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18.銀色の髪の少女(1)
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その日、送り迎えを調整していたように休みも合わさったシエルとローレルは、ニーシャと一緒にゆっくりと街まで歩き、友人達とお喋りするという彼女と別れて街を散策していた。
「今日はお休みかいシエルちゃん」
花屋のおじさんが笑顔で声を掛けてくる。先週の半ばに夏風邪をひいて病院に来ていたこともあり、すっかり顔見知りだ。
「はい。なので街を案内してくれるってローレルさんが……」
「そうかそうか、休みにデートなんてさすが新婚だな」
言われて、否定の言葉を飲み込む代わりに顔が火照る。
「ローレル、デートの記念に一本どうだ? シエルちゃんにはこのヒマワリが似合いそうだが」
「……オヤジさんの営業の巧さには敵わないな」
ローレルは苦笑混じりに言いながら花一輪分の代金を払うと、おじさんが髪に差しやすいよう加工してくれたそれを受け取ってシエルの右耳の上に差し込んだ。
「……ん、似合う」
「ぁ、ありがとうございます……」
身元を詮索されないためのお芝居だと解っていても、ローレルの瞳が優しくてドキドキしてしまう。
花屋のおじさんが笑う。
「いやぁいいねぇ新婚さん!」
これにはローレルも反応に困っていた。
顔見知りが増えただけ、道でも声を掛けられることが増えていく。
「小隊長は水臭いです、こんな素敵なお嫁さんがいるならもっと早く教えて下さいよ! 何度紹介してくれって女の子達から睨まれたと思ってるんですか」
そんなふうに文句を言う人もいれば反対に「安心した」と嬉しそうに彼の背中を叩く人も。
1日歩いて解ったことと言えば、ローレルがこの街でとても信頼され、みんなに好かれていると言うことだ。
「そろそろニーシャを迎えに行く時間だが、他に行きたいところはあるか?」
「そう……ですね。近くにあるなら教会に行ってみたいです」
「教会か。ならこっちだ」
ローレルはすぐに応え、シエルを案内する。
街の賑わいから離れ、閑静な木々の道を抜けて辿り着く、街の規模に合わせたそこそこに大きな教会だ。
チャペルには100人以上が収容可能で、壁際には二階席もあるが建物の中央は天井までが吹き抜けだ。
上から下まで、窓を彩る一枚絵のステンドグラスはこの世界の神々の物語がモチーフになっていて、登場人物は多岐にわたる。
だが、チャペルの最奥、祭壇に飾られた神像はただ一柱。
この教会で信仰されているのは雷と戦の神ペルンだ。
「君に二度も間違われた」
「その節は申し訳ありませんでした……」
起き抜けに顔を見るたびのローレルに対してペルン様と呼び掛けてしまっている事実に恐縮する。
「まぁ、この戦神に間違われて嫌な気がする男は帝国にはいないが」
「そうでしょうか……」
「ああ」
強く、大きく、守るべきものを絶対に守り抜く男神だ。
ローレルだって例えられて悪い気がするはずがない。
「しかし君は、記憶がなかったのに神々の名前は憶えていたんだな」
「はい……」
シエルは頷いてペルンの神像を見上げると、祈りを捧げるべく膝を折った。
しばらくの静寂ののち、彼女は言う。
「何も覚えていなかったのに……雷と戦の神ぺルン様、天の神スヴァローグ様、獣と豊穣の女神ヴェーレス様……三柱の神像を、ずっと……、ずっと、見つめていたような気がするのです」
「ふむ。その三柱を信仰しているといったらどこだろうな……この辺りは他国と国境を接しているせいもあってペルン様の像ばかりだし、隣のフィナンシェ国はヴェーレス様だけだと聞くし……そもそも天の神の神像を置いて信仰する国が珍しい」
「そうですね。数百年前なら当たり前でしたが……」
「自分のことは判らないのに神々の話に関しては本当には詳しいな」
