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episode.9 弾圧②
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カリーナが不在の間、カポ代理としてカルロにファミリーの全てが任されていた。つまりは三日間限定で、カルロが実質的なテレジオファミリーのカポなのだ。
カルロは屋敷に戻ると頼んでいた資料全てに目を通し、細やかな指示を出していく。その片手間で聞いたカポ・レジーム達の保守的な会議結果に頭を抱え、「馬鹿は休み休み言え」と一喝する。そしてすぐにサッキーニとスタンフォードの暗殺計画を練りだした。
第二次世界大戦以降、マフィアは近代化を進めていた。古いマフィアのカポは殺しや暴力は自らの権威を落とすことだと忌避していたが、コーサ・ノストラと繋がった一九五十年代以降の近代マフィアは、麻薬や売春、殺しすら厭わない連中だった。
カリーナの父親であるマッテオもこの類からもれない思考であったが、カリーナは麻薬の密売こそすれど、売春と殺し──特に司法関係者の殺害──はご法度としている。
大きな理由としては、昨年の一九八二年九月に起きた、マフィアによるパレルモ知事銃殺事件を発端とする、マフィアと政府の確執がある。
さらには今年七月にパレルモ判事の殺害もあり、本土では反マフィア法案の可決が急がれていた。今後マフィアへの取締りが厳しくなるのは目に見えており、そんな中で出来るだけ政府を刺激する行動をしたくないという思いがあるのだろう。
何よりも本来のマフィアとは、政府に【寄生】する生き物だ。政界と癒着し、国家そのものを占拠することを目指す。暴力集団ではなく、権力の行使と富の追求を目的として立ち上げられた歴史がある。
彼らの武器は脅迫であり、暴力は最終手段だ。それなのに近代マフィアは公然と殺しを行っており、カリーナはこの野蛮さを嫌っていた。
とは言え、裏切り者への制裁を行わければテレジオファミリーの権威が落ちてしまう。逆らうことを許されない、島民にとっても絶対の存在であることがマフィアの権力に繋がるのだ。
テレジオファミリーの権威が落ちている今だからこそ、一刻も早くスタンフォードを見せしめとして殺すべきだというカルロと、どうにか別の方法で制裁を加えるべきというカリーナで意見が割れていることは、ロレンツォも知っていることだった。
これまでカリーナを説得することが出来なかったカルロにとって、カリーナ不在の間にスタンフォードとサッキーニが動いたことは、ある意味好都合だった。彼はカリーナへの報告を遅らせ、この機会に二人を殺す気でいる。
この思惑にカポ・レジームのほとんどがカリーナの意思に反すると抗議し、ファミリーはカリーナ派とカルロ派で分断されつつあった。
これに懐疑的なのがベルナルドだ。渋い顔で「カルロらしくない」と呟く横顔は、疑念に彩られている。
「らしくないって何がだよ」
この頃にはカルロかベルナルドの酒に付き合うことが習慣となっていた。
悪巧みに忙しいカルロは今だ仕事をしている為、今夜は近くの酒屋で安い酒を呷っている。
屋敷は丘の上にある為、ロレンツォはわざわざ街まで降りてきていた。客の半分をテレジオファミリーの構成員が占める店の奥で、二人は向き合って酒を交わしている。
考え事に没頭していたベルナルドは、言葉にしていたのかと驚いた顔を持ち上げた。店内は話もままならない程うるさいが、ベルナルドは用心深く周囲を見渡し、ロレンツォ以外には聞こえないよう声をひそめた。
「いや、ただ引っかかってるだけなんだが……カルロの話は聞いてるか? スタンフォードとサッキーニへの報復の話だ」
「そらあ、屋敷中その話で持ち切りだからな」
「カリーナ第一主義のあいつが、カリーナが戻ってきた後もカリーナ派とカルロ派で揉める遺恨を作るとは思えねえ。カリーナが不在なのも、この前と違ってたったの三日だけだ。いつものあいつならこの期間はサッキーニへの監視を強めることや牽制で終わらせそうなもんなのに、なんでわざわざ事を荒立てる方法を選ぶ。これじゃあまるで、今すぐスタンフォード達を殺したい理由があるか、ファミリーの中を引っ掻き回したいみてえだろう」
「それに」とベルナルドが続ける。手に持ったグラスを眺める姿は、ロレンツォに話して聞かせるというより、自分の中で考えを整理する様にも見えた。
「お前も言ったが、屋敷中がスタンフォード暗殺を知ってる。それもほとんど部外者のお前まで知ってる始末だぜ? 要人の殺しには慎重にならねえといけないこの時期で、下っ端共まで知ってるってのはどういうことだ。しかもカリーナとロレンツォの話じゃ、スタンフォードがファミリーの中に裏切り者を飼ってるらしいじゃねえか。裏切り者を探すつもりだとしても、こんなあからさまな餌じゃ、よっぽどの馬鹿じゃない限り食いつかねえよ」
一気に言い募ったベルナルドは、何かを流し込むようにワインを呷る。
ベルナルドの疑問はもっともだった。カルロの尽力により、ファミリーからは徹底的に反カリーナ派がいなくなっている。そんな中でカリーナの意思に反することをしたところで、カルロが槍玉にあげられるだけだ。そうしてそれは、現在のファミリー内では特大級の爆弾になりかねない。
あの腹黒がまたよからぬことを考えているのは確かだろうが、それが何かまではわからなかった。
ロレンツォは考えることをやめると、手元のワインを一口舐める。
「カルロが何考えてるかどうでもいいっての。俺はカリーナの首さえ取れるなら、誰が裏切り者だろうが、カルロの血の色が緑色だろうが興味はねえよ」
「お前は楽観的でいいな……」
哀れなものを見る目をされ腹が立つ。
だがベルナルドは空になったグラスをこれみよがしに振ると、酒を頼めとばかりにバーカウンターを見た。
よく見ればテーブルの上のワインボトルはすでに空だ。つくづくこの細い体のどこに、大量のアルコールが消えているのかと不思議になる。
「ワインは頼んで来てやるが、お前も程々にしろよ」
「は? もう帰る気かよ。カリーナもいないしどうせ暇なんだろ。もう少しくらい付き合えっての」
「ベルナルドに付き合ってたら肝臓がいくつあっても足りねえっての。つか流石に飲みすぎじゃねえか?」
「こんくらい飲んだうちに入らねえよ」
そうは言うが、昼間から数えればワインボトル二本分程の酒が彼の胃には消えている。
この国では酔っ払うのは見苦しいとされているので、大人は自分の許容量をきちんと理解した上で酒と付き合う。
もちろんベルナルドもそうで、彼が酷く酔っ払ったところなど一度も見たことがない。つまり本当に、この男は底なしのザルなのだ。
呆れ半分でワインを頼んでやる。それから簡単に挨拶を交し帰路についた。
僅かに火照った頬を、乾いた風が撫でる。酔いを覚ます意味も込め、今夜は少しばかり遠回りして帰ることにした。
夏の盛りを迎えたこの時期は、二十一時を過ぎてようやく陽が沈む。昼間は容赦なく照りつける太陽光のせいで出歩く人も少ない。この時間になってようやくリストランテ等に向かう人々を見るくらいだ。
本土では海辺のリゾート地が華やぐ季節であり、普通のありふれた街では、住民が別荘などにバカンスへ行くため閑散としているらしい。だがステラルクス島は本土の南西に位置している為、まだ過ごしやすい気候であることや、島外に出ることを嫌う島民が多い為、街が閑散とすることはあまりなかった。
夜のラクリマは、常こそテレジオファミリーの構成員が溢れている。とは言っても昼にはサッキーニの騒ぎがあったばかりだからか、いつもより構成員の数は少ない。それどころか警察とマフィアの衝突を恐れ、出歩く住民の姿も少なかった。
ほとんど人通りがない商店街の裏道を進む。月明かりのみに照らされる通りは、驚く程シンと静まり返っていた。
そのとき、何かの異変を感じ取った。隣の家屋は雨戸が閉められ、一切の明かりが漏れては来ない。だが確かに一瞬、周囲を忍ぶ物音が聞こえたのだ。
ロレンツォは昔から勘が鋭かった。生きる為に自然と研ぎ澄まされたそれは、野生の本能とも言える。その本能が、他者を遮る雨戸と、静かにそびえ立つ古い建物に何かがあると訴えた。
