上 下
328 / 335
第9章 未来のために

閑話:サンコティオン(5)

しおりを挟む
 side:ウーガ


 突然の火魔法による攻撃は強烈な熱波と轟音になって襲い掛かって来た。そのせいで耳や目が一時的に使い物にならなくなったんだと思う。
 気付いたら俺は後ろから羽交い絞めにされたまま運ばれていた。

「なんでそいつ連れて来たんだ!」
「魔法武器を持ってんだよ!」
「けどあの金級オーァルのパーティだろ⁈ 魔物の魔道具で居場所がバレる!」
「クソッ!」
「うぐっ」

 急に地面に叩きつけられて息が詰まる。
 肺が痛い。

「寄越せ!」
「っ……」

 弓を引っ張られる。
 誰が渡すかバカじゃねぇの! ここで足止めしてれば絶対にバルドルたちが来る。仲間を裏切って盗みをするような連中、野放しにするわけないだろうが!

「クソ! クソッ!!」

 蹴られる。
 踏みつけられる。

「ぐふっ……!」

 血を吐いた。

「さっさと魔弓を寄越せ! 寄越せ!!」
「……っ」
「急げアイツらが追って来る!」
「けど魔弓が」
「諦めろ! 捕まったらそれこそ終わりだぞ⁈」
「けどノルマに全然足りてねぇ!」
「捕まるっつってんだ!!」
「っ……クソが!!」
「がはっ」

 腹を強く蹴られ、吹っ飛ばされた。
 それでも弓を手放さなかったら羽交い絞めにしてた奴が無様に叫ぶ。まるで発狂したような迫力で、オレとしちゃ満足だ。
 バァカ、オレは誰との間にもメッセンジャー持ってないから追跡なんて出来ないんだぜ。
 だけどそういう魔道具を作っちゃうヤツと同じパーティにいるんだから他の連中より思い付く方法は多いんだ。

「急げ!」

 最後に舌打ち、唾まで吐き捨てて走り去っていく背中が霞んだ視界にぼやける。

「……ハッ。ざまぁ……」

 痛い。
 息をするだけでも激痛が走るのは骨がどうにかなっているせいかもしれない。それでもいい。オレはウエストポーチに入れてあった、サンコティオンで倒した魔物の石を取り出す。
 全部で3つ。
 今回の捜索にあたってメッセンジャーにもした狂えるカラスファティコルネイユだ。
 魔力を流し込んで魔石からオレに忠実な狂えるカラスファティコルネイユを顕現させたら、1羽目と2羽目には連中を追わせる。
 メッセンジャーに使える魔石だから消費魔力はそこまで多くないけど、負傷した体にはなかなかキツイ負担だった。それでも3羽目をバルドルたちに飛ばす。ちゃんと伝わったかはわからないけど「オレの匂いか魔力を追えば合流できる?」と訊いたら頷いていたんだから、たぶん大丈夫だろう。
 たぶんな!
 3羽を飛ばした後は、とてつもなく体が重かった。
 今にも意識が途切れそうだけど、そうもいかないから必死で腕を動かす。
 もう一度ウエストポーチに手を突っ込んで、レンが作ってくれた治療用のポーションを取り出そうとするけど、どれがどれだか判らない。
 しかも掴みそこなったものがぼろぼろ地面に落ちていく。

「っ痛……このまま此処にいても魔物の餌じゃん……」

 なんとしてでも仲間のところに帰らないと。
 また「サンコティオン」でパーティメンバーが死んだりなんかしたら、あいつらもう二度と立ち直れないかも。ドーガ、バルドル、それからエニスがどんな顔をするか想像したら、ちょっと笑えた。
 クルトとレンもしんどいだろうな。

「帰らないと……」

 これか、と思って掴んだポーションは魔力回復薬。
 いま必要な薬の一つだけど体の中身が傷ついている状態でも回復すんのかな。というより蓋が開けられるんだろうか。



 それから5分くらいだと思う。
 痛みに耐えながら蓋と悪戦苦闘していたら「ウーガ!」って声が聞こえて来た。
 バルドルだ。

「……っは……思ったより早かったな……」

 ホッとしたら力が抜けて、せっかく掴んだ薬瓶が手から落ちて転がる。

「ウーガ!」
「兄貴!」

 足音と一緒に低い視界を覆った仲間の膝。
 同時にバサリと羽音がして地面に狂えるカラスファティコルネイユが降り立った。

「ウーガしっかりしろ!」
「ウーガ!」
「っ痛!」
「あ……」

 抱き起こされそうになるも全身に激痛が走り思わず悲鳴を上げてしまった。
 そしたらクルトが手早く治療用のポーションを開け、ドーガが俺の上着を破くようにして開いていく。

「ひでぇ傷……」
「まずは治療だ」

 わなわなと震えた声は怒りのせいだろうか。
 バルドルが治療を優先しろと言い、クルトが痛いところにポーションを掛けてくれる。しばらくしてゆっくりと痛みが引いていくのが判った。

「エニス、顔お願い」
「ああ」
「ウーガ、辛いところ悪いが連中がどっちに行ったか判るか?」
「ん……いま狂えるカラスファティコルネイユに後を付けさせてる」
狂えるカラスファティコルネイユ? 俺たちを呼んだこいつか」
「魔石持ってて……向こうには2羽飛ばしたから、1羽呼び戻せば追えると思うけど」
「ああ……」

 オレの答えに、バルドルはしばらく考え込むかと思ったけど、割と早く結論を出したみたいで「一度戻るぞ」と言って来た。
 本気かって聞き返したくなったけど、追い駆けてきたのがパーティのメンバーだけってことは、もしかしたらさっきの場所で他にも何かあったのかもしれない。

「ウーガ立てそう?」
「……ん、なんとか」

 みんなの手を借りてなんとか立ち上がったら、ドーガが魔法使いのローブをオレに掛けてくれた。治療のためとはいえ、いまちょっとセクシーな恰好になっていたから助かる。

「生きてて良かった」
「ホントにな!」

 まだあっちこっち痛むけど、ともあれ無事に仲間と合流出来てオレは心底ホッとしていた。
 まさかさっきまでいたあの場所に、更に遺体が増えているなんて思いもしなかったんだ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...