64 / 140
互いの全力
しおりを挟む
「見事だ、一成よ。」
回復により無傷の俺と、片腕を吹き飛ばされ瀕死のノブナガ。
本来なら圧倒的に俺の方が有利であるはずが、息を切らし膝に手を付いているのは俺の方である。
ノブナガはまるでその右腕が元々なかったかのような威厳のある立ち姿をし、腕を失っていてもなお強者として俺の前に君臨していた。
「一国の王に褒められるのは悪い気はしねぇな。」
皮肉じゃない。
相手がノブナガだからこそ心からそう思う。
「最後に我儘を言わせてもらって良いか?」
「なんだ?」
「王である前に、グールである前に、1人の男として我の全力を受けてくれ。」
ノブナガはそう言い、咥えていた鞘に刀を戻し、頭を俯かせて刀の刃を真下に、先程までの抜刀から90度傾けた状態で構えた。
とてつもなく歪な構え。
それなのにさっきまでと迫力が違う。
「なら俺も、俺自身の全力で行かせてもらう。」
男同士、正直これは俺の我儘だった。
何度攻撃を外したか分からない。
たった数発のラッキーパンチが当たっただけ。
何度殺されかけたか分からない。
レインの回復魔法があったからこそ助かった。
俺は俺自身の力だけでノブナガと対峙していない。
過去の王、過去の武人だからこそ、今の俺自身の力がどれほど通用するのか試してみたかった。
お互い最後の一撃だ。
たとえ腕が折れようと、喪失感と脱力感に襲われようと、俺自身のあの技を出すしかない。
「行くぞ一成!!」
「来いノブナガ!!」
俺は【灰の一撃】の速度を上げる為に上空へ飛び上がる。
空中で静止したタイミングでタバコで一息入れ、ジャンプによって消費した魔力を回復する。
そして拳を掲げ、掲げた拳を真下にいるノブナガへ向けゆっくりと振り下ろす。
ただ重力に身を任せ、灰が落ちるように俺もまた落ちていく。
1度タバコから落ちた灰は残り火を孕みながらゆっくり地面へと突き進み、地面に当たったと同時に崩れ、浸透する。
灰は風で飛ばされようと、踏み潰されようと、必ず落ちた先に跡を残す。
その跡は拭おうとすればするほど広がり、更に浸透していくのだ。
「上か。調度良い。この技は上に向けて打たねば、山を喰らうからな。」
ノブナガは上空の俺に向け、気合いを込めた抜刀を放つ。
それは刀の刃ではなく、腹の部分で行う抜刀だった。
今までの空気の圧を飛ばして斬っていた技と違い、飛ばすのは最早空間そのもの。
簡単に言えば団扇や扇子で風を起こす原理ではあるが、これはそんな次元の話では無い。
押し寄せた空間は目の前の空間のありとあらゆるものを喰らいながら前方に進み、空気すら無くなるまで食い尽くしている。
山切が山1つを両断するのだとしたら、最後に放った技は山1つを消し飛ばす山喰。
ただ、それは使用者の命をも食らっていた。
「フン。流石に利き腕を失った今の我ではこれが限界か。」
抜刀を放ったノブナガの左腕はだらんと垂れ、刀を握る力すら込められないのか、刀は地面に突き刺さっていた。
「止めてみろ一成。これはかつて一撃で10万の命を食らった技だ。」
その言葉に嘘はないだろう。
放たれた技越しに見える地上が、蜃気楼のように歪む。
どうやら俺の【灰の一撃】は1度発動すると途中で止めることが出来ないらしい。
振り下ろした拳は言うことをきかなくなり、まるで腕に鉄球が着いたかのように重い。
発動した瞬間からどんどん重くなっていき、時間が経つ事に、加速する事に重くなる。
それと比例して加速度もどんどん上がっていく。
多分このまま地面に当たれば俺自身が肉塊になる。
歪んだ空間は目の前だ。
隕石のように俺はその空間に飛び込んだ。
「ぐぁぁああ!!」
拳がその空間に入った瞬間だった。
2つの技がぶつかった衝撃と、生きたまま拳を握りつぶされるような感覚。
加速度が上がっているはずなのにほとんど前に進まない。
やがてゆっくりと全身が亜空間に包まれた。
山喰の中は全てが狂っていた。
全身を握りつぶされたかと思えば、今度は引き伸ばされる。
それを永遠と繰り返される。
レインの回復魔法は発動していない。
どうやらノブナガの技は魔力すらも喰らっており、その中に飛び込んだ俺には外から魔法が届かないようだ。
「だがまだ、技は、【灰の一撃】は生きている。」
異様な空間の中で俺が生きていられたのは【灰の一撃】が発動していたからだった。
拳を中心にして、その周辺ではこの空間の影響を受けづらい。
そしてその範囲は少しづつ広がっている。
膝から先の足はもう残っていない。
だがそれ以外の箇所は辛うじて存在していられている。
俺はまだこの技の本質を理解していない。
だがひとつ言えることは、この技を発動してから俺の拳は圧倒的な質量を持っている事。
この地獄のような空間で全くその影響を受けず、真っ直ぐに真下に突き進む質量。
恐らくだがこの技は魔力を質量に変えて、何かに当たるまで俺の魔力を吸い続ける捨て身の技だ。
つまり、俺の魔力が切れない限りは発動し続けることが出来る。
「最後の1本か。」
技がぶつかりあったとき、痛みで声をあげてしまったせいで前のタバコは落としてしまった。
これが最後の1本。
左手でポケットを探り、ほとんど空になったタバコの箱から1本取り出し、空箱を握り潰して放り投げる。
そのタバコにライターで火をつける。
このタバコが消えた時が俺が死ぬ時だろう。
ひと吸い。
ふた吸い。
「それほどまでか。」
地上のノブナガから見た一成はゆっくりだが前に進んでいた。
ノブナガの全力を込めた山喰は本来無尽蔵に目の前の物を喰い続けるが、唯一弱点があった。
それは圧倒的な質量の物体。
彼らが今足を着いている大地、さらに言えば星のような超巨大物体の場合、喰いきることが出来ず反発させられ、自らを喰い消滅する。
ノブナガが生前使った時、数多の魔物や人間を無差別に食い続けたが、たった1人の男の前に消滅した。
その者の名が、加藤勇。かつての転生者である。
「イサミ。お前が我を止めたように、あやつも我を止めてくれたのかもな。」
上空、ノブナガの山喰は消滅した。
続けて力無く落下してくる一成。
タバコの火は既に消えていた。
回復により無傷の俺と、片腕を吹き飛ばされ瀕死のノブナガ。
本来なら圧倒的に俺の方が有利であるはずが、息を切らし膝に手を付いているのは俺の方である。
ノブナガはまるでその右腕が元々なかったかのような威厳のある立ち姿をし、腕を失っていてもなお強者として俺の前に君臨していた。
「一国の王に褒められるのは悪い気はしねぇな。」
皮肉じゃない。
相手がノブナガだからこそ心からそう思う。
「最後に我儘を言わせてもらって良いか?」
「なんだ?」
「王である前に、グールである前に、1人の男として我の全力を受けてくれ。」
ノブナガはそう言い、咥えていた鞘に刀を戻し、頭を俯かせて刀の刃を真下に、先程までの抜刀から90度傾けた状態で構えた。
とてつもなく歪な構え。
それなのにさっきまでと迫力が違う。
「なら俺も、俺自身の全力で行かせてもらう。」
男同士、正直これは俺の我儘だった。
何度攻撃を外したか分からない。
たった数発のラッキーパンチが当たっただけ。
何度殺されかけたか分からない。
レインの回復魔法があったからこそ助かった。
俺は俺自身の力だけでノブナガと対峙していない。
過去の王、過去の武人だからこそ、今の俺自身の力がどれほど通用するのか試してみたかった。
お互い最後の一撃だ。
たとえ腕が折れようと、喪失感と脱力感に襲われようと、俺自身のあの技を出すしかない。
「行くぞ一成!!」
「来いノブナガ!!」
俺は【灰の一撃】の速度を上げる為に上空へ飛び上がる。
空中で静止したタイミングでタバコで一息入れ、ジャンプによって消費した魔力を回復する。
そして拳を掲げ、掲げた拳を真下にいるノブナガへ向けゆっくりと振り下ろす。
ただ重力に身を任せ、灰が落ちるように俺もまた落ちていく。
1度タバコから落ちた灰は残り火を孕みながらゆっくり地面へと突き進み、地面に当たったと同時に崩れ、浸透する。
灰は風で飛ばされようと、踏み潰されようと、必ず落ちた先に跡を残す。
その跡は拭おうとすればするほど広がり、更に浸透していくのだ。