近くの建物の影に隠れると、ジイと件の家屋を見つめる。開かずの裏戸を数分程監視し続ければ、ある時遠慮がちに裏戸が開かれた。
出てきたのは一人の構成員を連れたカルロだった。
どうして彼がこんな所に。しかも人目を気にするよう、周囲を伺っているのか。
ゴクリと喉を鳴らす間に、カルロは悠然とした足取りで屋敷の方へ歩いていく。
カルロを追いかけるべきか、家屋の中を改めるべきか、それともここに留まるべきか。
少しだけ悩み、留まることを選ぶ。カルロ相手に自分の下手くそな尾行が通用するとは思えないし、もしかしたら中にはまだカルロの部下がいるかもしれない。だからもう少しここに隠れ、何事もなかったかのごとく屋敷へ帰るべきだ。
そう思っていれば、数分遅れてまた裏戸が開かれる。次に出てきた男を見て、あっと声がもれそうになった。
現れたのはスタンフォードだ。いかに遠目だろうが、あの小憎たらしい顔を見間違えるわけがない。
こちらに向かって歩いてくるスタンフォードに慌てる。急いで建物の影に隠れれば、スタンフォードはロレンツォに気づくことなく通り過ぎっていった。
しばらくその場から動けないまま地面を凝視する。混乱する頭では今見たばかりのものを理解出来ないでいた。
テレジオファミリー内にスタンフォードの手駒がいる。そう言ったスタンフォード自身が、人目をはばかりカルロと会っていた。
つまりどういうことだ? あのカルロが、過保護なアンダーボスが、カリーナを裏切っているということか?
スパイとしてスタンフォード側に潜り込んでいる可能性もゼロではないが、アルベルトの裏切りを根に持っているカリーナが、構成員とスタンフォードの接触を許すわけがない。何よりあのスタンフォードが、カルロという爆弾を身のうちに抱えるだろうか?
だがカルロとスタンフォードが繋がっていたと仮定する。そしてカルロがその繋がりを持て余し始めたらどうだ?
スタンフォードの存在が邪魔になり、一刻も早く彼を始末したいが為に暗殺を企てているのだとしたら辻褄があう。
ゾッと首の裏に嫌な汗が流れた。最悪な繋がりが存在する可能性に、心臓が早鐘を打ち始める。
カルロは屋敷に戻ると頼んでいた資料全てに目を通し、細やかな指示を出していく。その片手間で聞いたカポ・レジーム達の保守的な会議結果に頭を抱え、「馬鹿は休み休み言え」と一喝する。そしてすぐにサッキーニとスタンフォードの暗殺計画を練りだした。
第二次世界大戦以降、マフィアは近代化を進めていた。古いマフィアのカポは殺しや暴力は自らの権威を落とすことだと忌避していたが、コーサ・ノストラと繋がった一九五十年代以降の近代マフィアは、麻薬や売春、殺しすら厭わない連中だった。
カリーナの父親であるマッテオもこの類からもれない思考であったが、カリーナは麻薬の密売こそすれど、売春と殺し──特に司法関係者の殺害──はご法度としている。
大きな理由としては、昨年の一九八二年九月に起きた、マフィアによるパレルモ知事銃殺事件を発端とする、マフィアと政府の確執がある。
さらには今年七月にパレルモ判事の殺害もあり、本土では反マフィア法案の可決が急がれていた。今後マフィアへの取締りが厳しくなるのは目に見えており、そんな中で出来るだけ政府を刺激する行動をしたくないという思いがあるのだろう。
何よりも本来のマフィアとは、政府に【寄生】する生き物だ。政界と癒着し、国家そのものを占拠することを目指す。暴力集団ではなく、権力の行使と富の追求を目的として立ち上げられた歴史がある。
彼らの武器は脅迫であり、暴力は最終手段だ。それなのに近代マフィアは公然と殺しを行っており、カリーナはこの野蛮さを嫌っていた。
とは言え、裏切り者への制裁を行わければテレジオファミリーの権威が落ちてしまう。逆らうことを許されない、島民にとっても絶対の存在であることがマフィアの権力に繋がるのだ。
テレジオファミリーの権威が落ちている今だからこそ、一刻も早くスタンフォードを見せしめとして殺すべきだというカルロと、どうにか別の方法で制裁を加えるべきというカリーナで意見が割れていることは、ロレンツォも知っていることだった。
