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挟み撃ち

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「おい、あったぞ。グリフォンの足跡だ。まだ新しい。」


「サイズは平均的か。一成さん、行けますか?」


 ブルとランスがグリフォンの足跡を発見するかなり前から、俺とレインは気付いていた。

 森に入ったと同時に俺たちは感覚共有しており、レインの聴覚から森の中を歩き回る大きな足音の存在はかなり目立つからだ。


 しかし同時に違和感も覚えていた。

 依頼では2体のグリフォンのはずが、足音は2体どころでは無い。

 俺たちの後方、扇形を描くように隠す気のない足音がゾロゾロと着いてきている。

 普通森の中では魔物に不意打ちされる危険性があるので、できる限り足音や草木をかき分ける音を抑えるはずだが、コイツらは全くその様子がない。

 だが一定の距離、そして常にグリフォンの足音と俺達の直線上後方に居ることから、故意的に立ち位置を決めているように思える。

 今の所まだ危害を加えてきては居ないのでそんなに気にも止めていなかったんだが……。


「いつでも行けるぞ。だが、なんか匂わねぇか?腐敗臭みたいな……」


「先程の冒険者の死体からでしょうか?たしかに少し気になりますね。」


 冒険者の死体からはかなり強い腐敗臭がしていたので、少し離れたここまで匂いが来てもおかしくは無い。

 鼻の良いブルが辺りの匂いをクンクンと嗅ぎながら警戒してくれている。


「冒険者の死体でかなり鼻がやられてるから正直どこだか分からんな。だが1箇所の匂いと言うよりかは森全体から臭ってる感じだ……。」


 ブルが俺達の方を向き、後方に何かを捉える。

 それはゆっくりとだが確実に俺たちの方に向かって前進を始めていた後方の足音たちだった。


「……待て。こちらに向かって何か来る。」


 俺も耳をすませる。

 ザッザッと言う軍隊のように揃えられた足並み。

 俺達が止まっていたからか、それとも奴らの速度が上がったからなのか、確実に距離を縮めて来ている。

 段々と強くなっていく人間の腐った匂い。

 嫌な予感しかしないな。



 目を凝らし遠方を確認していたブルの表情が、絶望に変わるまで一瞬だった。


「アイツは……アイツらは……!!」


「どうしたんだブル?」


「……グールだ。大量のグールがこっちに向かってきてやがる!!」



 この世界のグールとは、死霊術師ネクロマンサーの魔力を流し込まれ、術者の意のままに操られるようになった歩く死体である。

 強さは生前の実力に比例し、強い自我を持つ個体によっては意識が残っているものも存在する。

 グールに噛まれたものは、死霊術師の魔力が直接体内に流され、死後グールとして操られることになる。

 その特性上戦争時に使用されることが多く、死霊術師の正体が掴みづらいという利点から暗殺などにも使用される。

 つまり、


「なんでこんなところにグールが居やがるんだ!?」


「落ち着けブル!!何体居るんだ!?」


「この視界の悪い森の中で目視出来ただけでも10数体。少なくとも20体以上は居るぞ。」


「アンタ達!!前!!」


 マーリンが叫ぶと狙ったかのように前方からグリフォンが一直線にこちらに向かってきているのが見える。挟み撃ちか。


 グリフォンの突進を間一髪全員回避したところでブルが鼻をクンクンさせている。


「危ねぇ危ねぇ……。」


「おい、あのグリフォンもグールかもしれねぇぞ。すれ違った時強い死臭がした。」


 突進してきたのは片目が潰されているグリフォンである。

 つまりターゲットの魔物だろう。

 そのターゲットの魔物がグールだと?

 依頼主はこれを知っているのか?


 ……恐らく知っているだろう。

 俺達が森に入ってから後方のグール共で俺達を逃げないように監視し、グリフォンで森の奥へと誘い込んだ。

 そして頃合を見てグリフォンと共にグール共を嗾けしかける計画だったんだ。


 依頼主とは別口の野盗の可能性もあるが、グリフォンの死体や冒険者の死体をこれだけの数調達するのは容易では無いだろう。

 簡単な方法は、冒険者を偽の依頼で招集し、森の中へ入った所で殺害、グール化させる方法だ。

 依頼通りグリフォンが居たとしても、討伐したタイミングで殺害すればその死体も簡単に手に入って一石二鳥。

 何人か普通の死体を用意して放置しておけば死臭も誤魔化せるし、普通の冒険者ならそれに注意が向いている時に奇襲をかければ簡単に殺せる。

 襲ってきたタイミング的に、死体を漁っている最中も全く警戒を解かない俺とレインに痺れを切らしたか、これ以上奥に進まれると不味いものがあるのかどちらかかな?


「おいお前ら。今回の報酬は相場としては高いのか?」


「総体してみれば明らかに高額です。普通はグリフォン1体、全員で10万です。個別の10万は破格ですよ。冒険者同士の争いを避けるにしてもこの人数に出しすぎだ。」


「成程な。俺たち全員、雇い主に騙された訳か。」


「そのようね……。」


 マーリンが苦い顔をしている。



「こりゃあ、ありがてぇな。」


「一成さん!!こっちはかなり切羽詰まった状況なんですよ!!」


「お前らも喜べ。契約違反の慰謝料を請求できるぞ。」


 俺のこの発言にその場にいた全員が暫く唖然としていた。

 だが緊張がほぐれたのか、さっきまで慌てていた彼らに少し笑顔がこぼれる。


「交渉役は頼みましたよ、一成さん。」


「自分の命に冒険者じゃねぇアイツがいくら出すのか見物だな。」

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