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第五章 忍び寄る悪意
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俺より小柄な藤倉部長の身長は170センチないと思う。
だから、俺より頭一つ大きな孝之さんと向き合うと迫力過多で吹き飛ばされそうに見えるのに、実際にはのほほんと食えない顔で笑っている。
「五十嵐ちゃん、先にお昼に行っておいでよ」
「私がですか」
「いつチェックインが始まるか判らないからね。暇な時に順番にどんどん取って行かないと」
藤倉部長が言うことは正しい。
あと一時間もすればアーリーチェックインのお客様が到着する。今日は大きな団体こそないけどチェックインの数は今季最多、そして今日以降は毎日更新されていく予定だ。
「行って来て下さい、五十嵐さん」
「……判りました」
何かを言いたそうな顔をしているが、事務所には吉田課長がいるし、いくら藤倉部長だって勤務時間中に無理難題を吹っ掛けて来たりはしないだろう。
何度か此方を振り返りながら食堂に向かう孝之さん。
「ハハッ」
藤倉部長は小さく笑った。
「彼も君が可愛くて仕方ないんだろうなぁ」
「……え?」
「ふふっ。五十嵐ちゃんはいつもあんなふうに過保護なんだろう?」
「――……っ」
ゾッとした。
鳥肌が立った。
部長は笑う。
「相田ちゃんはカウンターを頼むよ」
「は、はい……」
部長が事務所に帰っていくのを確認し、これ幸いと意識を外に向けて深呼吸を繰り返した。
この気持ち悪さは一体何なんだろう。
……今の言い方って、孝之さんと付き合っているのを知っていての言い回しかな。
知られているんだとしたら、それは、……別に構わない。
今まで意識していなかったから会社が同性とのあれこれにどのくらい寛容なのかは判らないけど、それを理由に冷遇されたり、差別されるなら、孝之さんとも相談して対応するだけだ。
働く場所はここだけじゃない。自慢じゃないけど語学には自信があるし雇ってくれるところはきっとある。
だから、気になるのは部長の言い回しの、根拠。
そう。
どうして部長はあんなに確信めいた言い方が出来たのか。
「……それも噂?」
久和くんはお酒の席で長谷川さん達がそんな話をしていたって言っていた。が、付き合うことにしたのは一昨日だ。
長谷川さんは休み明けの夜番だったんだから酒の席に参加出来るはずがないし、それ以前はまだ交際してない。っていうか孝之さんがホテルに初めて来てからまだ一週間も経ってない。
普通に考えて交際が始まるなんて思わないのでは?
となると考えられるのはウワサを事実だと勘違いしたパターンと、実際は勘違いじゃないから俺自身が動揺して考え過ぎている……?
怖い。
ものすごくイヤな予感がした。
嫌な予感を抱えたまま時間は過ぎ、孝之さんは昼食をよほど急いだのか20分も経たずに戻って来た。その後は藤倉部長がご飯に行き、俺が行き――。
「吉田課長、次お昼どうぞ」
「相田、ちょっと頼みがあるんだが」
「はい」
作業の途中だったらしい吉田課長に呼ばれて近付けば、唐突に今日の予約カードを手渡された。いつのだろうかと日付を見て、固まる。
「え。これ今日の予約も入ってるじゃないですか!」
「そうだ、もう間もなく今日のチェックイン始まるのにな!」
「どこにあったんですかコレ!」
「部長のデスクだっ」
「~~~っ」
あのオヤジ!
思わず席を振り返ったけど本人は不在。これでゲームなんてしていた日には本気で噛みついてやったのに!
