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第9章 未来のために
閑話:サンコティオン(10)
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side:バルドル
怪しさしかない女を相手に、クルトは返答に悩んでいると言うよりも、その意図を掴もうとしているように見えた。
「……どうして急に?」
「え」
「確かにパーティを組むくらい親しかったけど、あなたの今の言い方だと、マリーから俺に会いたいって言ったわけじゃないですよね?」
誰が見てもそうと判るくらい探る目的で向けられた視線に女魔法使いが一歩後ずさった。
「どうして俺をマリーと会わせたいんですか?」
ずばり確信を突くクルト。
後ろでウーガが口笛を吹きそうになってエニスとドーガに左右から小突かれている。
俺は、これに関しては本人が決めれば良いと思っているので静観の構えだが、クルトの対応が正解だと思う。話し掛けて来たこの女には悪意が感じられないからだ。
言葉の裏を読んだり腹の中を探るような遣り取りとは縁遠そうだし、必死なのも、何か企んでいるというよりは頼みたい、……いや、なにか面倒なことを押し付けたい、かな。
クルトも同じように感じていたのだと思う。
「正直に話してくれたら、俺もきちんと考えます」
「っ……その……」
女魔法使いは両手を胸の前で祈るように組むと、強く握り締めた。
小刻みな震え。
怯えるような眼差し。
「じ、実、は……マリーに、言えて、なくて」
「言えてない?」
「テル、テルアのことっ、別の病室で、治療中だって言っちゃって」
あー……理解した。
つまり自分たちには言い難いことをクルトに言わせようって魂胆か。
男なら潰してるぞコラ。
「私たちより付き合い長いんですよね? だから、あなたなら」
「パーティを解散する程度には良くない別れ方をしたんですよ、俺たち」
「えっ……」
その意外そうな顔はどういう意味だろう。
小動物系同士あまり争うイメージがないせいかな。
「テルアを失くしたばかりのマリーに会う気はありません」
「でも友達なんでしょ⁈」
「友達だと思ってました。パーティを組んでいた時は」
はっきりと答えたクルトは、それきり口を噤んでしまった女魔法使いに一礼すると俺の腕を引くようにして踵を返した。
その後ろをウーガたちが付いてくる。
「良かったの?」
普段のノリで声を掛けるのはウーガ。
さすがだが少し心臓に悪い。
「会わないまま「セーズ」行っちゃう感じ?」
「ん……正直に言うと迷ってる」
「だよねー」
「けど意外。クルトが「もう友だちじゃない」なんて言うと思わなかった」
ドーガが言うと、クルトは少しだけ困ったように笑う。
「ね。俺もあんなこと言うつもりなかったのに」
「別に良いんじゃないか、レンも言ってたろ。あいつらがおまえを先に捨てたんだ。おまえが優しくしてやる義理はないよ」
「あはは、そうだね、言われた……」
遠く、思い出すのはギルドの酒場でレンと喧嘩した夜のことだろう。
俺たちもたまたま近くの席に座っていたから期せずして一部始終を見守る形になってしまった。だがあれがあったからクルトの状況が多くの冒険者の間で知れ渡って、以降、こいつを悪く言う奴はいなくなった。レンの作戦勝ちだろう。
まぁ結局は俺たち全員で「レイナルドパーティに媚び売ってる」だとか「金級になったのはレイナルドパーティのおかげだ」ってやっかまれているけどな。
「……なんか、さ……「捨てられた」って思うと今でも辛いけど……けど、パーティ解散して、レンくんと二人でレイナルドパーティに世話になって、バルたちと合流して、俺、いますごく幸せなんだよ」
「ん」
「テルアとマリーに会ったら、俺はもう大丈夫だよ、安心してって伝えるつもりだった」
「うん」
「けどいまのマリーにそんなこと言ったらただの嫌味だ」
「だねぇ」
クルトの顔が歪む。
当然だ、いくら捨てられただの解散だのと言ったってクルトの性格からして二人はいまも友人枠にいたはずだ。クルトも友人を失くしたんだ、しかも同じ依頼を受けた冒険者に裏切られるなんていう最悪の形で。
「……俺、会いたかったよ。マリーと、テルアに」
「ん」
「会いたかった……元気な二人に……っ」
「だな」
頭に腕を回して引き寄せる。
泣き顔なんて他所の連中に見せたくない。
「よし、今日はテルアのために飲もう!」
主神様の御許に迷わず辿り着けますようにと、その背を守るための酒席。
酒ではなくジュースや果実水を飲みながら思い出話をするんだ。
「美味しいもの食べような、やっとダンジョンから出て来たんだし」
「じゃあ今夜はうち集合ね! みんながいれば怖くない!」
「おまえそれ自分が怪我したのがバレた時のためだろう」
「そ、ソンナコトナイヨ?」
「素直か」
「怪し過ぎる」
「ふはっ」
まだ頬は濡れていたけど笑顔が戻った。
そういう雰囲気を作ってくれる仲間が誇らしく、幸せだと思ってくれるクルトが愛しい。
「ウーガ、ドーガ、先に言っておばさんたちに話通しとけ。俺たちは飲むものと食うもの買ってく」
「了解!」
「ついでにさっさと白状して俺らが行く前に怒られとけ」
「ええっ⁈」
叫ぶウーガに、みんなで笑う。
あのダンジョンから全員で戻ったんだ。今夜はガイとリヒターの話もしよう。
みんなで、もう会えない仲間の話を。
怪しさしかない女を相手に、クルトは返答に悩んでいると言うよりも、その意図を掴もうとしているように見えた。
「……どうして急に?」
「え」
「確かにパーティを組むくらい親しかったけど、あなたの今の言い方だと、マリーから俺に会いたいって言ったわけじゃないですよね?」
誰が見てもそうと判るくらい探る目的で向けられた視線に女魔法使いが一歩後ずさった。
「どうして俺をマリーと会わせたいんですか?」
ずばり確信を突くクルト。
後ろでウーガが口笛を吹きそうになってエニスとドーガに左右から小突かれている。
俺は、これに関しては本人が決めれば良いと思っているので静観の構えだが、クルトの対応が正解だと思う。話し掛けて来たこの女には悪意が感じられないからだ。
言葉の裏を読んだり腹の中を探るような遣り取りとは縁遠そうだし、必死なのも、何か企んでいるというよりは頼みたい、……いや、なにか面倒なことを押し付けたい、かな。
クルトも同じように感じていたのだと思う。
「正直に話してくれたら、俺もきちんと考えます」
「っ……その……」
女魔法使いは両手を胸の前で祈るように組むと、強く握り締めた。
小刻みな震え。
怯えるような眼差し。
「じ、実、は……マリーに、言えて、なくて」
「言えてない?」
「テル、テルアのことっ、別の病室で、治療中だって言っちゃって」
あー……理解した。
つまり自分たちには言い難いことをクルトに言わせようって魂胆か。
男なら潰してるぞコラ。
「私たちより付き合い長いんですよね? だから、あなたなら」
「パーティを解散する程度には良くない別れ方をしたんですよ、俺たち」
「えっ……」
その意外そうな顔はどういう意味だろう。
小動物系同士あまり争うイメージがないせいかな。
「テルアを失くしたばかりのマリーに会う気はありません」
「でも友達なんでしょ⁈」
「友達だと思ってました。パーティを組んでいた時は」
はっきりと答えたクルトは、それきり口を噤んでしまった女魔法使いに一礼すると俺の腕を引くようにして踵を返した。
その後ろをウーガたちが付いてくる。
「良かったの?」
普段のノリで声を掛けるのはウーガ。
さすがだが少し心臓に悪い。
「会わないまま「セーズ」行っちゃう感じ?」
「ん……正直に言うと迷ってる」
「だよねー」
「けど意外。クルトが「もう友だちじゃない」なんて言うと思わなかった」
ドーガが言うと、クルトは少しだけ困ったように笑う。
「ね。俺もあんなこと言うつもりなかったのに」
「別に良いんじゃないか、レンも言ってたろ。あいつらがおまえを先に捨てたんだ。おまえが優しくしてやる義理はないよ」
「あはは、そうだね、言われた……」
遠く、思い出すのはギルドの酒場でレンと喧嘩した夜のことだろう。
俺たちもたまたま近くの席に座っていたから期せずして一部始終を見守る形になってしまった。だがあれがあったからクルトの状況が多くの冒険者の間で知れ渡って、以降、こいつを悪く言う奴はいなくなった。レンの作戦勝ちだろう。
まぁ結局は俺たち全員で「レイナルドパーティに媚び売ってる」だとか「金級になったのはレイナルドパーティのおかげだ」ってやっかまれているけどな。
「……なんか、さ……「捨てられた」って思うと今でも辛いけど……けど、パーティ解散して、レンくんと二人でレイナルドパーティに世話になって、バルたちと合流して、俺、いますごく幸せなんだよ」
「ん」
「テルアとマリーに会ったら、俺はもう大丈夫だよ、安心してって伝えるつもりだった」
「うん」
「けどいまのマリーにそんなこと言ったらただの嫌味だ」
「だねぇ」
クルトの顔が歪む。
当然だ、いくら捨てられただの解散だのと言ったってクルトの性格からして二人はいまも友人枠にいたはずだ。クルトも友人を失くしたんだ、しかも同じ依頼を受けた冒険者に裏切られるなんていう最悪の形で。
「……俺、会いたかったよ。マリーと、テルアに」
「ん」
「会いたかった……元気な二人に……っ」
「だな」
頭に腕を回して引き寄せる。
泣き顔なんて他所の連中に見せたくない。
「よし、今日はテルアのために飲もう!」
主神様の御許に迷わず辿り着けますようにと、その背を守るための酒席。
酒ではなくジュースや果実水を飲みながら思い出話をするんだ。
「美味しいもの食べような、やっとダンジョンから出て来たんだし」
「じゃあ今夜はうち集合ね! みんながいれば怖くない!」
「おまえそれ自分が怪我したのがバレた時のためだろう」
「そ、ソンナコトナイヨ?」
「素直か」
「怪し過ぎる」
「ふはっ」
まだ頬は濡れていたけど笑顔が戻った。
そういう雰囲気を作ってくれる仲間が誇らしく、幸せだと思ってくれるクルトが愛しい。
「ウーガ、ドーガ、先に言っておばさんたちに話通しとけ。俺たちは飲むものと食うもの買ってく」
「了解!」
「ついでにさっさと白状して俺らが行く前に怒られとけ」
「ええっ⁈」
叫ぶウーガに、みんなで笑う。
あのダンジョンから全員で戻ったんだ。今夜はガイとリヒターの話もしよう。
みんなで、もう会えない仲間の話を。
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