「上か。調度良い。この技は上に向けて打たねば、山を喰らうからな。」
ノブナガは上空の俺に向け、気合いを込めた抜刀を放つ。
それは刀の刃ではなく、腹の部分で行う抜刀だった。
今までの空気の圧を飛ばして斬っていた技と違い、飛ばすのは最早空間そのもの。
簡単に言えば団扇や扇子で風を起こす原理ではあるが、これはそんな次元の話では無い。
押し寄せた空間は目の前の空間のありとあらゆるものを喰らいながら前方に進み、空気すら無くなるまで食い尽くしている。
山切が山1つを両断するのだとしたら、最後に放った技は山1つを消し飛ばす山喰。
ただ、それは使用者の命をも食らっていた。
「フン。流石に利き腕を失った今の我ではこれが限界か。」
抜刀を放ったノブナガの左腕はだらんと垂れ、刀を握る力すら込められないのか、刀は地面に突き刺さっていた。
「止めてみろ一成。これはかつて一撃で10万の命を食らった技だ。」
その言葉に嘘はないだろう。
放たれた技越しに見える地上が、蜃気楼のように歪む。
どうやら俺の【灰の一撃】は1度発動すると途中で止めることが出来ないらしい。
振り下ろした拳は言うことをきかなくなり、まるで腕に鉄球が着いたかのように重い。
発動した瞬間からどんどん重くなっていき、時間が経つ事に、加速する事に重くなる。
それと比例して加速度もどんどん上がっていく。
多分このまま地面に当たれば俺自身が肉塊になる。
歪んだ空間は目の前だ。
隕石のように俺はその空間に飛び込んだ。
「ぐぁぁああ!!」
拳がその空間に入った瞬間だった。
2つの技がぶつかった衝撃と、生きたまま拳を握りつぶされるような感覚。
加速度が上がっているはずなのにほとんど前に進まない。
やがてゆっくりと全身が亜空間に包まれた。
山喰の中は全てが狂っていた。
全身を握りつぶされたかと思えば、今度は引き伸ばされる。
それを永遠と繰り返される。
レインの回復魔法は発動していない。
どうやらノブナガの技は魔力すらも喰らっており、その中に飛び込んだ俺には外から魔法が届かないようだ。
「だがまだ、技は、【灰の一撃】は生きている。」
異様な空間の中で俺が生きていられたのは【灰の一撃】が発動していたからだった。
拳を中心にして、その周辺ではこの空間の影響を受けづらい。
そしてその範囲は少しづつ広がっている。
膝から先の足はもう残っていない。
だがそれ以外の箇所は辛うじて存在していられている。
俺はまだこの技の本質を理解していない。
だがひとつ言えることは、この技を発動してから俺の拳は圧倒的な質量を持っている事。
この地獄のような空間で全くその影響を受けず、真っ直ぐに真下に突き進む質量。
恐らくだがこの技は魔力を質量に変えて、何かに当たるまで俺の魔力を吸い続ける捨て身の技だ。
つまり、俺の魔力が切れない限りは発動し続けることが出来る。
「最後の1本か。」
技がぶつかりあったとき、痛みで声をあげてしまったせいで前のタバコは落としてしまった。
これが最後の1本。
左手でポケットを探り、ほとんど空になったタバコの箱から1本取り出し、空箱を握り潰して放り投げる。
そのタバコにライターで火をつける。
このタバコが消えた時が俺が死ぬ時だろう。
ひと吸い。
ふた吸い。
「それほどまでか。」
地上のノブナガから見た一成はゆっくりだが前に進んでいた。
ノブナガの全力を込めた山喰は本来無尽蔵に目の前の物を喰い続けるが、唯一弱点があった。
それは圧倒的な質量の物体。
彼らが今足を着いている大地、さらに言えば星のような超巨大物体の場合、喰いきることが出来ず反発させられ、自らを喰い消滅する。
ノブナガが生前使った時、数多の魔物や人間を無差別に食い続けたが、たった1人の男の前に消滅した。
その者の名が、加藤勇。かつての転生者である。
「イサミ。お前が我を止めたように、あやつも我を止めてくれたのかもな。」
上空、ノブナガの山喰は消滅した。
続けて力無く落下してくる一成。
タバコの火は既に消えていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる