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第4話 恋の偶然大作戦

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 次の日の昼休み、スカイシェルさんと≪偶然≫ぶつかる方法を試してみることにした。
 社員食堂で食事を終えたスカイシェルさんが歩いてくるのを確認し、通路の角で待ち伏せる。
 タイミングを計って飛び出してぶつかるというものだ。
 そして、その後は会話も弾み……。
 あっ、近づいてくる。
 ……3・2・1、今だ!
「おっと危ない!」
「コンニチワ。僕ニ話シカケテネ」
 ちょっと何であんたが先に出るの!?
 スカイシェルさんとぶつかったのはロボコム。
 体調1mほどで、上半身に頭や腕はあるけど、下半身は大きめのタイヤ二輪と後ろに小さめのタイヤの三輪構造。
 せっかくスカイシェルさんと話をするタイミングを失ってしまった。
 いつも社内を徘徊するロボコム。
 今や社員はみんな興味を失って話しかけはしないのに、スカイシェルさんはご丁寧にロボコムの問いかけに答えて会話を楽しんでいた。
 会社で偶然を装ってスカイシェルさんと知り合いになろうとしても、なぜかいつもロボコムに先を越されてしまう。
 ロボコムの動きを監視していたらあることに気がついた。
 ロボコムも人の好みがあるようだ。
 ロボコムに話しかける人に対してロボコムは近づいていくようになっている。
 だからいつも積極的にロボコムに話しかけるスカイシェルさんに対してロボコムは寄っていくようになっているのだ。
 無能だと思っていたロボコムも画像認識とかの高度な処理をしているみたいだ。

 ロボコムに邪魔されてなかなかスカイシェルさんとお近づきになれないままさらに一週間が過ぎた。
 永藍萌音の方は五人のビジュアルが若干変更された。
 髪の毛の色が緑だったのが、赤、青、黄、ピンクに色分けされるようになり、胸の大きさもまちまちになった。
 萌音ポニーは母性を感じさせる大きさに。
 萌音ツインは少女のように控えめに。
 萌音ショートはぺったんこに。
 萌音ソバージュと、萌音ロングはデフォルトサイズ。
 萌音ロングの私だけ何にも変化がないのはちょっと寂しいな。
 3DCGの方もそれぞれの萌音に合わせて変更されるようになってきた。

 そして3度目のスカイシェルさんとのボイスチャット。
 そもそも接続できた人が極端に少ない試験運用。
 他の萌音の記録を見ても同じ人が3回も繋がったのはない。
 しかもすべて萌音ロングの自分に対して。
 やっぱり私達は運命で結ばれているのだろうか?
 ひとしきり今週見たアニメの話で盛り上がり、ふっとスカイシェルさんが漏らした一言。
「萌音さん……好きだよ」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
 キーボードを使ってないのに変な文字列が出た。
「失礼しました。あのー、それはどういった意味で……」
「萌音さんは僕の理想の女性なんです。どうしてもその気持ちを伝えたくて」
「嬉しいです。私も……好きです」
「やったー!」
 私達は相思相愛の関係となった。
 でも、スカイシェルさんにとっては相思相愛なのはスカイシェルさんと永藍萌音(萌音ロング)で、スカイシェルさんと私のことではない。
 本当に相思相愛と言えるのだろうか?
 自分の家に帰り、囁きSNSウイスパでスカイシェルさんの囁きを覗いてみた。
『永藍萌音は俺の嫁』
 などと書かれていた。
 私達いつの間にか結婚してたんだ。
 スカイシェルさんとの新婚生活を妄想する私。ふふ。

 でも幸せの時間は長くは続かなかった。
 女っ気のなかったスカイシェルさんの囁きに変化が出てきた。
 いつもはアニメの話しか書かずに自分の話を書かないスカイシェルさんが、自分の近況を書いていたのだ。
『生まれて初めて女の子からラブレターをもらった』
 えっ!?
『相手は同じ職場の後輩』
 それから頭の中が真っ白になり、気がついたら朝になっていた。
 囁きの続きを読むと『返事は少し保留にしてもらった』となっていた。
 まだ付き合い始めたわけじゃなかったのだ。
 会社に行き、社員名簿で天貝さんと同じ課の女子社員を表示させてみた。
 後輩と言えるのは入社2年目の【大島梢枝こずえ】である。
 【梢】という字が一瞬、【蛸】という字に見えた。
 梢枝、蛸枝……タコエ。
 以前、ボイスチャットを利用してきたタコエというユーザー。ひょっとしてあのタコエさんが大島梢枝?
 その日の仕事は全然手に付かず、萌音ロングは緊急メンテナンスという形になって休みをもらった。
 帰ってからずっとウイスパの更新をチェックする。
 まだ勤務時間中で囁きが投稿されるはずもないのに延々とチェックを行う。
 夜になってやっとスカイシェルさんの囁きが投稿された。
 まだ迷っているようだ。
 でも、『ラブレターには心を撃たれた』と囁いていた。
 文面が大変すばらしく、理想の女性からもらったような錯覚に陥ったという趣旨のことが書かれていた。
 そのラブレターの文面って……私の。
 枕は涙を吸うばかりで、ちっとも私を眠らせてはくれなかった。
 翌日、髪の毛はボサボサのまま、目の下を赤く腫らして出社した。
 それからの永藍萌音の仕事のことはよく覚えていない。
 不思議なもので、人間は日常的な行動は半ば自動的にこなせるようにできているらしい。
 サービスも特に問題なく運営していた。
 夕方ごろにやっと復活してきた。
 そもそも出会うはずのなかった二人なんだ。
 そう自分に言い聞かせないと自我がバラバラに崩壊して大気の中に飛散していきそう。
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