明日君を殺せるならば、ハッピーエンドで終われるのに

鴇田とき子

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episode.6 背信④

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 取引はカルロが用意した豪華客船の中で行われる。ステラルクスから出航した船は、島や本土の金持ちを乗せて、海上で一夜の馬鹿騒ぎを起こす。そうして日が昇る頃には本土へと向かう手筈になっていた。その際に商品も、彼らを買ってくれた本土の客達と一緒に降りていく。
 このビジネスはシチリアマフィアと共同経営をしている。テレジオファミリーが商品を用意し、シチリアマフィアが客を用意する。面倒なこの手順を踏む理由は、テレジオファミリーが本格的に本土への商売を広げるための足がかりだと説明していた。 
 客の大半はこの裏取引を知らない、慈善パーティーという名目で集めた金持ちだ。プールで鼓膜を破るほどデカいクラブミュージックを流し、ドラッグと酒に溺れ、乱れ狂う彼らはとても上流階級には見えなかった。犯罪者が取り仕切るパーティーでは、地上で取り繕っている仮面など必要ないのだろう。
 船内は三層にわかれており、船上にプールやバーなどの娯楽室、その下が客室、さらに下が、今回取引を行う客や本土の組織用の部屋としてあてがっている。
 計画の為とは言え、部屋で行われているだろう光景に虫唾が走った。今すぐ客達を一人ずつ殺して回りたくなったが、奥歯を噛みしめてなんとか堪える。
 カルロは意を決するとある部屋に向かう。そこではパネッタと、取引先のボス──チェルレッティが商談中だった。

「ご歓談中申し訳ありません、シニョーレ。少しよろしいでしょうか」

 狭い船室で、彼らはワインを飲みながら談笑していた。この二人は古い知り合いで、同じ病気持ちだ。
 チェルレッティはカルロを見ると、機嫌よく笑った。

「ああ、カルロか。問題なく取引が進みそうで良かったよ」
「全てはシニョーレのお力添えがあったからですよ。そこでシニョーレへのささやかなお礼として用意した、特別な品があるのですが、今からご紹介させていただいてもよろしいでしょうか」

 ことさら深く笑いかけると、扉の側にいた構成員へと合図を送る。深く頷いた彼は、一人の男と共に戻ってきた。
 殺意に淀んだ目でチェルレッティ達を睨むのは、乙女のごときかんばせの男だ。彼はその愛らしい顔に、嫌悪で歪んだ笑みを浮かべた。

「久しぶりじゃねえか、クソジジイ共」
「ベルナルド……?」
「彼は今ではうちのカポ・レジームなんですが、昔はシニョーレのお気に入りだったと聞きまして、この場に連れて来たんです」
「なっ、どういうことだ、カルロ!」

 これはパネッタの叫びだった。怯えた様子で怒鳴る彼に、部屋の中がシンと静まり返る。
 カルロはとぼけたように肩をすくめ、パネッタを見下ろす。

「言ったろう、この場でのベルナルドはただの商品だよ。昔に戻っただけで、アンタが怒ることなんて何もないさ。こいつを説得する・・・・のは大変だったんだから、むしろ俺の苦労を労って欲しいくらいだね」
「だからってこんな話、私は聞いてないぞ! 無断でベルナルドを商品にするなんて許すものか!」
「だってさ、モテる男は辛いね」
「……好きに言ってろ」

 カルロすら淀んだ目で射抜く彼へ、「怖いなあ」とうそぶく。
 チェルレッティは頬を緩めてはいたが、生憎ベルナルドは好みの範囲・・・・・から外れてしまったらしい。想像よりも淡白な反応に、一応は安心した。

「やあ、久しぶりだな、ベルナルド。ずいぶんと大きくなったじゃないか。お前と会うのは何年ぶりだ?」
「はは、そんな悲しそうな顔するんじゃねえよ。俺がなんも知らねえ、馬鹿で無知で好きなようにいたぶれるガキじゃなくなったのがそんなに残念か?」

 青筋を浮かべ、怒りに狂った笑みで唾を吐きかける。
 まさかベルナルドが煽るとは思わずに驚く。いや、そんな虚勢をはる必要があったのか。
 間違いないのはこの言葉がチェルレッティを怒らせたことだ。チェルレッティは表情を消すと、握った拳で躊躇いなくベルナルドを殴り飛ばした。
 テーブルで背中を強打した彼に悲鳴をあげたのはパネッタだ。どうして関係のないお前が騒ぐのだと笑い出しそうになる。
 体を丸め、痛みをこらえるベルナルドの髪をチェルレッティが鷲掴みにした。無理矢理に頭を持ち上げ、苦痛に歪んだベルナルドと額をつき合わせる。

「残念だ、ベルナルド。会わない間に俺の教育も忘れてしまったのか。お前がどういう人間か、もう一度骨の髄までわからせてやる必要があるな」
「ぐ、うッ……!」
「や、やめてくれ、チェルレッティ! どうか彼を許してくれ!」

