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第9章 未来のために
閑話:サンコティオン(6)
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side:バルドル
無事とはいかなかったが、生きているウーガと合流して連れ帰れたことに、さっきまでの重苦しい気持ちは幾分か和らいでいた。
「痛っ……」
エニスとドーガの肩を借りて歩くも、ポーション一つで完治しなかった傷が痛むらしい。
喋りながら顔を顰めるところを見ると口の中も切れているんだろう。
「手酷くやられたな」
「ちょっとね……あいつら、魔法武器が欲しかったみたい」
「本当か?」
「俺の弓を寄越せって、やけにしつこかったんだ。ノルマがどうとか、数揃えないと死ぬとか」
「魔法武器……」
思わず復唱したらエニスが難しい顔で視線を寄越して来た。
「魔法武器といったらトラントゥトロワの最寄りの町で声を掛けて来たヤツも怪しい話を持ち掛けて来たな」
「あー……」
マーヘ大陸で金級ダンジョンを攻略した時の話なのは判ったが、件の男の名前が思い出せない。ギルド職員の……ケヴィンとルドルフは問題なかった連中で、もう一人……あぁ全然思い出せん。
「魔法武器は昔っから金になるしな」
ドーガが胸糞悪そうに吐き捨てる。
と、湖の周りで捜索を続けていた隊の面々が此方に気付いたらしく声を掛けて来る。俺たちは狂えるカラスがウーガの魔力で顕現したと気付いて救出に向かったが、他のメンバーには引き続き捜索を行ってもらっていたのだ。
当初の捜索対象は10人だった。
薬師が4人と、護衛の銀級冒険者が6人。
しかし現時点で薬師1名と冒険者1名の遺体が見つかっており、崖の奥に隠れていた冒険者2名はクルトに剣を向け、その後ウーガを連れ去ると同時に姿を消した。
捜索隊にいた銀級冒険者4名を連れて。
その話をウーガと共有したら、
「捜索隊にも裏切り者がいたんだ……」
そう少し呆然とした様子だったが、すぐに「これだから良く知らない他人とはパーティ組めないね」と笑っていた。攫われたばかりだというのに強い。
とまぁそんな過程があって、昨日の野営時に妙な視線を向けて来ていた連中もいなくなったことから、残りの対象――薬師3人、冒険者3人の捜索を彼らに任せていた。
「リーダー。仲間は無事に助けられたみたいだな」
「ああ、心配掛けた」
警備隊の一人がウーガを見てホッとしたように表情を和らげたが、再びこっちを見た時には、良くない知らせを口にしようとしているのが丸判り。
「まさか……」
「……ああ。新たに冒険者2名の遺体が湖から上がった。二人とも男だ」
「っ」
クルトが走り出す。
行方が判らなかった3名のうち、2人がクルトの元仲間。マリーは女。テルアは、男。
ウーガをエニスたちに任せて後を追う。
さっき火魔法が爆発した現場からそれほど離れていない湖の畔に並べて横たえられている二人は既に息がなく、護衛任務を遂行すべく戦ったのだろう傷が多数あった。先に見つかった二人と同様に随分とふやけてしまっているものの、……クルトには判ったらしい。
「テルア……」
こんな再会になるなんてきっと考えてもみなかったはずだ。
その場に膝を付いて手を伸ばすも、実際に触れるのは躊躇うのか指先が震えている。
「クルト」
「……バル……」
ああ、辛いな。
元だとしても仲間の死なんて経験するもんじゃない。
「バル……っ」
「ああ」
震えている手を引き寄せて抱き締める。
泣いてはいない。
それでもショックは大きかったはずなのに、クルトは深呼吸を繰り返しながら立ち上がった。
「……マリーを探さないと」
「だな」
いまだ行方不明なのは薬師3人と、マリーだけ。
「探そう」
もう一刻の猶予もない。
薬師のテントだったのだろう、例の数日放置されていたと思われるそこら辺を今日の拠点にすべく幾つものテントが組み立てられ、布を被せられた遺体の保管用など捜索隊も分担して作業を進めていった。
陽が昇ったら遺体は速やかに外へ運び出さなければならない。
そういう意味では休むことも重要だ。
うちからは怪我人のウーガと、ドーガを先に休ませ、エニスには護衛がてらテントの前に残ってもらった。
クルトは、マリーが見つかるまでは休めと言っても拒否するのが判っていたから好きにさせた。
「見つかったぞ!」
そんな声が上がったのはウーガを休ませて1時間くらい経った頃だ。
湖から離れ、森を抜け、川を渡った先の、更に向こう。
最初に見つかったのは木の根元で倒れていたマリーだった。そして、彼女の後方、木の根が地中から盛り上がって出来たらしい穴が土や草、葉で覆われて隠されていたのだが、その中に薬師3名が意識のない状態で横たわっていた。
全員衰弱していたが、生きていた。
「マリー……!」
クルトによって本人だと確認され、動ける者全員で彼女たちを運びポーションで対処。被害は大きかったが守られた命があったことに皆が安堵を隠さなかった。
生存者は薬師3人、銀級冒険者1人。
死傷者4人。
逃亡2人。
更に捜索隊からも逃亡した銀級冒険者4人。
護衛任務を受けた6人のうち、2人は、恐らく最初から裏切るつもりだったのではないか。捜索隊に紛れ込んだ連中は、もしかしたら彼らを捕まえると見せかけて保護するつもりだったのではないか。その作戦が瓦解したのは、もしかしたら此方に魔法武器の所有者がいたことで欲を掻いたせいではないか……もはや報告書と呼ぶのも憚られるような憶測だらけの内容だが、実際に何があったのかは生存者の意識が戻ってから確認したらいい。
僧侶がいればと何度思ったか知れないが、かくして捜索隊の任務は終わった。
残す問題は――今もまだ「サンコティオン」にいるだろう裏切者たちだ。
無事とはいかなかったが、生きているウーガと合流して連れ帰れたことに、さっきまでの重苦しい気持ちは幾分か和らいでいた。
「痛っ……」
エニスとドーガの肩を借りて歩くも、ポーション一つで完治しなかった傷が痛むらしい。
喋りながら顔を顰めるところを見ると口の中も切れているんだろう。
「手酷くやられたな」
「ちょっとね……あいつら、魔法武器が欲しかったみたい」
「本当か?」
「俺の弓を寄越せって、やけにしつこかったんだ。ノルマがどうとか、数揃えないと死ぬとか」
「魔法武器……」
思わず復唱したらエニスが難しい顔で視線を寄越して来た。
「魔法武器といったらトラントゥトロワの最寄りの町で声を掛けて来たヤツも怪しい話を持ち掛けて来たな」
「あー……」
マーヘ大陸で金級ダンジョンを攻略した時の話なのは判ったが、件の男の名前が思い出せない。ギルド職員の……ケヴィンとルドルフは問題なかった連中で、もう一人……あぁ全然思い出せん。
「魔法武器は昔っから金になるしな」
ドーガが胸糞悪そうに吐き捨てる。
と、湖の周りで捜索を続けていた隊の面々が此方に気付いたらしく声を掛けて来る。俺たちは狂えるカラスがウーガの魔力で顕現したと気付いて救出に向かったが、他のメンバーには引き続き捜索を行ってもらっていたのだ。
当初の捜索対象は10人だった。
薬師が4人と、護衛の銀級冒険者が6人。
しかし現時点で薬師1名と冒険者1名の遺体が見つかっており、崖の奥に隠れていた冒険者2名はクルトに剣を向け、その後ウーガを連れ去ると同時に姿を消した。
捜索隊にいた銀級冒険者4名を連れて。
その話をウーガと共有したら、
「捜索隊にも裏切り者がいたんだ……」
そう少し呆然とした様子だったが、すぐに「これだから良く知らない他人とはパーティ組めないね」と笑っていた。攫われたばかりだというのに強い。
とまぁそんな過程があって、昨日の野営時に妙な視線を向けて来ていた連中もいなくなったことから、残りの対象――薬師3人、冒険者3人の捜索を彼らに任せていた。
「リーダー。仲間は無事に助けられたみたいだな」
「ああ、心配掛けた」
警備隊の一人がウーガを見てホッとしたように表情を和らげたが、再びこっちを見た時には、良くない知らせを口にしようとしているのが丸判り。
「まさか……」
「……ああ。新たに冒険者2名の遺体が湖から上がった。二人とも男だ」
「っ」
クルトが走り出す。
行方が判らなかった3名のうち、2人がクルトの元仲間。マリーは女。テルアは、男。
ウーガをエニスたちに任せて後を追う。
さっき火魔法が爆発した現場からそれほど離れていない湖の畔に並べて横たえられている二人は既に息がなく、護衛任務を遂行すべく戦ったのだろう傷が多数あった。先に見つかった二人と同様に随分とふやけてしまっているものの、……クルトには判ったらしい。
「テルア……」
こんな再会になるなんてきっと考えてもみなかったはずだ。
その場に膝を付いて手を伸ばすも、実際に触れるのは躊躇うのか指先が震えている。
「クルト」
「……バル……」
ああ、辛いな。
元だとしても仲間の死なんて経験するもんじゃない。
「バル……っ」
「ああ」
震えている手を引き寄せて抱き締める。
泣いてはいない。
それでもショックは大きかったはずなのに、クルトは深呼吸を繰り返しながら立ち上がった。
「……マリーを探さないと」
「だな」
いまだ行方不明なのは薬師3人と、マリーだけ。
「探そう」
もう一刻の猶予もない。
薬師のテントだったのだろう、例の数日放置されていたと思われるそこら辺を今日の拠点にすべく幾つものテントが組み立てられ、布を被せられた遺体の保管用など捜索隊も分担して作業を進めていった。
陽が昇ったら遺体は速やかに外へ運び出さなければならない。
そういう意味では休むことも重要だ。
うちからは怪我人のウーガと、ドーガを先に休ませ、エニスには護衛がてらテントの前に残ってもらった。
クルトは、マリーが見つかるまでは休めと言っても拒否するのが判っていたから好きにさせた。
「見つかったぞ!」
そんな声が上がったのはウーガを休ませて1時間くらい経った頃だ。
湖から離れ、森を抜け、川を渡った先の、更に向こう。
最初に見つかったのは木の根元で倒れていたマリーだった。そして、彼女の後方、木の根が地中から盛り上がって出来たらしい穴が土や草、葉で覆われて隠されていたのだが、その中に薬師3名が意識のない状態で横たわっていた。
全員衰弱していたが、生きていた。
「マリー……!」
クルトによって本人だと確認され、動ける者全員で彼女たちを運びポーションで対処。被害は大きかったが守られた命があったことに皆が安堵を隠さなかった。
生存者は薬師3人、銀級冒険者1人。
死傷者4人。
逃亡2人。
更に捜索隊からも逃亡した銀級冒険者4人。
護衛任務を受けた6人のうち、2人は、恐らく最初から裏切るつもりだったのではないか。捜索隊に紛れ込んだ連中は、もしかしたら彼らを捕まえると見せかけて保護するつもりだったのではないか。その作戦が瓦解したのは、もしかしたら此方に魔法武器の所有者がいたことで欲を掻いたせいではないか……もはや報告書と呼ぶのも憚られるような憶測だらけの内容だが、実際に何があったのかは生存者の意識が戻ってから確認したらいい。
僧侶がいればと何度思ったか知れないが、かくして捜索隊の任務は終わった。
残す問題は――今もまだ「サンコティオン」にいるだろう裏切者たちだ。
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