプリと怒り出す。
そんな中、部屋がノックされお母さまがひょっこりと顔を出す。
勉強を頑張っているボクにご褒美として、マカロンを差し入れに来てくれたみたいだ。
ララリアが淹れた紅茶を飲みながら、大好きなお母さまと一緒にマカロンを食べる。マカロンはストロベリーバタークリームだ。
その時、さっき思った疑問をお母さまにぶつけてみたんだ。
「ルルリア…雪の華様はどんな子供だったの?」
お母さまは紅茶を持つ手に力が入り、紅茶が数滴ドレスにかかってしまった。そして悲しそうに言ったんだ。
「…そうね、雪の華様はどんな子供だったのかしらね?」
お母さまもルルリアナ姉さまがいなくて淋しいなら、連れ戻してくれればいいのに。
午後、苦手なヴァイオリンをララリアと一緒に練習していると、窓から一番上の姉であるチルリアナ姉さまが嫁いだ侯爵家の馬車がやって来るのが見えた。
もうすぐ子供が産まれるらしいチルリアナ姉さまは、兄弟の中で唯一の既婚者だ。だから偉そうだとチルリアナ姉さまよりも上のノアル兄さまが毒づいているのを聞いてしまったことがある。
ベルリアナ姉さまが意地の悪い笑みを浮かべてボクに教えてくれたんだ。ボクはもうすぐおじさんになるらしい。
でもボクは五歳になって大人になったけれど、ディラン兄さまみたいなきちんとした大人じゃないからおじさんになんてなるわけないのに。
本当に、バカなんだから、ベルリアナ姉さまは…。
夜になるとボクはララリアに絵本を読んでもらって、ララリアの子守歌を聞いて眠りにつく。
ボクの生活にはララリアが欠かせなくて、忙しいお母さまに変わって側にいてくれるララリアが本当に大好きだった。
だからボクは疑わなかったんだ。
ララリアがボクを誘拐する悪者だってことを――。
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