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プロローグ

6 ランゲージエクスチェンジ

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6、ランゲージエクスチェンジ

 ピカニャン仲間の男の子は名前をジェイクという名前だった。

 そのジェイクと私は、地元のハンバーガーが美味しいと評判のカフェに来ていた。

 そのハンバーガー店の内装はいかにもアメリカンな感じで、私は気に入った。チェス盤のようなモノクロの床に白い壁紙と一見地味だが、家具がカラフルで見ていて楽しいのだ。カウンターの棚はド派手な赤で、椅子も目にまぶしい赤と黄色だ。カウンターの椅子に緑が混ざっているのがいい感じに差し色となっている。

 私はお店のおすすめのバーガーを頼むことにした。飲み物は無難にコーラだ。

 しかし、出てきたサイズは普通とは違った。日本のサイズにすると三人前は余裕であるのだ。出てきたコーラもバケツかと思うほど大きい。

 私がげんなりしているとジェイクが笑って、スタッフに半分にしてと頼んでいる。

 ジェイクが注文したのも私と同じだったが、ジェイクはぺろりと私の分も平らげていた。

 もごもごとお礼を言うとジェイクは爽やかに笑って気にするなと告げた。

 私の知っているアメリカ人の男の子は、あの極悪非道のザックだけだったので、私の中のアメリカ人のイメージがジェイクのおかげに一気にいい方向へと傾く。

 私の青い首元空きリブニットと白のデニムのロングスカートという服装も、さりげなく自然に褒めてくれたのだ。

実に紳士である。

 やはり、ザックが最低なだけだったのだと。

 私たちは1時間ごとに英語と日本語を教えあうことにした。

 ランゲージエクスチェンジとはお互いがお互いの先生となって、言語を教えあうことを言う。

 英語が学びたい私にジェイクが英語を教え、日本語を学びたいジェイクに私が日本語を教えるということだ。

 私は言語学校で出された「7分間のプレゼン」の原稿資料を取り出し、ジェイクに発音やおかしな文を直してもらう。

 プレゼンの内容は何でもよく、私は「ツノガエル」についてプレゼンすることにしたのだ。

 私以外の日本人が日本の文化や観光地についてプレゼンすると言っていたので、個性を出したくて最近ペットになった「ツノガエル」をテーマにしたのだ。

 ツノガエルの写真を嫌がる人がいるかなぁと思い、絵が得意な親友の一人にツノガエルのイラストをポップに可愛らしく描いてもらったのだ。

 そのイラストで日本らしさが倍増だ!アニメ調に描かれたキラキラおめめのツノガエルはとても可愛らしい。

 ジェイクは文法よりも、お菓子しか食べないカエルがいるのかと半信半疑だった。

 ジェイクは文章や発音だけでなく、プレゼンに使用するスライドまで手伝ってくれた。

 なんでも、アメリカの授業でよくプレゼンをしておりスライド作りは得意とのことだった。

 一時間経過し、ジェイクの番になった。

 しかし、ジェイクはピカニャンのコミックを持ってくるのを忘れたということで、何を教えたらいいのかわからずやや気まずい雰囲気になってしまう。

 私はひたすらバケツみたいなコーラを飲む。

 「コーラでお腹いっぱい」と話題を提供するつもりだけだったのに、ジェイクに怒られる。

「コーク」

 ジェイクに続いて「コーク」と発音する。

 ジェイクが首を振り、またコークという。

 私も再びジェイクの後にコークと発音する。

 ジェイクの顔がほんのり赤くなる。

 なぜ?

 しばらく発音を矯正され、ようやくジェイクも納得する。

 あれ?私が先生の番なのに。解せぬ。

「日本ってイギリス式の英語教えるの?」

「イギリスとアメリカも同じ英語でしょ?」

「ん~、同じ英語だけど発音が違うのあるんだよね」

「例えば?」

「キミはビタミンをヴィタミンって発音したけど、アメリカだとヴァイタミンって発音するんだ」

「へ~」

「あと、チョコレートのゴディバはゴダイバだし、カラオケはカラオキだし。探せばいっぱいあるよ」

「カラオケは日本語なのにカラオキなの?」

「それを言ったら僕らはUSAなのにアメリカって呼ぶでしょ。言っとくけど、カナダ人の中にはUSAをアメリカって呼ばれるの嫌がる人もいるから気を付けた方いいよ」

 ジェイクは不機嫌に私に教えてくれる。

 カナダもアメリカ大陸のだからだそうだ。

 異文化とは難しいなぁ。

 私はハンバーガーの残ったソースにフライドポテトじゃなかった、フレンチフライズにつけて食べる。うまうまと食べていたら、私は大切なことを思い出してしまった。

 カナダ出身のイケメン俳優がこのドラマに出演していたということを。

 どうして今まで忘れていたのだろうか。

 根元が暗くて毛先に行くほど明るくなるグランデーションの金髪に、やや細めのすっきりした美しい青い瞳、世界一のイケメンと表された美少年。

 うん、間違いない。

 この人はメインヒーローであるザックの大親友役で、サブヒーローのジェイク・ロベルオスキー本人だ。

 私は何ていう人とナチュラルに知り合ってしまったんだ。

 急にげっそりとした私を、ジェイクが紳士的に気遣い解散となった。



 私はその夜、カラフルなチョコを盗み食いしようとするツノガエルに向かって相談する。

 カエルしか相談相手がいないなんて、世も末である。

 ちなみに私の部屋は、少しでも可愛らしく快適に過ごせるようにと模様替えを行っていた。

 あの忌々しいベッドシーツは白いレース柄の物に代わっており、天井には可愛らしい赤とピンクの大小異なったお花ボンボンがぶら下がっていて、クローゼットにはボンボンに合わせた赤とピンクのフラッグが飾られている。天井も気分が上がるように薄い赤とピンクのチェック柄だ。

 ベッドの上に体育座りして、カエルを両手に乗せて視線を合わせる。

「ねぇ、どう思う?ジェイク役の俳優さんはね、確かシーズン1中に交通事故で亡くなってしまうの。その現実ってどこまでこのドラマに影響を与えると思う?あの双子だって、ドラマだともっといい子であんなクソガキじゃないはずなんだよ。双子を演じた女優さんは私生活ではあまり評判がいいとは言えなかったんだよね。もしも、もしもね、現実世界の俳優さんがこのドラマのキャラにも影響を与えているとしたら…。ジェイクも俳優さんと同じく交通事故で亡くなると思う?」

 ツノガエルは私が真剣に相談しているというのに、私の手から抜け出してはチョコを食べようと舌を伸ばす。

「ちょっと真剣に相談してるのに!」

 ツノガエルの赤い瞳は、チョコをくれるなら真剣に話を聞いてやろうと言っているように見える。

「お前は本当にカエルなの?それとも呪いでカエルに変えられた双子の母親なの?」

 ツノガエルにいつまでもカエルと呼び掛けているのも、飼い主として何かが欠けている気がして名前を付けようと思いつく。

「アプリコットツノガエルだから…。ん~、ジャムなんて名前はどうかな?」

 カエルはゲコゲコと鳴くだけだ。

 何となく不服だと言っている気がする。

「気に入らないの?気に入らないなら日本語か英語で言ってくださる?残念ながら私が理解できるのは日本語と、ほんの少しの英語だけなのでね。ゲコゲコ語はよくわかりませ~ん!」

 カエルはムッと口を曲げて、ぴょんと飛び降りて水槽へと戻ってしまった。

 そして、いつの間にか私のチョコレートはなくなっていた。

 いったいいつ食べたんだ?

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