これまでカリーナを説得することが出来なかったカルロにとって、カリーナ不在の間にスタンフォードとサッキーニが動いたことは、ある意味好都合だった。彼はカリーナへの報告を遅らせ、この機会に二人を殺す気でいる。
この思惑にカポ・レジームのほとんどがカリーナの意思に反すると抗議し、ファミリーはカリーナ派とカルロ派で分断されつつあった。
これに懐疑的なのがベルナルドだ。渋い顔で「カルロらしくない」と呟く横顔は、疑念に彩られている。
「らしくないって何がだよ」
この頃にはカルロかベルナルドの酒に付き合うことが習慣となっていた。
悪巧みに忙しいカルロは今だ仕事をしている為、今夜は近くの酒屋で安い酒を呷っている。
屋敷は丘の上にある為、ロレンツォはわざわざ街まで降りてきていた。客の半分をテレジオファミリーの構成員が占める店の奥で、二人は向き合って酒を交わしている。
考え事に没頭していたベルナルドは、言葉にしていたのかと驚いた顔を持ち上げた。店内は話もままならない程うるさいが、ベルナルドは用心深く周囲を見渡し、ロレンツォ以外には聞こえないよう声をひそめた。
「いや、ただ引っかかってるだけなんだが……カルロの話は聞いてるか? スタンフォードとサッキーニへの報復の話だ」
「そらあ、屋敷中その話で持ち切りだからな」
「カリーナ第一主義のあいつが、カリーナが戻ってきた後もカリーナ派とカルロ派で揉める遺恨を作るとは思えねえ。カリーナが不在なのも、この前と違ってたったの三日だけだ。いつものあいつならこの期間はサッキーニへの監視を強めることや牽制で終わらせそうなもんなのに、なんでわざわざ事を荒立てる方法を選ぶ。これじゃあまるで、今すぐスタンフォード達を殺したい理由があるか、ファミリーの中を引っ掻き回したいみてえだろう」
「それに」とベルナルドが続ける。手に持ったグラスを眺める姿は、ロレンツォに話して聞かせるというより、自分の中で考えを整理する様にも見えた。
「お前も言ったが、屋敷中がスタンフォード暗殺を知ってる。それもほとんど部外者のお前まで知ってる始末だぜ? 要人の殺しには慎重にならねえといけないこの時期で、下っ端共まで知ってるってのはどういうことだ。しかもカリーナとロレンツォの話じゃ、スタンフォードがファミリーの中に裏切り者を飼ってるらしいじゃねえか。裏切り者を探すつもりだとしても、こんなあからさまな餌じゃ、よっぽどの馬鹿じゃない限り食いつかねえよ」
一気に言い募ったベルナルドは、何かを流し込むようにワインを呷る。
ベルナルドの疑問はもっともだった。カルロの尽力により、ファミリーからは徹底的に反カリーナ派がいなくなっている。そんな中でカリーナの意思に反することをしたところで、カルロが槍玉にあげられるだけだ。そうしてそれは、現在のファミリー内では特大級の爆弾になりかねない。
あの腹黒がまたよからぬことを考えているのは確かだろうが、それが何かまではわからなかった。
ロレンツォは考えることをやめると、手元のワインを一口舐める。
「カルロが何考えてるかどうでもいいっての。俺はカリーナの首さえ取れるなら、誰が裏切り者だろうが、カルロの血の色が緑色だろうが興味はねえよ」
「お前は楽観的でいいな……」
哀れなものを見る目をされ腹が立つ。
だがベルナルドは空になったグラスをこれみよがしに振ると、酒を頼めとばかりにバーカウンターを見た。
よく見ればテーブルの上のワインボトルはすでに空だ。つくづくこの細い体のどこに、大量のアルコールが消えているのかと不思議になる。
「ワインは頼んで来てやるが、お前も程々にしろよ」
「は? もう帰る気かよ。カリーナもいないしどうせ暇なんだろ。もう少しくらい付き合えっての」
「ベルナルドに付き合ってたら肝臓がいくつあっても足りねえっての。つか流石に飲みすぎじゃねえか?」
「こんくらい飲んだうちに入らねえよ」
そうは言うが、昼間から数えればワインボトル二本分程の酒が彼の胃には消えている。