予約カードというのは、メールや電話で予約を取った時に担当スタッフが取るメモのようなものだ。絶対に忘れてはいけない聞くべき情報がすべて記載されているから、仕事に慣れていない人ほどこれでお客様に対応する。
特にパソコンの予約システムが不馴れなスタッフが電話を受けた場合には、慣れたスタッフが可否を確認した後で先方に折り返し電話、またはメールして返信しなければならない。
ましてや直近の予約は更に複雑だ。
何日から何日まで宿泊したいというお客様の要望を聞いた時、部屋が空いていれば問題なく予約を取ることが出来るけれど、既に部屋のアサインが済んでいる期間に被って来ると、部屋の数的には空室があっても希望の泊数空いている部屋がない場合もある。
そういうときは吉田課長がまるでパズルみたいに部屋番号を組み合わせ直していくのだ。
いま俺達の手元にある予約カードは七枚。宿泊希望日は今日の分から今週末の分まで。週末でもホテルは半分しか埋まっていないのだから部屋はあるだろう。
がっ。
「まさか入力もしていないんですか……?」
「そうだ、だからこっち頼めるか」
「もちろんです」
課長に渡された三枚はすべて今日の分だった。
必要事項をパソコンの予約システムに入力していく。
お客様の名前、住所、宿泊予定日、人数、宿泊プラン――。
「部屋はどこにアサインしますか?」
「三泊までならどこでもいい。それ以上は聞いてくれ」
「了解です」
うわっ、これ夕食付だよレストランにも変更入れなきゃだ!
それから清掃にも連絡して部屋の用意を頼んで……くっ……あのおっさん、中途半端な仕事をするくらいなら最初からなにもしなければいいものを……!
イライラするけど、それで入力ミスしようものなら本末転倒。
深呼吸を繰り返して何とか気持ちを落ち着かせ、課長と合わせて七件の予約を追加登録。
「各部署に連絡して来ます」
「すまん、頼む」
システムが定めたID番号を書き足した予約カードを課長に渡すと、課長は電話に手を伸ばす。
本来であれば前日に確認メールなりが届くはずだったのだ。それが届かなかった件も含めて電話連絡するのだと思うと気の毒になってくる。
いや、もしかしたら予約が取れているかお客様の方から確認があって、未入力の予約カードに気付いたのかもしれない。
「はぁ……すみません、いが……」
カウンターにいる彼に声を掛け、しばらく事務所から離れることを伝えようとしたら、チェックインの真っ最中だった。
小さな男の子と手を繋いだお父さん、赤ちゃんを抱っこひもで抱えているお母さんの四人家族に、とても落ち着いた様子で滞在中の注意事項等を説明している。
とても勤務三日目の姿とは思えないくらい堂々としていて、カッコいいなぁと和んでしまったらさっきまでのイライラが嘘みたいに消えていく。
「よし……俺は俺で行ってこよう」
課長も電話で忙しいけど、そろそろ長谷川さんが来る時間だし大丈夫だろう。
そう結論付けてまずは清掃スタッフの休憩室に顔を出し、急なお願いになることを詫びて三部屋追加で宿泊準備を整えて欲しいと伝える。
佐藤さんも、いた。
気まずいかなと思ったけど幸いそんなことはなく、やっぱり俺が自意識過剰だったんだと反省した。
「部屋の追加ね、宿泊予定のない部屋も全室整えてあるから大丈夫だけど……あ、ここはソファベッドを入れて三人眠れるようにしないとダメだわ」
表記されている部屋番号を見てすぐに気付くのは女性リーダーの高橋さん。
「佐藤くん、力仕事頼める?」
「はい、行ってきます……ところで相田さん、喉が涸れているみたいですけど大丈夫ですか?」
「え……」
「もしよかったらどうぞ」
差し出されたのは紙コップに入った水だった。
「要らなかったら流して捨ててください。じゃあちょっと行ってきます」
「ぇ、あ、はい、よろしくお願いします」
「あらあら相田くん風邪気味なの?」
ぺこりと頭を下げて見送るが早いか清掃の女性スタッフがなぜか次々とお菓子を渡してくる。
「飴も持っていきなさい。最中は? チョコ好き?」
「好きですけど、あの……ありがとうございます」
結果、制服の上着のポケットがぱんぱんになるくらいお菓子を持たされた。佐藤さんのくれた紙コップには水が三センチくらいの深さしかなくて、一気飲みしても苦しくない量だったのはあの人なりの気遣いだったんだと思う。ありがたく頂戴してからレストランに移動したら、ぱんぱんのポケットを見たスタッフ達に笑われた。
そりゃあ笑うよね、本当にぱんぱんだもの。
「もしよかったら少しどうぞ。それと、宿泊客が7名増えます。そのうち夕食付きが2名追加です」
「はいよ、夕食2名追加、朝定が7プラス……と」
「直前の変更ですみません」
「なんもなんも。確かに急だかこの時期にはよくあることだ」
多少は増減する前提で準備しているから大丈夫だと励ましてくれたのは奥寺部長だ。同じ部長でも月とすっぽん、雲泥、鯨と鰯。
「一先ずこれで最悪の事態は回避かな」
……だからといって藤倉部長の無責任をなかったことには出来ないけど!
