ハーレムフランケン

楠樹暖

文字の大きさ
上 下
11 / 13
第6章 後藤茉莉編

第1話 僕も死体だったんですか?

しおりを挟む
 みぃんみぃんと鳴くセミが夏の暑さを必要以上に知らしめてくる。
 僕の隣には後藤さん(代表)がいる。後藤さんは不発弾事故でバラバラになった六人分の体を集めて作られている。六人分の脳みそも集められているらしく、記憶や人格も六人分持っている。ただし、顔は後藤茉莉まりさんなので、便宜上生き残ったのはマリさん一人で、残りの五人は死亡扱いになっている。
「セミと言えばさ、思い出さない? 子供の頃よくセミ取りに行ったよね」
 後藤さんは目を瞑り、一呼吸置いてからまた目を開けた。
「セミが怖いあたしの顔に幾太君セミを近づけてくるし。脚の関節がギシギシ動くのホントに怖かったんだから」
 表に出てきたのは僕の幼馴染の宮田絵里えりちゃん。
「でも、その割に、セミの抜け殻は大丈夫なんだ」
「抜け殻は動かないしね。いっぱい集めたなぁ。今思うと気持ち悪いけど」
「あの時の神社もいっぱいセミが鳴いてたよね」
「ホント、ミーンミーンってどっからあんな大きな音が出てるのかしら」
「ねぇ、今からセミ取りに行こうか?」
「嫌よ、子供じゃないんだし。触りたくもない。……でも、一緒に散歩するくらいなら」
「オーケー。じゃあ準備ができたら出発だ!」
 準備と言っても僕の方は特に何もしない。エリちゃんの方は着替えたりとして出てくるのが遅かった。
 ワンピースにつば広帽、いかにも夏という感じで現れたエリちゃん。
「とりあえず裏山の方に行ってみようか」
「うん」
 寮と学校の裏側は小高い丘になっている。生い茂る木々の葉っぱが強い日差しを和らげる。時折吹く風が心地いい。
「寮の中に居るより涼しいね」
 林の中を奥へと進むと鉄柵が出てきた。立ち入り禁止と書いてある。鉄柵沿いに少し歩いてみたらどうやらこの辺りの一画を覆っているようだ。しばらくすると、門が出てきた。鍵がかけられている。
「おーい」
 敷地の中から僕らを呼ぶ声が聞こえる。保健の中野先生だ。
「カメラが人影を見つけてね。君らだったんで声をかけたんだ。さぁ入っておいで」
 中野先生が門を開け、敷地の中へと誘った。
「どうする?」
「特にすることなかったから行ってみましょっか?」
 僕らは中野先生について行った。
 敷地の中には古い建物があった。
「旧陸軍の施設さ。入り口は今ではほとんど使ってないけどね」
 建物の中に入り、地下へと降りる。外見に比べて中の施設は新しい感じだ。
 どんどん奥へと進み、ある部屋の前に来ると、エリちゃんが「あ、ここ……」と言った。
「どうしたの、エリちゃん?」
「あたし来たことある。不発弾事故の時の」
「そう、後藤君を手術した部屋さ。
 あの日、六体の遺体の部位を集めてここへ運んで繋ぎ合わせたのさ。
 両手両足、胴体に頭。全部いっぺんに運ぶのは大変だったけどね」
「じゃあ、ここが陸軍の研究所……」
「そう。あっちの施設は病院で、離れたところに作られた部屋さ。ちなみにこの上は神達かんだち学園が建っている。今使っている出入り口も保健室にあるのさ」
「じゃ、じゃあ、学校に内緒で?」
「いやいや私にそんなチカラは無いよ。このことは神達学園理事長の井場いば譲司じょうじも知っていることだよ。もっと言えば、日本国の政府も絡んでいるけどね」
「そ、そんなこと僕らに話して大丈夫なんですか? ま、まさか、僕らを消そうとしているとか……」
「いやいやそんなことしないよ。むしろ私は君らを助けたいと思っている人間だよ。いい実験材料としてだけどね」
「えっ!?」
「ああ、悪かった、言葉を選ばないとな。
 この施設で研究しているのは死体を使った蘇生人間さ。ご想像通り軍事目的のだけどね。
 死体の使えそうな部位を集めて再利用するという。言わばリサイクル兵士さ。
 今回、六体の死体が転がっていたから蘇生実験にちょうどいいと思ってね。あ、君の死体も含めると七体か」
「えっ、僕が死体……」
 僕の鼓動が不規則なリズムで高鳴った。
「ま、厳密に言ったら君の場合は心臓が止まっていただけで、心臓マッサージしたらすぐに蘇生したんだけどね。
 後藤君達の死体も使えそうなところがちょうど一人分あったからね。急いで繋いで蘇生させて。
 他にもパーツ取りに使えそうな死体がないか探してたらいい左腕が転がっていてね」
 中野先生は左腕を上げて、手首を回転させてみた。
「ま、まさか、エリちゃんを兵士にする気ですか?」
「いやいや後藤君への実験は体を繋げたことで終了だよ。あとは普通の生活が送れるか経過観測だけ。これから定期的に様子を見せてくれるだけでいいよ」
「本当ですか。ならよかった」
「でも、これからの実験材料にしたいのは君、入江いりえ幾太いくた君だよ」
「えっ!?」
 僕の鼓動は激しさを増し、動悸となって胸を苦しめる。
「見たところ、君、心臓が弱いよね? 自覚症状もあるんじゃないか?」
「自覚……症状……って」
「動機や不整脈、意識を失ったりとか」
「うっ……」
 胸が苦しくなり、僕は意識をなくした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...