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名演技
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「ああ……!!私の役者たちが……!!」
ジェイクスは失意の表情で燃え上がるグール達を見ている。
普通あの程度の量のオイルではあそこまで燃え上がりはしないだろうが、どうやらミラ姉さんが特別に作ったオイルらしく、異常なまでに火の回りが早かった。
「さて、役者の大半は袖に引っ込んだな。後はラストシーンと終劇だけだぞ。」
「……ケケッ、まぁいいか。こんなモブは後でいくらでも量産できる。」
狂ってやがる。
本当に人間を道具としか思っていないようだな。
「それに既に4体は確保済みですしね?」
「へー。見せてみろよ。」
ここでやっとジェイクスは人質の4人が居ないことに気付いたようだ。
俺はグール達と戦っている最中、ずっとレインと感覚共有していた。
レインの聴力を使って、ジェイクスに気付かれないように秘密裏に会話するためである。
「一成さん。成功しました。」
その一言で今度は人質4人とレインが無事に戦闘区域から遠ざかれるよう、俺は意図的に大立ち回りを演じていた。
敵の攻撃をギリギリで避けたり、必要以上にグールを投げ飛ばしたり、果てはわざと時間をかけて1箇所に集め、炎上させた。
そう。俺がやっていたのは最初から最後までジェイクスの注意を釘付けにするただの時間稼ぎだった。
「という事は、効いたんだな?」
「ええ。私の回復魔法がかかったグールは全て、元の死体に戻りました。」
俺がレインに頼んだ事。
それは敵であるグールに対して回復魔法を使う事だった。
RPGで偶にある事だが、ゾンビなどの不死属性の敵に対して回復アイテムを使ったり回復魔法を使うと、回復させる代わりにダメージを与えることが出来る。
根拠はそれだけではなく、ブルとの戦いの後にソールが言った、
「レインの回復魔法は相手の魔力に自分の莫大な魔力を無理矢理干渉させて傷を再生させてるの。」
という言葉。
グールは死体に死霊術師の魔力が体内に入ったから死霊術師に操られている。
ならばそれを遥かに上回る魔力が体に入るとどうなるのか。
死霊術師の魔力そのものをグールから追い出せるかもしれない。
もちろん全て確証があった訳では無いが、結果は見ての通り、無事にレインの魔力がジェイクスの魔力を打ち負かしたという事だ。
人質も消え、俺を止める術を失ったジェイクスは慌てふためいている。
「どういう事だ!!私の役者に何をした!!」
「給料が割に合わなかったんじゃないか?移籍してくれって言ったらすんなり受け入れたそうだぞ?」
「貴様!!」
「名演技だっただろう?劇団長の視線すら俺に釘付けだったんだからな。」
どちらにせよ、後はアイツを倒せば全て終わりだろう。
俺はゆっくりと拳を鳴らしながらジェイクスに近付く。
ジェイクスはいつかの副団長のように後退りをし、許しを乞いているが、もはや俺の足は止まることは無い。
「散々殺してきたんだ。自分のこれまでの行いを悔いるんだな。」
タバコの煙を吸い込みジェイクスに手が届く距離になった時、俺に悪寒が走る。
「な……なんだ……?」
拳を振り下ろせば確実にジェイクスを仕留められる距離であっても尚、咄嗟に距離を取らせる程の威圧感だった。
周囲の空気が一気に重くなったのを肌で感じ、冷や汗が出る。
「ケケッ、意外と冷静じゃないか。そのまま死んでくれていた方が私の名演技が際立つというのに。」
ジェイクスは何事も無かったかのように立ち上がり、パタパタと服に着いた汚れを落としている。
「私はね。コイツらは使いたくないんだよ。全く私の言うことを聞かないし、顔も好みじゃない。」
手が届く距離まで近付いたのに全く気付かなかった。
ジェイクスの隣に2体のグールが並んで立っている事に。
「レインさん、早く一成さんの元へ急いでください。」
レインと冒険者4人は森を抜け、安全な平原へと脱出していた。
レインが回復魔法を使ってしまうと動けなくなる危険性があったので、4人とも傷を負ったまま命からがら逃げてきたという所だ。
「でも皆さんの回復が……。」
「我々は大丈夫です。いざとなればアルが多少の回復魔法を使えます。それよりも一成さんにお伝えしてもらわなければならないことがあります。」
森の外は一成の共有の範囲外であり、今はしていない状態だった。
感覚共有は一成の一方通行の魔法であり、一成が発動しない限り出来ないので、レインが一成に近付き、一成が発動しないと成立しない。
つまり一成に伝言を伝えるということは、レインがもう一度戦場へ戻り、その声が戦闘中の一成に届く距離まで近付かなければならないということだった。
それを考慮しても伝えなければならない事。それは、
「私達がやられたのは20数体居るグールなんかじゃない。たった2体の意志を持ったグールに一瞬でやられたんです。いくら一成さんでも、1人で相手するには分が悪すぎます。」