事務所に戻ったら藤倉部長が戻っていた。
「いやはやすまなかったねぇ、どうもパソコンは苦手でさぁ。あはは」
あははじゃねぇっ!
たぶん14時に出勤して話を聞いたのだろう長谷川さんも含め、俺、吉田課長、それに孝之さんも共通のツッコミだったと思う。
「すまなかったねぇ、今日はほら、お詫びに僕が珈琲を淹れるから」
言いながら使い捨てのプラスチックカップをホルダーにセットして、もう煮詰まっているんじゃないかという出来合いの珈琲を注いでいく。
「五十嵐ちゃんと相田ちゃんはブラックだろ? 長谷川ちゃんは牛乳入れてカフェオレ、吉田課長はミルクだったなぁ」
「ええ、まあ」
吉田課長は渋い顔をしながら答える。
いろいろ言いたいことはあるだろうけど、上司ですもんね。しかも創業者の息子で、創業者は会長っていう役職に就いたいまも影響力が大きい。
社長が、部長の奥さんだという点については、まぁ会長もただの親バカじゃなさそうだけど厄介な人であることに変わりはない。
部長が入れてくれた珈琲をちびちびと飲みながら、その後は16時まで通常通りの勤務。今日予定していたチェックインの半数を終えたところで俺と孝之さんは上がることにした。
「それじゃあお先に失礼します……」
「ああ、今日は助かったよ。ありがとな」
「いえ……」
昨日と同じように渡り廊下の扉を開けて待ってくれている孝之さん。……気合いでそこまで歩き、扉が閉まると当時に腕にしがみついた。
「っ、奏介?」
あぁ、まずい。
くらくらする。
手足が重くて、……暖かくて。
「眠い……」――。
だから、俺より頭一つ大きな孝之さんと向き合うと迫力過多で吹き飛ばされそうに見えるのに、実際にはのほほんと食えない顔で笑っている。
「五十嵐ちゃん、先にお昼に行っておいでよ」
「私がですか」
「いつチェックインが始まるか判らないからね。暇な時に順番にどんどん取って行かないと」
藤倉部長が言うことは正しい。
あと一時間もすればアーリーチェックインのお客様が到着する。今日は大きな団体こそないけどチェックインの数は今季最多、そして今日以降は毎日更新されていく予定だ。
「行って来て下さい、五十嵐さん」
「……判りました」
何かを言いたそうな顔をしているが、事務所には吉田課長がいるし、いくら藤倉部長だって勤務時間中に無理難題を吹っ掛けて来たりはしないだろう。
何度か此方を振り返りながら食堂に向かう孝之さん。
「ハハッ」
藤倉部長は小さく笑った。
「彼も君が可愛くて仕方ないんだろうなぁ」
「……え?」
「ふふっ。五十嵐ちゃんはいつもあんなふうに過保護なんだろう?」
「――……っ」
ゾッとした。
鳥肌が立った。
部長は笑う。
「相田ちゃんはカウンターを頼むよ」
「は、はい……」
部長が事務所に帰っていくのを確認し、これ幸いと意識を外に向けて深呼吸を繰り返した。
この気持ち悪さは一体何なんだろう。
……今の言い方って、孝之さんと付き合っているのを知っていての言い回しかな。
知られているんだとしたら、それは、……別に構わない。
今まで意識していなかったから会社が同性とのあれこれにどのくらい寛容なのかは判らないけど、それを理由に冷遇されたり、差別されるなら、孝之さんとも相談して対応するだけだ。
働く場所はここだけじゃない。自慢じゃないけど語学には自信があるし雇ってくれるところはきっとある。
だから、気になるのは部長の言い回しの、根拠。
そう。
どうして部長はあんなに確信めいた言い方が出来たのか。
「……それも噂?」
久和くんはお酒の席で長谷川さん達がそんな話をしていたって言っていた。が、付き合うことにしたのは一昨日だ。
長谷川さんは休み明けの夜番だったんだから酒の席に参加出来るはずがないし、それ以前はまだ交際してない。っていうか孝之さんがホテルに初めて来てからまだ一週間も経ってない。
普通に考えて交際が始まるなんて思わないのでは?
となると考えられるのはウワサを事実だと勘違いしたパターンと、実際は勘違いじゃないから俺自身が動揺して考え過ぎている……?
怖い。
ものすごくイヤな予感がした。
嫌な予感を抱えたまま時間は過ぎ、孝之さんは昼食をよほど急いだのか20分も経たずに戻って来た。その後は藤倉部長がご飯に行き、俺が行き――。
「吉田課長、次お昼どうぞ」
「相田、ちょっと頼みがあるんだが」
「はい」
作業の途中だったらしい吉田課長に呼ばれて近付けば、唐突に今日の予約カードを手渡された。いつのだろうかと日付を見て、固まる。
「え。これ今日の予約も入ってるじゃないですか!」
「そうだ、もう間もなく今日のチェックイン始まるのにな!」
「どこにあったんですかコレ!」
「部長のデスクだっ」
「~~~っ」
あのオヤジ!
思わず席を振り返ったけど本人は不在。これでゲームなんてしていた日には本気で噛みついてやったのに!
予約カードというのは、メールや電話で予約を取った時に担当スタッフが取るメモのようなものだ。絶対に忘れてはいけない聞くべき情報がすべて記載されているから、仕事に慣れていない人ほどこれでお客様に対応する。
特にパソコンの予約システムが不馴れなスタッフが電話を受けた場合には、慣れたスタッフが可否を確認した後で先方に折り返し電話、またはメールして返信しなければならない。
ましてや直近の予約は更に複雑だ。
何日から何日まで宿泊したいというお客様の要望を聞いた時、部屋が空いていれば問題なく予約を取ることが出来るけれど、既に部屋のアサインが済んでいる期間に被って来ると、部屋の数的には空室があっても希望の泊数空いている部屋がない場合もある。
そういうときは吉田課長がまるでパズルみたいに部屋番号を組み合わせ直していくのだ。
いま俺達の手元にある予約カードは七枚。宿泊希望日は今日の分から今週末の分まで。週末でもホテルは半分しか埋まっていないのだから部屋はあるだろう。
がっ。
「まさか入力もしていないんですか……?」
「そうだ、だからこっち頼めるか」
「もちろんです」
課長に渡された三枚はすべて今日の分だった。
必要事項をパソコンの予約システムに入力していく。
お客様の名前、住所、宿泊予定日、人数、宿泊プラン――。
「部屋はどこにアサインしますか?」
「三泊までならどこでもいい。それ以上は聞いてくれ」
「了解です」
うわっ、これ夕食付だよレストランにも変更入れなきゃだ!
それから清掃にも連絡して部屋の用意を頼んで……くっ……あのおっさん、中途半端な仕事をするくらいなら最初からなにもしなければいいものを……!
イライラするけど、それで入力ミスしようものなら本末転倒。
深呼吸を繰り返して何とか気持ちを落ち着かせ、課長と合わせて七件の予約を追加登録。
「各部署に連絡して来ます」
「すまん、頼む」
システムが定めたID番号を書き足した予約カードを課長に渡すと、課長は電話に手を伸ばす。
本来であれば前日に確認メールなりが届くはずだったのだ。それが届かなかった件も含めて電話連絡するのだと思うと気の毒になってくる。
いや、もしかしたら予約が取れているかお客様の方から確認があって、未入力の予約カードに気付いたのかもしれない。
「はぁ……すみません、いが……」
カウンターにいる彼に声を掛け、しばらく事務所から離れることを伝えようとしたら、チェックインの真っ最中だった。
小さな男の子と手を繋いだお父さん、赤ちゃんを抱っこひもで抱えているお母さんの四人家族に、とても落ち着いた様子で滞在中の注意事項等を説明している。
とても勤務三日目の姿とは思えないくらい堂々としていて、カッコいいなぁと和んでしまったらさっきまでのイライラが嘘みたいに消えていく。
「よし……俺は俺で行ってこよう」
課長も電話で忙しいけど、そろそろ長谷川さんが来る時間だし大丈夫だろう。
そう結論付けてまずは清掃スタッフの休憩室に顔を出し、急なお願いになることを詫びて三部屋追加で宿泊準備を整えて欲しいと伝える。
佐藤さんも、いた。
気まずいかなと思ったけど幸いそんなことはなく、やっぱり俺が自意識過剰だったんだと反省した。
「部屋の追加ね、宿泊予定のない部屋も全室整えてあるから大丈夫だけど……あ、ここはソファベッドを入れて三人眠れるようにしないとダメだわ」
表記されている部屋番号を見てすぐに気付くのは女性リーダーの高橋さん。
「佐藤くん、力仕事頼める?」
「はい、行ってきます……ところで相田さん、喉が涸れているみたいですけど大丈夫ですか?」
「え……」
「もしよかったらどうぞ」
差し出されたのは紙コップに入った水だった。
「要らなかったら流して捨ててください。じゃあちょっと行ってきます」
「ぇ、あ、はい、よろしくお願いします」
「あらあら相田くん風邪気味なの?」
ぺこりと頭を下げて見送るが早いか清掃の女性スタッフがなぜか次々とお菓子を渡してくる。
「飴も持っていきなさい。最中は? チョコ好き?」
「好きですけど、あの……ありがとうございます」
結果、制服の上着のポケットがぱんぱんになるくらいお菓子を持たされた。佐藤さんのくれた紙コップには水が三センチくらいの深さしかなくて、一気飲みしても苦しくない量だったのはあの人なりの気遣いだったんだと思う。ありがたく頂戴してからレストランに移動したら、ぱんぱんのポケットを見たスタッフ達に笑われた。
そりゃあ笑うよね、本当にぱんぱんだもの。
「もしよかったら少しどうぞ。それと、宿泊客が7名増えます。そのうち夕食付きが2名追加です」
「はいよ、夕食2名追加、朝定が7プラス……と」
「直前の変更ですみません」
「なんもなんも。確かに急だかこの時期にはよくあることだ」
多少は増減する前提で準備しているから大丈夫だと励ましてくれたのは奥寺部長だ。同じ部長でも月とすっぽん、雲泥、鯨と鰯。
「一先ずこれで最悪の事態は回避かな」
……だからといって藤倉部長の無責任をなかったことには出来ないけど!
事務所に戻ったら藤倉部長が戻っていた。
「いやはやすまなかったねぇ、どうもパソコンは苦手でさぁ。あはは」
あははじゃねぇっ!
たぶん14時に出勤して話を聞いたのだろう長谷川さんも含め、俺、吉田課長、それに孝之さんも共通のツッコミだったと思う。
「すまなかったねぇ、今日はほら、お詫びに僕が珈琲を淹れるから」
言いながら使い捨てのプラスチックカップをホルダーにセットして、もう煮詰まっているんじゃないかという出来合いの珈琲を注いでいく。
「五十嵐ちゃんと相田ちゃんはブラックだろ? 長谷川ちゃんは牛乳入れてカフェオレ、吉田課長はミルクだったなぁ」
「ええ、まあ」
吉田課長は渋い顔をしながら答える。
いろいろ言いたいことはあるだろうけど、上司ですもんね。しかも創業者の息子で、創業者は会長っていう役職に就いたいまも影響力が大きい。
社長が、部長の奥さんだという点については、まぁ会長もただの親バカじゃなさそうだけど厄介な人であることに変わりはない。
部長が入れてくれた珈琲をちびちびと飲みながら、その後は16時まで通常通りの勤務。今日予定していたチェックインの半数を終えたところで俺と孝之さんは上がることにした。
「それじゃあお先に失礼します……」
「ああ、今日は助かったよ。ありがとな」
「いえ……」
昨日と同じように渡り廊下の扉を開けて待ってくれている孝之さん。……気合いでそこまで歩き、扉が閉まると当時に腕にしがみついた。
「っ、奏介?」
あぁ、まずい。
くらくらする。
手足が重くて、……暖かくて。
「眠い……」――。
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