 情けなくすがりつくパネッタには、もはやコンシリエーレとしての風格はなかった。取り繕う様子もなく、懇願する目でカルロを仰ぐ。

「カルロ、頼む! 君からもベルナルドを許すよう言ってくれ!」
「そう言われてもなあ。俺、アンタのこと嫌いだし。ベルナルドのこと連れてきたのも、ぶっちゃけアンタへの嫌がらせなんだよね」

 小さく囁けば、パネッタの瞳が絶望に染まる。その顔を見たかったんだと、無意識のまま笑ってしまった。
 そのとき背後からなにかが駆けてきた。おや、と思えば、それ・・はカルロの前で飛び跳ねる。
 つい最近までスーツに着られていると言った感じだったのに、今ではすっかりと仕立て服が似合う男になっていた。田舎臭かった所作が削ぎ落とされ、回し蹴りすら品がある。これもそれもカリーナの教育の賜物だ。
 男──ロレンツォ・ゴッティの怒りに満ちた蹴りは、綺麗にチェルレッティの側頭部を捉えた。カエルに似た悲鳴をあげチェルレッティが倒れる。この様子にベルナルドは唖然としていた。

「まったく、野蛮だなあ。ロレンツォは」
「てめえにだけは言われたくねえっての」

 これじゃあ予定が台無しだと溜め息をつく。だがロレンツォはまだ気が済まないのか、チェルレッティの股間を力任せに踏みつける。これにはその場にいた全員が目を覆った。

「グあアアッ──!」
「騒ぐな、ぺド野郎。犯罪者でも侵しちゃならねえ領分ってものがあるだろうが。それをガキを商品だなんだと胸糞悪い呼び方しやがって。子供を守るのが大人の役目だって常識も知らねえのか」

 かかとをグリグリと揺らし、青ざめるチェルレッティに笑いかける。その様子は暴力を楽しんでいるように見えた。何度見ても、天真爛漫で快活だったあの男の弟は思えないほど狂った男だ。
 これにはさすがのベルナルドも想像していなかったようで、溜め息をつくと「おい」と睨まれた。
 「全部終わったらお前を殴らせろって約束だったけどな」とベルナルド。不穏な空気が満ちる。案の定彼は、座った目でカルロに笑いかけてきた。

「ロレンツォの馬鹿見てたら気が変わった。やっぱり今すぐ殴らせろ」
「ちょ、仲良くしよう、ね?」

 とってつけた笑顔には、可憐な笑みが返される。「歯あ食いしばれよ」と宣言してくれたのは、ベルナルドなりの優しさだろう。
 体重の乗った拳に殴り飛ばされたカルロを、控えていた構成員達が受け止めた。心配する彼らには、だが自業自得だという雰囲気が滲んでいる。実際「やりすぎなんですよ、アンダーボスは」とお説教までされたくらいだ。

「ッたあー、本当に遠慮なく殴ったな……! ちゃんと了承を取ったのに理不尽だろう!」
「何が理不尽だ。そもそも俺は最後まで嫌だつってたろうが」

 そう言って怒られるが、ベルナルドの顔は血の気が失せている。それを見て、確かに荒療治すぎたかと反省した。
 元々チェルレッティは、児童ポルノと売春、ついでにマフィアではご法度の同性愛の証拠をベルナルドに掴ませ、それを持って追い込む算段であった。これにベルナルドは最後まで嫌がっていたが、それらしい画を撮ったら、あとはボコボコに殴り倒していいと言って説得したのだ。
 もちろん寸前でカルロも止めに入るつもりであった。むしろカルロとしては、ベルナルドがチェルレッティに、これまでの恨みつらみを晴らすことの方が主の目的だったのだ。
 過去に受けた暴力は本人が暴力として返さない限り、その傷が癒えることは一生ない、というのがカルロの考え方だ。
 どれだけ権力を手に入れても、力を手に入れても、幻影の加害者に囚われたまま逃げ出せない。
 そんな子を側で見続けて知っているからこそ、ベルナルドには自分がすでに奪われるだけの弱者でないと、改めて確認する場を与えてやりたかった。例えそれが完全なる癒しにはならなくとも、少しばかりの慰めにはなるはずだ。
 そんな本心は口に出さず、カルロがグチグチと文句を言う間に、ロレンツォは粗方の鬱憤うっぷんを晴らし終えたらしい。彼から声をかけられたとき、チェルレッティはすっかり伸びきっていた。白目を剥いた彼の顔は、見るも無惨な程殴られた後だ。
 予定は狂ったが仕方ないと、構成員達に命じてチェルレッティを縛らせる。他の部屋にいた客達も、一線を超える前に・・・・・・・・薬を盛った酒や、武装した構成員達の手で鎮圧させている。希望する子供達には、客の股間を蹴るくらいの憂さ晴らしも許していた。
 大人としては許してならないことだろうが、大人は大人でも犯罪者だ。巻き込んでしまった彼らには怒りをぶつける権利があると、本気で思っているくらいの非道徳さは持ち合わせている。
 一連の様子に困惑した顔を見せるのはパネッタだ。仲良く談笑し始めたカルロ、ベルナルド、ロレンツォを、順に間抜けな目が見つめていく。

「こ、これはどういうことなんだ……私を裏切ったのか、カルロ! カリーナがどうなってもいいのか!?」
「おいおい、本当にこんな小物が黒幕なのか?」
「俺が入念に調べたんだから間違いないよ。いじらしい小心者だからこそ、今までバレなかったんだろうしさ」

 意味深に笑えば、パネッタの瞳が開かれる。
 「裏切り者……」という言葉は、今夜で一番笑える冗談だ。

「先にカリーナを裏切ったのはアンタだろう。うちのカポが裏切りを心底嫌ってるって知ってよくやるよ。そこまで耄碌もうろくしてるとは思いたくなかったけどね」

 残念だと首を振る。
 パネッタは死人に見えるほど血の気が失せていた。彼も自分の迎える最期を理解したのだろう。コンシリエーレとして、裏切り者が受ける凄惨な拷問を間近で見続けてきたはずだ。ガチガチと歯を打ち鳴らす彼は、みっともなく泣きわめきながらベルナルドの足にすがりついた。

「頼む、ベルナルド! 君からもカリーナを説得してくれ! 私は彼女を裏切ってなんかいないんだ! なあ、頼むよ! さっきだって君を助けようとしただろう!?」
「おいおい、オッサンってのはどうしてこう、都合よく過去を捏造できるんだ。俺はてめえに助けられた覚えなんざ一切ねえっての」
「ベルナルド!」

 一際デカく咆哮するパネッタを、汚物でも見るような眼差しが見下ろす。
 震えるベルナルドの拳は、今すぐにでもこの男を殴り殺したいと語っていた。それでもただ怒りを堪えるだけのベルナルドに、空気を読まないロレンツォが「代わりに殴ってやろうか?」と提案する。それはロレンツォの背中を叩くことでやめさせた。
 最後まで抵抗すると思っていたパネッタは、呆気なく捕まった。うなだれた彼は、ブツブツとなにごとかを呟いている。それがベルナルドへの睦言むつごとだと気づいたとき、ゾッと寒気がした。
 後の片付けはベルナルドに任せ、通信室に向かう。腹の底に響く機械音に満ちた部屋には、何人かの構成員が残っていた。彼らは内緒の連絡をしたいからと全員追い出す。
 通信機へと手を伸ばし、便利な時代になったものだと考える。少し前までは船と陸の連絡手段は、モールス信号くらいしかなかったのだ。それが今では空高くにある衛星を通し、陸との会話が出来るのだから。
 通信先は、今回の計画を一緒に企てた人物だ。その人物はすぐにカルロの連絡に応える。

『……私だ』

 ノイズ混じりの声は、簡潔な言葉だけを伝えてきた。それがあまりにも似合っていて笑ってしまう。

「やあ、スタンフォード・・・・・・・。こっちはつつがなく終わったよ」
『そうか、ではすぐに警察を向かわせよう』
「俺達も逃げたいし、少し時間を作ってから来てね。予定通りイルマーレの漁港に行くつもりだから、そっちの警備は手薄にしといて」
『わかった』

 その短い会話で通信を終える。これからのことについても、スタンフォードとは計画のすり合わせをしていた。
 メインの客達には手を出させず、裏取引の客だけを警察へと突き出す算段だ。拐われてきた子供達は、親元へ返されるか、信用出来る施設へと送られる。この辺は特に強く、まともなところに送ってくれと頼んでいた。
 カルロがパネッタ側に寝返っていたというのは、パネッタのしっぽを掴むための嘘だ。だがテレジオファミリーを裏切ったこと自体は嘘ではない。実際にスタンフォードと手を組み、ファミリーを潰すために動いているのだから。
 今の自分を見たら、祖父はどんな顔をするだろうか。
 祖父が望むとおり、カリーナのことはきちんと支えられていると思う。だがこんな裏切りは決して、望んではいないだろう。
 こりゃあ死んだとき、散々地獄でも説教されるだろうなと頭をかいた。祖父の説教は長いから、あまり好きではないのだが。

「お前ら、大変だよ。警察がこっちに来るって言う情報があった。すぐにベルナルド達にも伝えて逃げる用意をして」

 部屋の外に待たせていた構成員達へ、焦ったフリをしながら指示を出す。彼らは驚いた顔で、その癖カルロのことを一切疑う風もなく、客室へと走っていく。
 カルロ・マルディーニについての話をしよう。
 六月二日生まれ、二十九歳。テレジオ家の血縁ではあるが、マフィアとは縁を切り、一般市民として暮らす両親のもとで生まれた。
 カリーナを慈しみ、愛し、守りたいと願っている彼は、生粋きっすいの嘘つきである。
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