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第9章 未来のために
閑話:サンコティオン(3)
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side:バルドル
外では陽が昇り、ダンジョン内の空も明るくなってくる。
各自で身支度を整えて朝食を済ませれば捜索二日目の始まりだ。昨日の捜索範囲と、今日これからの捜索範囲を改めて確認し合い各班ごとに移動。経過報告にはメッセンジャーが随時飛び交う。
第3階層に近付きながらの捜索は数時間に及び、第2階層にはいないと結論を出したのが昼前。簡単な食事を取ってから第3階層に進んだ。
この辺りから他の銀級冒険者のパーティを見かける頻度が多くなり、低階層に留まっているのはレベル上げや野営に慣れることが目的の場合が大半だから情報を集めるのが容易になってくる。彼らは魔物を求めて道を逸れ、なるべく他の冒険者とかち合わないよう広範囲に行動するからだ。
「薬師と護衛の冒険者、10人のグループなんだが見覚えがあるか?」
「いや、此処で野営するの今日で3日目だけどそんなグループは見掛けていない」
そんな遣り取りを繰り返せば次第に捜索範囲は絞られていく。
第4階層に近付きながら見落としがないよう進むも、空が薄暗くなって来た頃には「ここにもいない」と結論を出すしかなかった。
出来れば第3階層までに見つけたかったが……。
「第4階層か」
「目的地付近に今日までいるとなると……もう楽観視は出来ないな」
小声でエニスが言う。
捜索対象の薬師一行がギルドに提出した行程表によれば昨日の段階でダンジョンを出るべく移動を開始しているはずだった。にも関わらず第4階層から動いていないのは「動けない状態」である可能性が高まる。
「今日の内に湖まで進むぞ」
「了解」
誰もが最悪の想像をしているから多少の強行に異論など出なかった。
目的地の湖は第5階層に続く道を外れて広い森の中を進むことになる。捜索しながらのため湖に着いたのはすっかり暗くなってしまってからだったが、薬師が欲していた薬草の群生地に近付けば最初に組み立てられているテントが3つ目に入る。
それが、昨日今日来たばかりの別の薬師一行のテントであれば良かった。
だが――。
「焚き火の後だ。もう数日経過している」
「テントの中の荷物が荒らされている。荒らしたのはたぶん魔物だな」
「血痕はない」
「気配……感知出来ない!」
「周辺の捜索を! ただしこの時間帯だ、必ず二班合同で行動しろ!」
松明や、光魔法が使える魔法使いのライトで周辺を照らしながら薬師一行の手掛かりになりそうなものを探す。クルトの顔色が随分悪いのには気付いていたが呼び止めたところで無理をするのが目に見えた。
何かしら結論が出ないことには止まれないだろう。
「魔物に襲われたんだとしたらこの辺りにも血が飛び散ったはずだ。無傷で逃げたか……?」
だとしても荷物を放置し取りに来れないのなら最悪の想像を否定仕切れないのだが、何かがおかしい。
捜索対象は薬師4名、護衛6名の計10名。
このサイズのテントなら2名で一つ……護衛が夜の見張りにつくからテントを共有したとしても少ない気がした。荷物の数もそうだ。バックパックが4つしかないなんて……。
ばさりと大きな羽音がしてメッセンジャーが肩に止まる。
『2人の遺体発見、薬師と冒険者だ』
「っ……、いま行く」
返答を録音させて飛ばす。その後を追って走ったら、畔で水の中から遺体を引き上げている捜索隊の姿があった。
「間違いないのか」
「残念ながら」
体の芯が冷えるような悪寒。
覚悟を決めて確認した引き上げられた遺体の顔は、かなりふやけているものの見覚えのある彼らのものでは、ない。
違う。
「っ……」
思わず安堵しそうになって慌てて気を引き締める。
「死因は判るか?」
「冒険者の方、背中から刺されてる。これは魔物の仕業じゃないよ」
であれば人の仕業ということになるが、どんな町であってもプラーントゥ大陸にいる限り身分証紋による罪状鑑定は必須だ。罪を犯した者は逃げられない。それでも実行したとなればよほど大きな犯罪組織かバックにいて全面的にサポートしているか、規模によっては他所の大陸が関与しているかもしれない……?
「薬師の方は」
「外傷はないけど……溺れた感じでもないかな……顔が安らか過ぎる」
「僧侶がいれば精査で一発なんだが」
残念ながら今回は同行していない。
「イヤな予感がする」
手元にあったメッセンジャーはクルトとエニスと繋がっているものと、今回の捜索に必要と判断して作った分が二つ。
「いますぐ全員集合! 急げ」
その後も飛んで来たメッセンジャーに集合を呼び掛けて飛ばしていたら魔の鴎が帰って来た。エニスか、クルトか。
どちらだと思いながら再生した途端に飛び込んできたのはクルトの声。
『応援頼む! ウーガが危ない!』
「……!」
悪い予感など当たらなくてもいいものを!
