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3.記憶を失くした令嬢と、寡黙な青年と、温かな老夫婦(2)

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 ローレルはこれまでの経緯をゆっくりと、言葉数は少なくも丁寧に説明した。
 少女の声が掠れている事に気付くと水差しとコップを運んで来て喉を潤わせ、起きているのが辛そうになると隣の部屋からクッションを運んで腰の周りに敷き詰める。
 そんな気遣いを見せながら語られた内容を纏めると、二日前の夕方に買出しから戻って来たところ二頭の馬が駆け寄って来て「一緒に来い」と言うように彼の腕を咥えて離さない。仕方なしに付き合うと壊れた馬車から投げ出されるように横たわっていた彼女を発見したので連れ帰った、と。

「馬、ですか」
「ああ。黒毛で一頭は左耳がなかった。一頭は……あぁ、腹のところに傷があったな。覚えはないか?」
「いえ……」
「そうか。だが命の恩人には違いない、後で礼を言うといい」
「近くにいるんですか?」
「ああ。君の馬なら帰るのに役立つだろうと思ったから、庭に繋いである」

 ローレルはそう言うと、話を戻す。

「で、俺が医者を呼びに行っている間にニーシャが体を拭いて着替えさせたりした。ドヴィーも手伝ったかもしれないが二人は老夫婦だ。見たとしても許してやってくれ」
「ぁ、いえ。それはもう、全然……ご迷惑をお掛けしたと反省しています」

 恥ずかしさと申し訳なさから俯いた少女にローレルは目を細める。
 こうして見る限りは普通の少女にしか見えないのだが……。

「……君が乗っていた馬車なんだが、恐らく罪人を運ぶためのものだ」
「え……」

 驚いたように顔を上げて重なる視線。
 それを真っ直ぐに見返したローレルは短く息を吐く。

「いや、いい。俺の勘違いだろう。名前も記憶もないんだ、せめて怪我が癒えるまでは此処で養生するといい」
「……はい」

 勘違い?
 それは奇しくも二人がそれぞれに心の中で抱いた疑問。ローレルは馬車を見たから。少女は、彼がとても真面目な顔をして言うから、それを勘違いで済ませてもいいのかと不安になったのだ。

「……ローレルさん」
「なんだ」
「……私が……私が悪人だと思ったら、すぐに通報してくださいね……」
「……まあ、そうだな」

 ローレルは俯く少女の顔を上げさせ、そのまま額を軽く押して横になるよう促す。血の気の無い青白い顔。

「悪人だと思ったら通報しよう。とりあえず今はもうすこし休め。ドヴィーとニーシャを紹介するのも朝になってからだ」
「はい……」

 不要になったクッションの一つ一つを抜き取って傍の丸椅子の上に重ねていくローレル。その表情に険しさは感じられなかった。
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