ジェイクスは失意の表情で燃え上がるグール達を見ている。
普通あの程度の量のオイルではあそこまで燃え上がりはしないだろうが、どうやらミラ姉さんが特別に作ったオイルらしく、異常なまでに火の回りが早かった。
「さて、役者の大半は袖に引っ込んだな。後はラストシーンと終劇だけだぞ。」
「……ケケッ、まぁいいか。こんなモブは後でいくらでも量産できる。」
狂ってやがる。
本当に人間を道具としか思っていないようだな。
「それに既に4体は確保済みですしね?」
「へー。見せてみろよ。」
ここでやっとジェイクスは人質の4人が居ないことに気付いたようだ。
俺はグール達と戦っている最中、ずっとレインと感覚共有していた。
レインの聴力を使って、ジェイクスに気付かれないように秘密裏に会話するためである。
「一成さん。成功しました。」
その一言で今度は人質4人とレインが無事に戦闘区域から遠ざかれるよう、俺は意図的に大立ち回りを演じていた。
敵の攻撃をギリギリで避けたり、必要以上にグールを投げ飛ばしたり、果てはわざと時間をかけて1箇所に集め、炎上させた。
そう。俺がやっていたのは最初から最後までジェイクスの注意を釘付けにするただの時間稼ぎだった。
「という事は、効いたんだな?」
「ええ。私の回復魔法がかかったグールは全て、元の死体に戻りました。」
俺がレインに頼んだ事。
それは敵であるグールに対して回復魔法を使う事だった。
RPGで偶にある事だが、ゾンビなどの不死属性の敵に対して回復アイテムを使ったり回復魔法を使うと、回復させる代わりにダメージを与えることが出来る。
根拠はそれだけではなく、ブルとの戦いの後にソールが言った、
「レインの回復魔法は相手の魔力に自分の莫大な魔力を無理矢理干渉させて傷を再生させてるの。」
という言葉。
グールは死体に死霊術師の魔力が体内に入ったから死霊術師に操られている。
ならばそれを遥かに上回る魔力が体に入るとどうなるのか。
死霊術師の魔力そのものをグールから追い出せるかもしれない。
もちろん全て確証があった訳では無いが、結果は見ての通り、無事にレインの魔力がジェイクスの魔力を打ち負かしたという事だ。
人質も消え、俺を止める術を失ったジェイクスは慌てふためいている。
「どういう事だ!!私の役者に何をした!!」
「給料が割に合わなかったんじゃないか?移籍してくれって言ったらすんなり受け入れたそうだぞ?」
「貴様!!」
「名演技だっただろう?劇団長の視線すら俺に釘付けだったんだからな。」
どちらにせよ、後はアイツを倒せば全て終わりだろう。
俺はゆっくりと拳を鳴らしながらジェイクスに近付く。
ジェイクスはいつかの副団長のように後退りをし、許しを乞いているが、もはや俺の足は止まることは無い。
「散々殺してきたんだ。自分のこれまでの行いを悔いるんだな。」
タバコの煙を吸い込みジェイクスに手が届く距離になった時、俺に悪寒が走る。
「な……なんだ……?」
拳を振り下ろせば確実にジェイクスを仕留められる距離であっても尚、咄嗟に距離を取らせる程の威圧感だった。
周囲の空気が一気に重くなったのを肌で感じ、冷や汗が出る。
「ケケッ、意外と冷静じゃないか。そのまま死んでくれていた方が私の名演技が際立つというのに。」
ジェイクスは何事も無かったかのように立ち上がり、パタパタと服に着いた汚れを落としている。
「私はね。コイツらは使いたくないんだよ。全く私の言うことを聞かないし、顔も好みじゃない。」
手が届く距離まで近付いたのに全く気付かなかった。
ジェイクスの隣に2体のグールが並んで立っている事に。
「レインさん、早く一成さんの元へ急いでください。」
レインと冒険者4人は森を抜け、安全な平原へと脱出していた。
レインが回復魔法を使ってしまうと動けなくなる危険性があったので、4人とも傷を負ったまま命からがら逃げてきたという所だ。
「でも皆さんの回復が……。」
「我々は大丈夫です。いざとなればアルが多少の回復魔法を使えます。それよりも一成さんにお伝えしてもらわなければならないことがあります。」
森の外は一成の共有の範囲外であり、今はしていない状態だった。
感覚共有は一成の一方通行の魔法であり、一成が発動しない限り出来ないので、レインが一成に近付き、一成が発動しないと成立しない。
つまり一成に伝言を伝えるということは、レインがもう一度戦場へ戻り、その声が戦闘中の一成に届く距離まで近付かなければならないということだった。
それを考慮しても伝えなければならない事。それは、
「私達がやられたのは20数体居るグールなんかじゃない。たった2体の意志を持ったグールに一瞬でやられたんです。いくら一成さんでも、1人で相手するには分が悪すぎます。」
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