「いま行く!」
録音して飛ばす、その魔の鴎の後を追った。
エニスから帰って来たメッセンジャーには「ウーガが危ない!」と叩きつけるように録音して送り返した。湖を約半周。森の中から激しい剣戟が聞こえて来た。
外では陽が昇り、ダンジョン内の空も明るくなってくる。
各自で身支度を整えて朝食を済ませれば捜索二日目の始まりだ。昨日の捜索範囲と、今日これからの捜索範囲を改めて確認し合い各班ごとに移動。経過報告にはメッセンジャーが随時飛び交う。
第3階層に近付きながらの捜索は数時間に及び、第2階層にはいないと結論を出したのが昼前。簡単な食事を取ってから第3階層に進んだ。
この辺りから他の銀級冒険者のパーティを見かける頻度が多くなり、低階層に留まっているのはレベル上げや野営に慣れることが目的の場合が大半だから情報を集めるのが容易になってくる。彼らは魔物を求めて道を逸れ、なるべく他の冒険者とかち合わないよう広範囲に行動するからだ。
「薬師と護衛の冒険者、10人のグループなんだが見覚えがあるか?」
「いや、此処で野営するの今日で3日目だけどそんなグループは見掛けていない」
そんな遣り取りを繰り返せば次第に捜索範囲は絞られていく。
第4階層に近付きながら見落としがないよう進むも、空が薄暗くなって来た頃には「ここにもいない」と結論を出すしかなかった。
出来れば第3階層までに見つけたかったが……。
「第4階層か」
「目的地付近に今日までいるとなると……もう楽観視は出来ないな」
小声でエニスが言う。
捜索対象の薬師一行がギルドに提出した行程表によれば昨日の段階でダンジョンを出るべく移動を開始しているはずだった。にも関わらず第4階層から動いていないのは「動けない状態」である可能性が高まる。
「今日の内に湖まで進むぞ」
「了解」
誰もが最悪の想像をしているから多少の強行に異論など出なかった。
目的地の湖は第5階層に続く道を外れて広い森の中を進むことになる。捜索しながらのため湖に着いたのはすっかり暗くなってしまってからだったが、薬師が欲していた薬草の群生地に近付けば最初に組み立てられているテントが3つ目に入る。
それが、昨日今日来たばかりの別の薬師一行のテントであれば良かった。
だが――。
「焚き火の後だ。もう数日経過している」
「テントの中の荷物が荒らされている。荒らしたのはたぶん魔物だな」
「血痕はない」
「気配……感知出来ない!」
「周辺の捜索を! ただしこの時間帯だ、必ず二班合同で行動しろ!」
松明や、光魔法が使える魔法使いのライトで周辺を照らしながら薬師一行の手掛かりになりそうなものを探す。クルトの顔色が随分悪いのには気付いていたが呼び止めたところで無理をするのが目に見えた。
何かしら結論が出ないことには止まれないだろう。
「魔物に襲われたんだとしたらこの辺りにも血が飛び散ったはずだ。無傷で逃げたか……?」
だとしても荷物を放置し取りに来れないのなら最悪の想像を否定仕切れないのだが、何かがおかしい。
捜索対象は薬師4名、護衛6名の計10名。
このサイズのテントなら2名で一つ……護衛が夜の見張りにつくからテントを共有したとしても少ない気がした。荷物の数もそうだ。バックパックが4つしかないなんて……。
ばさりと大きな羽音がしてメッセンジャーが肩に止まる。
『2人の遺体発見、薬師と冒険者だ』
「っ……、いま行く」
返答を録音させて飛ばす。その後を追って走ったら、畔で水の中から遺体を引き上げている捜索隊の姿があった。
「間違いないのか」
「残念ながら」
体の芯が冷えるような悪寒。
覚悟を決めて確認した引き上げられた遺体の顔は、かなりふやけているものの見覚えのある彼らのものでは、ない。
違う。
「っ……」
思わず安堵しそうになって慌てて気を引き締める。
「死因は判るか?」
「冒険者の方、背中から刺されてる。これは魔物の仕業じゃないよ」
であれば人の仕業ということになるが、どんな町であってもプラーントゥ大陸にいる限り身分証紋による罪状鑑定は必須だ。罪を犯した者は逃げられない。それでも実行したとなればよほど大きな犯罪組織かバックにいて全面的にサポートしているか、規模によっては他所の大陸が関与しているかもしれない……?
「薬師の方は」
「外傷はないけど……溺れた感じでもないかな……顔が安らか過ぎる」
「僧侶がいれば精査で一発なんだが」
残念ながら今回は同行していない。
「イヤな予感がする」
手元にあったメッセンジャーはクルトとエニスと繋がっているものと、今回の捜索に必要と判断して作った分が二つ。
「いますぐ全員集合! 急げ」
その後も飛んで来たメッセンジャーに集合を呼び掛けて飛ばしていたら魔の鴎が帰って来た。エニスか、クルトか。
どちらだと思いながら再生した途端に飛び込んできたのはクルトの声。
『応援頼む! ウーガが危ない!』
「……!」
悪い予感など当たらなくてもいいものを!
「いま行く!」
録音して飛ばす、その魔の鴎の後を追った。
エニスから帰って来たメッセンジャーには「ウーガが危ない!」と叩きつけるように録音して送り返した。湖を約半周。森の中から激しい剣戟が聞こえて来た。
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