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シーズン1

16 ハロウィン③

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 ケリーの家は正に豪邸だった。現代モダン的な白い大きな豪邸だ。まるで美術館みたいなその家は、大きなプールが二つもある。ハロウィンの飾りも本格的で、たくさんのジャックランタンで作られたトンネルまであった。

 そんな豪邸を前にすると、さやえんどうの格好がなんだか呼ばれたピエロのようだ。

「ねぇ。本当にこの格好でケリーのパーティーに行くの?」

「ん?何を不安がってるの?」

「そうだよ。たかがホームパーティーじゃないか」

 ダメだ。この二人に何を言っても無駄なのだ。だって、ザックとジェイクはお金持ち、しかもアメリカで有名なお金持ちなのだ。お金持ち中のお金持ち。ザ・金持ち。何度も言うけど、金持ちなのだ。

「だって…」

「大丈夫だって」

 頭がつながったままのさやえんどうでは私に分が悪い。私は連行される宇宙人の様にザックとジェイクにケリーの玄関の扉まで連行されてしまったのだった。

 ザックが鳴らしたチャイムで、赤毛に黒のボディースーツを着たケリーがお迎えする。顔にはキラキラしたラメでハートが描かれていて、赤いボブのカツラはくるくる巻きのカール付きだ。確か、こんなアニメキャラクターがいたけどなんだったけな?

「よう…こ………」

 ケリーの顔が顰め面へと変わる。こんな表情でも美人だなぁと、私は呑気に考えてしまう。

「私のパーティーにそんなダサい恰好で参加するつもり?いくらザックとジェイクでも許さないわよ」

「じゃあ…帰るか」

 ザックがくるりと急に体を回すものだから、私の首があらぬ方向へと曲がる。

「グェ」

 カエルのような声を出した私にケリーが威圧的に睨む。

「あなたは帰りたくないわよね」

 えっ?どちらかと言ったら帰りたいですけど。だって、少し空いたドアから垣間見えたパーティーはまるでクラブみたいで、おしゃれなのだ。そんな中にさやえんどうの私たちは浮きまくるに決まっているもん。

 中学生のパーティーなのにDJがいて怪しげな音楽をかけていて、ミラーボールはハロウィンカラーのオレンジと紫だ。様々な形のドラキュラが眠る棺桶までズラリと並べられて入れいる。スタッフは黒タイツに蛍光色の光る骨が描かれていて、暗い室内で見ると骸骨が給仕をしているように見えるのだ。

「えっ、私は…帰りt」ギロリとケリー。「たくありません!ぜひ、参加させてください」

「じゃあ、そんな衣装は無理だから早く着替えてきてね」

 ケリーが優雅な仕草で示した先にはずらりと並んだお洒落なハロウィンのコスプレ衣装があった。

「でも、あなた達はこの衣装を着てね。そっちはちょっと…ねぇ!」

 グイっと豆を取るようにケリーが私を鞘から引き抜き、ザックたちとは別の部屋へ押し込まれ「着替えて」と冷たく言い放たれ、ドアを閉められてしまったのだった。

 ケリーに押し付けられた衣装を着て、会場へと向かう。

 そこにはお洒落なアメリカンヒーローの衣装姿のザックとジェイクがいたのだ。ザックはパワースーツで戦う億万長者のアメリカンヒーローで、ジェイクは超人兵士のヒーローだ。

 私はというと…ただのクマの着ぐるみだ。さやえんどうとそう変わらない。

「ケリーの奴、何を考えてるんだか」

 ジェイクの先にはアメリカンヒーローのコスプレを着た人たちを強制的に着替えさせているようで、ここにいるアメリカンヒーローはザックとジェイクしかいない。もしかしたら、ケリーのコスプレもアメリカンヒーローなのかもしれない。

「まぁ、可愛いクマちゃんを引き連れてパーティーのご飯でも楽しみますか」

 ケリーのハロウィンパーティーは飾りだけでなく、料理も豪華だった。しかもハロウィン使用の。

 ミイラのホットドック。
 様々なモンスターのピザ。
 ジャックランタンのホットサンド。
 人の指に見立てたニンジンのスティック。
 スライスしたリンゴにはマシュマロが挟まっていて人の口に見える。などなど。

 見るものすべてがハロウィン使用なのだ。しかも味も一流シェフが作っただけあって美味しかった。

 夢中になって料理を食べていると、パーティーに参加している人々の中に双子がいることに気が付いた。

 双子はケリーに招待状を貰っていないはずなのに、どうして参加できたのだろうか?

 確か、ドラマでこの場面に似たエピソードがあったなぁ…。

 ケリーのハロウィンパーティーに呼ばれなかった双子が、ハーティーに紛れ込むといった話だった。そして、パーティーに呼ばれなかった悔しさの仕返しでケリーのハロウィンパーティーのお化け屋敷を本物のお化けがいるお化け屋敷へと変えるという話だったような…。

 もぐもぐと食べ物を食べながらドラマの内容を一生懸命思い出していると、大音量の音楽がかかっているにも関わらず絹を裂くような悲鳴が響き渡る。

「ぎゃああああああああああああああああ!」

 どうやら双子はドラマのエピソード通りにケリーのお化け屋敷を本物の化け屋敷にしてしまったらしい。

 だって、目の前にはいつものクスクスと笑う双子がいたのだから。
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