117 / 140
帝都の夜
しおりを挟む
「出発は明日の朝、ソールを連れてこちらへお迎えにあがります。そうすれば敵対勢力の監視等があってももかいくぐれるでしょう。」
「もうこの街ともおさらばか……。」
旅の話をしてから数日間、俺達は綿密に計画を練りながら出発の日を待っていた。
それがもう明日とも迫ると何となく寂しい気持ちも湧いてくる。
「長いようで短い1ヶ月でしたね。」
レインも寂しそうに笑っていた。
「また戻ってきて美味いもの食べような。」
俺がそう言うとレインは少し解けた笑顔になり、大きく頷いた。
帝都最後の夜、俺は1人タバコを吸いながら街を歩いていた。
少し前まで冒険者や商人達で賑わっていた街は一通り騒ぎ終え、少しづつ静かになっていく。
恐らく日付が変わるくらいだろう。
この街に居座って1ヶ月、本当に色々なことがあった。
毎日が非日常に成り代わり、それまで考えたこともなかった命を賭けた戦いが常に隣り合わせ。
そんな非日常が意外と楽しくもあるが、命というものの価値が段々と下がっている感覚にも陥った。
自傷行為に近い喫煙が今の俺を作っている。
文字通り命を減らしながら戦っているんだからそれもそうなんだろうな。
「こういう時に吸うタバコがいちばん美味いんだよな。理由は分からねぇけど。」
いつもと変わらない味。
だが感傷に浸る瞬間に吸うタバコはなんにも変え難い味がする。
ライターの金属音と共に肺に入ってくる煙。
少し肌寒い外気がタバコを吸い始めた昔を思い出させた。
「一成さーん!!」
走れる訳でもないのにレインが急ぎ足で俺の後を追ってきていた。
レインの前だと不思議と笑顔になれる。
この世界に来て最初に出会った人間がレインで良かったと心の底から思った。
それから俺達は他愛の無い会話をしながら大きな通りをゆっくりと1周した後、明日に備えて寝ることにした。
宿に入る前、レインがほとんど灯りの消えた街を見ながら、
「私、この街があまり好きではありません。人間が人間を苦しめて搾取するような街ですから。だから、出来ることなら誰も苦しまずにみんなが笑顔で暮らせる世界にしたいと、そう思ってます。」
「レインは優しいな。」
「茶化してますー?」
「いや、俺はハッキリ言って世界の事なんてどうでも良いんだ。他の人間の事もどうでも良い。レインの目が治るならどんな犠牲も厭わないと思ってる。」
レインは不思議そうに俺の方向を向いて首を傾げた。
「一成さんもとっても優しいと思いますよ?何人も命を助けたり、悩みを解決したりしてました。」
「目の前で苦しんでいる人間見捨てたら寝覚めが悪いだろう?優しい訳じゃない。自分勝手なだけだよ。」
「そういうのを、優しいっていうんだと思いますよ?」
レインは嬉しそうに後ろに手を組みながら俺より1歩先を歩き宿へ入ろうとする。
途中躓いてそれを俺が受け止めると、顔を赤くしながらごめんなさいと謝った。
「もうこの街ともおさらばか……。」
旅の話をしてから数日間、俺達は綿密に計画を練りながら出発の日を待っていた。
それがもう明日とも迫ると何となく寂しい気持ちも湧いてくる。
「長いようで短い1ヶ月でしたね。」
レインも寂しそうに笑っていた。
「また戻ってきて美味いもの食べような。」
俺がそう言うとレインは少し解けた笑顔になり、大きく頷いた。
帝都最後の夜、俺は1人タバコを吸いながら街を歩いていた。
少し前まで冒険者や商人達で賑わっていた街は一通り騒ぎ終え、少しづつ静かになっていく。
恐らく日付が変わるくらいだろう。
この街に居座って1ヶ月、本当に色々なことがあった。
毎日が非日常に成り代わり、それまで考えたこともなかった命を賭けた戦いが常に隣り合わせ。
そんな非日常が意外と楽しくもあるが、命というものの価値が段々と下がっている感覚にも陥った。
自傷行為に近い喫煙が今の俺を作っている。
文字通り命を減らしながら戦っているんだからそれもそうなんだろうな。
「こういう時に吸うタバコがいちばん美味いんだよな。理由は分からねぇけど。」
いつもと変わらない味。
だが感傷に浸る瞬間に吸うタバコはなんにも変え難い味がする。
ライターの金属音と共に肺に入ってくる煙。
少し肌寒い外気がタバコを吸い始めた昔を思い出させた。
「一成さーん!!」
走れる訳でもないのにレインが急ぎ足で俺の後を追ってきていた。
レインの前だと不思議と笑顔になれる。
この世界に来て最初に出会った人間がレインで良かったと心の底から思った。
それから俺達は他愛の無い会話をしながら大きな通りをゆっくりと1周した後、明日に備えて寝ることにした。
宿に入る前、レインがほとんど灯りの消えた街を見ながら、
「私、この街があまり好きではありません。人間が人間を苦しめて搾取するような街ですから。だから、出来ることなら誰も苦しまずにみんなが笑顔で暮らせる世界にしたいと、そう思ってます。」
「レインは優しいな。」
「茶化してますー?」
「いや、俺はハッキリ言って世界の事なんてどうでも良いんだ。他の人間の事もどうでも良い。レインの目が治るならどんな犠牲も厭わないと思ってる。」
レインは不思議そうに俺の方向を向いて首を傾げた。
「一成さんもとっても優しいと思いますよ?何人も命を助けたり、悩みを解決したりしてました。」
「目の前で苦しんでいる人間見捨てたら寝覚めが悪いだろう?優しい訳じゃない。自分勝手なだけだよ。」
「そういうのを、優しいっていうんだと思いますよ?」
レインは嬉しそうに後ろに手を組みながら俺より1歩先を歩き宿へ入ろうとする。
途中躓いてそれを俺が受け止めると、顔を赤くしながらごめんなさいと謝った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる