25 / 46
第四章 自覚と成長と、ときどき暴走
1
しおりを挟む
――……温まって上気した君を見て平然としていられる自信はないからな……
それってどういう意味ですか、とは聞けなくて。
しかも温泉から出て来た孝之さんが何事もなかったみたいな顔で普通に接して来るなら俺も合わせるしかない。寮に戻り一緒に社食で夕飯を食べ、19時前には解散。
とても健全な休日だった。
「健全て!」
部屋で一人、叫びながらベッドに飛び込んだ。
どういうこと!
なんなの一体!
「孝之さんは俺をどうしたいのさ……!」
おおおおお。
心臓がバクバクする。
落ち着かない。
何度も、何度も彼の言葉が耳の奥で繰り返される。
上気って、だって、それを言うなら彼だって。
「っ……」
思い出すのは体を洗い出した後でこちらの視線に気付き振り返った、気恥ずかしそうに笑ったあの顔。平然としてられないと言うなら自分の方だ。
さっきからずっとそう。
ようやく部屋で一人きりになって孝之さんの視線から逃れられたのに、落ち着くどころか、こんな。
そればかりか別れる時に「また明日」っていう言葉がなかなか出て来なかった己を自覚している。
動揺して、恥ずかしくて、早く隠れたかったのに。
もう少し、あと少し一緒にいたかった。
離れたくなかった、なんて。
「こんな……」
言語にばかりかまけていたからこそ、こういう現象は何度も文字で追って来た。古今東西どんな物語だってこういう心境の先に導かれる結論で一番多いのはーー。
「……いやいやいやいや、ダメだろ。そもそも、俺も孝之さんも男なんだから……」
有り得ない。
ダメに決まってる。
でも。
「まさか同じなんてこと……」
平然としていられないのが今の自分と同じなら、もしかしたら。
「ええぇ……違う、絶対。だって、孝之さんと違って俺は泣いていただけだ……」
俺はあの人に救われたけど。
俺はあの人に愚痴っただけ。
泣いて、弱音を吐いて、どうにもならない子どもの癇癪に付き合わせただけじゃないか。
俺が、というなら納得しかない。
あの日からずっと。
今日まで。
会いたくて、会いたくて、匂いのしなくなった匂袋を握り締めながら思い出の中の彼に励まされて来た。もしも再会出来たなら「あなたのおかげで頑張れた」と、そう伝えたくて。
「あー……そっか」
ぐるぐると感情が渦巻く中で、ストンと胸に落ちてきた答え。
違うと否定しつつも納得してしまっている自分に気付く。
気付いてしまった。
「これが「好き」か……」
あの異国の地で出逢った日から、あの人だけがずっとこの心に居続けた。
忘れられなかったのも。
他の誰にも心惹かれなかったのも。
全部、全部、無意識に『特別』を知っていたからだ。
「……あぁぁ……バカじゃん」
それが判ったからって、どうなる。
自分の気持ちを自覚したところで叶うはずがない。
……本当に?
孝之さんは平然としていられないと言った。それは、少なからず意識してくれているという意味ではないだろうか。
「……いまからでも努力したら好きになってもらえるだろうか」
男同士なのに?
いや、先に思わせぶりなことを言ったのは彼の方だが、本音が自分と同じだなんて都合良くは考えられない。当たり前だ、今日までに好かれる要素が一つも思い当たらないのだから。
「どうしたら……」
いままでに読んできたたくさんの本の内容を思い出してみる。
まずは自分の気持ちを伝えて意識してもらわなければ始まりようがない、という話があったが、男同士でそれは厳しい。
男同士という関係が一昔前に比べれば許容されてきていることは普通に生活していれば情報として入ってくるけれど、そんな関係は異端だと拒否する人たちだって当たり前に存在する。
それでなくてもこれから冬の間は一緒に働く同僚である。
勇み足で気まずくなるのは絶対に避けたい。
となれば、まずは好みを知るところから?
「それで胸の大きな女の子とか言われたら立ち直るのに時間掛かりそう……」
気持ちが沈む。
その、自分自身の変化に実感してしまう。
「……俺、本当に孝之さんのことが好きなんだ……」
それってどういう意味ですか、とは聞けなくて。
しかも温泉から出て来た孝之さんが何事もなかったみたいな顔で普通に接して来るなら俺も合わせるしかない。寮に戻り一緒に社食で夕飯を食べ、19時前には解散。
とても健全な休日だった。
「健全て!」
部屋で一人、叫びながらベッドに飛び込んだ。
どういうこと!
なんなの一体!
