ハーレムフランケン

楠樹暖

文字の大きさ
上 下
1 / 13
プロローグ

私たち一人になりました

しおりを挟む
 道端に落ちる桜の花びらが多くなり、いよいよ学校が近づいてきたことを知らせる。
 これから僕が通うことになる私立神達かんだつ学園高等部の敷地だ。
 僕が向かうのはその隣、神達学園寮だ。
 そもそも僕がこの学校を受験したのは、友達の倉田くらた治之はるゆきに誘われたからだ。
「なぁ、この神達学園って女子校なんだって」
「僕らには女子校は関係ないだろ」
「いや、それがさ。神達学園は来年度から男女共学になるんだって。俺たちが入学するときだよ。俺たちが最初の男子になるんだよ。いいと思わない?」
「あんまり興味ないけどな」
「お前はいいよな、かわいい妹がいるから。俺なんか女の子と縁がないし」
「まぁ、妹が女の子の範疇に入るかは別にして、どこにあるの? その神達学園って?」
「ほら、ここ」
「ちょっと遠くないか?」
「寮も完備だから大丈夫だって。なぁ一緒に受けようぜ」
 とまぁ、こんな感じで神達学園を受験することになったわけだが、僕を誘った当の本人は落ち、僕だけが受かったというわけだ。
 入学資料を頼りに男子寮の場所へ着くとまだ工事中だった。あれ? 僕が泊まる場所って……。
「御用の方は女子寮へ」と案内が貼ってある。
 女子寮の方へ行くと、一人の女性が出迎えてくれた。
「君が入江いりえ幾太いくた君だね? 待っていたよ」
「今年度から入学する入江です。よろしくお願いします」
「ボクの名は三宅みやけあずさ。三年生で、この女子寮の寮長をしている」
 短い髪、ホットパンツ。ボーイッシュな姿で、一人称も【ボク】だ。ボクっ娘だ。ホットパンツから伸びる右ふとももの内側にホクロが一つ。
「ん? 内股のホクロが気になるのかい? なんならよく見るかい? ほら!」
 三宅先輩は脚を広げてホクロがよく見えるようにした。
 慌てて視線を外した。
「ちょ、ちょっとやめてくださいよ」
「ははは、まだ中学を出たばかりの子はウブだなぁ」
「からかうのはやめてくださいよ。それよりも、男子寮が……」
「ああ、ちゃんと説明しよう。とりあえず、中に入ってくれ」
 女子寮の食堂へ連れていかれ座らされた。窓の外には工事中の男子寮が見える。
「えーと、まずは神達学園に入学おめでとう」
「ありがとうございます」
「で、男子寮の件だが、見ての通りまだ建設中だ。今年度から共学になるので、男子寮を建設し始めたのはいいけど工事が遅れてまだ完成していないんだ」
「じゃあ、僕はどうすれば……」
「ふふふ、まあ慌てるな。幸いなことに、共学になった最初の年の男子生徒採用数は一人だけ。みんな元女子校というのに魅かれてあんまり勉強していない男子が多かったんだろうな。受かった男子は君だけだ」
「えっ、そうなんですか!」
「で、一人だけだったら、女子寮の空いている部屋にでも押し込んどけって感じで」
「えー! 僕が女子寮に入るんですか!?」
「つまるところ、そういうことだ」
「他の皆さんは大丈夫なんですか、男と一緒なんて」
「みんな興味津々だったよ。なにせ、中学から男子と喋ったことのない連中ばかりだからな。というわけで、みんなに紹介するよ」
 食堂の入り口には様子を見に来た女子が五人覗き込んでいた。
「さあ、入っておいで」
 ゾロゾロと集まり総勢六人の女子に囲まれた。
「あー、やっぱり幾太君だよね。名前を見た時からそうじゃないかと思ってたんだ。ほら、わたし、エリ、宮田みやた絵里えり。覚えていない?」
 エリという名前には聞き覚えがある。小学校時代によく一緒に遊んだ女の子だ。中学は別の学校に行ってしまってそれっきりだった。
「エリちゃん? 懐かしいね。何となく面影が残っているよ。今もポニーテールなんだね」
「なんだ、二人は知り合いか。積もる話は後にして、先に寮生の紹介を済ませるよ。じゃあ同じ一年生から」
後藤ごとう茉莉まりです。よろしくお願いします」
「マリちゃんはねー、中学時代みんなから頼りにされてたんだよ。色んなこと知ってるから、幾太君も困ったことがあったら相談するといいよ」
 同じ一年生だから、後藤さんの顔はちゃんと覚えておかないとな。前髪パッツンのミドルヘア。確かに聡明そうな顔つきだ。
「次は二年生だ」
横井よこいドミソだよ。ドミソは和音わおんと書いて和音どみそって読むの。よろしくね」
 う、キラキラネームだ……。丸顔モジャモジャ頭なのでよく目立つ。
「自分は杉村すぎむら有希ゆうきだ。よろしく」
 背筋がスラッとして筋肉の締まりもある。髪の毛もショートヘアだ。たぶん、スポーツをやっているのだろう。
「最後に三年生」
高岡たかおか……梨都りと……です」
 長い髪、白い肌。吹けば飛んじゃいそうなイメージを受ける。左手首にはリストバンドを付けている。
「ボクはさっきも紹介したけど、三宅みやけあずさ。寮で分からないことがあれば聞いてくれ」
 一気に六人も覚えるのは大変だな。とりあえず幼馴染のエリちゃんは除いて、一年生の後藤さんだけはしっかり覚えておこう。あとの先輩は追々覚えていくとして。
 しかし、女子六人の中に男子が一人って、なんてシチュエーションなんだ。神達学園を落ちた倉田が聞いたら羨ましがるだろうな。
「この食堂だが、自由に使って構わない。誰も居なくなったら電気を消してくれ。ほらそこ、入り口の横にあるやつ。ためしに、点けたり消したりしてみてくれ」
 僕は入り口の方へ歩き、電気のスイッチに手をかけ、明りを消してすぐ点けた。
「覚えました」
「じゃあ、次は部屋へ案内するぞ。さすがに他の女子とは部屋を離させてもらったからな」
 みんながゾロゾロと入り口の方へ歩いてくるとき、大きな爆発音が響いてきた。
 食堂の窓から来る衝撃で、女子が僕の方へ倒れてくる。なすすべもなく僕も倒れて頭を打ってしまい、僕の記憶はそこで途切れた――。

 気がつくと見知らぬ白い天井。どうやら僕はベッドの上に寝ているらしい。
 首を傾けると一人の女の子が座って本を読んでいた。
 モソモソする気配を感じて少女がこちらに気がついた。
「あっ! 気がついた!」
 少女が顔を覗き込む。これは……後藤茉莉さん? ケガの痕か、顔には無残にもツギハギがある。
「入江君は一週間ほど昏睡状態だったのよ」
「……えと、寮で爆発があって……」
「工事中の男子寮で不発弾が爆発したんだって。元々、地盤工事中に不発弾が見つかっていて、それのせいで工事が遅れていたんだけど、更に別の不発弾が爆発したって」
「そうだったんだ。……他のみんなは?」
「無事……と言えば無事だけど、助かったのは私だけ……」
「えっ? どういうこと?」
「あの爆発で私たちの体はバラバラになっちゃったの……。救急車が来るまで持たないって、保健の先生が飛び散った体の使える部位を集めて一人分の体を作ったの。で、脳みそもかき集めて、その体に押し込んで……。それが今の私」
「?」
 後藤さんは服を脱ぎ、体の傷を見せてくれた。
 体のアチコチにツギハギがある。腕は明らかに縫い付けた痕があり皮膚の色が微妙に異なる。
「この右腕は、わたし宮田絵里のよ。この左腕は、ドミソのだよ。この胴体は、自分杉村有希のだ。この右脚は、ボク三宅梓の。この左脚は、あたし……高岡……梨都……のです」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病気呼ばわりされて田舎に引っ越したら不良達と仲良くなった昔話

ライト文芸
弁護士の三国英凜は、一本の電話をきっかけに古びた週刊誌の記事に目を通す。その記事には、群青という不良チームのこと、そしてそのリーダーであった桜井昴夜が人を殺したことについて書かれていた。仕事へ向かいながら、英凜はその過去に思いを馳せる。 2006年当時、英凜は、ある障害を疑われ“療養”のために祖母の家に暮らしていた。そんな英凜は、ひょんなことから問題児2人組・桜井昴夜と雲雀侑生と仲良くなってしまい、不良の抗争に巻き込まれ、トラブルに首を突っ込まされ──”群青(ブルー・フロック)”の仲間入りをした。病気呼ばわりされて田舎に引っ越したら不良達と仲良くなった、今はもうない群青の昔話。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

【声劇台本】バレンタインデーの放課後

茶屋
ライト文芸
バレンタインデーに盛り上がってる男子二人と幼馴染のやり取り。 もっとも重要な所に気付かない鈍感男子ズ。

スラッガー

小森 輝
ライト文芸
 これは野球をほとんどしない野球小説。  中学時代、選抜選手にも選ばれ、周りからはスラッガーと呼ばれた球児、重心太郎は高校生になっていた。テスト期間に入り、親友である岡本塁と一緒に勉強をする毎日。そんな日々は重にとって退屈なものだった。そんな日々の中で、重は過去の傷を思いだし、そして向き合うことになる。  毎日、6時12時18時に投稿、頑張っていきます!もちろん、遅れたりすることもありますので……。  ちなみに、野球小説と言っても、野球はほとんどしません。なので、野球の知識は投げて打つ程度で十分です。  ライト文芸賞にも応募しています。期間中は投票お待ちしています。もちろん、お気に入り登録や感想もお待ちしています。してくれると、やる気が出るので、モチベーションのためにもどうかよろしくお願いします。 3/21追記 現在、心がポッキリといっております。出来れば今月中、もしくは来月上旬には完結させたいと思います。頑張ります。その後にライト文芸でもう一作品書きたいので……がんばります…… 3/31追記 一旦、休載します。4月後半に再開すると思います。その間、次の小説を書かせていただきます。

それでも日は昇る

阿部梅吉
ライト文芸
目つきが悪く、高校に入ってから友人もできずに本ばかり読んですごしていた「日向」はある日、クラスの優等生にとある原稿用紙を渡される。それは同年代の「鈴木」が書いた、一冊の小説だった。物語を読むとは何か、物語を書くとは何か、物語とは何か、全ての物語が好きな人に捧げる文芸部エンタメ小説。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...