この国では酔っ払うのは見苦しいとされているので、大人は自分の許容量をきちんと理解した上で酒と付き合う。
もちろんベルナルドもそうで、彼が酷く酔っ払ったところなど一度も見たことがない。つまり本当に、この男は底なしのザルなのだ。
呆れ半分でワインを頼んでやる。それから簡単に挨拶を交し帰路についた。
僅かに火照った頬を、乾いた風が撫でる。酔いを覚ます意味も込め、今夜は少しばかり遠回りして帰ることにした。
夏の盛りを迎えたこの時期は、二十一時を過ぎてようやく陽が沈む。昼間は容赦なく照りつける太陽光のせいで出歩く人も少ない。この時間になってようやくリストランテ等に向かう人々を見るくらいだ。
本土では海辺のリゾート地が華やぐ季節であり、普通のありふれた街では、住民が別荘などにバカンスへ行くため閑散としているらしい。だがステラルクス島は本土の南西に位置している為、まだ過ごしやすい気候であることや、島外に出ることを嫌う島民が多い為、街が閑散とすることはあまりなかった。
夜のラクリマは、常こそテレジオファミリーの構成員が溢れている。とは言っても昼にはサッキーニの騒ぎがあったばかりだからか、いつもより構成員の数は少ない。それどころか警察とマフィアの衝突を恐れ、出歩く住民の姿も少なかった。
ほとんど人通りがない商店街の裏道を進む。月明かりのみに照らされる通りは、驚く程シンと静まり返っていた。
そのとき、何かの異変を感じ取った。隣の家屋は雨戸が閉められ、一切の明かりが漏れては来ない。だが確かに一瞬、周囲を忍ぶ物音が聞こえたのだ。
ロレンツォは昔から勘が鋭かった。生きる為に自然と研ぎ澄まされたそれは、野生の本能とも言える。その本能が、他者を遮る雨戸と、静かにそびえ立つ古い建物に何かがあると訴えた。
近くの建物の影に隠れると、ジイと件の家屋を見つめる。開かずの裏戸を数分程監視し続ければ、ある時遠慮がちに裏戸が開かれた。
出てきたのは一人の構成員を連れたカルロだった。
どうして彼がこんな所に。しかも人目を気にするよう、周囲を伺っているのか。
ゴクリと喉を鳴らす間に、カルロは悠然とした足取りで屋敷の方へ歩いていく。
カルロを追いかけるべきか、家屋の中を改めるべきか、それともここに留まるべきか。
少しだけ悩み、留まることを選ぶ。カルロ相手に自分の下手くそな尾行が通用するとは思えないし、もしかしたら中にはまだカルロの部下がいるかもしれない。だからもう少しここに隠れ、何事もなかったかのごとく屋敷へ帰るべきだ。
そう思っていれば、数分遅れてまた裏戸が開かれる。次に出てきた男を見て、あっと声がもれそうになった。
現れたのはスタンフォードだ。いかに遠目だろうが、あの小憎たらしい顔を見間違えるわけがない。
こちらに向かって歩いてくるスタンフォードに慌てる。急いで建物の影に隠れれば、スタンフォードはロレンツォに気づくことなく通り過ぎっていった。
しばらくその場から動けないまま地面を凝視する。混乱する頭では今見たばかりのものを理解出来ないでいた。
テレジオファミリー内にスタンフォードの手駒がいる。そう言ったスタンフォード自身が、人目をはばかりカルロと会っていた。
つまりどういうことだ? あのカルロが、過保護なアンダーボスが、カリーナを裏切っているということか?
スパイとしてスタンフォード側に潜り込んでいる可能性もゼロではないが、アルベルトの裏切りを根に持っているカリーナが、構成員とスタンフォードの接触を許すわけがない。何よりあのスタンフォードが、カルロという爆弾を身のうちに抱えるだろうか?
だがカルロとスタンフォードが繋がっていたと仮定する。そしてカルロがその繋がりを持て余し始めたらどうだ?
スタンフォードの存在が邪魔になり、一刻も早く彼を始末したいが為に暗殺を企てているのだとしたら辻褄があう。
ゾッと首の裏に嫌な汗が流れた。最悪な繋がりが存在する可能性に、心臓が早鐘を打ち始める。
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