「……本当ですね。不思議です……」
シエルは首を傾げた。
とても不思議な感覚……しかし心の奥がとても温かくなるから、彼女にとってはそれがとても自然なことだったのだ。
「今日はお休みかいシエルちゃん」
花屋のおじさんが笑顔で声を掛けてくる。先週の半ばに夏風邪をひいて病院に来ていたこともあり、すっかり顔見知りだ。
「はい。なので街を案内してくれるってローレルさんが……」
「そうかそうか、休みにデートなんてさすが新婚だな」
言われて、否定の言葉を飲み込む代わりに顔が火照る。
「ローレル、デートの記念に一本どうだ? シエルちゃんにはこのヒマワリが似合いそうだが」
「……オヤジさんの営業の巧さには敵わないな」
ローレルは苦笑混じりに言いながら花一輪分の代金を払うと、おじさんが髪に差しやすいよう加工してくれたそれを受け取ってシエルの右耳の上に差し込んだ。
「……ん、似合う」
「ぁ、ありがとうございます……」
身元を詮索されないためのお芝居だと解っていても、ローレルの瞳が優しくてドキドキしてしまう。
花屋のおじさんが笑う。
「いやぁいいねぇ新婚さん!」
これにはローレルも反応に困っていた。
顔見知りが増えただけ、道でも声を掛けられることが増えていく。
「小隊長は水臭いです、こんな素敵なお嫁さんがいるならもっと早く教えて下さいよ! 何度紹介してくれって女の子達から睨まれたと思ってるんですか」
そんなふうに文句を言う人もいれば反対に「安心した」と嬉しそうに彼の背中を叩く人も。
1日歩いて解ったことと言えば、ローレルがこの街でとても信頼され、みんなに好かれていると言うことだ。
「そろそろニーシャを迎えに行く時間だが、他に行きたいところはあるか?」
「そう……ですね。近くにあるなら教会に行ってみたいです」
「教会か。ならこっちだ」
ローレルはすぐに応え、シエルを案内する。
街の賑わいから離れ、閑静な木々の道を抜けて辿り着く、街の規模に合わせたそこそこに大きな教会だ。
チャペルには100人以上が収容可能で、壁際には二階席もあるが建物の中央は天井までが吹き抜けだ。
上から下まで、窓を彩る一枚絵のステンドグラスはこの世界の神々の物語がモチーフになっていて、登場人物は多岐にわたる。
だが、チャペルの最奥、祭壇に飾られた神像はただ一柱。
この教会で信仰されているのは雷と戦の神ペルンだ。
「君に二度も間違われた」
「その節は申し訳ありませんでした……」
起き抜けに顔を見るたびのローレルに対してペルン様と呼び掛けてしまっている事実に恐縮する。
「まぁ、この戦神に間違われて嫌な気がする男は帝国にはいないが」
「そうでしょうか……」
「ああ」
強く、大きく、守るべきものを絶対に守り抜く男神だ。
ローレルだって例えられて悪い気がするはずがない。
「しかし君は、記憶がなかったのに神々の名前は憶えていたんだな」
「はい……」
シエルは頷いてペルンの神像を見上げると、祈りを捧げるべく膝を折った。
しばらくの静寂ののち、彼女は言う。
「何も覚えていなかったのに……雷と戦の神ぺルン様、天の神スヴァローグ様、獣と豊穣の女神ヴェーレス様……三柱の神像を、ずっと……、ずっと、見つめていたような気がするのです」
「ふむ。その三柱を信仰しているといったらどこだろうな……この辺りは他国と国境を接しているせいもあってペルン様の像ばかりだし、隣のフィナンシェ国はヴェーレス様だけだと聞くし……そもそも天の神の神像を置いて信仰する国が珍しい」
「そうですね。数百年前なら当たり前でしたが……」
「自分のことは判らないのに神々の話に関しては本当には詳しいな」
「……本当ですね。不思議です……」
シエルは首を傾げた。
とても不思議な感覚……しかし心の奥がとても温かくなるから、彼女にとってはそれがとても自然なことだったのだ。
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