「孝之さんは俺をどうしたいのさ……!」
おおおおお。
心臓がバクバクする。
落ち着かない。
何度も、何度も彼の言葉が耳の奥で繰り返される。
上気って、だって、それを言うなら彼だって。
「っ……」
思い出すのは体を洗い出した後でこちらの視線に気付き振り返った、気恥ずかしそうに笑ったあの顔。平然としてられないと言うなら自分の方だ。
さっきからずっとそう。
ようやく部屋で一人きりになって孝之さんの視線から逃れられたのに、落ち着くどころか、こんな。
そればかりか別れる時に「また明日」っていう言葉がなかなか出て来なかった己を自覚している。
動揺して、恥ずかしくて、早く隠れたかったのに。
もう少し、あと少し一緒にいたかった。
離れたくなかった、なんて。
「こんな……」
言語にばかりかまけていたからこそ、こういう現象は何度も文字で追って来た。古今東西どんな物語だってこういう心境の先に導かれる結論で一番多いのはーー。
「……いやいやいやいや、ダメだろ。そもそも、俺も孝之さんも男なんだから……」
有り得ない。
ダメに決まってる。
でも。
「まさか同じなんてこと……」
平然としていられないのが今の自分と同じなら、もしかしたら。
「ええぇ……違う、絶対。だって、孝之さんと違って俺は泣いていただけだ……」
俺はあの人に救われたけど。
俺はあの人に愚痴っただけ。
泣いて、弱音を吐いて、どうにもならない子どもの癇癪に付き合わせただけじゃないか。
俺が、というなら納得しかない。
あの日からずっと。
今日まで。
会いたくて、会いたくて、匂いのしなくなった匂袋を握り締めながら思い出の中の彼に励まされて来た。もしも再会出来たなら「あなたのおかげで頑張れた」と、そう伝えたくて。
「あー……そっか」
ぐるぐると感情が渦巻く中で、ストンと胸に落ちてきた答え。
違うと否定しつつも納得してしまっている自分に気付く。
気付いてしまった。
「これが「好き」か……」
あの異国の地で出逢った日から、あの人だけがずっとこの心に居続けた。
忘れられなかったのも。
他の誰にも心惹かれなかったのも。
全部、全部、無意識に『特別』を知っていたからだ。
「……あぁぁ……バカじゃん」
それが判ったからって、どうなる。
自分の気持ちを自覚したところで叶うはずがない。
……本当に?
孝之さんは平然としていられないと言った。それは、少なからず意識してくれているという意味ではないだろうか。
「……いまからでも努力したら好きになってもらえるだろうか」
男同士なのに?
いや、先に思わせぶりなことを言ったのは彼の方だが、本音が自分と同じだなんて都合良くは考えられない。当たり前だ、今日までに好かれる要素が一つも思い当たらないのだから。
「どうしたら……」
いままでに読んできたたくさんの本の内容を思い出してみる。
まずは自分の気持ちを伝えて意識してもらわなければ始まりようがない、という話があったが、男同士でそれは厳しい。
男同士という関係が一昔前に比べれば許容されてきていることは普通に生活していれば情報として入ってくるけれど、そんな関係は異端だと拒否する人たちだって当たり前に存在する。
それでなくてもこれから冬の間は一緒に働く同僚である。
勇み足で気まずくなるのは絶対に避けたい。
となれば、まずは好みを知るところから?
「それで胸の大きな女の子とか言われたら立ち直るのに時間掛かりそう……」
気持ちが沈む。
その、自分自身の変化に実感してしまう。
「……俺、本当に孝之さんのことが好きなんだ……」
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
溺愛執事と誓いのキスを
水無瀬雨音
BL
日本有数の大企業の社長の息子である周防。大学進学を機に、一般人の生活を勉強するため一人暮らしを始めるがそれは建前で、実際は惹かれていることに気づいた世話係の流伽から距離をおくためだった。それなのに一人暮らしのアパートに流伽が押し掛けてきたことで二人での生活が始まり……。
ふじょっしーのコンテストに参加しています。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
(BLR18)合縁奇縁(イチゴとヨシトの場合)
麻木香豆
BL
40歳童貞ダメダメSEの寧人と26歳配達員の一護。二人の出会いを描いた作品です。
タイトル変更しました(イチゴに練乳たっぷりかけて)
R18指定の作品です。
鳩森 寧人(はともりよしと)40歳
引きこもりネガティブSE、童貞。
パニック持ちの頼りないやつ。好物マーボー丼。疲れた時は二重、普段一重。
菱 一護(ひしいちご)26歳
元美容師、オーナーであり現在フードジャンゴ社長。
裏ではメンズマッサージ店を経営していた。
ロン毛バリネコ。家事全般得意、お世話好き。ぱっちり二重。マッサージが得意。
古田 倫悟(ふるたりんご)30歳
寧人の年上の上司で営業マン。バツイチ。
ドSと甘えん坊の二面性を持つ。キツネ目。
性感マッサージが好き。
菱 頼知(ひし らいち)23歳
一護の異母兄弟。調子に乗りやすい。
バイセクシャル、人に好かれたい、甘え上手。手のかかる子。
若くして一護の美容院オーナーの跡を継いだ。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
838の招待席~リゾートホテルで再会した恋
江戸川ばた散歩
BL
憧れのリゾートホテルに就職した陽人。天気病みのある彼を何かと気遣ってくれる人。
そんな中で「謎の838号室」のことを聞いて……
性描写は6.7章に集中してますので、まあ外しても読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる